第14回 「まずやってしまって、後で謝る」原則で行動すること

2016年5月31日

 前回も書きましたが、最初はわかってもらいにくいものを社内提案して先に進めるという非常に困難な道を歩むのが、社内発のイノベーションです。提案する側には、信念、志、情熱、熱意、根性、ガッツ、粘り強さ、人脈、社内政治力......などが求められます。ちょっとやそっと否定されたり非難されたりしてもあきらめることなく、しぶとくあの手この手で賛同者を増やしていくプロセスです。

イノベーティブなプロジェクトを引っ張る際に少し意識したほうがいいことのひとつを今回は書きます。

「まずやってしまって、後で謝る」の原則

 イノベーションは、従来の常識では理解しにくい要素が多少なりともあります。従来かの常識や旧来のパラダイムで考えると、たとえ結果的に成功する筋の良いアイデアであったとしても、アイデアの段階では最初から多くの人に理解されることは難しいものです。

社内でアイデアを提案しても、いろいろな批判・反対の声があがり、"潰されて"しまいかねません。潰されてしまっては先に進めないので、潰されないようにしながら少しずつ前に進んでいく"したたかさ"がイノベーションを引っ張るリーダーには求められます。

 画期的な新しいアイデアはなかなかわかってもらえないのが世の常です。わかってもらえないひとつの要因は、そのテーマを推進する人の説明力の低さにあると考えるのが謙虚な姿勢でしょう。新しいことを進める人間として、その内容について極力わかりやすい説明ができるように最大限尽力することが、まずもって大切です。

 その説明努力を十分にした上で、それでもなお理解されず前に進めなくなりそうな時、意識すべき行動原則のひとつが「まずやってしまって、後で謝る」です。

 新しいことをやろうとするときに、いろいろと上の人や関係部署の許可をもらっておくべきと思われるシーンがあります。

 「10万円以上の支出には上司の許可が必要」というような明確な社内ルールに該当するようなケース以外にも、暗黙の慣行として許可が必要な気がするというケース、あるいは「後からとやかく言われたくないからあらかじめ断っておいたほうがいい」と自己保身的に許可をもらいにいくケースなどがあります。

 たしかに上の人に伺いを立てずに何かしてしまうと、後から「なぜ事前に話をしないんだ。ルールを守れ。筋を通せ」という感じで小言を言われてしまうおそれはあります。なかには「俺を無視するのか。バカにするな!」などと、すごくご立腹になる人もいるでしょう。

 小言(こごと)で終わらずに大事(おおごと)になることもありえます。世の中には、いろいろな人がいますから......。

 しかしです。そういう感じの人(後で、腹立たしく思いそうな人)たち全員にアイデアを説明して「OK。やっていいよ」と快諾いただける可能性は現実には低いものです。OKがもらえると思うなら説明力でなんとか乗り越えようと思うはずですが、乗り越えられそうもないと思っているのでイノベーション推進の当事者は困るわけです。

 「こりゃ、いくら説明してもラチがあかない」ということならば、事前の許可をもらわずに動いてしまって、話をひとつでもふたつでも前に進めてしまうことが、社内イノベーションの原則行動だと、私は信じます。そして、後で上司や関係者の怒りを買ってしまったら、「申し訳ありません」と平謝りして許しを乞うことで、何とかその場をしのぐというやりかたです。確信犯的にそれをやるということを、私はおススメしています。

 もはや古典になりつつありますがギフォード・ピンチョーの『社内起業家(イントラプルナー)』という本にある「企業内起業家の十戒」のひとつが、まさにこの原則を端的に言い切っています。

 ・許可を得るよりも、許しを乞うほうが簡単であると知れ
 ・失敗して許しを乞うほうが、スタートの認可を請うよりもたやすいことを悟れ

ふだんから信頼の貯金をしておくことで、ここ一番での反則が正当化できる

 「まずやってしまって、後で謝る」作戦において、後で謝ったときに許してもらえるためには、ふだんから信頼の貯金をしておくことが実際的なポイントになります。

 「まあ、ルール違反だけど、○○さんだったら、許さざるをえないよな」と思ってもらえるか否かは、そのときの謝り方の巧拙でなく、本質的にはそれまでの行いで信頼を勝ち得ているかどうかで決るものです。ここ一番で「許可をもらわずにやってしまって、後で謝って許してもらう」という作戦をとるには、ふだんから信頼を得ておくこと、(俗っぽく言えば)いろいろと周りに貸しをつくっておくことに尽きます。

 そのような信頼の貯金があるので、「○○さんが、そこまで言うなら、しかたがない」とか「○○さんだから、許そう」ということになるものです。



 ここまで述べてきたような実践的な知恵を、OJTを通じて先輩は若い人に教えていくべきだと思います。ここ一番で奥の手を使うために、ふだんの仕事振りが重要なのだということを、折にふれて説いていくことが、イノベーションに関わる部門の先輩の重要な役割なのです。

 R&Dの現場において、技術的な知見のOJTも重要ですが、まさにこのようなイノベーションの推進の知恵をOJTしていくことも重要なのです。

コンサルタントプロフィール

塚松 一也

塚松 一也

R&D組織革新センター チーフ・コンサルタント

R&Dの現場で研究者・技術者集団を対象に、ナレッジマネジメントやプロジェクトマネジメントなどの改善を支援。変えることに本気なクライアントのセコンドとして、魅力的なありたい姿を真摯に構想し、現場の組織能力を信じて働きかけ、じっくりと変革を促すコンサルティングスタイルがモットー。ていねいな説明、わかりやすい資料づくりをこころがけている。
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