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生産現場の「ここが変だよ!」

第2回 改善策を求められないメンバーたち

  • 生産・ものづくり
  • 生産現場の「ここが変だよ!」

石田 秀夫

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 われわれのコンサルティングのプロジェクトはキックオフというイベントから始まるが、その前に工場見学や、事務局などと打合せを行う。その中で実際にやり取りしたことについて、ご紹介したい。

本当の「一人前」って分かっている?

  ある機械機器の加工・組立を行っているM社は、「生産性向上の低迷や、原価目標が達成できそうない」という悩みがあり、生産担当役員と部長からコンサルティングの相談を受けた。プロジェクト発足前のミーティングで、担当役員や管理職は今回のプロジェクトに期待を抱いており、モチベーションや思いが強いことが、その場の雰囲気から分かった。

 工場に行くといくつかのラインを紹介してもらい、実際にこれまでM社で行った改善事例など、さまざまな取り組みを教えてもらった。その中で、改善事例のリーダーが職長や班長のみ、というところは少々気になるところであった。また、とある主力製品のラインで、「作業習熟ができた人は『一人前として』帽子に緑色のバッチをつけています」と部長・課長から説明があった。そこで「御社で『一人前』とは、どのような定義ですか?」と質問をすると、「複数工程の標準作業ができる人で、かつQC工程表を理解した作業や、異常処理もできる人」と返ってきた。もう一度聞き直し「本当にその役割定義ですか?本来、在りたい定義もそれですか?」と問うたが、あまりピンと来ていないようであった。

 「異常処理ができる」という定義はよいが、改善が進みにくい要因の一つがそこにあった。これが「一人前」の定義だとすると、改善活動はなかなか進まない。また、日常作業もただ生産個数をこなす傾向になることが多く、そのような状態だと各人が成長感も感じづらい。また、モチベーションも上がりにくい。

 作業標準など決められたことをとことん行うこと(凡事徹底)も大切であるが、作業などの「問題を自ら捉えて、自ら改善すること」も現場の競争力と成長を促す意味で大切なのである。

 このM社はプロジェクト立ち上げ後、紆余曲折あったが「全員改善、知恵で儲ける製造部」というようなスローガンと実活動で効果を得ていった。
これまでにない生産性向上成果を得られたのは
・問題の捉え方・付加価値の見方を浸透させたこと
・あげた問題は職場のメンバー参加で考え知恵を出すこと
・できるものは自ら工作し改善したこと
がよい成果と一体感を招いたと考える。

「一人前」の定義は「作業半分・改善半分」

 多くの競争力ある現場で引き継がれていた、現場作業者の一人前の定義「作業半分・改善半分」。この意味は通常作業ができても半人前、改善ができてこそ一人前という意味である。職位が上がればなおさら改善の役割領域が広くなる。このことを監督者・管理者は忘れてはならない。

 競争力ある会社の現場の一人前の定義は「作業半分・改善半分」である。一人前の定義すらない会社は、ぜひこれから考えてみてほしい。決まったことをしっかり行う中で、小さな問題でもひとり一人が見つけていくことが重要である。たとえば、「作業時に歩行が多いな」「部品を取るのに遠いな」などの気づきで十分である。その感性が改善に繋がる。

仕事・作業(業務)・ 改善(変化)

問題解決と改善を楽しむ職場とメンバーへ

 最近いくつかの会社にお邪魔すると、正社員が改善しておらず、ほとんどが労務提供という会社が増えてきたと思う。当然安い労働力のみを使うという戦略もあるが、日本の会社だと正社員は自主改善でき、人の成長を促しながら強くなる勝ち方が結果現場も強くし、経営貢献をしている。そのやりがいと誇りは離職対策にも有効と考える。

 これらのことから、とくに正社員の役割定義として、改めて「作業半分・改善半分」を進めていくことが重要だと思う。

 また、ほとんどの工場の現場で、正社員と非正規雇用の方が働いているのも事実である。その正社員と非正規雇用の方との関係で同一労働同一賃金という観点からみても、正社員は付加価値の高い仕事の割合を上げていくことが重要である。

労働提供のみが増加?

 改善も自主改善的に行う場合、必要な思考・スキルとして「問題解決力」がある。 職場のさまざまな問題を捉えることが大切であるが、そもそも問題を感じるということは、その対象の「ありたい姿」がイメージでき、実態との差があるから「問題」の発見となるのである。

 また、問題を見つけたら、なぜその問題が発生しているのか?の「なぜなぜ」を考えること、そして、「どうする」ということで、目的を満たす複数の代替案を考え、60点でもいいので、まずやってみる(試してみる)ことが重要である。全てを書き物にする必要はなく、上記の思考プロセスで考えることを教えること、そして監督者・管理者であれば問いかけること大切である。

 上記の問題解決(=改善)を自ら行えるようになると、成長感・貢献感もあり、楽に儲かる職場に繋がる。 加えて、改善だけに捉われず、自分の設備は自分で守る「自主保全」を行うための保全スキル、ありたい職場へ自ら工作して改善していく工作スキル(はじめはプラ段ボール工作で十分)が幅広く身に付いていけば、改善のレベルも上がり、個人・組織としても成長し仲間意識も高まり一体感も出てくる。

 もっと面白く、楽に儲ける現場にしていくためには、労務提供だけで終わらない知恵とスキルが重要である。

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