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第13回 「もうじきいなくなるから」に続く言葉は何ですか?

2016年5月 9日

社内発イノベーションで生じる提案者と審議者の軋轢

 そもそもがイノベーションというものは滅多に起きないことなのですが、R&Dの掛け声として「イノベーションを起こせ!」といつもいつも言われています。少なくないR&D部門で、年間計画あるいは中期計画に「イノベーション」という単語が含まれているのではないでしょうか。

 その取組みの良し悪しは意見が分かれるところですが、R&D部門の一人ひとりから何かイノベーションの種のアイデア出しを求め、社内審査に通れば少し予算をつけて研究開発の次のステージに進めるというような取組みをしているところも多々あります。「イノベーションはセンスのいい人間こそが良質なアイデアを思いつくもので、広く呼びかけることに実質的な意味はない。皆のモチベーションのためにやっているのだ」という捉え方もありますが、ここではこの類の取組みの良し悪しについては触れず流すことにします。

 今回問題にしたいことは、何かしらイノベーティブなアイデア(少なくとも思いついた本人はそう思っている)を企画書にしたため、しかるべき"偉い人"の前でプレゼンテーションをする際に起こりがちな軋轢やすれ違いについてです。

 イノベーションあるいはイノベーティブというのは、要するに従来の発想になかった真新しいアイデア・考え方です。画期的な商品、奇想天外な事業、従来を否定するプロセス......。イノベーションはその特性からして、最初から多く人に理解されるものではありません。多くの人から「わかった!それいいネ」という賛同が最初から得られるというアイデアはさほどイノベーティブでない可能性が大です。一概に言えませんが、真にイノベーティブなアイデアは、従来を生きてきた人からすれば、「なんてバカなことを言っているんだ!」あるいは「言っている意味がわからない」という反応になるものです。

 そのアイデアが真にイノベーティブなのか(真に世の中に役立つ新しいものなのか)は神様(あるいはそれに近い人)にはわかるでしょうが、多くの普通の人には最初はわからないものです。

 最初はわかってもらいにくいものを社内提案して先に進めるという非常に困難な道を歩むのが、社内発のイノベーションです。提案する側には、信念、志、情熱、熱意、根性、ガッツ、粘り強さ、人脈、社内政治力......などが求められます。ちょっとやそっと否定されたり非難されたりしてもあきらめることなく、しぶとくあの手この手で賛同者を増やしていくプロセスです。このイノベーションを引っ張るリーダシップについては、また別の機会に書くようにします。

レビュアー側が無責任な言葉をつぶやいていないだろうか

 今回は、そのイノベーションの提案を判断する審議者・レビュアー側にフォーカスを当てます。

 歴史ある企業の多くではR&Dのトップ層は50歳越えの人が大半を占めます。20年30年と既存事業の経験豊富な上位マネジメントの人の中には、新しい考え方を理解しにくい、受け入れがたい人もいるでしょう。もっとも、会社の継続を真剣に考えれば、従来にない新しい考え方は、それが結果として成功するか失敗するかは別にして、提案段階では真摯にそれに向き合うものです(向き合うはずです)。

 ところが、「若い人で何か新しいこと考えればいいんじゃない。このままでは、うちの会社ジリ貧だから10年後はなくなるんじゃないか(笑)。まあ、私は5年後にはこの会社にいないからいいんだけど......」という文字どおり無責任な発言をする年配のマネジャーにときどき出会います。マネジメントの責任放棄のようにも聞こえます。本人は深く考えずに、照れ隠しで(?)、つぶやいているだけなのでしょうが、そのつぶやきが提案者側にどういう心理的影響を及ぼすのかに想像をめぐらすべきでしょう。

 「よくわからないから反対だ」というのであれば、まだ説明の余地がありますし、違う説明をしようかという意欲・ファイトも湧くものです。

 しかし、そもそも考える気のない人を相手にするのはやっかいです。「もう自分は残り数年でこのまま何もしなくても逃げ切れるので、後はし~らない。」などと、そもそも提案に真摯に向き合おうという気がないことを本人が明示的に言っているわけなので相手にしないほうがいいのでしょうが、相手が意思決定者なだけに相手にしないわけにはいかないのです。本当にやっかいな構造です。

「私は後数年でいなくなるから」に続く言葉は何か?

 「私は5年後にはこの会社にいないから」の次に続く言葉がすごく大事だと思います。「私もこの会社で過ごすのは残り少ないから、この種が育って花を咲かせ実を成らせるのは見届けられないかもしれない。でも、この会社にいる限りは、種蒔きも水やりも真剣にやろうと思う。退職後、これが成功したことが伝わってくることを信じている」――このようなことが感じとれるメッセージが大事なのではないでしょうか。



 多くの歴史ある大事業も最初は小さなスタートだったはずです。もちろん、最終的にねらいたいのは大型事業なのでしょうが、その最初となるかもしれない"小粒"をバカにしてはいけない。R&Dのトップマネジメントは、種を大事にし、小さな芽を大事にする、そのことを最後の最後までメッセージを発しコミュニケーションし続けること、その姿勢が重要だとつくづく思います。

コンサルタントプロフィール

塚松 一也

塚松 一也

R&D組織革新センター チーフ・コンサルタント

R&Dの現場で研究者・技術者集団を対象に、ナレッジマネジメントやプロジェクトマネジメントなどの改善を支援。変えることに本気なクライアントのセコンドとして、魅力的なありたい姿を真摯に構想し、現場の組織能力を信じて働きかけ、じっくりと変革を促すコンサルティングスタイルがモットー。ていねいな説明、わかりやすい資料づくりをこころがけている。
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