第5回 アルミ溶湯・成型工程での適用事例
SX/サステナビリティ経営推進

河合 友貴(コンサルタント)
最近、SDGsがメディアに取り上げられる頻度が増えたため、世の中に広く知れ渡るようになった。しかし、企業がSDGsに取り組む意義やメリットはまだ理解されていない。国際的なNGOであるGRI、国連グローバル・コンパクト、国際企業で構成される組織WBCSDの3団体が作成したSDG Compassの中では、企業がSDGsに取り組む重要性として以下の5つを挙げている。
SDGsは、地球規模の公的ないしは民間の投資の流れを、SDGsが代表する課題の方向に転換することをねらいとしている。そうすることにより、革新的なソリューションや抜本的な変革を進めていくことのできる企業のために、成長する市場を明確にしている。
企業の持続可能性のための理論的根拠はすでに十分に確立されているが、(環境コストなどの)外部性がますます内部化されるに伴い、SDGsは経済的なインセンティブを強化する。たとえば、企業が資源をさらに効率的に利用する、あるいはより持続可能な代替策に転換する、などである。
SDGsは、国際、国家、地域レベルで、ステークホルダーの期待と将来の政策の方向性を反映している。SDGsと経営上の優先課題を統合させる企業は、顧客、従業員その他のステークホルダーとの協働を強化できる。しかし、統合させない企業は、法的あるいはレピュテーションに関するリスクにますますさらされるようになる。
社会が機能しなければ、企業は成功できない。SDGsの達成に投資することは、ルールに基づく市場、透明な金融システム、腐敗がなく、よくガバナンスされた組織など、ビジネスの成功に必要な柱を支援することになる。
SDGsは共通の行動や言語の枠組みを提供している。これにより、企業がその影響やパフォーマンスについて、より一貫してより効果的にステークホルダーと意見交換を行うことができる。SDGsは世界のもっとも緊急な社会的課題に取り組むために、相互に協力できるパートナーを結び付ける。
企業がSDGsに取り組む場合、アウトサイド・インの考えに基づき、社会課題解決から自社の新事業創出である「1.将来のビジネスチャンスの見極め」に目を向けることが多い。しかし、多くの日本企業には近江商人の心得である三方よし(売り手・買い手・世間)の精神が根づいており、自社の既存事業でもSDGsに十分貢献している。SDGs視点での新たな事業創出とともに自社の既存事業が三方、とくに世間にどのようなよい影響があるかを改めて認識することも重要なステップである。
自社の既存事業や活動とSDGsの17のゴールとの関連性を見るためには、SDGsマッピングを作成する必要がある。
SDGsマッピングは、次の方法で作成する。
①自社の事業活動並びに社会貢献活動を棚卸しする
②各活動を自社バリューチェーンにプロットする
③各活動がSDGsのどのゴールにつながるかをまとめる
SDGsマッピングの結果、一部の社会貢献活動がバリューチェーンに該当しないケースがあるが、それは本業を通じて事業と社会に貢献するSDGs活動ではない(事業性と社会性が両立していない)ボランタリーな活動である。
SDGs活動は、Should(社会課題)、Would(自社の想い)、Could(自社のこだわり・もちもの)の重なり合う活動、つまり自社が行う目的(Why)が明確な活動がもっともよいとされる。こられに1つも当てはまらないボランタリーな活動の場合は、見直しをするとよい。
SDGsマッピングの作成により、自社の既存事業とSDGsの関連性がわかるだけではなく、今現在注力しているゴール、今後注力すべき活動、貢献できていないことが明確になる。
SDGsマッピングにより注力すべき活動とゴールが明確になったら、次は活動の強化である。
ある大手化学メーカーでは、SDGsマッピングの結果、自社の活動は環境への影響が大きいことがわかり、事業活動を通じて発生する環境負荷のさらなる低減を目指して、MFCAの導入を決めた。
MFCAとは、マテリアルフローコスト会計(Material Flow Cost Accounting)のことで、製造プロセスにおけるマテリアル(原材料、副資材など)やエネルギーのロスに着目して、そのロスに投入した材料費、加工費、設備償却費などを総合的にコスト評価する原価計算・原価分析手法である。
マテリアルとエネルギー消費量削減の取り組みであるMFCAの導入メリットは以下の3つである。
MFCAは資源生産性向上により、環境保全活動と経営成果(コストダウン)の同時実現ができる手法であり、SDGsのゴール7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」、ゴール12「つくる責任 つかう責任」への貢献を強化する取り組みとなる。
近江商人の心得である三方よしが根づく日本企業では、既存の事業や活動でもSDGsに貢献している活動は多くある。そのため、ステークホルダーからは、なぜその活動を自社が取り組むのかという目的を明確にすること、そしてその活動そのものを強化することが求められている。バックキャストでのマテリアリティの設定とともに、フォアキャスト、つまり既存事業のさらなる強化も視野に入れてSDGsへの貢献を果たしていただきたい。
dXコンサルティング事業本部
チーフ・コンサルタント
大手電機メーカーで実務を経験した後、2018年にJMAC入社。製造業を中心に、SCM改革、製造/物流現場改善のコンサルティングを行っている。サステナビリティ分野では、GHGプロトコルスコープ3排出量算定やマテリアルフローコスト会計(MFCA)推進などを支援している。
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