株式会社オカムラ
- 経営戦略・新事業
- 人材育成・組織開発
- 人材育成・企業内研修
- 流通・小売
“自前”のビジネススクールで次世代経営人財の育成に挑む
左から、専務執行役員・佐藤喜一さん
オカムラビジネススクール事務局・中村公則さん
株式会社オカムラ
1945年創業の国内最大手オフィス家具メーカー。オフィスだけでなく、商業施設、病院、学校、物流施設まで多様な場づくりへの事業を展開。収益柱はオフィス環境事業、商環境事業、物流システム事業等。
経営環境が目まぐるしく変化する近年、時代の変化に対応しながら経営の舵取りができる次世代リーダーの育成が急務となってきている。こうした背景の中で、オカムラは、経営人財を育てる研修「オカムラビジネススクール」を開講。1年間の育成プログラムの具体的なカリキュラム内容や受講した社員のリアルな声をお届けする。
オカムラの課題
次世代経営人財の育成/縦割り組織からの脱却/行動につながる実践的研修
働きやすい空間構築を提案
オカムラは創業以来、オフィス家具を中心とした空間創造を軸に、日本のビジネスシーンを支えてきた老舗企業だ。最近では少子高齢化やデジタル化、働き方の多様化に伴い、単なる「モノ」売りから「コト」を提供する存在へと進化が求められるなか、環境変化を的確にとらえ着実に業績を拡大している。
オカムラが将来の経営を担う人財を育てようと「オカムラビジネススクール」の開設に本腰を入れ始めたのは、今から4年ほど前のこと。中村雅行社長と取引先である家具販売店社長との何気ないやりとりからだった。
「当社社長の中村が販売店に出向いて話をするなかで、後を継げる人物をオカムラから出してもらえないかと相談されることがありました。取引先の大きな課題である後継者問題を解決していく必要がある。ただ、当社に経営できる人財がいるだろうか。そんな風に考えてみてはじめて、オカムラ自身に経営ができる人財を育てる必要があるということに直面したわけです。販売店の前に、まずはオカムラの経営人財をしっかり育てようということになりました」と専務執行役員 CHROの佐藤喜一さんは振り返る。
専務執行役員 経営企画本部長兼HR本部長 CHRO・佐藤喜一さん
経営やビジネス、マネジメントに関する知識やスキルを教える教育機関はいくらでもある。だがオカムラでは、学問ではなく実践的、現実的な経営を学んでほしいという考えから、自社内にビジネススクールを開設することにした。
「自前でつくると言っても、プログラム内容も講師も社内では井の中の蛙状態になる懸念がありました。世界的な視点と社内の実践的なレクチャーを融合させるプログラムをつくりたいと思い、JMACに支援をお願いすることにしました」とオカムラビジネススクール事務局の中村公則さんは説明する。
オカムラビジネススクール事務局・中村公則さん
行動変容のカギはアクションラーニング
毎年10月から9月の1年間で実施しているオカムラビジネススクールは現在、3期目のプログラムが進行中だ。月1回のペースで全12回、支店長や部長など部門長クラス12人を対象とし、1回の研修は8時40分から17時20分までの濃密な内容で構成されている。具体的なプログラム内容を見ると、「経営戦略」「財務戦略」「マーケティング戦略」など経営に関する幅広い知識を身につけられるようになっている。
「もともと、各事業部が独立した利益責任を持ち、製品開発から販売まで一貫して担当する事業本部制を取っているため、事業を成長させる各部門のリーダーは育っていると思います。育てたいのは、事業全体を見て企業の成長につなげられる会社経営リーダー。お金の流れを学ぶプログラムをメインにしているのもそのためです。また、社長が常に言っている『自分で問題を見つける力』を身につけ、その問題はどの部門とどの部門を交えると解決できるかを考えるプログラムも重視しています」(佐藤さん)
基本的な1日の研修カリキュラムでは、「実践や討議」を重視。JMAC講師によるインプットは最小限にとどめ、各回のテーマに沿って受講者間でディスカッションを行い、経営に必要な思考力や判断力を磨いていく。昼食の時間を活用したオカムラ役員OBからの講話の時間では、これまでの歴史や工場長だったときの経営判断など、裏話も含め経営のリアリティを肌で感じ、先人の教訓を学ぶ。事前課題をもとに受講者間で討議を行い、自部門だけでなく部門を超えた課題の発見、どうやって解決につなげるかといった考えを深める。
オカムラビジネススクールのカリキュラム
3期からの新企画として、受講者自身がリーダーシップを発揮し、相互に高め合うトレーニング内容を盛り込み、自主企画による自発的なワークショップも行っている。最終回は、経営視点で研修で学んだことを実務に落とし込み、経営層に向けて1人ひとりが発表を行う。
このカリキュラムのなかでも、「JMACならでは」と中村さんが評価する点がある。それは、その日の始まりと終わりに入れている「アクションラーニング」だ。1日のカリキュラムの最後に、1日の気づき、学びを言語化し受講者間で共有。新たなアクション事項を定め、行動変容につなげる。月に1回の研修と研修の間は、日々の業務で研修での学びを実践に移し、次回の研修の冒頭で行うアクションラーニングにつなげる。継続して自身の行動を振り返り、行動変容をうながしていく。
「1日の濃密な研修カリキュラムで学びを得ても、次回は1カ月後。時間が経つと忘れてしまいます。通常、マーケティング業務を行っている人が、財務がテーマの研修だからすぐに頭を切り替えてと言われても難しい。研修の冒頭で前回を振り返り、日々の業務で実践できたかどうかを考えながら、その日の研修テーマに頭を切り替えていく。われわれだけでは、このようなアクションラーニングをカリキュラムに取り入れることはできなかったと思います」(中村さん)
プログラム導入の最大のねらいは、単なる「管理職」ではなく「経営の視点を持った人財」を育てることにある。重視しているのは、「実践力」と「自発性」。単なる知識習得に終わらせず、現場や自身の行動にどう落とし込むかが受講者に問われる。
JMAC シニア・コンサルタント・栗栖智宏がコーディネーターとして一貫したサポートと講師を務める
部門横断のプロジェクトも誕生
実際、1期生として参加した執行役員 オフィス環境事業本部 働き方コンサルティング事業部 事業部長の碇山友和さんは受講後、「視座が大きく変わった」と振り返る。
「受講前は、事業部門ごとに縦割りで考えていたため、自分の目の前の事業のことしか考えていなかったように思います。受講後は、人事戦略や経営戦略など経営層が発する言葉の理解が深まり、部員がどう貢献すると全社利益につながるのか、他部門や新規事業、本社機能などとの関係性のなかで、自分の事業部の役割をとらえ直すようになりました。全社利益を考えたときにボトルネックになっているのは何か、自分の事業部のなかだけではなく他部門、他事業部の同期生たちと話ができるようになりました。事業部の部門長たちに会社の戦略や数字の背景をロジカルに説明しながら、自分の言葉で伝えられるようになったのも大きな成果だと感じています」(碇山さん)
執行役員 オフィス環境事業本部 働き方コンサルティング事業部 事業部長・碇山友和さん
さらにビジネススクールでともに学んだネットワークを活かし、部門横断のプロジェクトも生まれた。新規ビジネスや営業、製造部門のメンバーと連携し、提案スタイルの改革や、製造と営業の融合プロジェクトなどが進んでいる。ビジネススクールで生まれた視座の転換が、具体的なアクションへとつながっている。
2期生で、働き方コンサルティング事業部ワークデザイン研究所所長の森田舞さんは、研究部門のリーダーとして、「ビジネススクールでの学びが、自分自身と組織の役割を再定義する機会になりました」と語る。
「研究所発足から40年以上経ち、これまでさまざまな研究をしてきました。研究成果がどう経営に影響を与えるのか、利益に対してどのような形で貢献できるのか、研究所として具体的な説明が必要とされていますが、うまく言語化ができていません。講師から繰り返し〝それは経営にどう効くのか〟と問われるうちに、これは考えなければいけないことだと気づかされました。気づけたことが重要なのだと実感しています」(森田さん)
研究所の役割が会社全体の中でどのような価値を持つのか、売り上げや利益に直結しない研究部門の貢献をどう説明し、どのように社内で意味づけていくか。これは森田さんにとって今後の大きなテーマとなるだろう。加えて、女性管理職としての気づきもあった。
「もともと〝女性だから〟と言われることに抵抗感がありました。でもこの研修を通じて、社会や会社がなぜ女性活躍を求めるのか経営視点でのとらえ方を少しずつ理解できるようになりました。女性の社外取締役の講話もとても参考になりました。いまでは、私のキャリアがこれから続いていく後輩のためになるならという思いです」(森田さん)
オカムラビジネススクールは、受講者個々人に自信と責任意識をもたらしつつある。
働き方コンサルティング事業部 ワークデザイン研究所 所長・森田舞さん
進化し続けるカリキュラムで次世代の経営人財を育成
プログラム最後の最終発表は、「私が考えるオカムラの使命」「オカムラの置かれた現状」「オカムラが目指すべき姿」「目指すべき姿実現に向けた経営課題と解決方法」「自らの経営課題解決に向けた実践状況」「自らのありたい姿と行動宣言」で構成。これらを経営陣に向けて発表するプレゼンはまさに〝卒業試験〟。合格できなければスクール修了も認められないという厳しさのなか、受講者は膨大な準備に取り組む。
碇山さんは「夏休み返上でつくり込んだ」と笑うが、最終的には納得のいくアウトプットが生まれ、それは単なる研修内の発表にとどまることなく今も経営改革のプロジェクト等に結びついている。オカムラビジネススクールは、現在も進化の途上にある。受講者の要望を受け、ディスカッションの時間を増やしたり、受講者同士の実践共有の会を設けるなど、自前のビジネススクールのカリキュラムの変化は続く。「単なる研修で終わらせず、修了後もフォローを続け、実務と地続きである実践が最大のポイントです」と中村さんは強調する。
オカムラビジネススクールが目指すのは、変化を恐れず、企業の未来を自ら切り拓くことのできる経営人財の育成。その成果は、経営課題を自ら見つけ言語化し、行動に移す力として、すでに現場に芽吹き始めている。
担当コンサルタントからのひと言
シニア・コンサルタント
栗栖 智宏(くりす ともひろ)
本ビジネススクールの特徴は、スクール卒業後の各受講者の「経営課題解決実践」にあります。多くの課題発表型研修は最終発表で終わり。実務との連続性が乏しい場合が多いのではないでしょうか。しかし、本スクールは、経営陣への最終発表に向けて各受講者が自身の業務を起点に経営の視座から課題を見出し、卒業後は課題解決の実践まで一貫して取り組みます。これにより、卒業後も受講者同士が期を超えてつながり続け、部門や立場を越えて意見を交わし共に助け合う関係性が広がっています。
※本稿はJMAC発行の『Business Insights』79号からの転載です。
社名、役職名などは取材時(2025年4月)のものです。
関連コンサルティング・サービス
経営戦略・新事業
JMACの総合力を活かし、経営戦略と機能戦略を一貫連携して支援します。具体的には、戦略単独テーマに留まらず、生産領域×戦略によるモノづくり戦略の立案、RD領域×戦略による革新的なエンジニアリング企業への変革、業務領域×戦略による真の働き方の実現、人事領域×戦略による組織再編やPMI支援を実施します。これらJMACの各機能と連携した実効性あるトランスフォーメーションの実現を支援します。