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研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜

第27回 「工数が足りない」は言い訳にならない

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塚松 一也

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 プロジェクトにアサインされた人が、自分が担う仕事量に対して、時間が適切にあるなら問題はない。しかし実際には「やろうと思ってはいるが時間が足りなくてできない」という悲鳴に近い声を聞くことはよくあることだ。今回は、この「時間がない」「工数が足りない」問題について考えてみる。

仕事の大前提として健康・安全がある

 言うまでもなく、無理して長時間労働を続けて体調を崩したのでは、自分・同僚・上司・顧客・家族、世界の誰も幸せにならない。「医者が儲かるだろ」と茶化す人もいるかもしれないが、そんなものは面白くない冗談だと一蹴しておく。体調を壊してまでプロジェクトを遂行することは誰も望んでいない。

 仕事をするにあたって、大前提として「自分や仲間の健康(フィジカルとメンタルの両面)を健全に保つこと」と「安全(危険な目にあわないようにすること)」が第一であり、どんな時でもプロジェクトの成功よりも優先される。これが暗黙ではなく、明確な大原則であることを最初に確認しておこう。

 少し話が逸れるが、中には自衛隊や警察官・消防士など、局面によっては自分の健康や安全を第一にできない仕事もある。「事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います」という服務の宣誓、時に命を賭して職務を遂行しようという姿勢にはただただ敬意しかない。もちろん、自衛隊や警察においても命を落とすことを前提にしたオペレーションは計画しないものだ。
 その自衛隊や警察であっても、命を落とす前提のオペレーションは計画しないのだから、我々だってデスマーチを強いられる謂れはないのである。

「時間が足りない・工数が足りない」というのは調整を避けているだけ

 複数のプロジェクトを掛け持ちしていたり、クロスファンクショナルチームで活動していたりすると、担当者の「時間が足りない・工数が足りない」ということはごく普通に生じる。担当者層だけでなくミドルマネジメント層も「会議が多くて・・・」と、本来自分がやるべきだと思っていることに時間が使えず、腐心していることも珍しくない。

 次々と仕事が降ってきて、日常が忙殺される。これは、単なる「あるある」ではなく、世の中の普遍的な真理だろう。その原理は、古今東西、仕事は「仕事ができる人で感じのいいひと」に集まってくるものだから、である。自分が何か大切な仕事を任せる時には、仕事ができる人でかつ嫌な顔をしない人にお願いするというのはごく自然な選択だろう。 仕事ができ(能力があり)、嫌な顔をしない、責任感ややる気が高い人には、いつの世でも仕事はどんどん集まってくる。いきおい「時間が足りない」という状況に陥りやすいという理屈だ。

 断ったり先延ばしの調整をしたり、他人に仕事を振れればいいのだろうが、“良い人”なので、他人に気を使ったり、組織の心理的安全性が低いために、自分で仕事を抱えてしまって、アップアップの状態になる。「私、今、アップアップです」などと“忙し自慢(?)”をする人が一部いるが、そのよくわからない自慢が、周りの人をヒヤヒヤさせていることに本人は気づいていないのだろう。周りと自分が見えていない典型だと思う。

 少し皮肉って表現すればまさに「昭和のノリ」。工数が足りないことをしかたがないこと、文句を言わずに受け入れることが良きこと、自分が頑張るしかないと思い込んでいる。この昭和のノリを今も続けていてはいけない。令和の今は、現実的にできるように調整しよう、知恵を出そうという姿勢をもつことがとても大切だと思う。調整から逃げることこそが悪しきことなのである。次回は、調整する姿勢の大切さについて考えてみる。

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