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株式会社豊田自動織機

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ビジネスモデルの創造は発想する人材を育てることだ! ~「フック、ロック、チャージ」が共通言語に~

株式会社豊田自動織機(以下豊田自動織機)は、2011年に「2020年ビジョン」を掲げ新たな目標に向かって動き出した。しかしその目標は高く、今までと同じ活動、考え方では2020年のあるべき姿を描けない。そう感じた当時TMHG経営企画部 部長 稲川 透氏は、新たなアイデアをどう出してどうビジネスモデルに繋げていくのか、発想を具体化するための新たなプロジェクトを立ち上げた。その活動と、プロジェクトを通してメンバーに根付いた考え方などをお伺いした。

経営の柱は多角化の歴史から生まれた

toyota_inagawa.jpg豊田自動織機は、豊田佐吉が発明・開発した自動織機の製造・販売を目的として、1926 年現愛知県刈谷市に株式会社豊田自動織機製作所として設立された。その後事業の多角化を推進し、自動車・エンジン・カーエアコン用コンプレッサー、そして、産業車両、エレクトロニクスへと事業領域を拡大してきた。また、同社は自動車製造部門として発足し、後に分社化した現トヨタ自動車株式会社を始めとするトヨタグループの源流でもある。創業88 年を迎えた現在、生産拠点、販売ネットワークは世界に拡がり、連結従業員数約5 万人、売上2 兆円を超す大企業グループとなっている。

多角化により複数の事業の柱を持つ同社において、現在の事業別売上げは自動車関連50.1%、それに次ぎ、40.3%と大きな柱になっているのが産業車両である。産業車両とはフォークリフトをはじめとする産業用の車両をいうが、同社ではその開発、製造、販売だけでなく、「搬送」「保管」「仕分け」にかかわる物流機器・システムも合わせて開発・生産・販売しているのが特徴だ。

この産業車両事業を担っているのが、トヨタL&F(ロジスティクス&フォークリフト)カンパニー(以下トヨタL&F)である。トヨタL&F の歴史は、1956 年に共和工場で初号車「LA 型フォークリフト」の生産開始に始まり、2008 年フォークリフト生産累計200 万台を達成、2013 年には国内販売台数48 年連続No.1 達成し、揺るぎない基盤を築いている。

2020年を見据えた新規事業への挑戦

強い基盤を持つ同社であるが、2008 年リーマンショックの波は厳しいものだった。売上が低下することで2008年度、2009 年度と2期連続の最終赤字を余儀なくされた。回復基調を待ち、同社は2011 年秋「2020 年ビジョン」を掲げた。変化を続ける時代環境の中、新たな成長のステージへと向かうための経営の羅針盤である。

トヨタL&F でもカンパニーとしてのビジョンを作成し高い目標に向かって動き出そうとしていた。当時TMHG経営企画部 部長で、現在執行役員の稲川 透氏は「『2020年ビジョン』の高い目標に到達するには単にフォークリフトを作って、売って、アフターサービスをする従来のビジネスモデルを続けているだけではダメだと思いました。2020 年にどんな姿になっていたいのかを具体的に描くことも必要ですし、事業拡大のため、コア領域をベースにもっと活用、応用することを模索してみてはどうかと考えていました」と当時を振り返る。

ちょうどその頃、稲川氏はJMAC が開催したセミナーに参加した。そのセミナーが「プロフィット・デザイン」で、事業開発に向けた内容であった。稲川氏は「シンプルで分かりやすいプロフィット・デザインの考え方は使えそうだ」と感じたという。

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プロフィット・デザインとは、ビジネスモデルを「フック(顧客を魅了する要素)」「ロック(顧客をスイッチさせない要素)」「チャージ(顧客視点での課金要素)」とうい3つの要件から描くJMAC 独自の思考方法で、この3つの要件を満たすビジネスの仕組み(ビジネスモデル)を描くことで、持続的に利益を生み出す事業を生み出す手法である。

セミナーをきっかけに稲川氏はプロジェクト立上げに動き出す「将来の事業の芽、アイデアを出すことも大事ですし、そういう発想を持った人材、特に2020 年に責任者として事業を牽引して行く、将来の核となる年代に成長してもらいたいという思いがありました。カンパニートップの理解と強い後押しもありプロジェクトを立ち上げることができました」と当時の思いを語る。

視点が変わり発想が変わってきた

2011 年10 月末、販売、調達、物流、商品開発などさまざまな部門に稲川氏が声を掛け、公募、推薦でメンバーを募る形で10 名のメンバーが集められた。JMAC からはチーフ・コンサルタント竹村 薫を中心に数名のコンサルタントがチームで参画し、トヨタL&F における「新たなビジネスモデル構築プロジェクト」がスタートした。


toyota_imaeda.jpg半日を11 回、3 ケ月を掛けて進められたプロジェクトだが、メンバーから69件のアイデアが出てきた。竹村は「最初は現在の事業の振返りをしっかりと行い、自分達の強みを把握しながらアイデア出しを行いました。皆さんアイデアが豊富で組み立て方を変えると良いものになるのではないかと思いました」という。

調達部 調達室 グローバル企画G グループ長 今枝 憲吾氏は「当時2020 年ビジョンが出て、現状とのギャップが大きくどうやってギャップを埋めていくのだろうと感じていました。プロフィット・デザインの考え方は分かりやすく、現業の延長線上でアイデアを出し合うことでも新たなビジネスチャンスを生み出すことができるんだという学びはが大きかったですね。ギャップを埋めるために何とかしなくてはならないという考えに変わって行きました」という。

海外営業部 販売企画室 企画グループ 濵中 翔太郎氏は「会社の風土として標準化が根付いているため、
toyota_hamanaka.jpg決まった仕組みで動かしていくことは強いのですが、新しい発想を出しまとめていくことは少し弱いと感じていました。日々の業務の中で考えていた拡販のアイデアを具体的にまとめられたことと、自分自身頭が柔らかくなり、殻を破ることが出来て良い機会だったと思っています」という。

最初はメンバーも手さぐりの状況でスタートした今回のプロジェクトだが、皆が3つの要件に当てはめて考えてみると、頭の中がすっきり整理されたと同じ感想を持っている。そして今まで顔を合わせたことがない他部門のメンバーや、業務の未経験者が入ることで大きな刺激になったという。

プロジェクトは69 あったアイデアを「フック、ロック、チャージ」の要素に当てはめて5つに絞り込み、具体的な事業モデルとして報告書をまとめる形で進められた。

日常に滲みこんだ「フック、ロック、チャージ」

toyota_honda.jpgプロジェクトが終了した現在、TMHG 統括部 グローバルサプライ企画室 本多 功治氏は「ビジネスにするためには何を考えたら良いのかを、非常に分かりやすい言葉で教えていただきました。当時私は異動した直後だったのですが、日々の仕事にもこの考え方が使えるなと思いましたし、現在では3要件に当てはめたらどうなるだろうと無意識に考えるようになっています」という。

また、海外営業部 販売企画室 企画グループ グループ長 八木 慎一郎氏は「JMACからは自分にない思考の切り口をいただけてとても参考になりました。現在の仕事にどうやって付加価値をつけようかという時、今回の考え方が参考になっています。この活動は、定常的な活動にしてもいいのではないかと思っています」と語る。

toyota_yagi.jpg国内営業部 販売企画室 販売促進グループ 清水 哲氏も「私は広告宣伝を担当していますが、今年度の広告を考える際、フックを何にするか、ロックを何にするかと自然に実践していました。相手にどう伝えるかといった場面でもこの3要素は使えると思います」といい、その考え方が浸透し日々の仕事に生かされている。

竹村は「プロジェクトが終わりに近づくにつれて『これ誰がやるんだろう』という発言も出て、皆さん熱が入ってくるのが分かりました。『フック、ロック、チャージ』という分かりやすさと共に、その考え方も浸透して、日々の仕事にも応用できていることはとてもうれしく感じています」と語る。

共通言語で次世代の人材を育成

toyota_shimizu.jpg今回のプロジェクトから生まれた5つのアイデアは、具体的な取組みに向けて進んでいるアイデアもある。JMAC の関わりについて稲川氏は「こういったプロジェクトを我々だけで推進することはできなかったと思います。JMAC は、我々の目線に合わせてくれて、現状に合わせたアレンジをしながら進めてくれました。時には背中を押してもらいましたし、何よりも一緒に考えながら推進してくれたことで多くのヒントを貰えました」と語る。

プロジェクトが進むうちに「フック、ロック、チャージ」がメンバー共通の言語となってゆき、考え方のベースが出来て行ったと稲川氏はいう。そして、メンバーが共通して口にするのは、定期的なプロジェクトの開催だ。参加人口が増えることで共通言語を持ったメンバーが増え、それが考え方、視点の土壌になっていくのではないかという。さらに、階層別、世代別、シニア層、混成など編成によって様々なアイデアが出てくる可能性がある。それがプロフィット・デザインの良さだともいう。

稲川氏は「以前は事業の継続性や、恒常的に収益を上げるという視点は弱く、例えば販売部門だと特に販売量、シェアといった短期的な思考になりがちでした。しかし今回プロフィット・デザインという考え方でどうやってビジネスモデルを描けばいいかを学ぶことができました。今後は共通言語を理解して実践できる人口を増やしていきたいと思いますし、こういった活動、考え方を通して次世代の人材が育って行って欲しいと思っています」と2020 年に向けた姿を描いている。

同社は安定した事業運営の中にもチャレンジをしながら多角化を推進してきた。次なる事業の芽を生み出すことは、発想する人材を育成することから始まると稲川氏は言う。豊田自動織機の新たなチャレンジが楽しみだ。

担当コンサルタントからの一言

考え方が根付いてこそ、次々と事業が生まれる

多くの会社で、新たな事業を生み出していく活動が行われています。しかしながら、知らず知らずのうちに既存事業の常識にとらわれ、発想が停滞する場面も多く見受けられます。新しい概念・視点、共通の言語の中で仲間との議論を重ね、刺激し合い、様々な経験を持った各個人が、きらりと光る小さいアイデアを発想し持ち寄る。それを組み立ててビジネスに仕立てていくのが検討の醍醐味だと思います。ビジネスの考え方、発想の視点、発想の手法と安全な議論ができる場をご提供するのが我々の使命だと考えています。

竹村 薫(チーフ・コンサルタント)

※本稿はBusiness Insights Vol.55からの転載です。
社名・役職名などは取材当時のものです。

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