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エネルギー解析の新たな指標:エクセルギー

第3回 エクセルギーとは

  • SX/サステブル経営推進

山田 朗

第1回第2回のコラムでは、エネルギーには仕事に変換できるエネルギー(有効エネルギー)と仕事にはつかえないエネルギー(無効エネルギー)が存在することや、そもそもエネルギーや熱(温度)とは何かなど、エクセルギーを語るうえで必要な情報を簡単に記した。

今回はいよいよ【エクセルギー】の概念を記したい。
エクセルギーの名は1953年ドイツの熱工学者ラントによって提示されたが、実際エクセルギーの概念は1909年のフランスの熱力学者ジューク、更には1824年の熱力学の始祖カルノーの論文にも見ることができる。ただその呼び名はエクセルギーとは言わず「有効エネルギー」などと呼ばれていた。これほど長い歴史を持ちながらもあまり普及してこなかったのは、その概念の捉えにくさや計算の複雑さなどが影響していると言われている。

エクセルギーの理解促進のため関連する重要な考え方である「カルノーサイクル」と「熱力学第二法則」に触れていこう。

カルノーサイクル

熱から取り出せる最大の仕事量は、理想の熱機関(熱エネルギーから仕事を取り出す機関)であるカルノーサイクルで示される。これは等温膨張、断熱膨張、等温圧縮、断熱圧縮という4つの工程で作られたサイクルで、冷めない熱源と温まらない放熱先が前提の理論上のサイクルである。このサイクルの効率、カルノー効率は、与えた熱の温度T2[K]と廃熱温度T1[K]だけで示されるのだ。

カルノー効率=1-T1/T2・・・・・・(式1)

与えた熱のエンタルピーQ[J]にカルノー効率をかけたものが最大仕事量[J]となる。

最大仕事量=Q×カルノー効率=Q×(1-T1/T2)・・・・・・(式2)

例えばT2が1000℃(=絶対温度1273K)、排熱温度T1を100℃(=絶対温度373K)とすると、カルノー効率=1-(373K/1273K)=0.71となる。
与えた熱Qを100[J]とすると、最大仕事量=100×0.71=71[J]となる。

エネルギー保存則では仕事と熱は等価で変換可能であるが、カルノー効率は理想機関であっても、熱は100%仕事に変換できないことを示している。この場合は理論的に71%しか取り出せず、29%の無効エネルギーが生じる。

熱力学第二法則とエントロピー

熱力学には第二法則もある。これは何らかの量の保存則ではなく、むしろ非保存、又は物理現象の不可逆性の一般傾向を示した法則である。

例えば熱は高温から低温に流れその逆は自然には生じない、高圧の気体は自然に膨張し定圧の気体となるがその逆は外圧を加えないと起こらない、水の中に塩を入れると塩は水に溶け一様な塩水になるがその逆に塩水から塩だけが自然に集まって水から抜け出すことはない、など物理現象の「一方通行」を宣言した法則であり、まさに現実の姿を表している。熱力学第二法則は一般的に以下のように表現されている。

  • 熱は自分自身で低温物体から高温物体に移動することはできない。
  • 外部に何も変化を残さずにある熱源の熱を継続して機械的仕事に変える機械は存在しない。

この自然現象の不可逆性をどのように定量化するか、それを示したものがエントロピーという量になる。以前熱とは分子の運動エネルギーであることを書いたが、このエントロピーは分子の配置の乱雑さを表している。よって固体よりも液体、液体よりも気体の方が分子の動きが活発になるのでエントロピーは増加する。エントロピーは無秩序さを表したものであるともいえる。

このエントロピーS[J/K]は取り出すことができない(仕事に変換できない)熱の固有量で、与えられた熱量Q[J]をその熱の温度T2[K]で割った値となる。

S=Q/T2・・・・・・(式3)

そしてT2は時間とともに環境温度に近づいてゆくため、エントロピーは常に増大する方向に動く。例えば80℃(352K)のお湯は大気に熱を放出し、最終的に環境温度、例えば15℃(288K)の水になる。その変化は次のようになり、エントロピーは増大していることが分かる。
Q/352<Q/288 

エンタルピー、エントロピー、エクセルギーの関係

エクセルギーの概要

エクセルギーの概念を図で示すと図1のようになる。通常われわれが扱っているエネルギー量はエンタルピーと呼ばれる。その中には有効に使えるエネルギー量であるエクセルギーと無効エネルギーがある。無効エネルギーは熱力学第二法則で述べたエントロピーに環境温度(=周囲の温度)T0を乗じた量であり、理論的に仕事に変換できないエネルギーだ。

エクセルギーの定義式は以下で表される。

エクセルギーE=Q×(1-T0/T2)・・・・・・(式4)

これは(式2)のカルノーの最大仕事量の式と酷似している。廃熱温度T1を環境温度T0に替えたものである。全てのものは環境温度に近づいてゆくので、有効エネルギーの最大値は排気温度を環境温度まで下げてエネルギーを使い切ることになる。この式からT2温度が低いほどエクセルギーは小さくなり、環境温度と同一温度ではゼロになる。つまり全て無効エネルギーになってしまうことが分かる。

実際に計算してみよう。

ふろの湯を40℃に沸かすために100Jのエネルギーを投入し環境温度を25℃(=298K)とすると40℃(=313K)のお湯のエクセルギーは、
Ex=100J×(1-(298K)/(313K)=100×0.048=4.8J
100Jの投入エネルギーがたったの4.8Jのお湯になってしまう。残りの95.2Jは取り戻すことができない無効なエネルギーだ。100℃でもエクセルギーは20J、80%は無効エネルギーである。発電所のガスタービンなど1500℃という超高温でも無効エネルギーは36%ある。  

電気エネルギーや化学エネルギーなど高いエクセルギーを持つエネルギーを用いて低温の湯をつくるのは大きな無駄であることがよくわかる。
以上はある量の熱エネルギーから取り出せる仕事量をエクセルギーとして求めたものだ。ある状態の物質から熱や仕事を取り出し、その熱も有効に仕事に変えながら、これ以上変化しなくなる(周囲と平衡する状態)まで状態変化をさせた時に取り出せる最大の仕事量としてのエクセルギーを考えてみよう。実用的には周囲と平衡するまでのエンタルピーの差(H―H0=⊿Hと表す)の熱量が使用できるが、そのうちエントロピーの差(S―S0=⊿Sと表す)に環境温度を乗じた無効エネルギーを引いたものがエクセルギーになる。H0、S0は周囲と平衡状態になった時のエンタルピーとエントロピーである。

(式3)を用いて(式4)を変形させると変化量を示すエクセルギーの定義式になる。
Ex=(H―H0)―T0×(S―S0)=⊿H―T0×⊿S

次回はこのエクセルギーの式を活用したいくつかの分野での計算例を示そうと思う。

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