お問い合わせ

研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜

第28回 工数オーバーの理由に「真面目だから」は通用しない

  • R&D・技術戦略
  • 研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜

塚松 一也

RD_28_top.jpg

本当の真面目とはプロジェクトの成功に責任を持った言動をすること

 自分が工数オーバーになっていることについて、「私は真面目なので、仕事を断れないです」と“真面目アピール”をする人もいる。そんな人には、「それが本当の真面目ですか?」と問いたい。真面目という言葉は、「降ってきた仕事を断れない、調整できない」自分を正当化するために使うものではない。本来的な意味で真面目とはプロジェクトの成功に責任を持って行動する、時間配分を決めるということであるはずだ。

プロジェクトを悲劇の舞台だと思っていないだろうか

 わざと少し皮肉って表現すると、「私は(仕事ができて真面目だから)仕事がどんどん降ってきて大変な目にあっています。なんてかわいそうな私なのでしょう」といった感じで、悲劇の主人公になりきり、そんな自分に浸っている人を見かけることがある。

 そんな人にここで正論をお伝えしたい。「時間がない」ことを優秀さと真面目さで正当化するのは間違っている。大変な悲劇の主人公になっている自分に酔っているのもおかしなことだ。ここで、忘れがちな本質を思い出そう。プロジェクトメンバーは、健康・安全を前提としたうえで、プロジェクトの成功に真摯であるべき。自分がオーバーフローして、プロジェクトに遅延などの悪影響を及ぼすことは真面目だとは言えない。真面目というなら、プロジェクトの成功に対して真面目であるべきだ。プロジェクトの目的に真摯ならば、自分の時間が足りないことが解った時点で、関係者と工数調整をするはずである。仕事を他の人に渡したり、優先順位の低い仕事の先送りを関係者で合意したり、なんらかの“調整行為”をするのが本当の真面目な態度なのである。

 例えば会社の経営において、もしお金がショートしそうになったら、資金繰りに走り回るだろうし、支払い時期を延ばしてもらうように折衝するものだ。そうしないと、会社がつぶれてしまうから、本気で一生懸命に関係者に調整・交渉をするはずである。 同様に、自分の時間が十分にとれずにプロジェクトに悪影響を及ぼしそうなことが分かったら、自発的に上司や周りの人たちと工数調整をするのが、本来の真面目な姿だ。真面目の本来の姿に立ち返ろう。

「私は前から大変だと言っているのですが、上の人が工数調整してくれないんです」と上司頼りになっている人、(調整をしてくれない)上司を悪者として嘆いているだけの人がいるが、それとて真摯な態度ではない。上司が工数調整をしてくれないのなら、自分から掛け合いにいくことが大原則である。「でも、上司はまともにとりあってくれないんです」と、またすぐに悲劇の主人公モードになっていく人がいる。いやいや、上司が悪いって言っていても、そんな上司がリアルな上司なのだから、早々に諦めてはいけない。

 1回、2回かけあっただけで諦めるのではなく、3回、4回とかけあおう。それが本気の見せ方、本来の真面目な態度である。上司との調整を面倒がって、自分が仕事を抱え込んだのなら、悲劇の主人公シンドロームまっしぐらだ。それは、誰も幸せにしない選択を自らしたことと同義だ。上司が悪いのではなく、調整・交渉を十分にしていない自分に原因があることを自覚しよう。いつだって、変えられるのは他人ではなく自分であるという大原則に立ち返ろう。

プロジェクトは調整・交渉を重ねる連続ドラマのようなもの

 自分のプロジェクトを悲劇の舞台だと思わないこと、悲惨なデスマーチのように捉えないこと。そうではなく、プロジェクトというものは日々いろいろな人と調整・交渉のコミュニケーションをする連続ドラマだと意識的に考えよう。 少しふざけて例えるなら、関西の新喜劇の舞台に立っているのだと思おう。(ほら、『♪ふんわかぱっぱ~♪ふんわかぱっぱ~♪ふんわかぱっぱっぱっ~♪』が聞こえるでしょう(曲:Somebody Stole My Gal))

 もし予定していなかった仕事が急に飛び込んできたら「うそやん!かなわなんな~」、むちゃな要求を言われたら明るく第一声「なんでやねん!」と返して、それから関係者と調整・交渉を始めよう。新喜劇はそれぞれのキャラクターを生かして紆余曲折しながらハッピーエンドに向かっていく。それぞれの人の個性をお互いが引き出している。まさにチームワークで協力・協調している。

 プロジェクトの成功に真摯ならば、上司・仲間を信じて工数調整・日程などの条件交渉を本気でやるものだ。そして、その人の本気度合いは必ずや他の人にも伝わると信じる。

 調整から逃げている人を、真面目などと言ってはいけない。プロジェクトは来る日も来る日も大小さまざまな調整をしあう新喜劇のような人間ドラマなのだと意識的に捉えよう。「工数が足りない」をできない言い訳にせずに、できるように自ら工数調整・日程等の条件交渉をすべし。そうやって仕事に必要な時間を確保することで、仕事のできばえに対しての言い訳ができなくできる。健全な意味で自分を追い込める。これこそが、本当の真面目な姿だと思う。

オピニオンから探す

研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜

  • 第30回 心理的安全性は待つものではなく、自ら獲得するもの
  • 「自分自身を技術を通して表現する」という技術者の生き方とは?
  • TCFDに基づく情報開示推進のポイント
  • オンラインサービスは新たなCXをもたらしたのか? オンラインサービス体験から見えた、メリットデメリット
  • 一人一人の「能率」を最大化させる、振り返りのマネジメント「YWT」のすすめ
  • 第5回(最終回) 全社員をデジタル人材に!
  • 第5回(最終回) 全社員をデジタル人材に!

業務改革を同時実現する『基幹システム再構築』推進

  • 第1回 基幹システム再構築を行う背景
  • 品質保証の「本質」を考える ~顧客がもつ、企業に対しての「当たり前」~

オピニオン一覧

コラムトップ