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ナガセケムテックス株式会社

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日本企業において、生産性改善活動は職場の小集団活動として現場の困りごとを改善し、生産性向上という成果創出を自分たちの手で行う活動として取り組まれてきた。ナガセケムテックス株式会社では、全社活動として全員参加、現場社員の意識改革、現場による改善成果創出をキーワードとして、従来の生産性活動から枠を広げ、ベテランから若手への世代交代という課題にも取り組んでいる。その背景や思い、活動を通した現場の変化、今後の定着化に向けた活動についてお伺いした。

次世代を担うメンバーがもっと元気になって欲しい

ナガセケムテックス株式会社は、nagase_morita.jpg2001年にナガセグループの主要ケミカル製造4社が統合して誕生した企業である。その前身は1930年代に創業開始した長瀬産業株式会社尼崎工場に始まる。各社が長年培った合成・評価・配合・バイオの技術を深化、融合し、さらに新たな創生・製品開発をし続ける化学メーカーとして、近年では、エレクトロニクス、 ライフサイエンス、自動車、環境をはじめする幅広い分野において高機能、高付加価値な化学製品を提供している。

元々グループ会社であり文化が似ていた4社ではあるが、製造現場では装置の大きさ、製造ロット、納期、顧客からの要望の多さ、品質の厳しさなどにも大きな違いがあり、 改善活動の取り組み方やスキルにもバラツキがあった。同社は2013年1月JMACに依頼して3ケ月をかけ、播磨事業所2工場の診断を行い、工場の課題を抽出した。そして人材のローテーションによるスキルの共有化も行いながら、JMAC支援の下2013年11月生産性向上を目的としたマスタープランづくりをスタートさせた。

nagase_ishihara.jpg活動当初から事務局を担っている、社長室 石原 敏浩氏は「当時私は生産本部 生産技術部 部長として活動を推進していましたが、ものづくり企業の基本として製造現場が元気でなければいけないという考えが根底にありました。受け継いできた技術やノウハウもあり、現場は個別に改善に取り組んできましたが、合併で社員は600人超の規模になり、縦の組織だけでは解決できない課題も出てきました。会社の仕組みとして課題解決に向けた議論をする場が少なくなっていたこともあり、もっと若手メンバーの意見を吸い上げるそんな場を増やしたいと考えていました。何よりも次世代のリーダーたちが変化に対応していく力を付け、自ら解決していくような人材へと育って欲しいという思いがあり活動をスタートさせました」と活動の原点を振り返る。立ち上げに際しては、生産本部の部長クラス、検討メンバー全員が参加してワイガヤを行い、その中で「G(元気に)T(楽しく)M(前向きに)活動」という活動名が付けられた。

GTM活動が全社プロジェクトへ

同社は作成したマスタープランを元に、2014年4月からモデルチームを中心に生産性向上nagase_shimizu.jpgマスタープラン実行フェーズへと活動を推進させた。

実行フェーズから現職となった、取締役 播磨事業所長志水 修三氏は「工場では以前から改善提案活動を15年位続けており、今でも年間1000件以上の改善提案が出てきますので、この点はうまく定着していると思っていますが、さらなる合理化やコストダウンを目指した生産改革に会社として取り組む必要があるとも思いました。我々の規模に合った、地に足の着いた活動にしたいという思いがあり、小さくても成功体験を積み重ね、メンバーが自信を付けて成長して欲しいと考えました。活動を通して改善が促進し、ものづくりの一体感を感じて欲しいとも思っていました」と数値の成果と合わせて職場に浸透した活動を目指していたと語る。

常務取締役 森田 悟氏は「私が2014年に播磨事業所に赴任した当初、GTM活動は非常にいい活動だと思いましたが、生産本部内だけでは活動の幅が狭くなってしまうとも感じました。他部門と協力し垣根を取り払いながら進めなければならない改善もありますので、きちんと全社プロジェクトとして立ち上げて定着させる必要性を感じました。検討の段階では投資対効果という議論もありましたが、合理化で成果も出しながらメンバーが成長して次の自分たちの文化を作っていく、そんな活動だと捉えていました。そのため石原部長に専任の推進役となってもらい、社長からも全社活動としてのコメントを出してもらいました」とGTM活動を全社プロジェクトへと拡大した思いを語る。

組織として人材のローテーションを行いながら、合わせてGTM活動を通した多能工化や、他部署の仕事を知ること、見えていない問題点の顕在化など、気づきの感性を研ぎ澄ませてもらいたいという思いが込められ全社プロジェクトがスタートした。

改善経験も違う忙しい現場 反応や成果も様々

nagase_morimoto.jpg日々お客様のオーダーに応える忙しい現場の反応はどうだったのだろうか。大型装置を使用し、改善活動の経験も豊富なベテランも多い、機能化学品事業部 生産第一部 部長の森本 正志氏は「機能化学事業部(以下機能化学)では従来から安全生産体制推進、不良生産の低減、作業環境の改善、合理化という4本柱の活動を推進してきましたので、改善を推進する土壌はありました。活動は経験のある班長クラスを中心に進め、合理化案を着実に進めることができましたが、日々改善を進めていたこともあり、改善成果として現場内で出来る範囲の内容が多く数値的には少ない状況でした。今回、全社プロジェクトとなり、新たなチャレンジとして他部署に協力を依頼し計画生産による効率改善も目指しているところですが、垣根は高く現在は部門でできる改善を着実に進めて、成果に繋げているところです」と次の課題を見据え活動をしているという。

一方若いメンバーが多く、調整が必要な小型設備を使用して、少量多品種、タイムリーな対応が求められる、nagase_wakisaka.jpg機能樹脂事業部 生産第一部 部長 脇坂 広明氏は「私はスタート時、機能化学に在籍しており、その後、機能樹脂事業部(以下機能樹脂)に異動となりました。機能樹脂は合理化活動の経験が少なく、生産量も多く現業の忙しさがあり当初抵抗感はありました。時にはJMACが来る日に少人数で準備不足のまま対応をすることも見うけられました。反面、改善余地は多いため、歩留りの悪い工程を修正する事で改善数値は上がり、成果は上がっているものの意識変革としては内容が追いついていないという実態でした。ただ、活動を進める中で問題点や課題を活発に出す意識の変化は見られ、徐々に活動が浸透していますが、まだまだ道半ばの状況です」と語る。

「できるんですね」  現場の気持ちが動き始めた


nagase_honcho.jpg事務局で、設備・環境安全統括本部 エンジニアリング部 エンジニアリング課 第2チーム 本長 直樹氏は「私は現場のメンバーと年齢的に近いこともあり、同じ目線で話ができると思っています。日々の仕事に追われている現場が、仕事にやりがいを感じ目の色が変わっていくことで、生産性向上にも繋がるのではないかと感じています。活動を通じて、始めは発言をしなかった若いメンバーが意見を言うようになり、事務局として自由に議論ができる場作りの大切さを実感しています」と語る。

石原氏は「現在ではワイガヤの場に様々な部署のメンバーが集まってきており、今までにない変化が見られます。また、現場からの提案で上長が動き、他事業部を巻き込んで取引先に工程変更の申請承認が通り生産効率が上がったという、組織の垣根を越えた初めてのケースが生まれました。メンバーからも『こういうことってできるんですね』という発言が出る大きな変化で、事務局としても嬉しい瞬間でした。こうした活動のプロセスを通じてメンバーのものの見方、データの解析など生きた教育、人材育成の場となっていると実感します。会社としてこういった場を作ることがいかに大事なことか学びました」と語る。

事務局と共に活動を推進してきたJMACのチーフ・コンサルタント 島崎 里史は「今回のGTM活動の推進には、プランをしっかり立てること、目標管理においては実現するための道筋を一緒に整備することを心がけました。そのために、分析方法や情報収集などの改善推進についての知識のベースを作りながら、早く成果感を実感できるテーマ設定や、職場別に若手メンバーが自身で進められる育成テーマを置いたり、他事業部への働きかけや垣根を壊すチャレンジが必要なテーマなど、バリエーションを持たせ活動に広がりが出る工夫をしました。活動を通して自分たちで考えるきっかけができ、ひとつ高いステージからの問題意識が芽生えたと思います。もっとこういう場づくりをして欲しい、教育機会が欲しいという積極的な言葉も出てくるようになりました」とその変化を語る。

活動をさらにドライブさせる!

2015年度は全社活動となって2年目、同社では活動をさらにドライブする大事な年と位置付けている。森本氏は「交替勤務体系のため、打合せも取れにくい環境下で、問題点があった時もメールで情報共有する一方通行的なコミュニケーションも多かったと思います。メンバーもGTMを通じてテーマを出し合い、議論して決めて行くことの重要性に活動を通して気づきを得ました。合理化と合わせ議論をする時間を増やしたことで、特に、若いメンバーも課題を出し意見を言うようになりましたし、着実にレベルアップしています。今後は他部署を巻き込んだ計画生産や稼働率の向上、垣根を越える高いハードルにもチャレンジして行きたいと思っています」とさらなるレベルアップを目指している。

脇坂氏は「現在は少しでも計画的な生産を行って活動の時間が作れるよう、他部署と連携して在庫の持ち方、計画変更の理由などリストアップを進め原因を明らかにしているところです。活動時間がとれるようになれば、成果だけでなく、意識改革や人材の育成に繋げて、どんどん若いメンバーから意見がでるような活動にしたいと思っています」と動き出している。

生産品目の違いによりそれぞれの工場の特徴はあるが、全社活動で問題点も明確になり、活動推進者の「変えていく必要がある」という共通認識にも繋がっている。

更なる躍進に向かって

島崎は「今までの活動は、現場の目線であるべき姿を目指してきました。今後の活動では、併せて全社の視点のあるべき姿と活動全体のマスタープランの議論が重要だと考えています。そのためには、まず余力を作り体制化すること、そして継続する仕組み化も必要です。その中で、環境の変化に柔軟に対応できるマスタープランを作ることが活動の"きも"になると思っています」という。またその実現に向けては成功へのストーリーを皆で共有することと、そのためのシナリオ検討が必要だともいう。

業務を平準化して全員に教育の機会を与えてあげたいという志水氏は「合理化、コストダウンは終わりのないテーマで、停滞する時期もあると思います。まず10年続けるにはどうするかを部門主導で考えて欲しいと思います。また全社プロジェクトとしては、活動の定着化に向け、部門の垣根を越えた議論が必要だと思っています」。

森田氏は「JMACには改善の成果と合わせて、メンバーが成長を感じ活動が根付くことも目的として推進してもらっています。私も現場の変化を感じていますが、社員からも『ぜひ継続して欲しい』と要請される活動になっています」とまさに現場がG(元気に)T(楽しく)M(前向きに)なったことが評価されているという。

同社では、仲間を集めて議論する風土ができ、一人では変えられないことも力を合わせて変えられる経験を積み重ねている。そして次はこれを文化にするため全社が一丸となって次の一歩を踏み出したところだ。

担当コンサルタントからの一言

変化に強い現場になるには「欲」をかけ!

現場の改善活動が進まない、海外工場よりも本家であるはずの日本がおとなしいという声を最近伺うことがあります。これは、決まったことを決められた通り「作業」する現場が増え、価値を付けるために「作業」を変え続けるという「仕事」が減ってしまっていることだと考えています。改善を通じて、変えることができるという成功体験を積み、苦労しながら進めた効果・貢献を見えるようにすることで達成感を知る。それにいい意味で味を占めて、欲を持つこと、欲を持ってどう変わっていくべきか、という議論に繋げていくための場づくりが大切だと感じます。

島崎里史(チーフ・コンサルタント)

※本稿はBusiness Insights Vol.57 からの転載です。
社名・役職名などは取材当時のものです。

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