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生産現場の「ここが変だよ!」

第15回 自社の情報を反映しない、メーカー任せな設備導入

  • 生産・ものづくり
  • 生産現場の「ここが変だよ!」

辻本 靖

メーカー任せの設備発注がもたらす悪循環

 最適設備の導入と製造条件の最適化により、QCDの水準を高めていくのは生産技術の役割である。昨今SDGsが注目され、QCD要求はますます高まり、労働人口の不足が顕著になっている。そのような中で、ものづくりの現場では設備導入による自動化、無人化を追求した工程により競争力を高めていくことが求められる。

 しかし、限られた開発期間やリソース不足を言い訳に、担当者の経験やあきらかな問題対応に精一杯で、本来設備に要求すべき仕様を具体的に検討するステップが飛ばされていないだろうか。

 結果として、メーカー任せで設備仕様が決まる、すなわち、標準仕様ベースで仕様が決まるため、自社にとっては冗長機能によるコストアップ、あるいは仕様が不十分なことによる生産段階でのトラブルや不良などのリスクが内在することになる。
 さらに、このステップが省略され続けると、社内に設備に詳しい人材がいなくなり、自社では設備に対して何も手を付けられない状態に陥ってしまうケースも少なくない。悪循環の温床である。

設備メーカーに「要求仕様を提示できない」問題

 なぜこのような事態に陥ってしまうのか。これは、設備メーカーに対して要求仕様を提示するための情報が不足し、要求仕様策定時に活用できていないからである。
 この情報とは、自社固有の設備に関する情報であるが、大きく、「設備の運用に関する実態情報」であり、また「工程の将来構想に関する情報」である。設備メーカーに比べ設備固有の知識は少ない中、自社の情報を持ち合わせていなければ、メーカー主導で話が展開され、提示された仕様に対しての改善提案を出すことはかなり難しくなる。

 限られた期間で要求仕様にまとめ上げ、設備メーカーと話をするためには、中長期的にこれらの情報を生成、蓄積しなければいけないが、その取組みの重要性が認識されていないことも、一因ではないだろうか。

設備要求仕様検討段階でのフロントローディング体制を構築し、自社固有の情報を投入する

 この問題を解決するには、設備導入の源流段階で必要な情報を確実にインプットし、有識者との議論を通じて仕様に反映していく、フロントローディング型のプロセスに変えることが重要である。このとき、源流段階で投入すべき必要な情報は、以下の図の通り4つに分類できる。

設備導入に投入すべき情報

 縦軸は情報源となる対象範囲を指している。当該設備に関わる直接的情報はもちろん、生産システム全体(工程前後)や他拠点の同機能設備などに関わる情報である。
 一方、横軸は活用方法として、未然防止や将来課題を踏まえて想定される課題である。過去に起きたトラブルの再発防止の確実化はもちろん、あらたなリスクの検討や将来の構想から課題をインプットし、未然防止を狙っていく。図中の4つの情報についてさらに詳しく見ていこう。

設備導入の源流段階に必要な4情報

1. メカニズムが解明された過去トラブル対策の反映

 1つ目は、当該設備(現行設備)の過去トラブル情報の活用である。現場でのトラブルや不良発生場面において、発生事象を物理・化学のメカニズムから紐解き、科学的に(データに基づき)検証を踏まえて設備に求められる機能を明確にできているだろうか。生産技術者は、トラブルの対応・処置という役割に止まらず、1度起きた問題のメカニズムを紐解き、次の設備設計にこの教訓を生かせる形、すなわち設計標準化や一般化されたトラブル情報として言語化するまでが求められる。さらに不具合メカニズムや設備の構造図(ポンチ絵)、検証結果も組み合わせた情報管理が望ましい。

2. 全社を通じた過去トラブルの共有・活用

 2つ目は、全社を通じた過去トラブルの共有である。複数の工場で同じ工程・設備を保有しているとき、当該工程・工場以外の関連設備情報も活用できると、要求仕様を検討するときの貴重なインプットになる。この時、部品名、設備名、部位名、トラブル事象名などの用語の統一化、標準化が蓄積・活用の前提になるため、関連部門とも協力し、計画的に進めていくことが重要である。

 このような過去トラブルに関する情報を蓄積する場として、生産立ち上げ完了時点での振り返りを活用したい。製品の立ち上げが終わると、すぐに次の案件にアサインされ、別の案件がスタートしてしまう状況は珍しくないが、初期流動管理の終了時などの場面で振り返りの場を設け、立ち上げ時に判明したトラブル内容や対策を言語化しておくとよい。

3.「使われ方」の想定によるリスク低減策

 3つ目の情報は、「使われ方」の想定によるリスク低減策の織り込みである。自社でしか持ち合わせていない情報の重要な要素として、「どのようにその設備を使用するか」という観点であり、「使用環境」と「使用プロセス」の2つで捉える。

「使用環境」とは、どのような場所に、どのような環境下で、どのくらいの期間設備が稼働するか、である。この使用環境をインプットすることで、設備にどのようなストレスがかかり、故障のリスクがあるのか、設備の信頼性が検討できるようになる。

「使用プロセス」とは、運転、メンテナンス(点検、洗浄)など設備の介在に関わるプロセスを指す。特に定常作業のみならず、非定常の場面も想定することで、品質面はもちろん、作業や検査容易性、段取り容易性、洗浄性、メンテナンス性の観点から、プロセスのリスク低減策を検討できるようになる。

 このように使用環境や使用プロセスからのリスク低減策の議論ができれば、設備要求仕様に落とし込むことも容易になるだろう。また、同機能の設備ごとにこれらの情報を一度整理しておけば、各案件対応時には整理された内容との差(変化)をとらえることで、より効率的な議論もできるようになる。

4. 将来のものづくり構想からの課題展開

 4つ目は、将来のものづくり構想からの課題展開を織り込むことである。今後デジタルを活用したスマートファクトリー化の流れは加速し、自社・自工場のものづくりも大きく変えていかなければならず、設備に求められる要求も多様化、高度化され、以下のような要件が求められるだろう。

  1. 将来のものづくりシステムからの要件(前後工程、部品供給との同期、生産指示との連携を図るための要件)
  2. 検査記録効率化やトレーサビリティ迅速化を狙った検査・記録のデジタル化のための要件
  3. 製造条件最適化を狙った個体別製造条件の記録や制御のための要件
  4. 工程全体の稼働や実態の見える化、遠隔監視を実現するための要件

 このような4つの情報を設備導入プロセスの源流段階で投入し、関係者の参画による課題出しを行うことができれば、設備メーカーに対して、競争力ある具体化された要求仕様として展開することが可能になる。

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