SMDGで実現する工場DX改革 ~経営と現場をつなぐ全体最適志向~
生産・ものづくり・品質

多くの事業所で5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)のポスターやスローガンを見かけ「5S活動を行っています」という話を聞く。ただ、「本当に5Sの内容を十分に理解して活動しているのか」と疑問に思うことがある。
例えば、「忙しいのに、なぜ、5Sをしなければならないのか?」「5Sで何がよくなるのか?」とか、「整理をしていると暇だと思われてしまう」という話も聞く。現場でも重量物が高所に置いてあったり、部品箱の中が乱雑に入っていたり、消火器前に仕掛品などが置いてある状態を見たりする。顧客の監査直前に、従業員総出で、物品を片付け、床などの清掃している光景を見たこともある。
このような状況で、「5Sを実施している」と言えるのだろうか。
このような5Sになってしまう理由として、私は次の二つの要因が大きいと考えている。
一つ目の要因は、事業所のトップがどこまで、5Sについて真剣に考えているかである。5Sが徹底されていない事業所では、トップの5Sに向き合う姿勢が甘いのではないかと感じられる。トップの真剣さが従業員に伝わっていれば、エピソードに出てきたような疑問や不満は出てこないであろう。
二つ目の要因は、従業員が5Sの意味や具体的な活動内容を知らない、教えていない、ということが挙げられる。そのような事業所では、従業員は何をすればよいかを迷ったり、「5Sは、ただ片付けをすればよい」と単純に考えてしまい、中途半端な活動になっている。
5Sが多くの会社で行われているのは、安全・生産性・品質等を向上するための手段であるからである。その点をトップは十分に認識して、常に5Sに関心をもち、5Sは仕事そのものとして扱い、従業員にも徹底することが求められる。以下に、それぞれの“S”の意味や具体的な活動内容を記述する。
「必要なモノと不要なモノを区分けして、不要なモノを撤去する。」ことである。ただ、“必要なモノ”とは具体的に何か、この定義を明確にしていないため、人による判断に差が出て、職場全体での徹底が出来ていない状況を目にする。区分けの例として、下表のように使う頻度で“必要品”“不急品”“不要品”の3通りに分けて、使う頻度で分ける方法がある。この判断基準で区分けすると、ほとんどの職場で必要品は、非常に少ないことが明確になり、割り切ったてモノをの撤去ができてくる。
この区分けにより、必要品は作業場所近くに、不急品は少し離れた場所に、あるいは倉庫等に移動する。不要品は、基本的に廃棄して、モノを撤去する。
さらに、モノを減らすための工夫も必要である。その一つの手段として共有化がある。各個人でモノを持つことにより、職場全体での量も多くなってしまう。例えば、活動前の個人の引き出しには、同じ文房具を何人も持っていることが多い。使用頻度の少ない文房具は、共有化して数人で使うことにより大幅に数量を減らせる。
「いつでもすぐ使える状態で、誰でも、探すことなく、安全かつ迅速に、取り出せる置き方にする」ことをポイントとする。このポイントを明確に伝え、活動した内容が外れていないかを確認することにより、的確な整頓が実現する。整頓のポイントを理解していれば、エピソードで記述したような「重量物を上に置く」「箱にただ入れている」などの事例は見られなくなるだろう。ただ、実現するためには、置き方に関して、さまざまなアイデアを出し工夫していくことが求められる。
一般的には「掃除をしてきれいにすること」であるが、5S活動の中では「清掃は点検なり」の考え方を取り入れていくことが重要である。「清掃は点検なり」とは、清掃しながら不具合を見つけることである。ただ、きれいにするだけでなく、五感を働かせて、錆び、傷などの小さなものを含めて不具合を見つけていくのである。設備では汚れや不具合を放置することにより、故障につながり、品質に影響が出てきてしまうことがある。そこで、清掃時には汚れや小さな不具合を見つけ、すぐに修復していけば、常に正常な状態が維持できる。5Sの“清掃”では、この意味を理解して活動することで、生産や職場環境にもよい影響が出てくる。
「整理、整頓、清掃した状態が常に維持すること」は、各個人の意識に頼っているだけでは、継続が難しい。常に清潔を維持するために必要なのは、改善である。「一度、整理・整頓・清掃してもすぐに戻ってしまう」という話をよく聞く。そのような状態になってしまうのは、この清潔活動が不十分なためである。整理・整頓をしても“使いにくい”“戻しにくい”“分かりにくい”という状態では、すぐに元の通りになってしまう。
また、清掃してもすぐに汚れてしまうような状況下では、清掃が面倒になり、徐々に手を抜くようになる。そこで、改善が重要となる。「なぜ、置き場が乱れるのか?」を考え、置き場、置き方を見直していく。清掃した場所や設備がすぐに汚れるようであれば、その対策を行う。
たとえば、何らかの物質の飛散があり、汚れるのであれば、カバーなどでその物質の飛散範囲を狭くしたり、受け皿に入るような工夫をしたりして、清掃を楽にしていく。このような改善を行い、常に維持できている状態を築いていくのが、“清潔”である。“清潔”を徹底すれば監査前の片付けや床の清掃などは無くなるはずである。
これに関しては、管理・監督職の役割が大きいと考える。管理・監督職は5Sを守っていない状況を見かけたら注意するのは、当然であるが、ただ注意するだけでなく「なぜ、守らなければならないか」ということも併せて説明していくことが重要である。
5Sの活動を推進するにあたり、トップ層は、5Sの重要性を十分に認識し、従業員へ伝えると共に、活動のための環境作りを行ってもらいたい。また、従業員へは5Sのそれぞれ“S”の意味と具体的な進め方を教え、5Sが徹底された職場の実現を目指してほしい。
シニア・コンサルタント
設備の極限活用を目指す「TPM」を中心に「5S活動支援」「作業性改善」など工場の生産性向上、コスト低減を中心にコンサルティング活動を行っている。
5S支援は工場の生産現場にとどまらず、事務間接部門に対するコンサルティング、教育も数多く手掛けている。その経験を活かし、通信教育のテキストも執筆している。これまでの担当業種としては、食品系、装置系、加工組立系(機械加工、電子部品)など幅広い経験を有している。また、ISO9001、OHSAS18001導入支援による品質、安全に関するマネジメントシステムに関しても支援を行っている。
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