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生産現場の「ここが変だよ!」

第11回 設備故障は保全の責任、それって本当?

  • 生産・ものづくり
  • 生産現場の「ここが変だよ!」

石黒 透

故障が起きたら保全にすべてお任せ?

 生産職場は納期が最優先という観念であり、故障を未然に防止する思想がそもそもない場合がある。設備は「使いっぱなし」「壊れっ放し」で、毎日のように発生する故障は「後追い対応」になっていないだろうか。

 先日もこんな場面に出くわした。

 搬送設備で保全マンが、一人でスプロケットを交換していた。聞くと、「長時間停止しており、緊急で修理になった」とのこと。チェーンに要求される性能が苛酷になればなるほど、潤滑の重要性は高まるが、チェーンを見てみると、給油は実施してない様子だった。ところが、日常点検基準書を見てみると、給油箇所には確かに〇と記してある。

 修理していた保全の方に、「日常点検基準に給油項目は、〇となっていますが?」と恐る恐る質問を投げかけた。すると「一応そうなっていますね。確実に給油できていれば防げた故障なんですけどね。ここはよく再発する故障なんですよ」と言い、復旧を終え、ヘルメットをかぶり直し、さっそうと次の現場へ向かってしまった。

 現場からすれば「ISOの規定にあるが、生産時間が追われている。うそでも点検項目にチェックしておけばいいや」「上司も忙しいのでどうせ見ない。壊れたら保全が何とかしてくれる」という気持ちがあるのではないだろうか。しかし、保全からすれば「点検や簡単な交換くらいは、製造でやってほしいよ」との声もある。

 これは負のスパイラルから脱却できず、従来の仕事のやり方を漫然と「忙しい」を理由に踏襲しているだけと言えるだろう。

製造と保全は車の両輪である

 製造と保全の関係を考えるには、2つの視点があると思う。

視点①
 故障は保全に処置してもらうと思いがちだが、本来の保全の仕事は「重要設備の故障予防」である。

 設備に近い製造が『自分の設備は自分で守る』と意識を持ち、自分の設備の日常点検・給油・部品交換・修理・異常の早期発見・精度チェックを実施する。これによって設備の安定化を図ることができる。

 運転部門が保全機能の一部を担い「劣化を防ぐ活動」を担ってこそ、初めて保全部門の担当する専門的保全手段がその真の威力を発揮し、効率的保全へ踏み出すことが可能となる。まさに製造と保全は車の両輪なのである。

視点②
 故障が起きても、取りあえず復旧させる応急対応だけになっており、また再び同じような故障が起きる。これは、故障原因をカン・コツ・経験で考えたり、過去の個々人の技量や経験から、「〇〇だろう」と思い込みで、原因を決めつけてたりしてしまうケースからくる。故障の真因分析や真因の除去を実施して、再発防止を狙いたい。

故障ゼロに向けた2つの取り組み

製造現場で故障ゼロを2つの活動を通じて狙おう

 後追いの負のスパイラルから抜け出すための活動について、以下にまとめる。

①自主保全活動による復元・未然防止の体制づくり

Point

自主保全では自分たちで点検と共に基本条件整備の基準、ルールを決めて設備の維持管理体制、設備を故障させない仕組みを構築する。

<故障の原因を層別する>
 設備の弱点を把握し、効果的な活動としたい。

 保全体制の充実で突発故障を防ぐことにより、故障原因の85%を削減できると考える。

 以下の図はJMACのコンサルティング経験に基づく、故障理由の分析である。

保全体制の充実と故障解析

<基本条件(清掃・給油・増締め)を整備する>
・清掃で設備への負荷を減らす。
・給油で焼き付き・破損を防ぐ。
・増締めで精度の低下を防ぐことが重要である。

※既に締結されているボルトやナットをさらに締め込むこと。

<自主保全展開による未然防止体制を構築する>
 自主保全とは、生産システム構築を極限までに高めるために、設備を使用する作業員自身が清掃・給油・増締めなどを自主的に行う活動である。

 設備の強制劣化を排除するとともに、生産効率を阻害する故障・チョコ停・不良などを徹底排除するための改善活動をすることによって、設備をあるべき姿に復元・維持・改善する。同時に設備に強い人も育成する。

※生産設備のトラブルで、一時的に設備や生産が停止・空転する現象。 

自主保全の7ステップの例(加工組立系)

②故障解析による再発防止

Point

故障に学び再発防止を実施、「なぜなぜ分析」を使いこなす

<故障解析>
 真の原因を徹底的に追究し、真の原因となっているモノを排除し、再発防止策までを掘り下げる。故障解析は“現場”“現物”“現実”の3現主義に加え、“原理”“原則”原因”の3原を加えた「ダブル3ゲン主義」に徹して解析したい。また、人の行動で何が足りなかったかを追究することが大切になる。

 故障発生の裏には必ず原因がある。「故障に学ぶ」とは、発生した故障を教材として、原因を追究(故障解析)し再発防止対策として日常管理の仕組みを改善していくことにより、日常管理のレベルアップを図っていきたい。

<故障解析の手順>
 故障解析の手順は以下のとおりである。

■ステップ①現象の明確化
・現地現物で、停止状態、破損部品の状態、故障履歴などを確認し故障記録用紙にまとめる。

■ステップ②一時処置
・故障部品を発見したら、部品を交換し運転を再開する。

■ステップ③原因追究の準備
・故障に関連する設備や部品のポンチ絵(概略図)やシステム構成図を用い、機能・構造上正しい使い方を理解する。
・機能部品について原理・原則からあるべき姿を理解し、必要かつ十分な条件を満たしているかの観点から点検項目を洗い出し、不具合を探す。

■ステップ④原因追究
・見つかった不具合が発生した原因を「QC7つ道具」「なぜなぜ分析」などで徹底的に追究する。
・原因は人の行動面まで掘り下げて追究する。

■ステップ⑤対策
・原因追究した中で出ててきた不具合の復元・改善をすぐに実施する。
・点検や改善の類似設備への横展開を実施する。

■ステップ⑥歯止め
・不具合を事前に見つける能力の向上、日常点検・定期点検項目の有無、基準の適正などについて検討し、点検基準書を作成する。
・劣化の異常兆候を見つけて未然防止する技術を研究する。

 対策を打つことが改善ではない。思いつきで考えるのではなく「なぜ」「なぜ」と段階を追って規則的に漏れ・落ちがないように要因を出していく。発生した現象がなぜ起きたのかを1次要因に、1次要因がなぜ起きたのかを2次要因としてこれを繰り返していき、真の要因を洗い出すことが可能となる。

 後戻りしないためには、今回紹介した2つの活動を基に、改善と維持を意識しながら「維持体制」を着実に構築いただきたいと考える。同時に人にも焦点を当てながら「人を育てる」もことも意識して活動を実践いただきたい。

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