第30回 心理的安全性は待つものではなく、自ら獲得するもの
研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜

今回も、受注型の開発部門や事業部からの依頼テーマを請けて研究をしている研究所などで見られるマネジメントの問題を取り上げる。
仕事を外部から請けて仕事をする構図の職場では、どうしても構造的に仕事量の増減が生じるものだ。高負荷状態を長く放置してはならないことは前回も述べたが、もちろん、仕事が少ないことも問題である。受託テーマの量が少な過ぎることはそのまま業績悪化を意味する。また、仕事の質が悪いと、品質問題、コスト超過問題、納期遅延問題などを引き起こす。
従って、マネジャーが仕事の成果や業績を自ずと気にするのは当然のことである。仕事量が十分にあるのか、仕事はうまくいっているのかを、定例会や進捗管理の場などで確認することがマネジャーの仕事の一つになる。
このこと自体はなんら問題ではない。問題なのは、仕事量の管理や仕事の状態の確認だけにとどまり(偏り)、人・組織の成長に関心をあまり持っていないマネジャーがいるということである。
日常、かける言葉が「どう、忙しい?」「まぁ、タイヘンだと思うけど、がんばってね」というようなことばかりの人は、仕事量にしか関心がないと思われてしまうかもしれない。マネジャーは人の成長、つまり、意欲の向上、能力の向上、改善の促進についても、現場の一人一人と話をするべきである。
上で述べたことは、マネジャーが人工(にんく)管理を主としているのか、人材マネジメントに重きを置いているのかの違いだともいえる。部下を「人工」と見るのか、「人材」と見るのか、その違いは日常のさまざまな局面での会話にあらわれるものである。
「人手が足りないから、誰かいない?」ということで、仕事に呼ばれた人はどういう気持ちになるだろうか。「やり方を教えるから、君ならできるよ」と言われたところで、「"手"が足りないから呼ばれた。私の"才"が求められているわけではない」と、心の中で思ってしまうものだ。
人材のマネジメントをする意識があれば、一人一人の特性を生かせるように"適材適所"に努めるだろうし、そのために各人の仕事量だけでなく、人の特性や興味を知ろうとするはずである。そういう姿勢は、必ず現場のメンバーにも感じ取られ、伝わるものだ。
R&Dコンサルティング事業本部
シニア・コンサルタント
R&Dの現場で研究者・技術者集団を対象に、ナレッジマネジメントやプロジェクトマネジメントなどの改善を支援。変えることに本気なクライアントのセコンドとして、魅力的なありたい姿を真摯に構想し、現場の組織能力を信じて働きかけ、じっくりと変革を促すコンサルティングスタイルがモットー。ていねいな説明、わかりやすい資料づくりをこころがけている。
自立・自走できる組織へ
信頼と実績のJMACが、貴社の現状と課題をヒアリングし、解決策をご提案します。