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第4回 バリューチェーンを変革する

  • SDGs・サステナビリティ経営

大野 晃平

大野 晃平(コンサルタント)

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バリューチェーン全体への貢献の重要性

2020年1月、世界経済フォーラムは「ステークホルダーがつくる、持続可能で結束した世界」をテーマとして、第50回年次総会を開催した。そこでは、これまでのような株主への貢献を中心とした企業活動である株主至上主義ではなく、「企業は顧客、従業員、地域社会そして株主などあらゆる利害関係者の役に立つ存在であるべき」というステークホルダー資本主義への展開が主題となっている。この背景には、短期的な経済価値・事業成果の追求が、気候変動や格差の拡大など複合的な事象として現れてきていることがある。つまり、気候変動による影響緩和に向けた環境価値向上と、経済格差による社会的弱者の包括に向けた社会的価値向上を目的として、バリューチェーン全体で関わるすべての人々を視野に入れた事業をつくっていかなければならない、ということである。

バリューチェーンすべての人々への価値創出を重視する動きは、すでにESG投資(Environment:環境、Society:社会、Governance:企業統治)として近年広がりを見せている。GSIA(Global Sustainable Investment Alliance)の調査によると、2018年時点での世界のESG投資額は3,400兆円であり2016年の調査結果との比較で34%増加している。

また、2020年7月には電気自動車やソーラーパネルなどを販売する米国の自動車メーカーであるテスラ社が、トヨタ自動車を株式時価総額で上回ったと報道された。このことが両社の実態を正確に表しているとは限らないものの、すくなくともテスラ社の「持続可能なエネルギーによる輸送手段の提供」や「エネルギーインフラの革命」といった非財務的価値の打ち出しが功を奏した結果だといえる。

自社らしさを活かしてバリューチェーンの課題解決に貢献する

事業による利益創出から、ステークホルダー全体に向けて価値提供するために、まず何から始め、どのように進めればよいのだろうか。国連グローバルコンパクトが発表したSDGsの企業行動指針である「SDG Compass」には、5つの推進ステップが提示されている。

STEP1:SDGsを理解する

企業がSDGsを利用する理論的根拠、企業の基本的責任の理解をする

STEP2:優先課題を決定する

バリューチェーンをマッピングし、影響領域を特定し、優先課題を決定する

STEP3:目標を設定する

目標範囲を設定し、KPIを選択する

STEP4:経営へ統合する

持続可能な目標を企業に定着させ、すべての部門に組み込む

STEP5:報告とコミュニケーションを行う

効果的な報告とコミュニケーションを行う

STEP1「SDGsを理解する」ことはもちろんのこと、SDGs推進を始めるためには、STEP2「優先課題を決定する」ことが重要となる。どのような規模の企業でも経営資源は限られているため、自社としてどこに資源投下することが経済価値・社会的価値ともに最大になるか、レバレッジの判断が求められるからである。

自社としてのSDGs推進の優先課題を決定するためには、自社の経営目的、つまり"自社らしさ"を明確にすることが望ましい("自社らしさ"の追求については、前回のコラムで)。

その際はまず、自社のバリューチェーン上でどのような環境的・社会的課題が生じているかの見える化が必要である。それらに自社の事業がどのように影響しているのか、放置することで長期的に社会そして自社の事業にどのような影響が生じうるかを想定し、それらを排除するための施策を検討する、というアウトサイドインの発想が求められる。バリューチェーンを変革し、ステークホルダー全体に貢献するためには、自社が企業活動を通じて提供したい価値を再認識しない限りは成功しないのである。

ネスレの共有価値創造

最後に、自社の提供価値(経営目的)とバリューチェーンの変革を推進し続けている企業として、ネスレの事例を紹介したい。

ネスレは自社の経営目的を「お客様のためにクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献する」と定め、栄養価値の向上を追求することで健康的なライフスタイルを支援し、社会への貢献を目指している。この経営目的に基づいてネスレが展開している商品は、ミネラルウォーターやコーヒー、ココア飲料など水資源が欠かせないものである。そのため、ネスレは自社のバリューチェーンを水資源という領域でとらえ、とくに消費段階と生産段階について社会課題の明確化と施策展開している。しかし、日本国内では水資源の枯渇を意識しないかもしれないが、世界的には水資源の需要に対して供給が間に合わなくなることが予測されており、水資源の過剰消費や水質汚染は事業リスクなると捉えられている。

それを受けてネスレは、生産工程における省資源化に加えて、衛生的な水資源にアクセスできない地域におけるインフラ整備し、水資源へのアクセス提供を支援している。だがこれは事業リスクの回避のためだけではない。地域住民の衛生環境、健康状態の改善や生活水準の向上という社会貢献活動となることに加え、長期的にはネスレ商品の購買・消費者となることによる経済価値にもなるというサイクル構築をつなげているのである。

また、水資源はコーヒー豆などネスレ商品の原材料生産にも欠かせない。ネスレは生産段階において、零細な生産者に対して高収量の苗を供給し、栽培指導することによって、収穫量・品質向上につなげることで、生産者の生活水準改善の取り組みも実施している。これは同時に責任ある調達として原材料の品質・価格の安定化や、ブランド力強化にも寄与している。

このようなカタチで自社らしさを追求し、社会課題をバリューチェーンに基づいて全体的にとらえ実行することが、経済価値と社会的価値の同時創出の実現につながるのである。

自社の提供価値(経営目的)とバリューチェーンの変革を推進し続けている企業:ネスレの事例

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