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SMDGで実現する工場DX改革 ~経営と現場をつなぐ全体最適志向~
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SMDGで実現する工場DX改革~経営と現場をつなぐ全体最適志向~
(左から)
生産技術部 主席部員・橋爪悟さん
生産技術部 担当部長・酒匂良和さん
千葉工場 生産管理部 主席部員・大園侑利さん
住友化学株式会社
化学業界をリードし続ける総合化学メーカーの住友化学。全国にある各工場ではデジタル技術を駆使した変革を推進しているが、より経営に貢献する活動へと進化させるのが課題だ。2024年6月に公表されたスマートマニュファクチャリング構築ガイドライン(SMDG)の有効性に着目し、まずは千葉工場で取り組みが始まった。
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個別最適ではなく全体最適フィロソフィに深く共感
DXは現場課題を経営課題に紐づけ、俯瞰した視点からのアプローチが望ましい。住友化学もDX1.0(デジタル4領域の生産性向上)から始まり、DX2.0(事業競争力の強化)、DX3.0(新しいビジネスモデルによる価値向上)へと進化している。DX1.0のひとつである「Digital Plant」と呼ばれる取り組みを2019年から推進し、石油化学製品事業をメインとする千葉工場ではSMDGを活用した活動も2025年度よりスタート。これは工場のDXを単なる技術導入に留めず、経営課題と現場課題を結びつけ、全体最適を目指すものだ。
SMDGの勉強会を経て、生産技術部の橋爪悟さんは「個別最適ではなく全体最適、自社の置かれた状況に応じたDXの姿を設定するというSMDGのフィロソフィに深く共感しました。これらは、私どもの目指す方向性とも親和性が高く、生産部門がそれぞれの置かれた状況に鑑み、工場を中心とした事業全体の最適化を導くためのあるべき姿を描くリファレンスとして活用できると考えています」と話す。
住友化学は4つの事業部門「アグロ&ライフソリューション部門」「ICT&モビリティソリューション部門」「アドバンストメディカルソリューション部門」「エッセンシャル&グリーンマテリアルズ部門」があり、製品を製造するプラント設備もそれぞれ特徴があり、異なる。製品特性や市場環境の違いから、課題も共通ではない。そのため、各個別事業において、経営課題と現場課題を紐づけるための考え方の土台となる〝参考書〟が必要だったという。
戦略的な生産計画の構築を全工場に横展開していく
SMDGでは、4つのチェーンで構成されるマニュファクチャリングチェーンを整理し、各部門の情報を整流化して全体最適を目指す。生産技術部担当部長の酒匂良和さんは「SMDGでは製造業における生産部門の役割を事業全体のチェーンと組み合わせて整理できています。4つのチェーンで構成されるものづくりの全体像は、異なる製品やプラント設備にも共通する基盤として活用できます。この全体像を皮切りにそれぞれの製品で機能間の連携、チェーンの最適化など個別の検討が可能になります。それにより製造の部分最適に陥らず、大局を見据えた全体最適につながることに期待しています。その結果、生産部門におけるDXは俯瞰した視点でのアプローチが可能になる」と確言した。
マニュファクチャリングチェーンの全体像
千葉工場でDX推進の指揮をとる大園侑利さんは「製造現場の個別課題の最適化に留まらず、生産計画を含むプラント操業に関わる一連のデータの流れを整理し、全体最適の視点から課題の洗い出し、施策を立案したかった。SMDGを使うと、何をどう取り組めば現場課題が経営課題に紐づくのかを整理できた」と語る。施策への取り組みをTODOに落とし込み詳細化、加えてKPIやKGIにどうつながるかも整理できたという。「ガイドラインがあれば、関連部門と目線がずれません。議論ができる土台があることは大きいですね」と大園さんは話す。
また、石油化学製品の製造を行う千葉工場はGXも課題だ。「当社が掲げるカーボンニュートラルへの取り組みの『責務』と『貢献』の両面において、温室効果ガス排出量の多い当工場が果たす役割は大きいです。工場は従来、安全・安定操業のもと、与えられた生産量を確保することが求められてきましたが、『動力用役設備の運転計画も考慮し、製造コストの全体最適を志向した環境配慮型生産を行う』といった、より戦略的な生産計画の構築を工場から関連部門に対して提案できるようになります。われわれ現場からの提案が経営課題に紐づき、事業競争力を高め、強靭なものへ転換する施策として説明できるはずです」(大園さん)
今後は、全工場への横展開はもちろん、個々が抱える課題に対してもSMDGを活用したいと橋爪さんは期待する。「このガイドラインと喫緊の経営課題がどうつながっているのか、ひとつずつ見ていけば、おのずと答えが見えてくると思います。材料は揃ったので、アクションに移す段階ですね」(橋爪さん)
酒匂さんは「SMDGではシステム化のレベルまで言及しているので、費用対効果を明確に意識できる。技術的な議論にとどまらず経営側目線としても認識が合いやすいのがメリット」と話す。また、SMDGの活用を生産部門だけの活動ではなく、事業部門にも広げることに期待しているという。
住友化学・千葉工場の変革は製造業の未来に新たな可能性を示し、業界全体の変革をリードするモデルケースとなるだろう。
工場の役割を「指示どおりの生産」から「事業戦略と連携する生産」へと進化させる大きな変革が始まる千葉工場
社名、役職名などは、取材時(2025年3月)のものです。
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