東洋理工株式会社

 1964 年(昭和39 年)に設立した東洋理工(安城市)は、翌年には日本で初めてプラスチックめっきの加工専門の業務を開始、以来プラスチック製品の総合メーカーとして金型・成形・加飾(めっき、塗装、蒸着)から組立までの一貫生産体制を整えてきた。プラスチックめっきのパイオニア的存在として、自社開発のオンリーワン技術「金属音プラめっき(MLT)」を武器にプラスチック製品の可能性を拡大させており、その実力は国内外に広く知れわたっている。とくにナイロン樹脂のめっき生産量は世界でもトップレベルを誇る企業だ。同社が20 年近く展開しているTPM 活動の導入の経緯、継続の秘訣、次世代に向けての展望などをお聞きした。

売上があっても利益が出ない TPM の導入を決意

 東洋理工は工場の生産革新プログラム「TPM(トータル・プロダクティブ・メンテナンス)」を98 年に導入し、継続してものづくり現場の改善活動にも力を入れている。
20 年近く途切れることなくTPM 活動を継続しているのは、非常にめずらしい。
 「導入を検討していたころ、当社の売上は伸びていても利益が減っているという状況だったのです。バブルが崩壊してからなかなかクルマが売れないということもあり、コストダウン要請にも応えなければならない。QC 活動を実施していましたが、目立った成果が出ませんでした」と当時を語る横山真喜男氏(代表取締役社長)は、「とにかく何かほかに手を打たなければまずい」と危機感を抱いていたときに出会ったのがTPM だった。
 当時専務だった横山氏は、TPM という手法があると知ると、さっそく成果発表会やセミナーなどで実施企業の事例などを聞きまくり、「成果がすごい。これはやるしかない。なぜみんなやらないのか」と自社に導入すれば期待する成果を得られると確信したという。また、そのころに本格的なナイロンめっきのライン装置、複合成形装置、電磁波シールドライン装置など新しい設備を次々と導入、「新しい技術で新しい仕事」をやるようになり生産量も増えていったが、それに伴い「困りごと」も生じてきた。
 小西和彦氏(取締役 製造部 部長)によれば「残業も増えたし、土曜日にも生産しなければならないことがあり、設備のメンテナンスがほとんどできていなかったのです。当時は、めっきラインに故障が多く発生していた」という。「困りごと」を放置できないという思いは、横山氏と一緒だった。とくにめっきラインの故障は、めっき液の中の製品がほとんど「オシャカ」になることもあり、そうしたロスによる利益損失に日々悩まされていたのである。
 「当時応対してくれたTPM コンサルタントの方からは、『成果は出ますが、それなりにタイヘンですよ』と言われましたが、その話を経営会議に伝えて、さぁどうしますかと問いかけたら、『じゃあ、やろう』ということになったのです(笑)」(横山氏)

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代表取締役社長
横山 真喜男 氏

率先垂範で粘り強く活動 「現場が変わった」を実感

 「それなりにタイヘン」を覚悟していたものの、TPM 活動で「生産性が上がれば残業時間も減る、故障が減ればラインの稼動時間も増える」ことは十分予想できた。しかし、TPM をキックオフして、いざ活動がスタートしても「なかなか先に進まない」ことに苦労したという。
 「当初は、TPM は普段とは別の業務として『土曜日にやる』ことで活動がスタートしました。従業員にとっては普段の業務とは違うわけですから、まずTPM 活動とはどのようなもので、それでどんな成果が出るのかを、理解してもらわなければなりません。まずは土曜に出てやることの意義を納得してもらうのに苦労しました」(小西氏)
 同社に限らず、TPM 活動の初期は「活動が思うように進まない」「やってもすぐ元に戻ってしまう」と感じることがある。それは当然のことであって、活動のごく初期の段階ではゴミや汚れの「発生源」の対策はまだ十分ではないからだ。このときの苦労を小西氏は「とくにめっきの現場は、掃除をしても翌週には前と同じくらい汚れているのです。また土曜日にやるといっても、通常の生産で出勤することもありますから、清掃が十分にできない時期もありました。そのときは一番苦労しました」と振り返る。
 「もちろん率先垂範ということで、役員と管理職で『モデル機』を設定して自らが身体を動かして活動の手本を示しましたし、手当なども社長であろうがアルバイトであろうが、差をつけないで一律にみんな一緒にして、とにかく全員で出てくれという思いが伝わるようにしたのです」と横山氏も活動初期の苦労を語る。
 TPM 活動は「後戻り」しないためにも、あるステップを確実にしてから次のステップに進み、それにリンクするかたちで設備が変わり(信頼性の向上)、人が変わり(スキル・意識の向上)というシナリオで展開していくことが多い。階段(ステップ)の踊り場にいると、どうしても「なかなか次に進めない」と感じることもあるようだ。
 こうした壁を幾度と乗り越えた現場を、横山氏は「2 年くらいでようやく現場が『変わった』と感じました。何とか活動が定着したなと。ようするに、成果が見え出したということです。トラブル対策が進み設備の停止が減った、稼動率がアップして残業や休出が減ったなどを実感できるようになったのです。見えるようになるとヨソのチームが気になり出して、良い意味で競争するようになったのです。成果が見えて活動が活発化し、さらに成果が出るという相乗効果も生まれました」と評価している。このころにはクレームや納期遅延が大幅に削減し、納入先からも品質や納期の「改善賞」を授与されるほどになったという。

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▲樹脂に金属の質感を持たせるプラスチックめっきを施した製品。四輪自動車
用グリル(写真左)と二輪自動車用エンジンカバー類(写真提供:東洋理工)

従業員の意識の変化を捉えて 活動を「仕事そのもの」に

 現在は当初の設備関連のトラブルも激減し、「今はお客さまの品質要求が非常に厳しくなっていて、活動の主力もそちらに注いでいます。標準ルールを守ることで、お客さまへ不良が流出するのを防止するということです」(小西氏)と現場ぐるみで品質を重視した活動を展開中だ。こうした「お客さま」を意識した活動ができるのは、不良が出ないための基準やルールづくり、それを守る人づくりを地道に継続してきたからこそと言える。
 2005 年から活動を支援しているJMAC のTPM コンサルタント・粟津保は「同社は『改善積上げ型』の活動で逐次レベルアップしながら『あるべき姿』へ向かっていることがわかります。こうした取組みでバブル崩壊後の低迷、販売量の変動、原材料費やエネルギーコストの増大をみごと克服してきたのです。その活動を一言で言えば、環境変化に即応できる企業体質の構築ということです」と語る。
 長らくPDCA を継続して成果を積み上げて難題を切り抜けてきたからこそ、「東洋理工のTPM」として特徴ある活動が定着していったのだろう。このことを横山氏に問いかけると、「ところが長くやっているからこそ、活動初期の"つらさ"を知っている人が徐々に減っていくわけです。
今は4 割もいないくらいです。逆に言えば、活動に対して『そこまでやるのか』と感じる人も中には出てくるわけです」と冷静に従業員の意識の変化も見ているようだ。
 実際に同社が2001 年にTPM 優秀賞を04 年にその継続賞を受賞してから、「その後で少し活動が停滞した時期がありました。そのころから導入期を知らない人も増えてきましたし、何かしらのかたちで『やり直し』も必要だねという議論も出たし、実際に2S(整理・整頓)などの見直しで徹底化を図りました」(小西氏)という。
 「確かに仕事への意識の変化を感じます。20 年前とは違って『個』が優先される場面が多くなりました。しかし、時代や環境がどうであれ『現場の基本』をおろそかにはしたくないという強い思いがあります」と語る横山氏が仕掛けたのは、ISO を導入してとくに品質において「手段としてのTPM」の位置づけを明確化したことだ。
 ISO・TPM 推進事務局 主査の鈴木順一氏が語る。

 「品質方針にはっきりと『TPM 活動を通して継続的改善を図る』と定め、TPM を進めないとISO も達成できませんという枠組みにしています」
 現場でのチームの方針はTPM やISO の指標と直にリンクしたものになっているのだ。すでに仕事と切り離された特別なプロジェクト活動ではなく、仕事そのものという位置づけになっているという。
 「仕事として位置づけたTPM が東洋理工のものづくりの根幹にしているので、最近入社した人は『TPM は当たり前』と捉えている人が多いようです」(横山氏)

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左:取締役 製造部 部長 小西 和彦 氏
右:ISO・TPM 事務局 主査 鈴木 順一 氏

「TPM ラリー」で経営指標と現場活動をリンク

 どうやら同社の活動が長い期間にわたって継続している秘訣は、「仕事化」であると言えよう。これは「活動を仕事として捉える」という単に意識レベルだけのことではなく、「業績を上げる(目的)」ことと「TPM(手段)」が連動するようにしている点に注目したい。すなわち、「業績を上げ続ける=活動を継続する」という仕組みである。威勢よくスタートした社内活動でも、メンバーの入れ替わりや方針変更などで停滞、中断、そして" 忘却の彼方へ" という道をたどることも少なくないが、同社にとってそれはもはや杞憂である。
 こうした仕組みは実際にどのように運用されているのだろうか。横山氏が語る。
 「報奨制度も絡めて『TPM ラリー』というものを仕掛けています。簡単に言うと、毎月定められた項目に対してチェック・点数づけをして結果が良いところには報奨金を出すというものです。さまざまな項目を設けていますが、当社では経営計画にリンクする項目も細かくサークル(活動チーム)に降ろしています。たとえば、A 部門の不良率の目標はこうでB 部門はこうで、全部門が達成すれば利益計画も実現できるということを、サークルレベルまで細かく設定して評価しています」
 これらの評価を毎月見ている粟津は「会社業績、職場業績の指標(KPI:Key Performance Indicator)と活動系の指標(KAI:Key Action Indicator)がうまく連動しています。基本的に全社で各部門が協力して会社の業績を良くするための仕組みになっています」と語る。
 「当初は『あれやれ、これやれ』と活動のための指標がまだあって、社員たちも本当は何をやればいいのかわからずに動いていたこともありました。今はまず『利益を出すために何が必要か』があって、それをラリーの項目に落とし込んでいますし、トップダウンだけでなく、ボトムアップによる指標のすり合わせも行っています」(横山氏)
 こうした仕掛けを確実に運用していくために、事務局では「月末には社長と事務局で必ずラリーのポイントをチェックします。その結果を受けて、リーダー会議では一方的に指摘するだけでなく、" キャッチボール" しながら議論します。同じ指摘を繰り返さないような仕組みです。もちろんポイントの達成も大事ですが、こうした事務局のバックアップで現場を活性化していくねらいもあります」(鈴木氏)と経営指標と現場活動が噛み合っているかを常に確認できる仕組みがあることがわかる。

 東洋理工の活動継続の仕組み、そして事務局による運用がどれほどのものかは、このリーダー会議がのべ205 回、JMAC コンサルタントによる「TPM 指導会」が200 回を超えるという事実からも推し量れる(2017 年3 月現在、両会議とも原則月1 回開催)。あらためて横山氏に活動を振り返ってもらい、継続の秘訣を聞いてみた。
 「仕組みや運用があっても、それを支えているのは" 人"ですから、さまざまな思いがあります。当然、まだ活動が当たり前になっていない、まだ能動的な動きになっていない人もいます。経営の方でも『まだまだかな』という意識があるからこそ、継続できているとも言えます。『まだまだ』の部分については、社内だけでは" お茶を濁す" こともあるので、外部のコンサルタントからの指摘やアドバイスも必要です。指導会がこれだけ続いているのも、こうした理由からだと思います」

 同社の継続について粟津は「半期ごとに次の半期をどうTPM 活動を経営指標とリンクするか、年ごとに次の年はどうするかとハードルを上げた提案に対して、経営陣がそのレベルになりたいという強い意欲があるからです。利益体質を構築しながら確実にステップアップしていきたいという企業であれば、活動は継続します」と語る。

次の「まだまだ」を解決すためにTPM 活動を続ける

 おそらく東洋理工がものづくりをしていく以上、同社のTPM 活動は終わらないだろう。「まだまだ」が解決されても、すぐに次のレベルの「まだまだ」に挑戦していくからだ。
 「品質面でもチャレンジ課題はまだまだあります。めっきでは職人的なカン・コツ、過去の経験で操作する部分がいまだに多いのです。管理すべき項目をしっかり決めて、その基準を確実に守ることで品質を確保する必要があります。こうしたことを見える化して、チーム力でものづくりができるようにしたいです」(小西氏)
 「その業務はその人しかできないという状況のままですと、なかなか部署間の異動もしにくいのです。本当はもっといろいろな経験ができる会社にしていきたいと考えています。当社にとってTPM は『背骨』のような存在だと思っています。時代の変化に関わらず、会社を支える基盤でもあり、ものづくりの基本の基本なのです。次の時代にもいい姿でバトンタッチしたいですね」(横山氏)


 TPM を導入して約20 年。会社の背骨としてTPM 活動を定着させながらも、次の「あるべき姿」を追求しつづける東洋理工。これからも経営と現場が一体となったTPM活動が継続していくに違いない。

担当コンサルタントからの一言

TPM 活動を経営指標とリンクさせる

 TPM 活動の支援とは、「経済環境の変化に対応できる企業体質づくり」をお手伝いすることと考えています。現場で不良が減り、故障やトラブルも減っているにも関わらず、会社の収益が向上しないとしたら、活動そのものが不十分なのかもしれません。損益管理とリンクした原価管理、すなわち売上高と製造原価や生産の原単位の見える化ができていないからです。生産原単位と経営指標がリンクしていないとTPM の効果も見えてきません。東洋理工さんでは、これらの見える化の重要性を経営側だけでなく現場レベルでも理解して活動を実践しています。環境変化に対応し業績を向上させる仕組みが同社の強みです。

TPMコンサルタント粟津 保

※本稿はBusiness Insights Vol.64からの転載です。