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生産現場の「ここが変だよ!」

第4回 目的不明な生産進捗管理ボード

  • 生産・ものづくり
  • 生産現場の「ここが変だよ!」

白濱 匡晋

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その立派な生産進捗管理ボードは、いったい誰のため?

 あらゆる業種の工場では、生産の進捗を管理する目的として、ホワイトボードや、生産管理システムと連動し、計画と実績をディスプレイで表示させる仕掛けなどを導入している。
 生産進捗管理ボードはその名の通り、ある一定期間における計画に対する、実績値の進み具合を判断するボードである。実績値は、実際に良品を生産した数量だけでなく、不良品数も合わせて記録し、歩留まり率を算出している。

 ある工場に訪問した際、現場の作業者に「この生産進捗管理ボードで何を注意していますか?」と質問したところ、「計画を守るように、不良を出さず生産することです。」と返答があった。「しかし、前工程の遅れが原因で部品があなたの工程に来ない、不良が見つかったなどの場合は、あなたの工程が原因ではないのに計画を守れなくなることもありませんか?」とさらに質問したところ、「前工程が遅れた場合は、その待ち時間を自身の作業時間にあて、より丁寧に作業します。また自身の工程での不良でない場合は遅れてもしょうがないですね。」との返答だった。本人たちにとっては、1日の仕事量に合わせ、時間を有意義に使っているつもりなのである。

 その生産現場の考えとしては、最終的には月末に帳尻を合わせて残業でカバーし、月の生産数量を達成するので問題ないとのことであった。また日々の生産進捗が遅延している場合も監督者からの指示は特にないようである。これでは生産進捗管理ボードがあっても、誰も気にも留めない、いわゆる町の掲示板(よく見ている人がいれば申し訳ないが)と同じ扱いになっている。
 生産進捗管理ボードで遅れが発生している(発生しそうだ)と分かっていても、特別に何か手を打つわけではなく、工場全体の日々の計画を達成することに執着しなくなっているのだ。

計画と実績の差異や計画そのものの背景を本気で考えていない 

 なぜ、そのような状態になっているのか?まず、作業者は自工程の生産実績を上げることが仕事であると思っており、遅れに対する対応は監督者の仕事と切り分けて考えている。そして監督者は、日々の計画を達成するために、遅延が発生している現場に自ら入り込んで作業しているため、各工程への指示が疎かになっている状況である。 作業者として、自身の工程を不良を出さずに完璧に行うという意識は非常に大切なことではある。しかし、工場全体を見据え、なぜ遅延しているのか、他工程が遅延している場合は自身に何ができるのかも考えていく必要がある。

  遅れが発生するケースとして、大きく2つが考えられる。
 まず、「計画数量は適正だが、実績が守れない」ケースがある。材料・部品の納入遅れなどのサプライヤーの問題や、ミスやトラブルの発生など、製造中の問題で遅れが発生する。遅れが顕在化していても、遅れに対する監督者の指示がなく、また遅れが発生した場合の応援も特に行われていない。その結果、各作業者は明日以降の作業に取り掛かっているケースが見受けられる。
 もうひとつは「計画数量がそもそも適正でない」ケースである。計画数量を材料の入り具合、前工程の生産性、自工程の標準時間などを考慮せず、経験と勘で設定していた場合は、工程能力に見合っていない計画数量が設定されている。作業者はそもそも計画を信じておらず、自分のペースで作業を行っている。 遅れに対して人でカバーしていくこともせず、そもそも遅れの原因を明確にすることもせず、原因に対し改善していく取り組みが行われないことが根本的な問題と考える。

生産進捗管理ボードを中心とした現場の改善や意識の活性化に活用しよう

 改めて生産進捗管理ボードの目的を考えてみたい。計画通りの生産が行われているかを見ること(進捗管理)だけでなく、遅れ状態を把握し、遅れをカバーするための対応を行うとともに、遅れ原因に対する改善策を実施する必要がある。
 遅れの原因としてはさまざまな理由があるが、例えば

・受注が集中し作業指示が交錯した結果、生産現場にうまく情報が伝わらずに遅延してしまった
・得意先の要望で短納期で受注し、無理に製造を進めたため品質が悪化。完成品数量に不足が発生してしまった
・中途で採用した、または別工程から異動させた新人の作業効率が悪く、大幅に工程が伸びてしまった
・顧客の要求事項が不明確なまま受注し、うまく製造できず再製作となった


 こういった事態が発生した場合、もともと計画していた通りに生産が追い付かず、遅延となってしまう。そのため、生産進捗管理ボードを中心とした日常的な改善を回すことが求められる。

生産進捗管理ボードを中心とした日常的改善

 売上計画にのっとって、工場では生産計画が組まれる。売上を上げるための商品を日々生産ラインで製造しているため、計画を遵守できないと、売上の低下、つまり会社の業績を悪化させてしまう。そのため遅延が想定される場合は、まずは暫定策で応急処置を行う。そしてタイミングを見計らって恒久策をとるようにする。この場合の恒久策というのは、遅れ要因を明確化し、対策管理表でPDCAサイクルを回すことである。

 ここで実施するべきことは、問題点への対策情報の共有化である。具体的には問題点、原因、対策内容等を記入した管理表によって工場全体で起きていることを可視化する。このような問題点を工程ごと、設備ごと、製品ごとだけでなく、工場全体で横断的に共有すると、全体最適として解決策を考えることができる。

 また+αの工夫として、顧客視点を取り入れることも有効と考える。生産進捗管理ボードにお客様を意識する工夫(仕組み)を加える。 例えば、工場の出荷情報としてどこに、何の製品を、いくつ、いつ出荷するというような情報を加える。作業者は、普段意識しないお客様(出荷先)の名前を耳にするため、その姿が頭に浮かぶようになる。そうすることで、自身の作業がお客様にダイレクトに影響すると意識でき、魂が入ったものづくりができるようになる。 最後に改めて、生産進捗管理のポイントを整理する。

生産進捗管理のポイント
【進捗把握のポイント】
・見込み生産や受注生産等の生産形態に応じて、工場単位、工程単位、製品群単位、品番単位、注文単位の管理粒度を設定する
・受注生産の進捗管理は、全体の進捗と個々の進捗の両面を管理する
・可能な限り短い期間ごとに進捗を把握する

【問題に対する対策のポイント】
・進捗把握での問題点は先送りせず、問題が小さいうち、シンプルなうちに対策を協議・実行する

【その他のポイント】
・進捗管理の主体は現場監督者が中心となりスタッフはそれを支援する
・基本的に現場が計画通りにモノを作るという意識を持つ

 生産進捗管理ボードの遅れは改善の種と考え、日々の計画遵守だけではなく、継続的に納期遵守できるような取り組みにつながるよう活用してほしい。

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