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研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜

第8回 現場をバカにしないこと!

  • 研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜

塚松 一也

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中身のないメッセージは見抜かれる

 前回前々回のコラムではメッセージングの重要性について語ってきた。その根本は、人間として人間に向き合うということだ。「きちんと話せば、相手はきっと理解してくれる」と信じて向き合うという姿勢である。

 ところが、一部の上位マネジメントの中には、本人にはそのつもりがないにしても、結果的に現場をバカにしたり、子供扱いしているケースがある。「こんなことを現場に説明しても、どうせ関心・興味ないだろう、どうせ理解できないだろう」などと、現場の意識・能力を見下しているのである。背景説明なんかしなくても「これをやれ!」と命令すれば言うことを聞くだろうという傲慢さが、こうしたところから透けて見えてしまう。

 「説明なんかしなくても、何か文句があったら言ってくる人は言ってくるだろう。だから放置しておけばいい。まあ、たとえ、文句を言ってきても、『経営陣で決めたんだから・・・』と突っぱねればいいだろう」というような横柄な姿勢は、なぜか伝わるもの。むしろ、そのぐらいのことを察する能力が人間には備わっているのだと考えた方が自然である。

 また、皆が集まる場で「時間がないので、説明を割愛しますが・・・」というような<言い訳>や、「社内向けの説明資料づくりは重要だと思いませんので・・・」というような<言いぐさ>は、「私はこれについて、あなたへの説明に時間を費やすほどの重要性を感じていません」というメッセージとして、聞き手に伝わる。そのような現場をバカにした態度は当然ながらよくない。

 秘密裏に進めていることを除いては、戦略(技術戦略や商品戦略)をきちんと伝えることが重要である。戦略の中身を語ることなく、危機感をあおるだけ、「やらなければいけない」「やるしかないだろ」と迫るだけ、「○○年度までに○○円の売り上げになるようなものをつくれ」と目標を掲げるだけでは、かえって逆効果である。

 今、上位マネジメントにいる人も、自分が若かった頃を思い起こしてほしい。こうした意味・意義が腑に落ちないメッセージは虚しかったのではないだろうか。

質疑応答での回答もメッセージとして伝わる

 プレゼンテーション資料を投影しながらメッセージを語る場合、分かりやすい図表を使うことでメッセージの理解は促進されるはずである。ところが、プレゼンテーションの<わかりやすさ>までを気にしていないメッセージの語り手も少なからずいる。グラフや図表の選択のセンスの問題もあるが、もっと基本的なレベルの問題を抱えていることもあるようだ。

 たとえば、遠くからは判読できないような小さな文字の資料を投影して、「これ、見えないと思いますけど・・・」という説明をするシーンを見掛ける。本人が見えにくいと思っているなら、普通に考えれば文字を大きくすべきだが、これでは直す気がなかったということを吐露しているだけである。伝える気がないのだなと思われても仕方がない。別の例としては、投影資料が社内ネットワークなどで共有されていないケースもある。ノートパソコンを開いて手元で詳しく見たい、後でじっくり読み返したいという、メッセージの受け取り手としてよい姿勢を持つ人のやる気を削いでいる。

 メッセージの語り手側に、そのような親切心があるのか否かは、見逃していいような些細なことではなく、"神は細部に宿る"というか、一事が万事というか、小さくてもすごく大事なことだと思う。さらにいえば、メッセージはプレゼンテーション資料を用意して話をする部分だけでなく、質疑応答の部分も含めてメッセージなのである。

 メッセージの聞き手(受け取り手)が理解できなかったことや疑問に思ったことを聞くことが質疑だが、その回答の巧拙でメッセージの価値は大きく異なる。質問に対してきちんと答える、少なくともきちんと答えようとしていることが聞き手に伝われば、「本気でそれをやろうとしているのだな」というように感じてもらえるものだ。逆に、質問に対して笑ってごまかしたり、肩すかしのような返し方をしたり、トンチンカンな回答をしたりすると、最初のメッセージに対しても聞き手は懐疑的になってしまう。

 ときどき、「本当は答えがあるのだが、ここで言うと誤解されるかもしれないから言わない」という"逃げ口上"をする人がいる。これなどは「ああ、逃げているな」ということが聞き手からははっきりと分かる。真摯に答えようとしていないことで、本来伝えたいメッセージが伝わらないという逆効果になってしまう。

 繰り返しになるが、経営の中で指導的立場にいる人は、現場をバカにしたり、子供扱いしたりしてはならない。現場をバカにした態度はやめるべきだ。自らに対する謙虚さと、現場に対する恐れを失ってはいけないとつくづく思う。

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