【開催レポート】R&Dサミット2025 (組織活性化分科会 第3回)
R&D・技術戦略

本シリーズで何度も述べている通り、新しい発想の商品アイデアを具現化するプロジェクトは、最初から多くの賛同を得て進めていけるとは限らない。最初から強い追い風が吹くのはごく稀である。最初は理解されない、反対される、懸念をもたれる、外野からとやかく言われる、協力してもらえない、などイノベーティブな取り組みには逆風が付き物である。
しかし、それでも前に進めるのがイノベーションリーダーの役割である。「上の人が認めてくれないから、できない」「みんなが協力してくれないから、できない」と諦めたのでは、イノベーションリーダーではない。逆境の中を推進していくからこそ、リーダーシップが重要である。イノベーティブなプロジェクトは、例えていえば「逆風の中を少しずつ前に進めるヨット」のようなものだ。
確かに、逆風で普通に考えれば前に進まない状況かもしれない。しかし、イノベーションリーダーは屈することなく、細かく工夫を駆使することで、小さな力学を使いながら、少しずつでもジグザグに前に進めていく。
なぜ、逆風でもヨットが前(実際には斜め前)に進めるのか。詳しいことはここには書かないが、どのような「力」を利用しているのかを簡単に説明すると、仕組みとしてセール(帆)の付近を流れる風によって発生する「揚力」と、センターボード(船底の中央から水中に差し込む板)による「抵抗力」を利用している。「揚力」と「抵抗力」が前に進む力の理屈なのである。
この原理はわれわれに重要なことを教えてくれているように思う。つまり、風向きを変えようとするのではなく、ヨットの構造の工夫とセール制御の術がポイントだということである。新しいことを始める人(たち)の構造と働き掛けの術が大事だということを、ヨットが教えてくれているような気がしてならない。
イノベーションにはリーダーシップが重要だが、どんな優れたアイデアをどんなに優れた人が提案しても、新しいことは社内の抵抗にあってつぶされてしまいがちである。特に、推進者が1人の場合は、つぶれやすいものだ。
新しいことを前に進めるリーダーが最初になすべきことは、仲間をつくることである。1人で抵抗と戦うのではなく、仲間と一緒になって前に進めるようにする。そういうコアとなる推進組織構造を形成することが大切である。では、仲間は何人つくるとよいのだろうか。必ずしも「仲間は多ければ多いほうがいい」わけではない。人が増えれば、その分、意見も割れていくだろうし、緩い派閥のようなサブグループもできて、一致団結の度合いも低下する弊害も出てくるだろう。
私が思うに、答えは、"3人"。1人は単。2人は複。3人になると団となる。
なぜ3人がいいのかということを、2つの分野から説明する。
1つ目は、経験則、ことわざ、いにしえの知恵である。たとえば、以下のように3人の強さが人類の知恵として語り継がれている。
・三人寄れば文殊の知恵
・三本の矢(毛利元就の教え)
・三人にして迷うことなし
・三人市虎をなす(市虎三伝)
2つ目は、集団心理学・行動科学系実験の知見からである。以下のように3人の強さが実験結果などから説明されている。
・3人が結束すれば十分に周りに影響を及ぼす(4人以上に増えてもさほど効果は高まらない)
・3人いれば、単なる"変わり者"や異端児とは見られにくい(周りから無視・嘲笑されにくい)
このあたりは、ソロモン・アッシュの同調行動実験(1951年)などが古典的研究として知られている。
そして、私は3人が集まると生じる心理や力学があるように思う。
・くじけそうになったとき、励まし合える(他の2人のがんばりに刺激を受けて意欲が高まる)
・1人だと諦めてしまう状況でも、他の2人も諦めるとは限らないので、チームとして諦めにくい
・ある人にとって相性の悪い相手も、別の人はうまく対応できるかもしれないので、頓挫しにくい
・3人がそれぞれのネットワークを持っているので、"然るべき誰か"にアプローチできる可能性が高い
・3人は誰かと誰かがもめたとしても、誰かが仲介役になることで、紛糾状態・決裂にはなりにくい
これらが、3人集まることのメリットだと考える。
新しいことを始める場合、早い段階で3人の"団"を形成できるかどうかが一つの"鍵"になる。
R&Dコンサルティング事業本部
シニア・コンサルタント
R&Dの現場で研究者・技術者集団を対象に、ナレッジマネジメントやプロジェクトマネジメントなどの改善を支援。変えることに本気なクライアントのセコンドとして、魅力的なありたい姿を真摯に構想し、現場の組織能力を信じて働きかけ、じっくりと変革を促すコンサルティングスタイルがモットー。ていねいな説明、わかりやすい資料づくりをこころがけている。
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