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積水化成品工業株式会社

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プラスチックス・ソリューションで無限の可能性を追求する 〜医・食・住から工業製品まで幅広く プラスチックスで人と社会を支え続ける〜

近年、事業環境変化のスピードは加速し続けている。そのスピードに追い付きながら、新しい技術やビジネスを生み出していくことは容易ではない。そうした中、積水化成品工業(以下、積水化成品)は次々と新製品を世の中に投入し、高業績を上げ続けている。それを支えているのは、2つの開発推進体制と「お客様と一緒にビジネスをつくり上げていく」という開発哲学だった。

「いいものが売れるのではなく、売れるものがいいものです」。代表取締役社長 柏原正人氏の言葉には、技術畑を歩んできた自らの経験が刻まれている。今回、柏原氏に開発への想いやスピード開発の流儀、グローバル戦略、今後の展望について伺った。

食品トレイから自動車部材まで プラスチックスの可能性を追求する

積水化成品は1959年(昭和34年)の創業以来、中間素材メーカーとしてプラスチックスを発泡させる技術で事業を拡大してきた。現在はその世界トップレベルの発泡技術を核に、顧客企業の業務改善や社会インフラ整備など、さまざまなビジネスソリューションに挑戦している。

「積水化成品は生活分野をベースにスタートし、成長してきました。振り返ると、やはり食に関連する社会インフラをずっと支えてきたのではないかと思います」と語るのは代表取締役社長の柏原正人氏だ。積水化成品が国内初の技術で開発・製造した精肉・鮮魚トレイ用の素材はセルフ販売普及の一翼を担い、生鮮食品を新鮮・安全に輸送する鮮度保持容器は食の物流を革新した。こうした発泡プラスチックスの断熱性や軽量性、緩衝性は、建物用断熱材や屋上緑化工法の資材などにも活かされ、快適な住まいづくりと省エネに貢献している。

生活分野に加え、事業は工業分野へも伸展し、家電・IT、輸送関連のビジネスでは精密機器や自動車部品の梱包材はもとより、製品の部材までも開発・提供している。

IT部材では、独自技術を駆使して開発した非発泡の「テクポリマー」がある。液晶画面全体を均一な明るさにする光拡散機能を持ち、画面を見やすくするキー素材としてテレビやパソコン、携帯電話などに用途を広げてきた。自動車部材では、多種多様な発泡プラスチックスが安全性の向上や軽量化、燃費向上に貢献している。たとえば、下肢部衝撃吸収材に採用されている「ピオセラン」は、発泡性・剛性に優れたポリスチレンと耐衝撃性に優れたポリオレフィンの複合発泡体で、衝突時に割れることでエネルギーを横に逃がし、搭乗者を守る。最近では、この「ピオセラン」とワイヤーを一体成形する技術で、座席シート部材の軽量化と組み立て工数の大幅な削減に成功した。

「われわれはこれまで生活分野と工業分野で多くの可能性を追求し、形にしてきました。しかし、当社のプラスチックスを発泡させる技術で世の中に貢献できることはまだまだあります。今後は座席シート部材のような他素材との複合成形品もいろいろな形で展開しながら、多種多様な提案をしていきたいと考えています」と柏原氏は語る。

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代表取締役社長
柏原 正人 氏

スピード開発で時代の一歩先へ 「お客様と一緒に」つくり上げる

柏原氏は1983年の入社以来、技術畑を歩み開発リーダーとしても活躍してきた。2014年のトップ就任から3年が経つ今、重視しているのは「スピード感」だ。「事業環境変化のスピードは年々加速しています。その変化に適応していくためには、時代のスピードより一歩二歩先に行くスピード感を持たなければいけない」と語り、そうした開発をしていくためには「お客様と一緒にビジネスをつくり上げていくことが重要である」と続ける。

「私自身、これまでさまざまなお客様との開発を手掛けてきましたが、『これは完璧だ』というものを持っていっても大概は売れないものです。お客様のニーズやウォンツを具現化してビジネスをつくり上げていくわけですから、われわれだけで100%のものをつくるのはとても難しい。むしろ、8割くらいまで詰めてお客様のところに持って行って『もっとこうしたほうがいい』とアドバイスをいただきながら一緒につくり上げていくことが重要で、その方が仕上がりも早いのです。最後の詰めの2割に結構時間がかかりますから、そこをお客様と仕上げていくような形で進めるのがいいと思いますね。持って行って初めて本来のご要望が見えてくる可能性もありますから、『8割できたらすぐにお客様のところに行きなさい』と言い続けています」

そして顧客の要望が「こういう機能を持った製品に仕上げたい」といったウォンツの場合には、顧客とのディスカッションも必要になってくると語る。「ウォンツの場合、どんなものが完成形になるのか最初はまだ見えていません。われわれがよく知っているのは、『素材の知識』『それを発泡させた機能』『さまざまな設計を踏まえた可能性』ですから、それをご提案させていただいて、お客様とディスカッションをする中で形が見えてきます」。ここでは企業秘密に触れることもあり、互いの強い信頼関係も必要とされる。積水化成品のスピード開発は、こうした「ものづくりへの信念」とこれまで築き上げてきた「顧客との強固な信頼関係」が礎となっているのだ。

組織の「横断」と「集中」で ソリューションを進化させる

積水化成品では、戦略的なスピード開発をしていくために2つの開発推進体制を敷いている。それが「CSチーム」と「事業化推進センター」だ。

「CSチーム」はクロスファンクショナルソリューションチームの略で、組織横断的なチームでソリューション提案を行う。スピーディーな新市場・新用途開拓、成功事例の横展開を目的とし、全事業部と全国9つの地域代表グループ会社が連携してテーマごと、地域ごとにチームを発足している。

「基本的に、考え方や進め方、扱う商材は同じですからCSチームをたくさんつくり、全国共通のことはみんなで一緒に、地域特有のことはオリジナリティのある形で行っています」

たとえば、新潟や長野の山地で「この農産箱がほしい」と要望が出れば、同様に涼しい北海道にも適していると考えて横展開していくのである。

一方、「事業化推進センター」は技術部門と営業部門を1つに集めたセンターで、開発スピードアップと事業化推進を強化すべく新設された。センター内にチームをつくり、新製品を世の中に投入するためのマーケティングやサンプル作成を一貫して行っている。

「当社の新しい素材をお客様に見ていただいて、『おっ!』と思われたときにちゃんと話が聞けて、すぐに機動力を発揮できるチームにしています。事業化するまで動き回れる専任部隊という位置づけのチームなので『好きなように走り回っていいから、お客様にしっかり提案してきなさい』と言っています」

現在運営しているチームでは、新開発製品の「エラスティル」と「ST-LAYER」の実用化を目指している。「エラスティル」はビーズの軟質系発泡体で、自由な形に成形できるため、「体にフィットするプロテクター」や「軽量でクッション性のある車椅子のタイヤ」など、これまでにない用途を探求している。また、「ST-LAYER」は発泡体を炭素繊維強化プラスチックスでカバーリングした複合品で、軽量かつ高強度、ねじれにも強いため、ドローンのボディパーツに採用されたほか、今後は産業用ロボットのアームや自動車部材などの幅広い分野に展開できそうだ。

「2つとも世界最大級の展示会に毎年出展しています。今回はドイツで行われましたが、メンバーの中には展示会が終わってもそのまま現地に残ってお客様のところをずっと回っている者もいますね。じっとしていても先に進まない、走りながら考えるという感じです」

こうして事業化の目途がある程度ついた段階で事業部に移管し、チームは解散する。柏原氏は「事業がうまくいったからこそ解散するので、解散するのはいいことなのです。だから、次から次へと新しい事業化推進センターのチームをつくらないといけない」と素早いチーム結成、事業化、解散がスピード開発の好循環を促していると語る。

グローバル戦略のカギは 「拠点化」と「マーケティング力」

今後はグルーバルレベルでのソリューションを加速すべく、工業分野に注力していきたいという柏原氏はこう語る。 「グローバルに展開するためには、世界共通のビジネスとして使える工業分野は不可欠です。国内マーケットは少子高齢化などの影響で縮小傾向にあり、日本密着型の生活分野を事業基盤にしているだけでは大きな伸張性は望めません。現在の売上構成比は生活分野6割、工業分野4割ですが、今後は生活分野を堅調に、工業分野を大きく成長させて、2018年度中には五分五分にまで持って行きたいですね」

また、グローバルな展開をしていくうえで重要なのは、
①拠点化を進め、現地供給体制を整備すること
②マーケティングで世界のニーズを取り込んでいくこと
の2点であるという。

「まず、当社が今までお客様と一緒にやってきたことを、国内のみならずグローバル拠点でもできるようにすること、これは大きいですね。たとえば、自動車メーカーが海外で工場を立ち上げときに、そこでも同じものを提供できるようにしていくことが非常に重要です」

また、マーケティングについては「たとえばドイツの展示会だったら欧米の営業スタッフが集まり、来場者と議論しながらネタを見つけていきます。グローバルで出た要望に対して素材開発は日本で行い、それをすぐにグローバルへ生産を含めた展開をする。ニーズのあるところで、ニーズにお応えできるような形で製品をご提供させていただいて、その社会に貢献していくことが大切だと考えています」

現在、積水化成品はグローバル拠点を含めた日本の全自動車メーカーに部材を供給しているが、今後はさらに世界中の自動車メーカーへの供給を目指し、製品開発を進めていく。2016年には展示会の開催都市ドイツ・デュッセルドルフ市内に欧州初の開発拠点を開設し、自動車部材に使われる「ピオセラン」をはじめとする発泡プラスチックスの試作品をタイムリーに提供できる環境を整備した。

今後の見通しについて柏原氏は、「海外拠点も順調に拡大していますし、工業分野の新しい商材にもしっかりとついていっていると思いますので、早晩、生活分野と工業分野は五分五分になると思います」と語り、「そのためにもっと開発を加速する必要があります」と表情を引き締めた。

「全員経営」のチャレンジで プラスチックスの未来を切り拓く

グローバルに工業分野が躍進する中、国内でも生活分野の新開発製品が好調だ。「素材のご要望にあわせて改良してきた結果、今、伸びている」と柏原氏が挙げたのは、「電子レンジ対応型の素材」だ。これまで発泡が困難とされてきたPET樹脂を独自技術で発泡したものや、従来のポリスチレン系樹脂発泡体をさらに進化させたもので、その断熱性の高さから電子レンジにかけても熱くならない。弁当や麺類の容器としてシェアを伸ばしている。

また、医療・健康の領域では心電図用電極や電気メス用対極板、美容パックなどに使われるハイドロゲル素材「テクノゲル」の需要が増えている。「医療向け素材はこれからの高齢化社会に貢献できると思いますし、美容素材は新興国の方たちも興味を持っているのでワールドワイドに伸びていくと思います」と期待を寄せる。
 今後の展望について柏原氏は、「プラスチックスのビジネスで地球や環境にどのような貢献ができるのかをしっかりと考えていきたい。日本のみならずグローバルな社会に貢献し、産業界に貢献し、環境に貢献していくことが重要です。それを実現する形で成長していきたい」と語る。

そのためには時代に先駆けた技術革新をし続けることが必須であり、何をどうすべきかについては「その都度みんなで議論しながら、お客様との対話を通じて見つけていくことが大切である」と語る。

「経営者も社員も、みんなが想いを持って方向性を一致させて、それぞれの方向に対して自分が果たすべき役割を意識しながら一緒になってやっていこうというのが、創業の精神である『全員経営』です。創業から57年経った今、その発想は積水化成品のカルチャーになっています。ときにはぶつかり合ってもいいと思っています。切磋琢磨しながら、全員経営でチャレンジしていく。そういう気持ちは、これからもずっと持ち続けたいですね」

プラスチックス・ソリューションで無限の可能性を追求し続ける積水化成品グループ。「全員経営」のチャレンジで、これからもプラスチックスの未来を切り拓いていく。

積水化成品のスゴイ技術①
2つの特性をハイブリッド化----ピオセラン

ピオセランは、独自のポリマーハイブリッド技術で耐衝撃性や耐摩耗性に優れたポリオレフィンの特性を付加させた発砲樹脂。発砲ポリプロピレンに対して圧縮強度は約20%向上したうえに寸法安定性も高く、精密かつ複雑な設計にも対応できるようになった。

包装材だけでなく、今や乗用車のドアパッド、バンパーの芯、嵩上げ材、下肢部衝撃吸収材などに使われ、供給もグローバル規模で展開、さまざまな用途への応用が期待されている。

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写真提供:積水化成品

積水化成品のスゴイ技術②
優れた素材特性と発砲技術の融合化----エラスティル

エラスティルは、優れた素材特性と積水化成品が長年培ってきたビーズ発砲体のノウハウ・技術を融合させて開発した「熱可塑性エラストマービーズ発泡体」。ゴムのような弾性、発砲スチロールの軽さ、ウレタンフォームの柔らかさを兼ね備えた画期的な製品で、同社の発砲成形技術により高品質なものを大量に生産することもできる。

こうした特性により、スポーツ、各種産業、公共インフラ、医療、住宅、日用品、寝具など、幅広い分野での用途に適用できる可能性がある。

vol.65_01_gijyutu02.jpg写真提供:積水化成品

コンサルタントからの一言

ヒット商品の開発でジレンマに陥っていませんか。

技術開発に最大限の力を注いでも、ヒット商品に恵まれない、商品にお客さまが満足していない、というジレンマ(悪循環?)に陥っていませんか。積水化成品工業様はこうしたジレンマを克服し、新分野でも製品を開発し高業績を上げ続けています。その秘訣について開発畑出身の柏原社長は「顧客ニーズ・ウォンツの捉え方」「顧客共通の便益の束ね方」などの事例を交えて語ってくださいました。また、同社の秘訣を掲載した書籍『儲ける開発』が好評発売中です。「ヒット商品は最先端技術から生まれる」「ヒット商品を生み出せるのは一握りのスーパーマン」などは幻想だということがわかるでしょう。

シニア・コンサルタント 中村 素子

※本稿はBusiness Insights Vol.65からの転載です。
社名・役職名などは取材当時のものです。

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