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株式会社タス

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次の20年の成長を構想する「ビジョン策定」の手法

株式会社タス

タス:建物・マンション評価や路線価マップなど各種不動産評価や不動産マーケット分析サービスを提供。土地の評価を「人の手」でやるのが当たり前だった時代に業界に先駆けてネットでのサービス提供を開始した。

創業から20年を迎えたタス。不動産業界のIT化を開拓者精神で進めた創業期から時が経ち、この節目に次の20年のビジョンを策定した。中心となったのは20年後の企業経営を担う次世代社員だ。


ビジネスチャンス探索を起点としたビジョン策定ステップ

 「柔軟な対応力を感じさせる当社の視点に立った提案を見て、JMACに決めました」とタスの代表取締役社長(プロジェクト推進時は取締役兼経営管理部長)・絹川善明さんはいう。2000年の創業から20年の節目、タスは次の20年の成長を描くビジョン策定プロジェクトを始動した。絹川さんは2020年当時を次のように振り返る。

 「最初、社内リソースのみでやってみるのはどうだろうと考えたのですが、素人だけで進めても時間がかかるだけで結果が出るかどうかもあやしい。だったら、コストが増えることになっても専門家にお願いしたほうがいいだろうと考え、コンサルティングファーム5社それぞれから提案書を提出してもらいました。その中からJMACの提案を選ぶのに時間はかかりませんでしたね」

絹川善明さん

▲代表取締役社長で経営管理部長も務める絹川善明さん


 5社の中からJMACに決めた理由は冒頭のとおり。現状の主力サービスは全国の土地・建物やマンションを評価する「TASーMAP(タスマップ)」など不動産情報の提供だ。これまで20年間、「早く、安く、誰にでも」をコンセプトに、この不動産情報の提供サービスを拡大してきた。

 だが2015年ごろから様相が変わってくる。ビッグデータやIoTなどITを使った競合先が現れ始めた。今や不動産テック業界は乱立状態で、タスマップの売り上げは踊り場にある。その状況を打破しようと2018年に投入した、空室率、賃料、募集日数、利回りなど各種不動産マーケット指標を分析するサービス「ANALYSTAS(アナリスタ)」の拡大も課題となっている。

 JMACのコンサルタント・戸張敬介はプロジェクトの提案段階で、こういった不動産テック業界で生じている環境変化や注目プレイヤーの動向についてリサーチ。「ユーザーの活動プロセスに対する業務効率化提案」「賃貸オーナーなど成長顧客向け展開」や「不動産以外の価格評価への展開」といった、これからのビジネスチャンス探索の視点までも盛り込み、新たな成長の方向性について具体的に投げかけた。

ビジョンは経営層が与えるものではなく次世代の思いからつむぎ出す

 2040年のビジョン策定ステップ(下図)はまず、ビジョンや戦略策定の考え方のレクチャーとワークショップ形式での検討会を通じた「思いの共有」から始まった。プロジェクトを推進する基本メンバーは、これからの20年、会社とともに成長していく20〜30代の若手・中堅社員4人を選抜。プロジェクトリーダーとして方向づけや意思決定を担った社長の絹川さんは、経営層ではなくあえて若手社員に託した意図を次のように話す。

ビジョン策定のステップ

 「当社は従業員数25人規模の会社です。経営層がビジョンを策定し押し付けたら従業員全員が受け身になってしまう。メンバーには今回のプロジェクトを通して、将来、従業員の中心となって活躍する人材に育ってほしいと考えました。ビジョンを策定する過程で、現在の事業構成について、マクロ・ミクロ環境の分析、競合先の分析など外部環境について知り、今のタスに何が足りないか、自分ができることは何か学べるのではないかと思いました。

 また、身近でプロのコンサルタントの働き方を見る機会にもなる。顧客視点で相手のニーズを引き出し、それを取り込んでコンサルティングする、そのやり方に触れて影響を受けてほしい。2040年のビジョン策定プロジェクトは″次世代育成のための研修カリキュラム〟でもあったのです」

 とはいえ、若手・中堅メンバー4人は「20年後の企業としての将来」など考えたことがない。それぞれが考えていることについて議論しようとしてみても、最初は何を発言すればいいのかもわからない手探り状態。スタート時点では、議論することに慣れていないメンバーたちの話し合いは弾まなかった。

 ただ、JMAC・戸張の「誘導が上手だった」と絹川さんはいう。きちんとした文章ではなく、断片的でもいいから思いやアイデアをホワイトボードに書き出してみる。ビジョン策定の論点に沿って、「何のための会社なのか?」「何を目的に入社したのか?」「顧客が望んでいること、あったらよいと思うサービスはどういったものか?」「今後20年間で既存の概念を大きく覆すITサービスが登場するとして、タスはどこに向かえばいいのか?」といったような質問を重ね、戸張がメンバーの気持ちや意思を引き出していった。

ビジョン策定の論点

  •  経営・事業の本来の目的の再認識
  • 顧客起点の事業モデルへの転換
  •  パラダイムシフトを想定した方向性検討


 最初はギクシャクしていた場が、2回、3回とディスカッションを重ねるに従って、メンバー全員″自分たちの考え〟を発言することが増えていった。

 「最終的にはプロジェクトリーダーであるはずの私が発言する機会は減り、どんどん無口になっていきました」と、絹川さんはうれしそうにビジョン策定までの経過を振り返る。

入社当時のワクワク思い出し働き方にあきらかな変化

 メンバーの一人、データソリューション部チームリーダーでシステムエンジニアの山本晋平さんはプロジェクトが立ち上がった当時を思い返して次のように話す。

 「プロジェクトに参加する前の私は、部外の同僚たちと話すのは世間話程度。現在の会社の状況を考えたらこうしたほうがいい、という視点はなかったように思います。それが、ビジョン策定ステップが進むうちにメンバー全員に″当事者意識〟が芽生えてきたんです。印象に残っているのは、2000年創業当時の苦労話を聞いたとき。共感できたことで、タスにとってこの先何が必要なのか、自分なりの答えを探り発言するようになりました」

山本晋平さん

▲データソリューション部チームリーダーの山本晋平さん


 ビジョン策定プロジェクトメンバーを経験したことで、山本さん自身の働き方にも変化があらわれた。

 「計画を立てることはワクワクすることなんですよね。目の前の仕事でいっぱいいっぱいの毎日でそんな気持ちを忘れていたように思います。今では、将来的に実現させたい形からいつまでに何をするか、ゴールに向かう道筋を描くようになりました。新商品を搭載するための基盤をつくってリリースし、ブラッシュアップする環境に持っていくためには、今何に着手する必要があるのか……といった考え方ができるようになりました。

 入社したころは、お客さまのために使いやすい、さまざまなシステムを開発、提供しているという自負がありました。それが直近は弱まっていたように感じます。周りを見ながら動き、考え、発言できるようになったことで、あらためて誰のために仕事をするのか、新たな成長にはシステム開発の取り組みが必要だという意識が明確になりました」

 山本さんの直属の上司にあたるデータソリューション部副部長の安藤太一さんは、2040年ビジョン策定での実践効果を次のように見ている。

 「直近10年ほどの間に、不動産テック業界には数百社が参入している一方で、不動産の契約関係は複雑なことも多くIT化がまだまだ進んでいない領域もあります。その山積みの課題にこそビジネスチャンスが隠れている。そういった外部環境を把握したことで、新たな商品開発についての発言が理想ではなく、より現実に沿ったものになったように感じています」

安藤太一さん

▲データソリューション部副部長の安藤太一さん

創業の精神を語るミッションを全社員の指針に

 コロナ禍の影響もあり、主力である不動産情報提供サービスの売り上げが伸び悩む今は、タスにとっていちばんきついときだ。絹川さんは今の状況を次のように語る。

 「きつい時期を経験したからこそ、次のステージに進めるのだと考えています。そう考えると、今を乗り越えたあとは明るい。きつい状況だからこそ、共に乗り越える仲間、同僚と団結できると信じています」

 うまくいっているときは、その状態を維持する力が働く。その場合、新たな挑戦をして失敗するより現状を維持するため失敗しないように守りに入るのが人の常だ。ただ絹川さんは、「おそれず提案し失敗してもいい。私の経験上、失敗した蓄積がのちのち役に立つ」と考える。それに呼応するように山本さんは次のように言う。

 「課題がたくさんあって自由にチャレンジできる今、タスには活躍できる場があります」

 ディスカッションを重ね、ビジョンは「人と空間のつながりをもっと新しくもっとスタイリッシュに」という言葉とともに五角形のロゴとして形となった(下図)。創業の精神に立ち戻って考えていく中で、ビジョンだけでなくミッションも言葉となった。『見えない「価値」を見えるカタチに。』。不動産という不透明な市場の価値を誰もが見える形にして提供したことがタスの始まりだ。これからも常に顧客の立場で考え「なくて困った」「あったらうれしい」を提供していく―当時の精神を振り返り、そのエッセンスをミッションに込めた。

将来の事業ビジョン

 今、新しいビジョンは自社のウェブサイトや名刺にロゴとして入っている。ミッションは、オフィスビルのエレベーターを降りるとすぐ目につく場所に掲げている。知らず知らずのうちに目にしているビジョンとミッション。その効果が徐々に出てきているのを感じたのが、次の安藤さんの言葉だ。

 「今、次世代版のタスマップを開発中なのですが、開発に携わる社員から〝インターフェースをなるべくスタイリッシュにしたいね〟といった声が聞こえるようになりました。ビジョンやミッションはただの言葉ではなく従業員一人ひとりの指針となり始めた気がしています」

 2040年に向けたビジョン策定が終わり、次に着手した人事評価制度改革も2021年度に完了した。目標は、上司による評価がいらない、従業員一人ひとりが経営者と同じ目線で同じ判断ができる組織。若手と中堅が中心となって描いた将来ビジョンに向け、タスはスタートを切った。


担当コンサルタントからのひと言

戸張敬介(とばり けいすけ)
チーフ・コンサルタント

本プロジェクトは、新製品・新事業開発の手法を基に、創業20年のベンチャー企業が、次の20年の成長を構想する意義深いものでした。人と情報をつないで時代の「さきがけ」となる事業を生み出す経営の醍醐味と、まだまだ古い慣習が残る不動産の世界を「もっとスタイリッシュに」(魅力的に)したいと望む次世代の思いが混ざり合い、タス社ならではの2040年ビジョンがまとまりました。この事業成長の「将来像」を日々の原動力に変え、新たな「出会い」を自らつくり、次なる一歩を着実に踏み出す企業であり続けることを願っています。

※本稿はJMAC発行の『Business Insights』75号からの転載です。
※社名・役職名などは取材当時(2023年2月)のものです。

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