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研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜

第26回 本気さが感じられないリーダーにメンバーはついていかない

  • R&D・技術戦略
  • 研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜

塚松 一也


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プロジェクト―リーダーが背景・目的・目標を本気で語っているか

 プロジェクトマネジメントをうまく行う上で、もっとも重要な“前提”はリーダーの本気度合いだろう。「なぜこのプロジェクトをやるのか、このプロジェクトが成し遂げたいことは何か、なぜそれを成し遂げたいのか」をリーダーがメンバーにきちんと語っているのか、メンバーがそれに腹落ちしているのかは、プロジェクトの成否に大きな影響を及ぼす。

 プロジェクトの背景、プロジェクトの目標(到達点とその時期)、そしてその「目標を目標とする理由」であるプロジェクトの目的について、プロジェクトを率いるリーダーが、それらを考え抜いて、メンバーに分かりやすく伝える努力をしているだろうか。

 目がキラキラしている純粋なメンバーの一人をイメージしてみてほしい。そのメンバーから「このプロジェクトはなんのためにやるのですか? リーダーはそれを本気でやり切りたいと思っているのですか?」と真顔で(真剣にという意味で)聞かれた時に、真摯な姿勢で分かりやすく説明できるだろうか。照れ隠しなのかもしれないが、「いや~、上からこれをやれって言われてさ~、やることになったんだよね。」というような回答では、それを聞いた人は肩透かしをされたように感じるものだ。

 また、「目的とかいいから、言われたことをやればいいんだよ。それであなたのやるべきことはできてるの?」と、質問をいなして逆に突き落としをするリーダーもいる。

 言うまでもなく、いずれもよくないリーダーの例である。ごまかしていることがバレバレで、質問した人からの信頼は大きく落ちる。そんなリーダーにメンバーはついていこうという気が失せる。困難を共に乗り越えようという気になれない。

 世の中にはさまざまなリーダーの定義があるが、私が好きなリーダーの定義のひとつは、ドラッカーの「リーダーとは、ついてくる人がいる人」である。シンプルだが本質を言い当てていると思う。リーダーは権限で人を動かすのではなく、その人の人間力で周りの人が協力してくれるというのが、プロジェクトリーダーの本来のあるべき姿であろう。

リーダー像を左右する「支配型ヒエラルキー」と「尊敬型ヒエラルキー」

 人類進化生物学者ジョセフ・ヘンリックと心理学者ジョン・メイナーによる「支配型ヒエラルキーと尊敬型ヒエラルキー」の比較表はよく知られているが、私の解釈も入れた比較表を以下に記す。

支配型ヒエラルキーと尊敬型ヒエラルキー

 不確実性が低くてメンバーから自発的な意見や違和感を聞く必要もないというプロジェクトであれば、支配型ヒエラルキーでうまくいくだろう。しかし、R&Dのプロジェクトは不確実性に満ちているし、メンバーも多様で、プロジェクトの進行に伴い状況変化も多い。プロジェクトに悪影響を及ぼすリスクもいろいろと出てくる。R&Dプロジェクトを成功させるには、尊敬型のヒエラルキーの色合いが強い組織・人であるべきだ。

 尊敬型のヒエラルキーのリーダーは「Authentic Pride(本当の誇り)」がベースにある。自分のプロジェクトを行うことへの使命感、自分の内からこみ上げてくるプロジェクトの存在意義への確信。こうしたAuthentic Prideを拠り所にした言動は、メンバーの共感を生む。逆に言えば、支配型ヒエラルキーでのリーダーでは、メンバーの共感を得にくく、問題やリスク、違和感などがリーダーに伝わりにくくなり、それがプロジェクトの成功にマイナスに働くように思う。

 今回の冒頭の話題「なぜこのプロジェクトをやるのか、このプロジェクトが成し遂げたいことは何か、なぜそれを成し遂げたいのか」という問いは、まさにリーダーが本当の「Authentic Pride」を持っているかを問うていることにほかならない。心底本気でプロジェクトの意義を語れるからこそ、メンバーとの関係性で尊敬型ヒエラルキーが形成されるわけである。

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