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エネルギー解析の新たな指標:エクセルギー

第4回 エクセルギーでの解析例

  • SX/サステブル経営推進

山田 朗

前回までにエクセルギーの概要を述べた。

今回はこのエネルギーの価値をはかるものさしの活用事例を身近な例で紹介する。

 化学エネルギー、電気エネルギーと熱エネルギーの価値の比較(エクセルギー率)

 事例の前に重要なエクセルギー率について触れておく。我々が通常使うエネルギーはほぼ化学エネルギー、電気エネルギー、熱エネルギーである。化学エネルギーである都市ガスを燃焼してお湯(熱エネルギー)をつくることは、できるがその逆はできない。よって化学エネルギーの方が熱エネルギーよりも価値が高いことは感覚的にわかる。電気と熱についても同様だ。

では実際にどのくらいの価値があるかは、実は全エネルギーに対するエクセルギー(有効エネルギー)の割合である「エクセルギー率」で表すことができる。(エクセルギー率は前回示したカルノーサイクルに基づく<1-T0/T2>で示す場合と対数平均温度差を考慮した式<T0 × ln(T2 / T0) / (T2 - T0)>があるが、ここでは後者で示す)

エクセルギー率は電気エネルギーが1.0、化学エネルギーは種類によるが例えば気体燃料では0.95、熱エネルギーは環境温度を25℃とすると図1の様に温度に依存する。

温度とエクセルギー率

火力発電所などで化石燃料を1500℃の熱エネルギーに変換するとエクセルギー率は0.64、100℃のお湯のもつクセルギー率はわずか0.11である。つまり電気ヒーターで100Jのエネルギーを投入しできたお湯は、わずか11Jしか有効に利用できないのだ。残りの89Jはエントロピーの増大による損失エクセルギーとして回収不可能な意味のないエネルギーになる。100℃以下の熱を化学エネルギーや電気エネルギーから作るのは、ほぼ90%以上が損失にもかかわらず、工場や家庭ではこうした運用が行われているのはあらためて驚きだ。

エクセルギーの活用:ストーブとエアコンの省エネ効率の比較

身近な例としてストーブとエアコンの比較をしてみよう。前提として外気温2℃を20℃に温める暖房に必要なエネルギーを1000KJ、ストーブのエネルギー効率を85%、エアコンのCOP(成績係数)を4.0と仮定する。ヒートポンプ式エアコンのエネルギー効率はCOPで表すが、最近のエアコンでは4.0程度だろう。これは投入したエネルギーの4倍の熱量を取り除いたり与えたりできることを示している。よってエアコンの方がエネルギー効率が高そうだとわかるが、そもそも単位が違うので正確な比較ができない。そもそもエネルギー効率が100%を超えるのも違和感がある。
そこで必要な暖房エネルギーを得るために消費される燃料の量で比較しよう。図2に示す様に、ストーブに必要な燃料はエネルギー効率から逆算し1176KJとなる。同様にエアコンはCOPから必要な電力量を求め、更に発電所での発電効率を56%とすると必要な燃料エネルギーは446KJとなる。つまりエアコンの方が62%程度省エネルギーだとわかる。

ストーブとエアコンの省エネ効率の比較

これをエクセルギー解析をしてみよう。まず20℃の熱1000KJの持つエクセルギーは熱量×エクセルギー率であるので、1000KJ×[T0 × ln(T2 / T0) / (T2 - T0)]により、31KJ となる。20℃の空気は有効に使えるエネルギーがたったの3.1%しかないのだ。
 ストーブが消費した燃料のエクセルギーは、燃料のエネルギーにエクセルギー率0.95を乗じて、1140KJ。従って、ストーブのエクセルギー効率は、2.7%(=31÷1140)となり97%はロスになることがわかる。ストーブのエネルギー効率85%と聞くとかなり限界に近いと感じるが、実際には3%に満たない効率だとわかる。
 エアコンが消費した電気のエクセルギーは、電気エネルギーにエクセルギー率1.0を乗じて、250KJ。従って、エアコン単体のエクセルギー効率は12%(=31÷250)となる。発電所で消費した燃料を考慮したエアコンのエクセルギー効率は7.3%(=31÷424)となる。COP4.0のエアコンは、従来のエネルギー効率では400%だが、エクセルギーを使うとたったの7.3%であり、まだまだ省エネ技術が進む可能性があることがわかる。この様にエクセルギー解析を活用することで、その機器のエネルギー性能向上の限界がはじめてわかるようになる。
またストーブエアコンという異なるエネルギーや異なる仕組みで熱を得ることを考える場合、効率の計測方法が異なっても、エクセルギー効率を使うことで機種間の比較を同じものさしで比較ができる。今回の場合、COP4.0のエアコンはストーブと比べると2.7(=7.3÷2.7)倍の効率とわかる。

エアコンのエネルギー効率はどこまで上げられるのか?

 では具体的にエアコンなどヒートポンプの効率はどこまで高められるかをエクセルギー解析で算出しよう。ヒートポンプの効率COPは、図3の様に表される。

COP

熱機関の理論最大効率は、与えられた熱量Q2とその熱から取り出せる最大仕事量Wで、前回述べたカルノーサイクルによって決まる。
熱機関のカルノー効率=W/Q2=1-T1/T2=(T2-T1)/T2

そしてヒートポンプの理論最大効率は、倍数で表すので、カルノー効率の逆数になる。よって上記の例では次の式で計算できる。T1、T2は絶対温度で示す。
ヒートポンプの理論最大COP=Q2/W=T2/(T2-T1)=(273+20)/((283+20)-(273+2)=16
つまり、理論的にはCOP16が最大の効率ということだ。つまりエアコンの圧縮機等に使われた電気エネルギーの16倍の仕事量(熱エネルギー)が得られることになる。これはヒートポンプがエクセルギーではゼロ、つまり価値のない大気熱を、少量の仕事(電気による冷媒の圧縮)によって価値ある熱エネルギー、つまりエクセルギーとして再生しているからだ。

この様にエクセルギーを活用することで、環境温度を基準として物体のもつ温度によるエネルギーロスを定量化できるだけでなく、種類が違うエネルギーの効率比較やその限界などが定量化できるのだ。今回紹介した空調機以外にも火力発電設備、太陽光/太陽熱設備、給湯設備、熱交換機、内燃機関など様々な分野でエクセルギー解析が行われ、新製品開発などにも活用されている。

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