第5回 アルミ溶湯・成型工程での適用事例①
SX/サステナビリティ経営推進

JMACでは1970年代のオイルショック以降、一貫して省エネルギーのコンサルティングを行っている。
コンサルティングのテーマは企業によりさまざまではあるが、とくに【エネルギーを大量消費する工場】を対象とする場合が多い。従来はコスト削減が目的だった省エネルギー活動が、昨今では2030年CO2削減目標達成のための脱炭素型生産プロセスを目指した省エネルギー活動に変化している。
一般的に省エネの活動内容を企業に聞くと、
不在場所の消灯や空調温度設定見直しをしている
断熱材の破れの補修を行っている
など、「無駄取り・節電運動的アプローチ」と「高効率設備への代替アプローチ」が多い。
また、工場の施設課などユーティリティ管理部門に聞くと、ボイラーの空気比の改善やコンプレッサーの加給圧の見直しなどより専門的な「ユーティリティ設備の運用改善アプローチ」の施策も出てくる。多くの企業がこの3つのアプローチでの省エネ対応を行っている。
しかしそもそもエネルギーがどこでどれだけ消費されているかは不明のまま、生産活動と切り離した活動に留まっているため、省エネに限界感を感じている企業も多いのが実態である。
そこでJMACでは、第4のアプローチとして、エネルギー使用側である工程側からエネルギーの消費の構造を詳細に明確化し、あるべき理論エネルギーと実態エネルギーとの差をロスと捉え、その構造を変えるアプローチ「エネルギー消費構造改革による省エネコンサルティング」を行っている。
エネルギーを詳細に捉えて解析を進めていく作業においてはさまざまな物理学の原理原則を活用するが、工場では「熱」を活用する工程は非常に多いため、「熱力学第一法則」は非常によく活用される。熱力学第一法則は、エネルギーの保存則を熱に特化して述べたもので「熱エネルギーと機械的エネルギーは相互に変換可能であり、その総量は保存される」というものである。
たとえばPLガスをボイラーで燃やして蒸気を作り、反応槽の液体を加熱するなどの場合、LPガスという化学エネルギーが蒸気エネルギーに変換され、更に液体の熱エネルギーに変換されるが、それらのエネルギーの総量は、設備の効率、機器自体の昇温、放熱なども考慮すれば、保存されるわけである。この法則を活用してわれわれはさまざまなエネルギーを同じ物差しで測り等価変換させ、ロスの算出を行っている。
こうした理論を活用してエネルギー解析すればするほど、これらの理論のベース(仮定)の置き方と現実に適用する世界の間にさまざまな疑問を感じるようになった。
たとえば熱力学第一法則は、理想状態(全くロスの無い状態、いわゆる可逆過程)を仮定し創られた理論である。しかし現実の世界は不可逆過程である。たとえば熱は放っておけば温度が下がり、何もエネルギーを加えずに元の温度に戻ることはない。ヒーターを使ってお湯を沸かす工程では、ヒーターの電気エネルギーが水の熱エネルギーに変換され等価とみなされるが、熱エネルギーは全て電気エネルギーに変換できない。「覆水盆に返らず」が現実の世界である。
さらには、これらの理論はエネルギーの量について述べたものであり、エネルギーの質(価値)については一切考慮されていない。現実の世界ではエネルギーが仕事として有効に使われることが重要であり、仕事に変換できない使えないエネルギーは価値が無い。実はエネルギーには、このように「有効に使えるエネルギー」と「価値が無い無効のエネルギー」が存在するのである。それらを定量化し、限りあるエネルギーをいかに価値ある有効エネルギーとして活用してゆくか、無効なエネルギーをいかに少なくするかを考えるかが重要である。
この現実の世界における有効に使えるエネルギーを定量的に示すものが「エクセルギー」である。従来のエネルギー「量」の評価だけでなく、現実的に活用できるエネルギー、つまりエクセルギーというあらたな尺度を用いてエネルギーの質も考慮したエネルギー解析が重要と考えている。
現在JMAC社内でも研究を進めているこの「エクセルギー」について、「エネルギー解析の新たな指標:エクセルギー」という主タイトルのもと、そもそもエネルギーや熱とは何か、エクセルギーの概念、実際のエネルギー解析の活用事例など数回の連載でコラムを書いていこうと思う。
なお、これからの話は少し専門的な内容となるので、エネルギー管理や省エネルギーを技術的な立場から推進している方などを対象としている。計算式などは系の置き方などによって複雑になるが、もっとも基本的な考え方や計算式に留める。その点ご了承いただきたい。
SX&パブリック事業本部
シニア・コンサルタント
1991年 JMAC入社。生産、開発部門のコンサルティングを経て、15年ほど前から環境分野を中心としたコンサルティングに従事。主要テーマは、環境 経営戦略立案、環境マネジメントシステム(ISO14001)の高度化、LCAを活用した環境負荷の定量化と削減、省エネルギー推進(エネルギー生産 性)、資源生産性向上支援など。環境を入り口として、開発、購買、生産、物流、マーケティングなどのさまざまな機能の生産性向上につなげる支援を志向して いる。
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