ヤンマー株式会社

 ヤンマーは1968年、品質に関する権威ある賞、「デミング賞」をエンジン業界で初めて受賞した。それを支えたのは、YQM(YANMAR Quality Management:ヤンマークオリティマネジメント)と命名された全社あげての総合品質管理活動だった。50年経った今、改めて「品質第一」を掲げたヤンマーは、品質保証教育の再体系化に取り組み始めた。品質革新ロードマップと教育体系の関連づけや、各事業体への説得など、緻密な計画と準備が行われ、徐々に品質意識の向上が進みつつある。「プレミアム品質」へ挑戦するべく、品質保証教育再体系化への軌跡、そして今後の展望などをお聞きした。

なぜ今、「品質第一」なのか?

 ヤンマーは1912年(明治45年)、ガス発動機の修理・販売を行う「山岡発動機工作所」として創業した。ヤンマーといえば農業用トラクターがなじみ深いが、農機のほかに大型船のエンジンや建設機械、エネルギーシステム、マリンプレジャーなど、創業以来100年以上受け継がれてきたエンジン開発技術を生かし、さまざまな分野で事業を展開している。

 創業時からヤンマーの「品質」にかける思いは強く、1963年に3代目社長となった山岡淳男氏は、市場に送り出すすべての商品は「一貫した品質管理のもとで、一貫した品質が保証されたものでなくてはならない」とし、YQM(ヤンマークオリティマネジメント)と命名した総合品質管理活動を導入した。

 この活動の特徴は、対象を生産部門だけにとどめず、ヤンマーグループの全部門としたところにある。結果、1968年には権威ある「デミング賞」をエンジン業界として初めて受賞した。

 それからも事業の成長を続けてきたヤンマーであったが、グローバル市場への展開、顧客要求の多様化への対応などの環境変化を受け、品質の捉える範囲が広がり、従来の取組みだけではカバーしきれなくなってきた。

 時代の先端をいく魅力的な商品・サービスを創出する裏側には、確固たるベースが必要であり、その足元を固めるうえでも「今こそもう一度YQMの理念に立ち返り、すべての事業部門で品質改革を推し進めなくてはならない」と考え始めた。

 その背景について、本活動における品質保証教育の担い手である野田康宏氏(品質保証部 企画グループ 専任部長)は「昨今では、とくに企業コンプライアンス事案が企業の存続を左右するため、改めて品質に関する考え方を隅々まで浸透させる必要があった」と語る。

品質保証部 企画グループ 専任部長
野田 康宏 氏

品質保証教育の再体系化におけるポイント

 ヤンマーはもともと3年前から、アグリ事業部でJMACの支援のもと品質問題に取り組んでおり、並行して「設計品質向上研修」を立ち上げてきた。

 この設計品質向上研修をきっかけとし、全事業部門に展開したのが今回の品質保証教育であるが、なぜ全事業を巻き込む取組みにつながっていったのか。

 これについて、設計品質向上研修を立ち上げ、今回の活動も支援するJMACチーフ・コンサルタントの渡部訓久は「デミング賞受賞以来、ヤンマーさんの約50年間の品質改善活動と品質ロスコストの推移を振り返ると、効率とスピードが重要視されて、品質改善活動が停滞した時期もあったようです。熱心に取り組んでいたときには品質水準がしっかり維持されていて、少し手を緩めるとこれを維持しにくくなる傾向があることがわかってきました。ですから、今まさにもう一段高い品質水準を目指すのだったら、改めて『ヤンマーといえばこの活動だ』と言われるような全社的な取組みを仕掛けるべきだと考えました。まさに、『プレミアム品質』への挑戦です」と説明する。

 野田氏は「私は、『知っていること』と『できていること』とのギャップを認識し、このギャップを埋め続けていくことで真の実力がつくと思っています。ですから、この教育を全社に広げて実力の底上げを図っていきたいと思い、活動を始めました」と振り返る。

 こうして2015年、ヤンマーはJMACとともに全事業で本格的な品質保証教育を展開するべく、大きく舵を切ったのである。

品質改善サイクルを回すべく「定着」した教育を目指す

 活動を始めるにあたり、これまでの教育体系を振り返ると、①教育メニューは多岐にわたるが体系的ではない、②各教育項目が実務でどれだけ成果につながっているかが不明確である----ということがわかった。

 そこで、「品質を確固たるものにするためには、各種手法の知識教育だけではなく、人づくりそのものが重要である」という観点から再構築を行った。

 野田氏は「教育体系をつくる前に、まず品質マネジメントシステムの成熟度の再定義やヤンマーの向かうべき方向性をしっかりと議論し、品質革新ロードマップを策定しました。その中で、品質保証教育の位置づけを明確にしていきました」と説明する。

 また、この教育の目標について野田氏は、「最終的に目指すのは『定着』です。学ぶことだけが目的ではなく、学んで実践して定着して初めて効果が出るので、『定着するまでしつこくやる』ことが大切だと思っています。受講者自身もわれわれ仕掛ける側も、『しつこさ』を前面に出し続けていきたいと思っています」と述べる。

 渡部も「『1日、2日の座学でいろんな手法を学んで、あとは職場に戻ってそれを実践してください』という掛け声だけで終わることなく、教育を起点に、品質改善サイクルがある程度回り始めるところまで『しつこくフォローし続ける』ことにこだわりたい」と説明する。

 それでは全員参加型で取り組むために、各事業体にはどのような働きかけをしていったのであろうか。

 「まずは事業体の意見を聞くべきだと考え、各事業部の品証部長から意見を伺いました。さらに本社の生産本部や研究開発本部など、品質のつくり込みに密接に関わっている部門や全社経営革新プロジェクトメンバーからも幅広く意見を聞いて、みなさんの意見を総合的に生かせるような形にしました。最後は、トップ方針として打ち出していただき、全社方針として品質保証教育を推進することになりました」(野田氏)

実践でレベルアップ! 組織的な取組みへ変化

 こうして構築された品質保証教育体系のもと、現在は多くの事業体でベーシックコースの知識編の研修が進められており、毎回、開発や生産、品管、品証、CS(サービス)などの部門から20人ほどが参加している。

 野田氏は、研修の様子を次のように語った。まず、最近の変化については「開発部門に向けた研修に製造部門の人が参加するなど、部門の垣根を超えた積極的な取組みが増えています。いろいろなところに自らアプローチして『お客様の意見をこのように製造でも反映できるね』と意見交換するなど『みんなでいいものにしていこう』という熱意を感じています。いろいろなところで予想以上に共創が進んでいるのがうれしいですね」と話す。

 また、組織的な活動定着への期待について「ある事業体では、派遣責任者の責任感が非常に強く、責任者も毎回参加して、一緒にいろいろと考えてくれます。演習テーマを決める際も、事業部に合った演習テーマになるような提案やデータを提供してくれるなど、非常に協力的な形で参加していただいています」と感謝の意を込めて語る。

 研修の成果についても「スタート時と比べると、意識的にツールを使ったり、実務にも応用したりと、実践を通してかなりレベルアップしてきています。毎回行う理解度テストも、かなり難しい内容にもかかわらず理解が進んでいるようです。何よりも研修に取り組む姿勢と進め方が積極的になってきているのがとても頼もしいですね」と順調な進展ぶりを語った。

理想のままで終わらせない 「ありたい姿」を実現する教育を

 品質保証教育では、ベーシックコースの次のステップとして、マネジャーコースを2016年下期からスタートさせている。

 これについて渡部は「ベーシックコースで学んだ内容を実務で実践するためには、マネジャーのバックアップは必須です。部門間連携や、品質のつくり込みプロセス全体の改善、近視眼的ではなく、中長期を見据えた改革施策の実践などを期待します」と説明する。野田氏は「すでにベーシックコースで自主的な部門間連携をし始めているので、マネジャーコースでそれを加速していけるのはとてもいいですね。研修前はなかなか難しいと思っていたのですが、こうありたいという理想形を今、実現しつつあると感じています」と語る。

 また、今後の課題について、髙畑泰幸氏(執行役員技監 品質保証部 部長)は「品質問題においては未然防止への取組みが重要です。実際に品質ロスコスト削減の効果を出すまでには長い目で見た取組みが必要ですが、品質保証教育が未然防止につながるカリキュラムになることを期待します。また、ビッグデータ解析のような新技術も出てきており、蓄積された品質情報をうまく活用して、素早くクレームを検知できるシステムをつくっていくことも必要だと思っています。クレーム検知までの時間を短縮できればコストは必ず下がるので『未然防止への取組み』と『問題発生後の対応スピード』の両輪で進めていきたいと思っています」と話す。

 現にある事業体でそういった声を多く聞いているという渡部は「まずは、品質を第一に考える人、組織、風土などの品質改善のベース確立が必要で、そのうえで新たな仕組みやツール構築を目指したい」と述べ、野田氏は「これまでに蓄積されたデータの解析技術の構築も含めて実行していくことが必要だと考えています」と見解を述べた。

執行役員技監 品質保証部 部長
髙畑 泰幸 氏

次世代のリーダーを育て「プレミアム品質」を永続する

 これからの活動について野田氏は「この活動の持続的成長を図っていくためには、『学習する組織』に変えていくことが必要です。学習してこそ改善ができるというところを、みんなで共有して働きかけるような組織体になれば、将来に向けて永遠にサイクルが回っていくのではないかと思います」と語る。そして、今後の望ましい活動のあり方について「品質改善の基本は踏襲しながら、時代時代で目標値も技術・品質レベルもどんどん上がっていくので、それを自分たちで学びとりながら、クリアしていくことが大切だと思っています」と述べる。

 「品質改善サイクルや活動自体にドライブをかける品質保証部門の人は、常に先端を見ている必要があるので、かなりたいへん」(渡部)ではあるが「そういう意味では、いつの時代でも『高い目標、高い視座』を持って臨まなくてはいけないし、われわれ自身が『これくらいでいいか』と思ってはいけないのです」と野田氏は意気込みを見せる。

 今後の展望について野田氏は「これからは事業ごとに伝道師や社内講師を育成していくことが課題です。今回の研修でたくさん育成し、その人たちがリーダーシップをとってドライブしていけるような形に持っていきたい。近い将来には、ヤンマーとしての制度、仕組みであるという位置づけで、人事制度の一環として組み込んで、活動を永続できればと思っています」と語る。

 さらに、JMACについて野田氏は「いろいろなコンサルタントとお付き合いしてきましたが、一言でいうとJMACは非常に稀有な存在です。コンサルタントに対するイメージがガラリと変わりました。前向きな議論ができて実行力もある。成果もしっかり出しながら、親身になって柔軟に対応してくれるところもいいですね。すでに出来上がっているカリキュラムについて相談をしても『こういうふうにしてみましょうか』と検討してくれて、少しでもヤンマーにとっていいものをつくろうという思いを感じています。1サイクル目の研修後に相談して、2サイクル目が始まる前にカリキュラムが見直されていたときは驚きましたし、うれしかったですね。かなり中身の濃い支援をしてもらっていますので、とても満足しています。JMACにはこれからも、同じ目標に向かってサポートを続けていってもらいたいと思います」と期待を寄せている。

 約50年前のYQMの理念に立ち返り、全社的な品質教育再体系化へ着手したヤンマー。今日も、全国のどこかで熱気を帯びた研修が行われている。ヤンマーの「プレミアム品質」への挑戦は、今、始まったばかりだ。

コンサルタントからの一言

品質を"改善の旗"とする!

顧客からの期待に高いレベルで応え続けるには、ものづくりに関わる全部門での取組みが求められます。製品・サービス品質、仕事の質などを通してこそ、全部門の意識やベクトルを合わせた改善が実行できると考えます。品質は企業の体質をあらわしますし、持続的に取り組むべきものでもあるからです。ヤンマーさんでは、まさに品質を旗印に全社的な改革に着手しました。現時点ではまだ静かな波ですが、いずれ大きなうねりとなって、事業成果、顧客貢献、社会貢献、自己成長を遂げていくと期待します。

渡部 訓久(チーフ・コンサルタント)

※本稿はBusiness Insights Vol.63からの転載です。