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エネルギー解析の新たな指標:エクセルギー

第5回 アルミ溶湯・成型工程での適用事例

  • SX/サステブル経営推進

山田 朗

4回で触れたように、エクセルギーは、異なる方式間の比較など製品企画段階でも活用されるが、今回はより身近な活用方法として、生産工程における省エネルギー検討での活用について解説する。具体例として、アルミ溶湯工程におけるエクセルギー計算事例を紹介する。

対象工程概要

A社は自動車、電気製品などのアルミ小物部品を製造しており、工程はアルミ溶湯炉(電気炉)とそれに連携した成型機からなる。検討対象エネルギーは溶湯炉の電気ヒーター電力である。

溶湯炉には、主に3つの工程がある。第一に、アルミインゴットやスクラップアルミを電気炉で溶解し700℃にする昇温工程。第二に、溶融アルミをラドルですくい上げ成型機で射出成型する間に、インゴット等を投入し、湯温(700℃)と湯量を一定に保つ保温・保量工程。そして第三に、1日の作業後に電力を止め、残溶融アルミに翌日用インゴット等を入れて翌早朝までに自然冷却される冷却工程である。

投入電力はヒーター熱に変換され、釜(炉壺)の伝熱を介して、釜内のアルミの固体昇温、融解、液体昇温の各段階におけるエネルギー、および湯温を700℃に保つためのエネルギーとして主に利用される。

今回は過去に行った電流、炉内温度測定結果を用い、インゴットやリサイクル投入量、ラドル汲上量・サイクルタイム、炉周り温度計測など必要なデータ計測を行った。

対象工程及び1日の基本データ

従来のエンタルピーベースのロスの捉え方

JMACの省エネコンサルの第一歩は、投入エネルギーとあるべきエネルギー(理論エネルギー)の差を全体のエネルギーロスとして定量化することである。その後、全体のエネルギーロスを詳細に区分し、各項目のロス量を定量化するというステップを踏む。熱を取り扱う工程では、熱力学第一法則に則り、エンタルピーベースの熱計算を行う。

実際に計算を行った結果をロス構造図で示したものが図2となる。あるべきエネルギーは、前日操業後に自然冷却で固体化した290℃のアルミ200㎏を早朝に700℃まで昇温するために必要なエネルギー(昇温熱+融解熱)と、成型加工中に一定時間ごとに投入されるインゴット等を700℃まで昇温するエネルギーである。

計算の結果、投入エネルギーの75%(610MJ)がロスであることが判明した。主なロスの内訳は以下の通りである。

  • 昇温ロス: 釜炉自体の蓄熱や昇温時の放熱による熱量ロス
  • 段取り替えロス: 成型機段取り時の保温に要する電力量
  • 待機ロス: 成型機停止中の保温電力量
  • 放熱ロス: 炉稼働中の湯面、ツバ部分、上面、側面、底面からの放散熱量
  • 過剰熱ロス: 基準温度以上に加熱された熱量
  • 不良ロス: 不良品製造のために投入された電力量

これらの詳細な計算により、総ロスの75%の内訳が定量的に明らかになった。また、この総ロス中には、15%にあたる123MJ程度の不明ロスも存在することが分かった。

  

一般的な従来の省エネ分析結果(ロス構造図)

一般的な従来の省エネ分析結果(ロス構造図)

エクセルギーを活用した解析

エクセルギーの基本式は、以下の通りである。

E⊿HT0×⊿S

ここで、E:エクセルギー、⊿H:エンタルピー変化、⊿S:エントロピー変化、T0:環境温度 K(今回は25℃298Kとしている)である。

エクセルギーは、一般的に温度などの状態変化が起きる際にエントロピーが増大することで減少していく。このため、エクセルギー計算は、温度変化が生じる場所やタイミングに注目して行うことが基本となる。よって工程や設備を観察し、各所の温度変化をより詳細に把握することが重要である。

例えば昇温工程では電気ヒーターが円筒の溶湯炉の内側に3層で巻き付けられており、その中にアルミが入った釜(炉壺)がセットされ、壺内のアルミを昇温する。その場合、溶湯炉の内側と壺の間に空気層があるため、ヒーターからの輻射熱に加え、ヒーターで熱せられた1200℃の空気対流の熱が壺の伝導を経て内部のアルミに伝わる。ここで電気エネルギーが1200℃の空気エネルギーに変換される時に必ずエクセルギー損失が生じる。

また実際の昇温時においては、アルミが290℃から700℃まで加熱される過程で、昇温に伴うエクセルギー損失融解に伴うエクセルギー損失が発生する。

保温・保量工程においては、成型で使われるアルミ原料を投入するために1日当たり5kgのインゴットが19本投入される。インゴットは事前に100℃に加熱された状態から700℃まで昇温されることで、投入のたびにエクセルギー損失が発生する。インゴットの投入により200㎏の融解アルミは一時700℃から675℃に温度低下し、その後700℃まで昇温される。この温度低下と再昇温のサイクルも、インゴット投入のたびにエクセルギー損失の原因となる。

3は単純化のため昇温工程のみを取り出し、従来の投入エネルギー、理論エネルギー及びその差であるロス総量に加えて、発生するエクセルギー損失を計算し追記したものである。従来の計算ではエネルギーロスは123MJ45%)だが、実際には190MJ65%)ものエネルギーロスが生じていることがわかる。

そのうち83MJは仕事に変換できない回収不可能なロスであり、107MJは何らかの改善により削減できる可能性があるロスであることがわかる。

  

従来とエクセルギー解析の違い

従来とエクセルギー解析の違い

このようにエクセルギーを活用することで、従来の解析に加え以下の点が明らかになる。

  • 理論エネルギーの中にも損失エクセルギーが生じており、その結果、総ロス量は従来の計算よりも大きくなること。(例:従来の123MJからエクセルギー解析で190MJへ増加)
  • 従来の計算によるロス量のうち、方式・基準等を変えずに改善可能なエネルギーと改善不可能なエネルギーが明確になり、改善取組みの対象範囲が絞れる。(例:従来のロス123MJのうち、現状の方式や基準のままでは、26MJは改善不可能なエネルギーであり、97MJは改善可能なエネルギー)

 

今回はエクセルギー活用による基本的な分析事例を紹介したが、今後も引き続き、様々な角度からエクセルギーの具体的な活用方法やその有効性について解説したい。

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