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生産現場の「ここが変だよ!」

第1回 役割を放棄し、作業に忙しい監督者

  • 生産・ものづくり
  • 生産現場の「ここが変だよ!」

石田 秀夫


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プレイヤー兼の「負のスパイラル監督者」が現場をダメにする

 近頃、さまざまな会社の監督者と接する中で、将来に目線を置きながら日常業務もしっかり回す、言わば「両利きの現場経営」を行っている監督者が減ってきたように思う。一方、日常の生産量確保、トラブル対応に追われ、今日どうするかが一番の優先事項であり、その日暮らし的な現場は逆に増えてきたと感じる。

 とある自動車部品メーカーに行った時のことである。会社トップの改善活動が活性化しない、経営効果に表れていないという困り事から訪問が始まり、現場の確認に加え、多くの課長や監督職と話した。

 よくある現象であるが、QCDレベルが高い職場は改善の活動や人材育成も活発で、監督者も「将来どうしたい!」を語ることができる。逆にQCDレベルが低い職場は人材育成も改善も進まない、監督者自らも生産作業に入ることが多く、現状の大変さを語るのがほとんどである。前者を正のスパイラル監督職、後者を負のスパイラル監督職と筆者は呼んでいる。

正のスパイラルと負のスパイラル

 正のスパイラル監督者 N係長の職場は、活動ボードを見てその活動と活性度が伝わってきた。1、3、5年後の各年次の現場のありたい姿が、レイアウト図・イラストも使い、「みんなが目指す未来」としてが描かれている。これらはN係長の素案をもとに、職場のメンバーで意見を言い合って追記していったようだ。

 さらには、この未来の現場を目指すため、各メンバーの役割や改善テーマ、今後取得する資格(保全や工作)があり、人財育成計画も個々人でしっかり立てられている。当然、会社方針や課の方針・目標も掲載があるが、それをベースに「自分たちの職場をどうしたい!」が飛び出そうな迫力で記載してある。

 N係長に話を聞くと、「自分は係長になって22名の職場メンバーの命、メンバーと家族の未来も預かっている。だから、よりよい職場として業績を出すことでメンバーも成長し、喜び合えることが重要である。一人一人を主役にし、生産作業だけでなく改善などで活躍する環境づくりが大切」と言っていた。活動ボードには、各メンバーに「からくり改善王」など、全員に「・・王」の称号がついていた。また、生産性改善を行っても全てを会社に効果献上せず、一部は次の改善のための投資時間として職場で貯金するとのことである。

 一方、負のスパイラル監督職は、前述の正反対で、職場のメンバーもモチベーションダウンという状況であった。

監督者は「将来どんな現場にしたいか」将来のシナリオを描こう

 では、なぜそのような差が生じるのだろうか。

 一つは監督者の役割定義と認識であり、もう一つは現場経営(運営)にあると考える。負のスパイラル監督職は、多くの現場で実作業を監督しQCDを達成することが主要な業務となり、監督者本来の役割である「方針の策定、目標の設定・達成、作業の標準化と改善、人財育成」が未来視点で行われていない。未来視点でないことから、人財育成や改善などの投資時間を割けていないのである。

 「現場の改善や人材育成の活動は監督者次第 !」と荒っぽく言うと結論付けることができる。もちろん、監督者を育てる仕組みや業務のフォローが課長以上にあってこそ成立することは承知である。プロ野球でもそうであるが、戦っている現場の第一線のメンバー、そしてその面々をどう動かすか、育成するかは監督の采配が大きいと考えられる。製造現場でも同じである。前述した「第一線監督者」の役割認識や、実践のレベル(=裁量)で、その現場の業績は変わる。監督者は「現場のプロ」や「現場のエリート」をどのくらい育成できたか、そして生産や改善にうまく活用できたか、で評価が決まる。

 事実、筆者がメーカーの生産技術者だった際、海外工場の立ち上げ時(操業開始時)は、管理者よりも監督者の派遣を充実した方が工場もうまく回ったことがある。

 また、第一線監督者の役割はおおむね以下のようになる。

将来方針の策定と、目標の達成(鳥の目・虫の目)

・明るい未来を描いた「職場未来変革シナリオ」の策定 
・未来変革シナリオと課方針と連動した年度方針の策定と実践
・日々・時々刻々のQCD目標の達成
→時々刻々の問題を改善テーマへ

部下の育成

・人づくり(後継者・後輩・新人+強い多能工(改善・保全・工作)
→一人一人の成長シナリオの策定と実践
・信頼と協調性ある温かいチームづくり
→人と組織のレベルが、作業と改善のレベルを決め、業績形成へ

作業の標準化とその改善

・安定したモノづくりのため標準化を図る
→標準化とそのさらなるレベルアップ(=継続的改善)

 とくに大切だと思うのは「将来方針」、平たく言えば、「将来こんな(魅力的な)職場にしたい!」という姿である。この将来のありたい職場がほとんどの監督者は描けない、描くまで時間がかかることがわれわれの現場でも散見される。 「なぜか?」というと監督者自身に将来どうしたいかの「おもい」がないことが主要因と考える。この影響は現場ではどのように映るかというと、「夢のない現場」となり、船頭のいない船のようである。

 当然、市場や取引先の外乱、景気影響、投資や費用節減など、逆風的な事項はごまんとある。だからこそ、現場が活躍し輝く未来のシナリオを立てることや監督者の責任としてあるはずである。それをしないことには組織の仕事へのモチベーションや有意味性が高まらない。

 また、改善や人材育成を進めるにあたり、忙しく時間がないと口を開けばいう監督者も多い。その要因は監督者の運営にあると考える。前述した正のスパイラルを回せる監督者は、スキマ時間をうまく使い、人の育成と改善を同時に行い、メンバーの成長感を実感させ、次なる改善に進めていく。正のスパイラルを回せるよう幹部・上司も協力・支援し、強い現場としていくことが競争力を高める上で大切である。

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