再発見の品質!成功への静かな道
「なぜなぜ分析研修」に逃げるな! ~品質改善力の向上は、事実に基づくコミュニケーションから~
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辻本 靖
品質問題の再発への取り組み状況
「品質問題が再発している!」「クレームが一向に減らない!」発生する品質問題への対応は多くの企業における長年の課題である。顧客要求の高度化や内部環境の複雑化など、ものづくりが難しくなることによる新製品・新工程での品質問題もあるが、既存製品・既存工程で「問題が再発している」と感じている企業も多いのではないだろうか。
再発の要因を考えると、「原因追究が不十分」、「是正処置プロセスの曖昧さ」、「各責任部門と品質部門の役割分担の曖昧さ」、さらには「忙しくて検討時間が割けない」といったさまざまな要因が複雑に絡み合い、正しい原因追究と対策が適正に実行されていないことが推察される。
この要因の一つが、「担当者の原因追究スキル不足」である。代表的な分析手法である「なぜなぜ分析」に関する研修がその対策とするケースをよく目にするが、この研修で担当者の原因追究力が向上し、組織としての再発防止力が高まっていると言えるだろうか。
「なぜなぜ分析」の研修の限界
「なぜなぜ分析」は、品質改善に関わる従業員が理解し、有効に活用することが期待される手法であり、この研修をなんら否定するものではない。しかし、この「なぜなぜ分析」が真っ先に来る手段なのか、また、この「手法研修」するだけで十分なのか、どこかに疑問を感じているのも否めない。そこで、「なぜなぜ分析」の特徴や「研修」という特性を踏まえて、2点考察してみる。
①なぜなぜ分析力は「実践を通じて」身に付けていくべきものである
ある期間限定(1日等)でのインプットだけでは身に付けるのは難しいと感じる。一般的に「知る」、「わかる」、「できる」、「教える」という能力開発の4ステップがあるが、単一の研修では、情報を伝えることで「知る」、自分の頭で理解し「わかった状態になる」ところまではサポートできるかもしれないが、「できる」レベルまでをサポートしているわけではない。
この「なぜなぜ分析」で扱う領域は、自社の製品、工程、設備、組織等様々であり、実際の対象(問題事象)を相手に考えないと、なぜなぜ分析の思考力は高まらず、「できる」状態には近づかない。
野球のスキルと同じで、千本ノックによる実践の場を通じながら、身体で覚えていく感じに近いだろうか。こうしたノックの場面をつくることが大切であり、これは日々の職場の場面以外には存在しないと考える。実際に問題発生時の対応場面で、ノッカーである上司が関与し、できる状態へ引き上げるサポートが重要であると考える。
②「なぜなぜ分析」での最も重要なポイントは、「なぜなぜ」を問う前の「現状把握」である
「なぜなぜ分析」と言えば、なぜを5回繰り返すこと、網羅性(要因を網羅的に考える)や論理性(因果関係を検証する)を担保すること、に焦点が当たる傾向にある。これらも大事な要素であるが、いきなり「なぜ」と働きかけてしまうことにより、事実でない主観的な情報が入り、今回の問題解決には関係のない情報量が増え、真の原因に到達しにくくなる。この順番を間違えると、問題解決は成果を生み出さない。
少し話は変わるが、「なぜ」「どうして」という質問はNGであり、事実質問が重要であることは、『「なぜ」と聞かない質問術(中田豊一/著)』という書籍の中に記してあった。事実質問とは、5W1HからWhyとHowを除いた質問を指しており、「なぜ」「どうして」は、『「①思い込みを引き出す」「②相手に言い訳を強要する」ことにつながる』とのことである。
たとえば、上司と部下のコミュニケーションを考えたときに、上司から「今回の問題がなぜ起きたのか?対策は何か?」と質問すれば、担当者は事実情報を飛ばして「なぜ」の回答として、都合のよい対策ありきのシナリオを用意してしまうのではないだろうか。対策の有効性が疑わしい場合でも、その検証が行われず、そのままの対策で一件落着するが、結果、再発が繰り返されてしまうという状況が存在しているように筆者は感じている。
上記2点を踏まえると、原因追究・再発防止に向けて、各担当や組織が最初に身に付けるべき基盤となるスキルは、「事実に基づく思考力」であり、そのためにも、上司と部下による「「事実に基づくコミュニケーション」という日常の場が重要になるのではないだろうか。
「事実に基づくコミュニケーション」に向けたマネージャーの変革
日常業務の中で、発信する言葉、表現する文章の中に、常に「事実」を織り交ぜることが重要である。それを組織の「Way(行動指針・価値基準」として定義し、発信し、それができているかどうかを確認する枠組みをマネジメント層は考えたい。
基本的な事実に基づくコミュニケーションでマネージャーの「Way」として重要だと考える要素を3点記す。
- ビッグワードを会話で使わない(4W1Hに展開して)
- 「なぜ」は後で、「いつ」、「なにが」を先に問う
- 自分自身で原因と対策のストーリーを構築し、部下に投げっぱなしにしない
① ビッグワードを会話で使わない(4W1Hに展開して)
ビッグワードとは、「多義語」とも言われ、一つの言葉で多くの意味を有しているものであり、様々な解釈ができる、曖昧な表現を指す。「強化する」、「徹底する」、「おそらくできている」「不適切・不備・不足」などが一例だ。「キズ」という言葉が出てきたら、どんなキズ、どこで発生、何個発生、という形で4W1H(5W1Hに対して、Whyを除いたものかつHはHow much,How manyを指す)に展開して表現していくことが最初の一歩である。担当者はこの言葉を使ったとしたら、4W1Hを捉えるべく、現場に出向き、現物を手にし、現実を知るための3現主義の行動を取らなければいけない。自身の言動に対して、ビッグワードの使用状況を客観的にとらえていく必要がある。
② 「なぜ」は後で、「いつ」、「なにが」を先に問う
2番目のポイントは、上司からの質問の順番である。最初に聞くべきは、4W1Hである。このやりとりを通じて、担当者が主観的に思い込みで話をしているのか、事実に基づいて話をしているのかを見極め、担当者にフィードバックをすることで、担当者に事実に基づくコミュニケーションを再確認させる。もちろん、コミュニケーションは発言だけでなく、図や写真、文章などさまざまな手段を用いて行えばよいが、そういった手段を適切に促していくことも期待される。
③ 自分自身で原因と対策のストーリーを構築し、部下に投げっぱなしにしない
4W1Hの質問をしていくことで、担当者の意識も変わってくるが、もう一つの目的は、自分でWhyの妥当性を検証し、最適な対策であることの判断をすることにある。マネージャーは自部門起因の問題解決の責任を負っている中で、この判断を担当者にゆだねたり、判断を放棄したりすることはあってはならない。
そのためには、担当者によって集められた報告内容、事実情報をもとに、自身で要因可能性を抽出、検証していく「論理の組み立て作業」が必要になる。つまり、事実を報告してもらわないとこの検討ができないのである。忙しいマネージャーになればなるほど、つい省略してしまいがちのプロセスであるが、マネジメントの役割として再認識し、問題解決プロセスに自らの思考をフル回転させるべきである。
品質部門の貢献を考える
事実情報の把握がまず実施すべき大事なことであると述べてきたが、いざ集めようとしても時間がかかったり、存在しなかったりすることがある。これでは原因追究力は高まらない。こうした各種基準・記録類をいかに効率的に蓄積し、活用できる状態にするか、品質部門が俯瞰して課題を捉え、解決に導いていくリーダーシップが求められると思う。
QC工程表、製造現場の4M変化に関わる記録、各種設計の根拠データ等を対象に、原因追究するために把握すべき情報項目(管理因子等含む)を特定し、整備すべき情報とそのための収集活用方法についての課題をまとめ、提言することが期待される。昨今のDX課題としてトレーサビリティの強化も品質課題の一つであり、この課題と交えて事実に基づくコミュニケーションを加速させる環境づくりを考えていきたい。
まとめ
今回原因追究力の向上に向けて、事実に基づくコミュニケーションの強化を一丁目一番地に掲げたアプローチを紹介したが、これを日々の業務で行う場合は、やはり日ごろの業務の忙しさに打ち勝つ必要がある。マネジメントとしては、付加価値ある業務を設定し、そのための非付加価値業務の効率化や体制の整備などを含めて中期的に取り組まないといけない。
さらには、「再発」要因としてのその他の要因を検討し、取り組むべき課題の設定も大切になる。短期的な対応としての研修も施策の一つではあるが、全体の再発防止体制を構築する上での課題を捉え、各部門が責任をもって取り組むことが大切であると考える。品質は、「各機能の掛け算で成立」し、全員参加が大原則である活動であることを今一度再確認できるとよい。
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