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オリンパス株式会社

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オリンパス株式会社は、大正8年(1919年)の10月12日創業の歴史ある企業である。顕微鏡事業を柱とし、「株式会社高千穂製作所」としてスタート。「株式会社高千穂製作所」の時代から商標として使われ、ギリシャ神話で神々が住むというオリンパス山「Mt.Olympus」にちなんだこの社名には、「世界に通用する製品をつくる」という熱い思いが込められている。
しかし近年では、カンパニー制の企業ゆえの事業部間の横の連携が課題のひとつになっていた。2000年の"製造全体の革新活動"の取組みを経て2006年「購買企画部」を新設することから始まった今回の活動。垣根を超え、人材教育制度にまで深化した活動をご紹介する。

カンパニー制の垣根を超えた調達革新をねらいに本社に「購買企画部」を新設

「生活者として社会と融合し、価値観を共有しながら、事業を通して新しい価値を提案し、人々の健康と幸せな生活を実現する」=Social IN(ソーシャル・イン)という経営理念のもと、顕微鏡の国産化から始まり、カメラメーカーとしてのブランドを確立したオリンパス。のちに内視鏡の開発も手がけ、長い経験によって培われた光学技術と最先端のデジタル技術の融合により、さまざまな精密機械・器具を製造販売している。
2000年頃から、全社を挙げて"製造全体の革新活動"への取組みがスタート。その後2006年、当時の「製造戦略委員会」において、全社的な購買にかかわる施策について検討がなされ、本社(ものづくり革新センター)内に「購買企画部」を新設することになった。

「購買企画部」新設の経緯について、取締役常務執行役員ものづくり革新センターセンター長・林氏はこう語る。

oly201304_01.jpg「製造全体の革新活動の中で、これまで主に工場改革や、生産技術改革に取り組んできたのですが、取組みに偏りを感じていました。原価低減やQCDの向上などを目標として掲げるなか、製造ラインの効果だけでは限定的であることと、当社の場合、外部購入品も多いことから、"これまでの購買活動を全社的に見直し強化する"という流れになったのです。ただ、ひと言で"全社的な購買力の強化"といっても、当社は事業部ごとに購買部門が独立しており、それぞれの横のつながりが弱い状態でした」
 カンパニー制の企業ゆえ事業部間に垣根があり、購買の各種情報も、各事業部内で留まったままだった。現状を検証した当時は、調達の有効な施策や情報の共有化が不足であり、数々の課題が挙げられた。そこで、「購買企画部」を本社内に新設し、これまで、それぞれ独立した状態であった各事業部の購買部門の"横の連携"が取れる仕組みにしたのである。
「最初は、各事業部の購買責任者が不定期に集まり、それぞれの部門の優れた所を学び合うような形の活動から始めました。これが軌道にのってきた段階で、月に1回の頻度で、各事業部の購買責任者が一堂に集まる『購買責任者会議』をスタートしました。"横連携の枠組み"の中で購買力強化のための戦略立案の場としたのです」と、林氏。

実践的な支援を期待しJMACとコンサルティング契約

購買力強化活動を本格化させるには、「外部のプロに当社の状態を客観的に分析してもらい、購買力強化のための具体的なプランを提案してもらうことが必須」(林氏)と、コンサルティング会社7社から提案を募った結果、JMACとの契約を決めた。
 最終的にJMACに決めた理由を、ものづくり革新センター統括室購買企画部部長・奈良氏はこう語る。

oly201304_02.jpg「机上の論理で終わるのではなく、現場志向で実践的な指導をしてもらえるコンサルティング会社にお願いしたかったのです。JMACさんとの契約の決め手になったのは、購買部門の実態をさまざまな角度から診断する『購買力診断プログラム』と、購買・調達業務のプロフェッショナルとして必要とされるスキルを修得した方を、調達プロフェッショナル認定者(「Certified Procurement Professional:CPPと略)として認定するCPP資格取得のための教育や業務プロセスでした。これらの実践的な体系を取り入れることによる、業務改善の効果を期待したのです。JMACさんには、これまで当社の調達部門以外でも実践的な指導をしていただいた実績もあり、安心感もありました」

購買力強化活動は、歴史が古い「伊那工場」から

JMACと2人3脚で始まった、購買力強化活動への取組み。具体的かつ実践的にテコ入れを始める最初の現場として選んだのは、オリンパスでいちばん歴史が古い、長野県の伊那工場(現長野オリンパス)であった。なぜ、伊那工場を選んだのか。
「伊那工場は、1944年、終戦の1年前にスタートしました。歴史が古く、当社でいちばん伝統のある工場であるがゆえに、よくも悪くも全てが保守的で、なかなか新しい流れに馴染まない風土がありました。これまでも、全社的に何かを変えなくてはいけないという時に、"伊那の風土が..."的な空気があったのも事実です。だからこそ、購買力強化に向けて社内の仕組みを根本的に改善するには、まず最初に伊那工場から変えないといけないという思いが強くありました」と、当時は伊那工場長であった林氏。

oly201304_03.jpgそれまでも、伊那工場では、外部コンサルタントの支援も受けながら製造改革を進めていたが、取組みが長続きしないという、負のジレンマも抱えていた。購買グループでは、「原価低減」「品質不具合ゼロ」「納期遅れゼロ」を目標に取組みを進めていたが、原価低減は、低レベルに留まっていた。施策検討をするにも、スペンドアナリシス(=調達履歴分析)やサプライヤー評価なども不十分な状態であった。

「ひと言でいうと、いろいろな取組みが、科学的、論理的ではなかったのです。サプライヤーとの折衝の仕方も、"お願い折衝"が主流で、客観的なデータに基づく論理的なアプローチではなかったのです。このままではいけないと思いました。」と、林氏。
より科学的な、より論理的な手法で購買力強化活動を推進すべく、JMACは、オリンパス本社で約3ヵ月かけて策定された購買マネジメント体系に沿って、伊那工場の「購買力診断」を実施。診断結果に基づき、購買改革のためのマスタープランを以下のように立てた。

①サプライチェーン強化戦略の設定と促進
②現行品の品質、納期、コストの改善促進と基盤強化
③購買リスクの体系化と対策
④開発購買の促進と基盤の強化
⑤人材育成計画に基づいた育成の促進
⑥購買情報基盤の整備

以上6つのテーマの中でも、①と②を最重点事項として、取組みを推進した。
これらのマスタープラン策定後は、工場長を委員長とする運営委員会を設置し、毎月、各施策の進捗状況の確認を行なった。JMACからは、コンサルタント3名体制で支援。毎週伊那工場に出向いて綿密に打合せを行い、次期計画を立案する時期には、合宿で集中検討も実施した。

CPPがバイヤーの切磋琢磨のマインドを揺さぶる!

日々の購買業務を行いながらも、原価低減施策の仕込みや、購買力強化の新しい取り組みも精力的にこなさなければならなかった、当時の伊那工場。管理職をはじめメンバー全員が大変な苦労を背負った形になるが、このような取組みを通じて、購買グループ全体に、"購買スキルを向上させることの重要性"が認知されることにもつながった。
日々、購買力強化の施策に取り組んでいるうちに、CPP資格の取得が購買グループメンバーの"免許証"的な位置づけになり、メンバー同士が切磋琢磨して勉強する環境が築けるようになったのである。
当時、伊那工場の購買グループリーダーだった奈良氏も、他部門から異動をしてきて日が浅く、購買分野では「素人だった」にも関わらず、日々研鑽を重ねてCPP・A級に合格。他数名も合格し、調達プロフェッショナルとしてそのスキルレベルを高めるきっかけとなった。
「私自身、資格取得にはかなり苦労しましたが、JMACさんが関わって開発したCPPプログラムは非常に体系的で、勉強しやすかったです。何よりも、CPP資格の取得は、調達プロフェッショナルとしての自分のレベルを第3者に評価してもらうことができた点で、とても良かったと思っています」
購買原価低減の仕方も、これまでの"お願い折衝"から、購買条件の見直しや、技術的視点での材質変更、加工法見直しといったVE/VA的な視点を取り入れ、いわゆる「科学的にアプローチする」ということも学んだ。高機能部品のメーカーへのアプローチで、購買グループだけでは対応できず、開発・技術部門や品質部門とも相談しながら協同で進めるという苦労もあったが、「リーダー会議を通じて工場長のトップダウンの下、各部門からスムーズに協力いただくことができました」(奈良氏)という。
「サプライヤーとの交渉も、事前準備の仕方や折衝の進め方をはじめ、JMACさんに手とり足とり教えていだいたことによって、メンバーも、これまでの自分の交渉の仕方を客観的に振り返り、改善点も見えたことによって個々のスキルも向上し、自信にもつながりました。また、サプライヤーといっしょに技術的視点での検討をすることで、サプライヤー自身の改善力も確実に向上しました」(奈良氏)
従来の購買活動を見直し、JMACの「購買力診断」やCPP資格制度などを取り入れ、工場全体を挙げて購買活動の革新を図り、実践した結果、これまでの購買原価低減率が、大きく改善された。
「伊那工場では、JMACさんの協力による様々な角度からのアプローチにより、活動の枠組みが変わりました。『購買の原価低減は購買部門だけの課題ではなく、工場全体で協力して取り組むべき課題である』と認識できたことも、非常に大きな収穫でした。」と、林氏は振り返る。

垣根を越えた活動への発展

伊那工場での成果を受け、購買企画部では、オリンパス全社を挙げて「購買力診断」の展開を主導。しかし、「当初は拒否反応を示す事業部も少なくありませんでした」(奈良氏)という。
oly201304_04.jpg「『外部の人にジャッジされる』という抵抗感に加え、各事業部に配置した現場の診断員から、『自分より目上のリーダーに診断結果を報告するのは気がひける』という声があがったのです。これらの意見を踏まえ、最終的には、グループリーダー(課長クラス)自らが、自分の職場を診断するシステムにしました」(奈良氏)
全社的な購買力診断は、今でも継続して行われ、購買責任者会議などで結果を報告しあって各事業体の弱い部分を把握し、次期を見据えた改善施策を打ち出すなど、購買メンバーのモチベーション向上にも一役かっている。
また、製造革新活動では、工場診断士制度を設け、社内で認定された診断士が社内の製造ラインを診断し、ソリューション提案している。要請があれば、このメンバーがサプライヤーにも改善指導にいく制度を設けた。
さらに、購買企画部では、サプライヤーの評価指標を全社で統一することによって、各事業部がどんなサプライヤーとつきあい、どんな成果を出しているかをオープンに共有する仕組みをつくった。
「サプライヤーの評価指標のレベル決めが非常に難しかったのですが、サプライヤー評価を全社的にオープンにすることによって、他の事業体から具体的なアドバイスをもらえるようになりますし、戦略に幅が出てきたと思います」(奈良氏)
2006年に発足して以来、今年で設置7年目を迎える購買企画部。月に1度の「購買責任者会議」の開催も実に70回を超え、回を重ねるごとに"横の連携"が格段に深まってきた。カメラ事業の開発メンバーが、内視鏡のデザインレビューに加わり、互いに異なる切り口から意見を交換しあいながら商品開発していく...など、これまででは考えられなかった、事業部間の垣根を超えたディスカッションも行われている。まさに、飛躍的な進歩である。

購買人材育成制度も進化

このような流れを受け、購買人材育成の考え方にも、進化が見え始めている。
まず1つ目は、購買業務に関わるメンバーへのCPP認定資格取得の推奨である。
「人事部と連携してCPPの資格を社内資格制度に組み込んでもらい、合格すると報奨金がもらえる仕組みにして自己啓発を促進しています。この取組みにより、受験率も上がりました」(奈良氏)
2つ目は、従業員の能力開発制度「オリンパスカレッジ」の充実である。
「これまで、購買領域では、初級・中級の2講座しかなく、それも座学だけだったのですが、実際に研修を受けた従業員から『より実践に近い内容についても受講したい』というリクエストがあり、座学9講座と実践研修4講座の2段構えで合計13講座になりました。実践研修では、OJTさながらに、受講者自身が実務で担当する部品、サプライヤーに対して、どのように原価低減するかを検討し、講師のアドバイスのもと実際にサプライヤーと折衝し、その結果から次の対応策を検討するスタイルで行っています」(奈良氏)
また、全社共通のスキルマップづくりにも取り組み始めた。「CPPの体系から、『この仕事をする人はこういうスキルが必要です』ということを洗い出し、スキルの程度により5段階に分けて示すことによって自分のレベルを客観的に知ることができる仕組みになっています。さらに、それぞれのスキルを伸ばすためには、どの研修を受けるべきかもひと目でわかるよう工夫しました」
今後は、「現場レベル、実務レベルでの研修の開発はかなり進んできているので、マネージャークラスのレベルを全社的にさらにもう一段あげるためにはどのような研修を行っていくべきかを検討していきたいと思っています」(奈良氏)

今後は、"横串"をグローバルにも展開

国内の購買力強化の基盤が整いつつある今、今後は「グローバル」を視野に入れ、海外での購買を、重点施策のひとつに掲げている。
海外での購買も、国内の場合と同様、購買企画部の機能として、"横串"のモノサシものさしをつくることが必要となってくるが、「日本と同じ軸で判断するのはもちろん難しいので、海外の購買部門において、どの地域でどのカテゴリーが強いかがわかるようなグローバルマップをつくり、コストのレベルを決め、サプライヤー選定の指標にしたいと思っています。世界の中でもとくにアジアのサプライヤーは変化が激しく、追跡していくのが大変...など、課題もたくさんありますが、ひとつずつクリアにしながら、効率の良い施策を展開していくべく、取り組んでいきたいですね」(奈良氏)

全社をあげての国内での購買力強化戦略が成果を上げ、本来の意味での「グローバル購買」を目指して新たに歩み始めたオリンパス。今後の躍進が楽しみである。

担当コンサルタント

 加賀美 行彦 シニア・コンサルタントkagami_p.jpg

※本稿は『コンサルティング事例紹介』からの転載です。
社名・役職名などは取材当時のものです。

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