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ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社

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一歩高い視点から新しい"おいしい"の実現に向けて  ~チャレンジ精神で研究所を活性化~

ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社では、ますます厳しくなる市場環境の中で差別化され、競争力ある商品の開発が求められている。研究開発部門では、技術やその強みを知っている技術者が、他部門と力を合わせて新しい「おいしい」を生み出す新たな取り組みを始動した。その活動や、取組みの背景、今後の目指す姿についてお伺いした。

"新しい価値"の提供を目指して

ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社(以下ポッカサッポロ)は2013 年1 月に株式会社ポッカコーポレーション(以下ポッカコーポレーション)とサッポロ飲料株式会社(以下サッポロ飲料)が経営統合し誕生した会社である。ポッカコーポレーションは1957年に設立されたニッカレモンを、サッポロ飲料は1906年に設立された大日本麦酒株式会社を前身としており、歴史を積み重ねた企業同士の経営統合となった。

同社の事業は、コーヒーを代表とする飲料事業を中心に、ポッカレモンを代表とするレモン事業、じっくりブランドを展開するスープ事業、業務用食品事業、海外ブランド事業などを大きな柱としている。経営統合によって、今までの知見だけでなく、新たな知見や素材を活かした"新しい価値"の提供を目指す同社だが、「見つける力」「引き出す力」「発想する力」という3つの力を成長の源泉とし、新しい「おいしい」を生み出すことを目指す姿に据えている。

その同社において、2013 年下期から、研究開発部門はチャレンジする風土の強化に向け動き出した。

姿の見えにくい研究所 実は若いエネルギーに溢れていた

平山氏当時、活動に向けた企画の議論に参加し、現在は事務局として活動を牽引している、研究開発本部 中央研究所 開発第二G グループリーダー 兼 研究企画室 室長 平山 悌也氏は、「私は2013 年1 月に研究所に異動してきましたが、それまで10 数年コーポレートの部署におりました。経営企画やマーケティングなど事業を中心に研究所の活動を見ることが多く、活動が十分に伝わっていないという印象がありました。しかし、研究所に異動すると、若いメンバーが多いこともあり、皆元気が良くて、こんなにエネルギーを持ったメンバーだったんだと正直思いました。その時に、このパワーを生かして何か出来るんじゃないかと研究所の可能性を感じました」と振り返る。

経営層からは、研究開発部門においてもチャレンジ精神が弱くなっているのではないか、もっともっとチャレンジして行かなくてはいけないと課題を出される中で、「チャレンジしなければならないことはわかっているのですが、一体どうやってチャレンジすれば良いのか、そのノウハウがありませんでした。商品を開発する上で基礎になる部分を一度勉強する必要があるのではないかと考え、JMAC に依頼をしました」(平山氏)。

JMAC からは、実際の商品に近いテーマを設定し、座学だけでなく顧客への検証も行いながら、実務に直結したアウトプットを出す手法を盛り込んだ研修が提案された。

「無」から「有」を生み出すことへの挑戦

研究開発部門とマーケティング部門から選抜された9名が2 チームに分かれ、モデルケースとして2013 年8月にスタートした今回の活動は、「チャレンジ商品企画プロジェクト」と名付けられ、全5回の1日研修と最終の発表会まで約半年を掛けた活動となった。

奥田氏事務局であり、研修の受講生でもあった研究開発本部 研究企画室 兼 中央研究所 開発第二G 係長 奥田 秀泰氏は「中途採用の私には前職と比べてみると、商品のサイクルが非常に早く、一人ひとりが責任を持って与えられた仕事をしっかりこなしていると思います。ただ一方で、商品化までのスケジュールがかなりしっかりと決まっているため、業務負荷も大きく個人で頑張っている印象もあります。仕事の進め方も研究所だけでなく、生産やマーケティング、調達など多くの部署とコミュニケーションを取りながら進めなければならないことは前職と大きな違いがあります。今回の活動で、一連の商品企画の流れを体験できたことは、今後の商品開発や技術を考える上で非常に重要だと感じています」と忙しい中でも研修に前向きな気持ちで取組んだと語る。

研修を担当したチーフ・コンサルタントの野田 真吾は「食品メーカーさんは、比較的若い方が多いのが特徴でもあります。その中でも、他社に比べて元気がある印象を受けました。こういう活動を始める時には、忙しいのにさらに業務負荷が増えるといったやらされ感を持つ方もいます。しかし、今回の活動では、皆さん素直に、そして楽しんで、自分達でやっていこうという風土を感じました」とチャレンジ精神を持った現場であるという印象を語る。

平山氏も「今回のキーワードは『チャレンジ』ですので、既存の商品にこだわらず、今後商品化したら面白いと思われる商品を企画しようというところから始めました」とテーマ設定にも一工夫したという。

活動は、企画提案力向上に向けた視点として、技術がもたらす価値や可能性について柔軟な発想ができる「目利き力」、行動を起こす力とそこから得た気づきを次の行動に活かせる「行動力」、自分のやりたい事を周りに理解してもらい共により大きなモノを生み出していく「共鳴力」この3つの視点を養うことを主眼に置いて進められた。

「目利き力」、行動を起こす力とそこから得た気づきを次の行動に活かせる「行動力」、自分のやりたい事を周りに理解してもらい共により大きなモノを生み出していく「共鳴力」この3つの視点を養うことを主眼に置いて進められた。

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開発メンバーが共通言語を身に付け始めた

具体的には、実現したい商品を想定し、顧客に「訴求したい魅力(仮説・主張)」をビジュアル化してコンパクトにまとめた「仮想カタログ」を作成する。それを元にユーザーの意見を聞き検証し、リバウンド分析を行って、更に企画に反映していくというものだ。

研修を終えて奥田氏は「技術や研究のテーマを今まで考えていた視野よりも、かなり上位の概念で考えられるようになったと思います。広く物事を捉える視点ができたことは大きな変化でした。顧客のヒアリングからも、そこに含まれている真のニーズや問題点まで掘り下げて考えられるようになったことが成果だと思います。日々の業務の中でも、商品企画の視点を持って改善点、改良点を含めて考えられるようになったと思います」とものを見る視点の変化を語る。

平山氏は「現在は本社のマーケティングセクションが商品企画を行い、研究所はその開発を行うという役割分担が明確になっています。今回の商品企画そのものは研究所の役割ではありませんが、研究所のメンバーもマーケティング用語といった共通言語を理解し、本社の企画部門と会話が出来るレベルくらいにならなくては、良い商品を作り続けることが出来ないと思うのです。シーズを知っているのは研究所のメンバーですから、企画の真の意図を汲み取る力をつけて、お客様が求めているものをリサーチする情報収集力が身につけば、アイデアを実現する近道にもなりますし、我々の強みを生かした提案ができると思っています」と理想とする研究所員の姿を見据えている。

ニーズとシーズの融合でより強い商品開発へ

実は平山氏は入社当時研究所の技術者としてスタートした経緯がある。「当時は商品企画を専門に行う商品開発室という部署があって、社長直轄で、商品開発室と研究所が組んで商品を企画していました。その過程で試作品を作り評価を聞く場面や、様々な調査に同行してお客様の生の声に触れる場が多くあったのです。

その日々の活動の中では、全員が毎日情報を社長に提供することが義務づけられており、毎日生の情報を仕入れていこうという意識も高かったと思います。現在は役割分担が綺麗にできていますので、企画の段階から研究所員が参画する機会は少なくなっていると感じます。役割分担はありながらも、通常の業務の中で今回のプロジェクトのような生の声に触れることや、ニーズ、シーズ両方から議論をする場があった、以前の良さにも学ぶべき点があると思っています」とニーズ、シーズの情報が融合し、両部門が両輪としてうまく回りながら商品開発を行うこと、それが強い商品開発に繋がるという。

今回の活動をきっかけに基礎体力をつけて、その風土醸成に向けて動き出した同社の研究所だが、2014 年からは奥田氏を含めた2名が社内講師となり自走で活動を推進している。

野田は「今回の活動の最後に、チャレンジする風土を作っていくためには、チャレンジする場を継続的に持ってくださいというお話をしました。自走活動を形骸化させないためには、しつこく繰り返すことがポイントになります。また、これからの課題として、他部署の方も提案されることに慣れていないため、どう反応して良いかわからないケースも見受けられました。せっかく一歩を踏み出した若い芽を、温かく育てる環境づくりも大切だと思います」と今後の課題を語る。

風土になって始めて強みが発揮される

JMAC の支援に対して平山氏は「若いメンバーや企画をどんどんやりたいメンバーの視線に合わせて臨機応変に活動を進めていただけたと思います」という。そして社内講師を務める奥田氏は「今回の活動は新しい視点を多くいただけてとても新鮮でした。自らが講師となることで、もっと基礎知識を持たなくてはならないという気づきも生まれました。現在は書籍などでも勉強するようになり、一つひとつの言葉の意味や考え方の重要性を理解して話ができるようになってきました」と自走をする中で気づきや成長もあるという。

現在は研究所内の共通言語を持った人口を増やすため、自走活動のステップを推進している同社だが、平山氏は「我々は今回の活動を通して、情報を自ら収集する大切さを改めて感じましたし、JMAC から学んだ考え方や手法を取り入れて、試作し、提案して、リバウンド分析を反映し、試作を繰り返すサイクルも学びました。このサイクルをまわすことで、体質化、風土として根付かせることが最終的な目標です。そのために社内的に提案ができる場を作ることも、私の役割りだと思っています」と風土化に向けて活動を加速している。

毎日の生活に彩と輝きをくわえる新しい「おいしい」を届け続ける企業であるためには、新たな商品開発をし続けるチャレンジングな風土が必要だ。そこにはマネジメントの揺るぎない信念が不可欠となり、時間も掛かるものである。商品企画、研究所の両輪がうまく回り、そこから生み出された新商品が世に出る日が楽しみだ。

担当コンサルタントからの一言

アイデアを育てる組織を作る

新商品・新事業の創出、新たな研究テーマの探索など、技術者から新たな提案を求めることが増えてきています。しかし、とにかくアイデアを出せと言われても、簡単にアイデアが出るものではありません。また、検討が浅いことからアイデアを出す事自体を躊躇してしまう事も多いのです。
良いアイデアを出す為には、日々の業務とは別に考える為の時間(非日常の場)を設ける、アイデアに対して正解を求めるのではなく練り上げるポイントを探す姿勢を持つ、そして、個人で考え抜くのではなく組織で知恵を集めてアイデアを練り上げるようにすることが大切です。

野田真吾(チーフ・コンサルタント)

※本稿はBusiness Insights Vol.56からの転載です。
社名・役職名などは取材当時のものです。

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