【開催レポート】R&Dサミット2025 (組織活性化分科会 第3回)
R&D・技術戦略

生産技術実態調査の中で、「生産技術部門」や「人材育成」に関する状況を改めて抽出した。
1.1. 【人材育成戦略は成果への貢献あり】
ものづくり戦略の内容として、「人材育成」を掲げている割合は全体の24%であり他の要素と比べると少ないが、成果にはつながっている傾向がある。
1.2. 【生産技術部門としてのあるべき姿を描けているのは半数弱】
生産技術部門としてのあるべき姿を描けている企業は全体で47%であり、決して高いとは言えない実態がある。
1.3. 【生産技術独自の教育手段はものづくり成果と関係あり】
生産技術独自の教育手段(独自の教育体系、自動化・設備内製化の推進、小ロット・整流化の推進、コンカレントエンジニアリングの場の活用)が充実しているほど、成果につながっている傾向がある。
1.4. 【ものづくりの課題は幅広く、新しいチャレンジが求められている】
「現在」から「未来」への関心の推移から、DX/SXに対する課題認識は高まっており、今後の生産技術部門の課題として想定されると同時に、工場・工程全体へと活動範囲を広げていくことが期待される。
そして、これまでのコラム(第2回、第3回、第4回)では、この後の生産技術者として期待される以下のメッセージがあった。
1. 「第2回:ものづくりの変革意思を盛り込んだ中長期の戦略がイノベーションの起点となる」
a. ものづくりの戦略として、「目指す姿への具体性をもった道筋を示す」ことが重要であり、より長期的な視点で物事を捉え、製品・工程・SC・人材の構造の変革要素を織り込むことの重要性を伝えている。
2. 「第3回:生産技術が上流に上がることで、より価値を生む」
a. 生産技術者が、DFMなどの設計活動の上流へ入り込む、さらに、今後の製品群全体や生産システム・生産体制全体を対象にしたものづくりの企画段階に入り込むことで、大きな期待効果、つまりドラスティックイノベーションを起こす可能性を伝えている。
3. 「第4回:生産システム革新における生産技術者の役割」
a. 生産技術者は、ものづくりの根幹である工程ごとの製造技術に加え、ものの流れ、生産管理、自動化、改善に精通し、「自社の事業・工場の特性に応じた生産システム革新の推進役」になるべきだと伝えている。
このような実態を踏まえると、今後の生産技術者は、より上流で構想し、より工程全体の流れを考え、カーボンニュートラルへの対応を含めた革新的な技術課題の解決に取り組むことが期待される。そのために獲得すべきスキルは多岐にわたる。
工程の固有技術に加え、生産管理や工程編成などの生産システムやコンカレントプロセスなどの管理技術、そして、関連ベンダーや関係部門を巻き込むマネジメント力も必要である。このような力は単に”インプット”して身につくものではなく、実践を通じて、経験を通じて蓄積していかねばならない。
そのためにも、生産技術者が本来の期待される機能を発揮するための育成の仕掛けが必要である。育成の出発点である「教育」を考えることはもちろんだが、様々な活動と紐づけた人材育成の体系(システム)を作っていくことが大切だと考える。
なぜ人材育成システムが必要なのか、改めて整理する。
2.1.
生産技術部門の教育はOJTがベースであり、インプットの座学も工法の固有技術に限定されるものが多いのではないだろうか。今後の期待される役割の拡大を踏まえれば、管理技術的要素の教育も必要である。
そして、OJTという成り行きの場ではなく、必要なスキルを獲得するための実践型の教育が必要だが、それは個社ごとに検討し、企画をしないといけない。座学のインプットと実践のアウトプットの両輪が機能してこそ、技術者は必要なスキルを身に付けていくことが可能となるが、全社人事の教育担当では、ものづくりに特化した生産技術の教育を企画することは難しい。
さらには、実践の場を疑似的に体験できるようなこれまでの事例、技術文書も有効だが、日々の業務に忙殺され、振り返りやノウハウの整備ができていない状況も散見される。単なる一般的な手法や固有技術の知識教育では育成は進みにくいのではないだろうか。
2.2.
人手不足は間接部門にも及んでいる。ものづくりの難易度が増し、多くの課題に向き合う中で、常に忙しい生産技術者にとって、教育の時間を作るのが難しい状況にある。
また、「維持管理がメインで、ものづくりの革新の場がない」「トラブルも減って、実機に触れる場も少なくなった」というような育成に最適なチャレンジする場、実践の場も減ってきている状況も否めない。したがって、どのように実務と絡めながら、有効な育成の場を効率的に生み出していくか、マネージャーの計画立案やアサインの考え方も変えていく必要がある。マネージャーは、常日頃から幅広い視野で課題を特定し、成果創出と育成の場を探していくことも求められる。
2.3.
マネージャーの考え方を変えていくための指針としては、「ものづくりの戦略」として人材育成を組み込むことが大切である。今後のものづくりの革新(イノベーション)を起こしていくためには、それを推進する人材が必要であり、そこへの投資なくして成果はうまれない。今回の実態調査が示してくれた通りである。
継続的に新しいメンバーが参画し、職場を離れないよう、成長でき、やりがいを持てる職場であることも求められる。将来に期待が持て、チャレンジが許容される心理的安全な職場に向けた人事的活動など、全社の考え方と整合し、よりエンゲージメントを高めるための環境づくりも必要要素と考える。
上記のように、育成は、単に「生産技術者の教育を実施する」ことですむ話ではない。ものづくり戦略における人材育成方針の位置づけを前提に、育成に最適な実践の場づくり、模擬的にも実践に近い事例やノウハウによる学びの効率化、実践の質を高めるための関与すべき人材(指導的役割の人材)の選定、エンゲージメントを高めるための仕掛けなど、教育、マネジメント、情報データベースなど複合的な仕掛けをつくり、それを機能させる活動が必要と考える。
その仕掛けの要素として、以下の3点をコンセプトに、8つの構成要素が挙げられる。
3.1. 座学と実践の両輪の育成の場の設計
3.2. マネジメントとしての采配の変革
3.3. エンゲージメントを上げる施策の織り込み
生産技術人材の育成システムを考えると、このような要素が必要になってくるが、さまざまな仕組みや部門との連携も必要である。個社によって、ものづくりの課題、生産技術部門の人数や役割、仕組みや情報の整備状況は異なるので、それらの特性を踏まえた「人材育成システム」を作り上げていくことが重要だ。
生産技術部門として、ものづくりの戦略に基づき、部門としてのあるべき姿、その中の人材育成観点での中長期の計画を立案することで、ものづくりの司令塔として役割を継続的に発揮できる組織を目指してほしい。
dXコンサルティング事業本部
シニア・コンサルタント
開発・調達・生産の課題解決に従事し、自動車部品、産業機械、電機、化学、食品、医薬、化粧品、等の業種において多くの実績を持つ。個社の特性を踏まえ、ものづくり全体の問題構造を捉え、持続的にQCDを高められるシステムづくりにこだわって取り組んでいる。 「ものと情報のよどみない流れ」に着目したシステムの設計から、人材育成・マネジメント体制整備等運用レベルの向上に至るまで、全社課題の解決に取り組んでいる。
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