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第11回 独自の成長戦略を描くには

  • SDGs・サステナビリティ経営

栗栖 智宏

栗栖 智宏(チーフ・コンサルタント)

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外部環境変化に先駆けて立案する

新型コロナウイルスにより新たな事業が生まれ、消費者の行動様式が変化したことは、企業経営における外部環境変化への事前の備えと、その変化を捉えた迅速な対応を取れる組織能力の必要性を明らかにした。

同時に、顕著となったDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展とデジタル技術の普及は、新しい競争ルールを生み出し、参入障壁の低下を通じて、新規参入者のシェア獲得の機会となっている。

過去に業界構造が大きく転換した顕著な事例は、フィルムカメラからデジタルカメラへの転換であろう。カメラ業界に新規参入が相次ぐとともに、撤退するプレイヤーも現れた。近年では、自動車業界におけるCASE(Connected〈コネクティッド〉、Autonomous/Automated〈自動化〉、Shared〈シェアリング〉、Electric〈電動化〉)の進展により、業界構造自体が大きく変わろうとしている。

本連載の主題であるサステナビリティ経営の視点で捉えると、このような環境変化に対し、DXなどトレンドワードに飛びつく前に、改めて自社の経営理念を踏まえ、自社が提供する社会価値を定義し、長期ビジョンを描いたうえで、外部環境変化に先駆けた成長戦略を立案することが重要である。

昨今、関心を集める経営理論である「両利きの経営」の中で、「コンピテンシー・トラップ」という考え方が紹介されている。既存事業分野への適合を目指すことを「知の深化」と呼ぶ。この「知の深化」が増大すると、新しい環境適応に拒否反応を示してしまう。「コンピテンシー・トラップ」とは、外部環境変化に気づいていながら、既存事業の慣習や方法論にしがみつき、いわば自己壊滅的になってしまう状況を指す。

「知の探索」を怠ってしまうと、中長期イノベーションが枯渇していく恐れがある。このトラップに陥らないために、常に「知の探索」を行い、外部環境変化の情報を取り入れ、自社の能力を拡張し続ける必要がある。

「知の深化」と「知の探索」

成長産業が多くあった時代は、選択と集中が経営テーマであった。しかし現在は、多くの産業が成熟化する中で、産業自体のパラダイムシフト、異なる業種間の融合が進んでいる。このような事業環境では、既存事業の絞り込みではなく、既存事業の深化と新規事業の探索を両立する、「二兎を追う」経営の重要性が増している。

将来の社会像からありたい姿を描く

外部環境変化を捉える際に、既存事業周辺の検討から出発すると過去の延長線上の発想から抜け出せず、従来の戦略からの転換は図れない。

そこで、改めて自社の存在理由である経営理念(自社のミッション)に立ち返り、世の中で達成が求められているSDGs(社会のミッション)との交点を起点に、将来的に自社が社会へ提供する価値(新たな事業の機会)を検討する。SDGsの17ゴールの観点を用いることで、既存の枠組みにとらわれない範囲にまで視点を広げた検討が可能となる。

SDGsの17ゴールの観点で既存の枠組みにとらわれない検討を

自社の将来ビジョンを検討する際には、自社に関わるステークホルダーに対して自社はどういう存在でありたいか、各ステークホルダーにどういう価値を提供すれば存在意義を果たすことができるのか、を検討する。

重要なのは、独り善がりにならず、共感を呼ぶビジョンの設定である。これらを検討するときに参考になるのが、「Thought leadership(ソートリーダーシップ)」という考え方である。これは「主張や理念を掲げて社会や顧客から共感を得ること。顧客の基本的な価値観に合うプロダクトを世に出していく人・企業」を示しており、自社がこうありたいではなく、こういう社会を実現したい、という主張や理念を掲げることを指す。

近年の事例では、自動車業界のテスラが、世界の化石燃料への依存に終止符を打ち、ゼロエミッション社会への移行を加速することで、より良い未来を実現することを公表している。またアップルは、2030年までにすべての製品をカーボンニュートラルにすることを宣言し、製品の100%リサイクルや製造に関わるサプライヤーまで含めて100%再生可能エネルギーによる電力に転換することを目指している。

これら社会の課題解決をリードする先端の取り組みが、ユーザーの共感や応援につながり、熱狂的なファンの育成も相まって事業活動の成果にもつながっていく。

戦略ストーリーを共有する

実際に長期ビジョンや成長戦略を検討する場合、多様なメンバーが参画するワークショップ型が有効である。その際は、自社のミッションと社会ミッションとを踏まえて、従来の社会価値軸から新しい社会価値軸へ「変わること」に焦点を当てた議論にフォーカスする。とくに、過去の事業成長を牽引してきた世代は、成功体験に意識・無意識にとらわれてしまいがちである。事業環境の変化を認識していても、従来の思考様式、行動様式を変えることができず、社内の新たな取り組みが立ち消えてしまう。歴史的に安定した業界や企業ほど、過去の成長が「変わること」への足かせとなっている。変わることに焦点を当て、変革の意思を示すことが必要である。

立ち返るべきは、自社の社会に対する存在意義、提供価値である。

自社の活動を通じて社会をどういう未来に導いていくのか。この観点を踏まえ、長期ビジョンを定めることが重要になる。たとえば、ファーストリテイリングはサステナビリティステートメントに「服のチカラを、社会のチカラに。」と定め、その意図を「よい服をつくり、よい服を売ることで、世界をよい方向へ変えていくことができる。」と解説している。

このビジョンステートメントを起点とし、サステナビリティを事業戦略の中核に位置づけ、「PEOPLE」「PLANET」「COMMUNITY」における課題解決と新たな価値創造をテーマに掲げている。よりよい社会を実現するために、自社を変革していく指針を示すことが、社会に受け入れられ、応援される企業への入り口となる。

「変わること」で変革の意志を表す

社会に対する、自社の存在意義を明確化したうえで、その長期ビジョンを実現するための戦略ストーリーを構想し、社会変化と事業ロードマップを策定する。

この検討過程を通じて、従来の延長線上で伸ばすことに加え、今までと考え方・やり方を変えること、新しく取り組みを始めることについて、全社員が共通認識を持つことが重要である。

全社員が同じ方向性を向くことで、事業活動自体もフォーカスが定まる。自社のミッションと社会のミッションを起点として、独自の成長戦略を立案することが期待される。

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