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カルソニックカンセイ株式会社

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グローバル拠点での良品生産を支える「ワンランク上」への挑戦  ~「自分たち流」をつくり、次世代へつなげていく~

カルソニックカンセイ株式会社は、40 年にわたりグローバル展開を続けてきたが、近年は顧客の海外進出に伴い、海外拠点の拡大を急速に進めてきた。そのため、グローバル化に対応した改革が急務となったが、そこには改革を阻む「内なる壁」があった。「内なる壁」とは何なのか、そしてそれをどう乗り越えていったのか。その改革の軌跡と今後の展望についてお聞きした。

急速なグローバル展開で「ワンランク上」が課題に

総合自動車部品メーカーであるカルソニックカンセイ株式会社は1938 年、「日本ラジエーター製造株式会社」として設立された。その後1988 年に「カルソニック株式会社」へ社名変更し、2000 年には「株式会社カンセイ」と合併して「カルソニックカンセイ株式会社」(以下、カルソニックカンセイ)を設立し現在に至る。 

日本にグローバル本社を、欧米とアジアに統括機能を置いてグローバルネットワークを築き、さらに日本、アメリカ、メキシコ、イギリス、フランス、中国、タイ、インドに開発拠点を、そして世界に60 を超える拠点を持つ。これら拠点では2 万人を超える従業員が日々製品の最適供給に取り組んでいる。

1976 年に米国法人を設立して以来、順調にグローバル展開を続けてきた同社であったが、近年の顧客の海外進出に伴い、海外拠点の拡大を急速に進めてきた。顧客は、いつもカルソニックカンセイとしての高い品質の製品を求めている。現地生産・現地供給の場にあって、そのニーズに応えるためには、良品をコンスタントにつくり続けなければならない。

これについて、熱交事業本部 熱交生産技術グループ部長兼グローバル生産本部 生産技術センター センター付部長 佐藤彰洋氏は「地産地消に対応できる良品をつくるためには、高い技術力が必要なのはもちろんのこと、すべての拠点でその技術が発揮できるよう標準化していくことが大切です。グローバル化の進展に対応していくためには、さらにワンランク上の仕事の進め方をしていかなければいけないという思いがありました」と語る。

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熱交事業本部 熱交生産技術グループ部長 
佐藤彰洋氏

そこで同社は2012 年、「ワンランク上」を目指し、それを実現するため、生産技術センターの改革活動を独自に開始した。

なぜ成果につながらない?立ちはだかる2 つの「内なる壁」

こうして始まった同社の改革活動であったが、「なかなか思うように進まなかった」と佐藤氏は語る。そしてそこには「内なる壁」のようなものがあったのだという。

その「内なる壁」は2 つあり、まず1 つ目は、「『ワンランク上』を具体的にイメージするのが難しい」というものだ。ワンランク上を目指せと言われても、すでに一生懸命に仕事をしているので、自分たちがどこまでやらなければならないのかがわからず、結果として動けていないという状況があった。

2 つ目は、「ベンチマークとのギャップに気づけない」というものだ。これまで、他社は何をどうやっているのかを知る場や機会が少なかったため、それに比べて自分たちはどうなのかという視点をなかなか持てずにいた。結果、目指すべきベンチマークと自分たちとのギャップに気づけず、改革意欲も芽生えないという状況があった。

佐藤氏は「それまでは『変わらなくてはダメだ、ワンランク上を目指せ』とトップダウンで改革を進めていましたが、内部の人間の言うことだけではなかなか伝わりませんでした。それに、自分たちだけでは" なるほど" と思えるストーリーを描くことができなかったのです。そのため、自分たちだけで改革をしていくのは難しいと感じていました」と語る。そこで、同社はこの状況を打破しようと2013 年、JMAC をパートナーに選び、さらなる改革に乗り出した。

JMAC を選んだ理由について佐藤氏は「JMAC には以前から改善手法の講習会などでお世話になっていましたが、活動がうまく進んでいないことをJMAC に相談したことが支援依頼のきっかけになりました。そのときに、さまざまな事例やカルソニックカンセイの立ち位置を紹介してもらったのですが、やはりそういうことを教えてくれながら先導してくれる存在は必要なのだと痛感し、経験豊富なJMAC にお願いすることに決めました」と当時の思いを振り返る。

本活動を今も支援しているのはJMAC チーフ・コンサルタントの柏木茂吉とコンサルタントの後藤芳範だ。当時の同社の印象について、柏木は「立派な仕組みはあるのですが、一人ひとりの皆さんがそれに縛られ、目の前のことをこなすことで精一杯だという印象を受けました。多忙な中でも、仕組みを活用して今後の業務を変えていこうと思えるような支援をしていきたいと思いました」と振り返る。後藤は「とくに若い人たちが苦しそうで、一生懸命やっているのに報われない、という気持ちを抱えていると感じました。ですから、現場の若手エンジニアが少しでも楽になるようにという気持ちで支援を始めました」と当初の思いを語る。

「理想と現実」のギャップを知るまずはそこからだ

新たな活動を始めるにあたり、佐藤氏はJMAC に「目指すべきベンチマークとのギャップを自分たち自身で気づき、課題解決していけるような活動にしたい」と伝え、自助努力するためのサポートを依頼した。

ギャップに気づくためには「現状を正しく認識する」ことが必要だと考えていた佐藤氏は、まずそこからスタートした。そのために「振り返り分析」と「問題の吐き出し」を行い、JMAC を交えたマネジャー層のミーティングを週1 回、約40 回繰り返した。

「マネジャーミーティングでは、各チームの実践状況を共有し、それを踏まえたうえで、自分たちは何をしなくてはいけないのか、そのためには部下とはどういう活動をしていくべきなのかということを徹底的に話し合いました。

こうして試行錯誤を重ねながら『自分たち流』の感覚を育てていきましたが、このようなときはとかく内向き思考になったり、自分たちのやり方に拘泥したりしがちです。しかし、JMAC が他社情報やベンチマークを提供してくれたり、こういうやり方はしないなどと指摘してくれたりしましたので、ベンチマークとのギャップへの気づきをベースとした『自分たち流』の改革感覚を育てることができました」(佐藤氏)。

このときのことを柏木は「現実にしている仕事は目標達成にあまりつながってないという認識を持ち、そこを何とか変えなくてはいけないというところに徐々に変わってきているのを感じました」と振り返る。

率直な「吐き出し」がメンバーのハートに火をつけた!

活動が進み、各チームが変化していく中で、佐藤氏がとくに大きな変化を感じたチームがあったという。それは、「『問題の吐き出し』のときに率直な話し合いができた」チームであった。

佐藤氏は「私たちが一番エネルギーを使ったのが、最初に行った『問題の吐き出し』でした。このときに『なぜ改善活動なんかするのか。このままでいいじゃないか』と正直な気持ちを言えたチームほど、その後の活動がうまく進んでいきました。不満を出し切った後は、『こうしたい』という正直な意見がどんどん出てきて、『私の役割はこれなんじゃないか』と自分たちで工夫して仕事をするようになっていきました。『吐き出し』で腹の中に溜まっている不平不満を吐き出せたからこそ、自分たちが抱える本当の問題に気づき、向き合うことができたのではないかと思っています」と語った。

さらに、このチームを率いるマネジャー自身も大きく成長したという。当初は彼も「このままでいい」と言っていた一人だったが、いざマネジャーミーティングが始まると欠かさず参加し、「変えていこう」というマインドを持って強力に引っ張っていくようになったのだ。

このマネジャーの変化について柏木は「これまでは、変わらなければいけないとわかっていたものの、変わるキッカケがなかったのではないでしょうか。しかし今回、日常業務に連動させて改革を進める中で変われそうだなと感じ、どんどん加速度的に変わっていった、そういうことだと思います」と語る。

後藤は「日常業務の計画の立て方など、変化が目で見てわかるのが良かったですね。自分でも自信を持てますし、マネジャーミーティングで他のマネジャーがいいよねと言ってくれることで、さらに自信がつくといういいサイクルができていました」と語る。

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見つけ、育て、任せるそして、さらに「ワンランク上」へ

現在進行形で活動している同社だが、佐藤氏は「それぞれのチームに成長の差はあるものの、全体的な底上げは確実にされてきていると感じます。また、皆の意識もようやく変わり始めたので、これからが正念場です」とこれまでの成果と今後への期待を語る。

そして、問題点は「元に戻りやすい」ことであると指摘し、「うまくいったと思っても、少し気を緩めると簡単に元の状態に戻ってしまいますし、頭や感覚では理解していても、目の前にあることを優先せざるを得ず元に戻ってしまうこともあります。体質を変えていくことは本当に難しいと感じています」と続けた。

そして、体質化していくために大切なのは「諦めずにやり直し続けること」「核となる人物をつくること」であると強調する。

「元に戻っても、次はもっとうまくスピーディーにやっていこうと考えて改革を続けていくのが、私たちの役割だと思っています。そのためには、それを先頭に立って行う『核となる人物』をつくっていくことが大切です。今後、核になりそうな人物と常にコミュニケーションをとって、状況が変わったら同じ目線・理解になるまで話し合い、認識のベースを合わせていきます。そしてベースを合わせたら、その核となる人物にある程度任せて、そこで元に戻ったとしてもとにかく繰り返しやらせてみるのです。そのときに大切なのは、われわれも核となる人物も共にワンランクアップしたうえでもう一度やり直すことだと思っています」と語る佐藤氏。そうした繰り返しが改革を前進させてゆくのだ。

「次は君たちの出番だ!」次世代メンバーに想いをつなげる

これまでの活動を振り返り、佐藤氏はJMAC について「JMAC は私たちの中に入り込んで、先導士のように引っ張っていってくれました。ニーズに対してわれわれの事例を使った解析データを持ってきてくれるなど、紋切り型ではないオーダーメードのソリューションを提供してくれるところもいいですね。そういったJMAC の情熱に支えられながら、自分たちだけでは越えられなかった『内なる壁』を越えることができたと感じています」と評価する。

柏木は「カルソニックカンセイさんが今後さらにスパイラルアップしていくためには、将来こうありたいという共通の到達点を強く持つこと、そこに至るために自分たちが何をしなくてはいけないのかを考えることが大切です。今までは日常を変えることに重点を置いていましたが、今後は明日に向かってより加速して変わっていこうというステージに移行します。そこでのご支援がわれわれとしても大事だと考えていますし、それが求められていることだと感じています」と語す。

後藤は「今までは日常のトラブルを全員で解決しようという体質でしたが、今後は課長、メンバーの各役職が何をするのかということを改めて定義し、役割を引き上げることが大切です」と語る。

そして、佐藤氏は「今後は、次世代のメンバーを育てられるように人材育成にも注力していきたいですね。また、改革活動で得たことを仕組みに反映させて、QMS(品質マネジメントシステム)を進化させていきたいと思っています」と今後の課題と抱負について述べる。

「ワンランク上」を目指し、改革活動の中で「自分たち流」の道を見つけていったカルソニックカンセイ。「内なる壁」を乗り越えた先には、無限の可能性を秘めた未来が待っていた。グローバル展開への勢いが加速した今、カルソニックカンセイの活躍からますます目が離せない。

担当コンサルタントからの一言

問題意識をポジティブな変革の原動力に変換する

不満がうっ積して挑戦的な目標に向かえない ―― このような停滞状態は多くの企業で見られます。こうした場合、心の抑圧を解いて複数名で問題を吐き出してみることで、「自分だけの思い込みではなかった」という安心感や連帯感が生まれてきます。一般的に、問題を言ってばかりの人には後ろ向きだというレッテルを貼りがちですが、実はこのような人が、高い理想像を具体的に持っていることが多いものなのです。改革の輪の中に入ってそのエネルギーを適切に引き出し変換しながら、皆のやる気を起こす「ありたい将来の状態」を描き出し、それを実現するための段階的な行動につなげていくことが、われわれの大切な役割だと思っています。

柏木茂吉(チーフ・コンサルタント)

※本稿はBusiness Insights Vol.59からの転載です。
社名・役職名などは取材当時のものです。

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