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CS とES の両輪で「働きがいのある職場」をつくる ~現場の本音に向き合い続けた10 年間 そして今、次なるムーブメントへ~

冷凍食品や食品物流でお馴染みの株式会社ニチレイ。中核の事業である物流部門を担うニチレイロジグループは2005年、ニチレイの持株会社化に伴い誕生し、併せて地域分社化を行った。現場には不安が広がったが、トップの強いリーダーシップのもと現場の力を盛り返すための「働きがいのある職場づくり」が始まった。活動を始めてから10 年目を迎えた今、ニチレイグループ全体へとこの活動が広がっている。現場の本音に向き合い続けてきた人事担当のお二人に、この10 年の苦悩や喜び、そして今後の展望をお聞きした。

「現場の不安を払拭せよ!」すべてはここから始まった

「おいしい瞬間を届けたい」というスローガンを掲げ、日本の食卓を支え続けて70 年。株式会社ニチレイは1945 年に設立して以来、「長期保存」「品質保持」「食材の再現性」といった特性を持つ" 冷力" をコア技術として、事業を進化させてきた。

そして2005 年、ニチレイは、ニチレイフーズ(加工食品)、ニチレイロジグループ(低温物流)、ニチレイフレッシュ(水産・畜産)、ニチレイバイオサイエンス(バイオサイエンス)の事業を担う4 つの事業会社からなる持株会社体制へ移行した。

このとき、ニチレイロジグループ(以下、ロジグループ)は、地域の競合他社との熾烈な競争に勝つため、持株会社化移行と同時に地域分社化した。しかし、分社は現場の雰囲気を大きく変えた。

「市場や競争環境の変化に伴う業績の低迷もあり、分社の際には賃金を一時的にせよ下げざるを得なかったのです。そのため、現場の社員には不安が高まり、士気も低下していました」と語るのは、当時のロジグループで人事を担当し、改革推進の立役者となった現ニチレイ人事総務部長の狩野豊氏だ。

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事総務部長 狩野豊氏

当時まさにその現場である冷蔵倉庫部門に所属していた現ニチレイ人事総務部人事企画グループマネジャーの村山匡秀氏は、そのときの様子を「皆、これからどうなるんだろうと不安を抱えていて『こうなった以上、とにかくやるしかない』という言葉ばかりが聞こえていました」と語る。村山氏はその2 年後の2007 年に人事部に配属され、狩野氏と共に改革を担ってきた。

この不安感を払拭すべく、トップが動いた。当時のロジグループ社長・村井利彰氏(現ニチレイ会長)が「仕事や職場に不満を抱えている従業員がお客様を満足させることはできない」と考え、CS(顧客満足)とES(従業員満足)を両輪とした「働きがいのある職場づくり」を強く打ち出したのだ。

この方針を受け、狩野氏は「ロジグループの人事担当者として、非常に大きなミッションだと感じた」と当時の思いを語る。そして、改革を成功させるためのパートナーにJMAC を選んだ。 

JMAC を選んだ理由について「以前からグループ会社のニチレイフーズがJMAC のCS 支援を受けていたので、きっかけはありました。他の5 社からも提案を受けてみたのですが、こちらがやりたいことを話して一番親身で柔軟な対応をしてくれたのがJMAC でした。やっぱりここしかない、と確信しました」と語る。
こうして2005 年、ロジグループはJMAC をパートナーに改革に乗り出した。

現場の不満が浮き彫りに!ES 調査に何が書かれたか

CS・ES の両輪で改革を進めるため、まず顧客である食品メーカーや商社を対象にCS 調査(顧客満足度調査)を行い、その半年後に社員やパート・アルバイト、派遣社員など全従業員を対象としたES 調査(従業員満足度調査)を行った。

ES 調査では、現場からの不満が殺到した。調査票の自由記述欄には「同じ仕事なのに、なぜ派遣社員のままなのか」「なぜ給料がグループ他社より低いのか」「分社化の意図がわからない」といった不満であふれ、その数は膨大だった。それに加えて、「この取組みにより、会社から" 従業員に満足を提供してもらえる" のだ」と誤解している人も多かった。

ロジグループは全国に100 の事業所があり、従業員の就業形態もパートや派遣社員などさまざまだ。中には24時間体制のため、常に人同士が「すれ違い」になる職場も多い。そのため、メッセージが伝わりにくく「従業員の満足」の場合も同じだった。狩野氏は調査結果を見たとき「改革には相当の覚悟がいるな、と改めて腹をくくりました」と語る。

この調査結果の最初の印象について、ニチレイフーズのCS 支援に引き続きロジグループの支援を担当したJMACシニア・コンサルタントの江渡康裕はこう語る。

「まず、想像していたより満足度は低く、根深く幅広い不満があると感じました。こういった改革は、経営者の本気度が現場にどれだけ伝わるかが大切なのですが、村井社長がすべての自由記述欄に目を通されているとお聞きし、きっとこの調査は改革に生かされ、本気度が伝わっていくだろうと思いました。そして、この調査結果を真摯に受けとめ、改革を実務レベルで担っていく狩野さんたちのお手伝いを一生懸命しなくてはいけないと強く感じました」

フィードバックが難しい現場の声にどう応えるか

こうして不満と誤解の中スタートした改革だったが、一番難航したのが調査後の「フィードバック」だった。調査結果を全社掲示板に掲示しても読んでもらえないのだ。調査結果を職場単位で集計すると、少人数の職場では自分の書いたことが周りにわかってしまうため、大きな単位で集計せざるをえなかったが、そうすると自分の回答がどこにあるのかわからなくなり、読まなくなる。
こうしたジレンマを抱えたまま、数年間紆余曲折した。

「ES 調査をすると言ったらオーッと皆期待して、フィードバックしないと期待を裏切られたと感じる。そういうサイクルも江渡さんに教えてもらいましたが、やはりフィードバックが一番難しかったですね」と狩野氏。

そして、この状況を打破すべく「『働きがいのある会社』の理論面などを江渡さんに教えてもらいながら、そもそも何をしたいのかという基本に戻り、経営者の責任やその中での社員との関わりなどの整理も一緒にしてもらったのです」と別の角度から改革を捉え直したと狩野氏は語る。そして、これをES 調査の内容に反映し、それまで使っていたJMAC 版ES 調査を少しずつロジグループ版に進化させていった。

「満足」は提供されるものじゃない 一緒につくり上げていくものだ

調査内容を進化させていく中で、2010 年、ついに「これだ!」というフィードバック方法にたどり着いた。思い切って調査結果の集計単位を大きな会社別部門別から最小単位のセンター別に変えたのだ。

その理由について江渡は「職場に焦点を当てて、10 人単位なら10 人単位で集計することにしたのです。その10 人の職場の仲間と一緒に働きがいをつくるんだ、と方向転換して、公開方法もオープンなものにしました」と語る。併せてES 調査の名称も「従業員満足度調査」から「働きがい調査」に転換した。ここには「従業員満足を提供される側ではなく、みんなでつくる!」というメッセージを込めた。

さらに、現場の人たちはどのようなときに「働きがい」を実感するのか、事業所の所長をはじめ、役職・非役職に関わらずさまざまな立場の100 人にインタビューした。その結果から「働きがい」を実感できるのは「相互の尊重、貢献の実感、あいさつ」ができたときだとわかった。

そして、これらを職場コミュニケーションガイド『STEP !』に集約して現場に配布し「働きがい」を支えるコミュニケーションとはどういうものなのかの浸透を図った。そこには社員のメッセージや取組み事例も豊富に載せた。「みんなが考える働きがいはこれです、と発表できたので、ある意味『STEP !』は活動の集大成と言えます」と感慨深げに語る狩野氏。

こうして、ロジグループ流の働きがい調査は、取組みのスタンダードづくりへとつながっていった。

続けてよかった!現場が明るく元気に

一つひとつの活動を地道に行い、まさにSTEP してきたロジグループ。現場の反応はどう変わっていったのだろうか。村山氏は「最初は現場のやらされ感が強かったのですが、調査とフィードバックを繰り返し行い、自分たちで考えるように変えていくと、皆が徐々に前向きに取り組むようになり、現場の雰囲気も明るくなりました」とその変化をうれしそうに語る。

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人事総務部人事企画グループマネジャー 村山匡秀氏

同時に、ここまで来るのに苦労もあった。最初の5 年間はとくに「継続の苦しみ」を味わったという狩野氏は「フィードバックがうまくいっていなかったときは『どうせ回答してもムダなんだから、毎年同じこと聞くなよ』という現場の思いがヒシヒシと伝わってきて、調査は隔年にしようかと考えたりもしました。そういうときに江渡さんから、続けることの意義や新しい発想を教えてもらうなどして、ここまで続けることができました」と話す。

村山氏は江渡とよく議論を交わしたと言い「江渡さんは、良い悪いを正直に言ってくれるので、ときには議論することもありました。しかしそれは、当社を思ってくれるからこそだと思うので、とても感謝しています。そして江渡さんは、CS・ES 含めさまざまな企業を見ているので、われわれの発想が及ばない角度からこういうのがある、と提示してくれるので、とても勉強になりました」と振り返る。

これについて江渡は「トップの思いも同じだと思うのですが、大事なのは結局現場なのです。この取組みは現場の人たちがカギなので、そこをどう理解していくのかなど、第三者的・客観的な意見も申しあげてきました。その中で、皆さんがご自身で考え抜いたからこそ現場にも浸透し、現場でも考えるようになったのだと思います」と語る。

培ってきた土台をもとにムーブメントを広げていく

そして2014 年、この活動がさらなる展開を迎えた。狩野氏がニチレイの人事担当に異動し、ロジグループでの活動をニチレイグループ全体へと広げていくことになったのだ。狩野氏は「現場の人たちが気持ちよく働き、社会に貢献できる『働きがいのある職場』は、ニチレイグループ共通の目標です。事業会社ごとの考え方や個性を尊重し、納得感のある形でグループ全体に推進展開していきたいと思っています」とニチレイでの活動に意欲を示す。

ロジグループでの活動が確かな土台となり、今につながっていると語る狩野氏。10 年にわたる活動を振り返り、JMAC 江渡についてこう語る。

「江渡さんは、私たちの声に真摯に耳を傾け、とことん一緒に考えて柔軟に対応してくれました。だからもう、江渡さんとは運命共同体のようなものです」

村山氏は「私たちが型にないような話をしても、必ず真正面から受けとめて、的確な提案をしてもらえたのはすごくありがたかったですね。ニチレイに私が転籍してからも、江渡さんにまた支えてもらっています。江渡さんがいてくれて本当によかった」としみじみ語る。

江渡は「どの会社も経営理念では従業員の満足やCS を謳うのですが、ここまで真剣に取り組む会社はなかなかありません。それはやはりトップの強い信念と発信力、それを受けとめた皆さんの取組みがあったからだと思います。

ES に着目したのも、物流は箱やトラックじゃなくて人なのだという強いメッセージで、今もぶれていない。そこはぜひ続けていっていただきたいと思います。また、『働きがい』だけにフォーカスすると内向きの思考になりやすいので、CS とES の両輪を忘れず、CS がES を生み出すサイクルも意識した活動ができれば、今後もさらに進化し続けられるのではないでしょうか」と見ている。

今後、JMAC に期待することについて村山氏は「これからも、自分では気づかないことを率直に伝えて欲しいですし、引き続き私たちを引っ張りながら、鍛えていって欲しいですね」と語る。

狩野氏は「今後、ロジグループでの活動をさらに進化させてニチレイグループ全体への取組みに広げていく中で、これからも新しいアイディアをどんどん出して、われわれの一員として一緒に活動していってもらえたらうれしいですね」と今後の展望と期待を語る。

スローガン「おいしい瞬間を届けたい」の実現には、現場の力が必要だ。そこに着目し、CS・ES の両輪で「働きがいのある職場づくり」を目指してきたロジグループ。そして今、その取組みはニチレイ全体に広がりつつある。さらに進化したニチレイの、「おいしい瞬間」が食卓に届くのが楽しみだ。

担当コンサルタントからの一言

「働きがい」への転換と取組み継続が成功の鍵

「与えられる満足」から「共につくる働きがい」へ取組みの舵を切ったことが非常に重要であったと考えます。どのような組織・職場にも不満はあり、その解消のために職場環境や労働条件などを改善することは経営の役割でしょう。しかしより良い職場にしていくためには、「働きがい」を「自分事」としてとらえ、一人ひとりが自分の言動を変えていく必要があります。ニチレイにおいては、地道な実態把握により方向性を転換できたこと、そしてトップの強い覚悟に裏打ちされた継続的な発信や取組みがこれを支え、成果が出始めているのだと認識しています。

江渡康裕(シニア・コンサルタント)

※本稿はBusiness Insights Vol.60からの転載です。
社名・役職名などは取材当時のものです。

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1991年に日本にCS経営を紹介・普及した草分けとして顧客満足を軸とした経営改革、事業競争力強化を実現します。顧客価値の創造、顧客との価値共創に向けて、徹底した顧客インサイト通じてB to C、B to B問わず、「らしさ」あふれるCXづくりの実現を支援します。マーケティングやCSは「明るく前向き」なテーマであり、多様性に富むコンサルタントチームが柔軟かつ着実なアプローチで取り組みの活性化を図ります。

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