ポーラ化成工業株式会社

世界中に「笑顔」と「感動」をもたらす技術集団を理念とするポーラ化成工業株式会社は、ポーラ・オルビスグループの商品(化粧品)の研究、生産を担っている唯一の企業であり、高品質かつ安全・安心のものづくりを目標に日々活動している。その開発力・技術力は国内外から高い評価を得ている。品質についても高い目標値が要求される中、さらなる向上に向けてJMAC と取り組んだ改革活動について、同社の西方和博氏(営業・購買担当取締役)、小林一成氏(品質保証部課長)、板井宏子氏(包装課リーダー)にお聞きした。

研究から生産まで一貫した体制で新しい価値を創造し続ける

ポーラ化成工業株式会社(以下、ポーラ化成工業)は1929 年の創業以来、化粧品・健康食品の研究から生産まで一貫したものづくりを行っている。常に「お客さまの期待の一歩先」の製品を生み出すために、基盤研究、開発研究、品質評価研究、包装材料研究、実用化、生産工程を保有し、グループ内の各ブランド企業で行われているマーケティング・商品企画・販売と連携したバリューチェーンの仕組みがあることが同社の最大の強みだ。

研究部門では、エイジングケア・ホワイトニングケア領域に注力しており、その研究開発力は国際化粧品技術者会連盟(IFSCC)での最優秀賞受賞に見られるように世界でも高く評価されている。

生産部門では、お客さまによい商品をお届けしようと品質、安全・安心を従業員全員が心掛けており、総合化粧品工場として、3,000 種を超える商品を年間8,000 万個以上も生産、安定した供給を続けている。徹底した品質管理に努め、1998 年には品質マネジメントの国際規格・ISO9001 の認証を取得、さらに化粧品GMP を遵守した生産体制を整えている。また、2000 年には環境マネジメントシステムの国際規格・ISO14001 の認証を取得している。

ポーラ化成工業は、確かな技術力に裏づけされる「新しい価値」を届けるために、品質保証についても絶えず「ワンランク上」を目指している。

現場を歩き回って感じた検品に頼らない品質保証体制

ポーラ化成工業に課された、品質に関わるもっともハードルの高い目標は「トリプルゼロ」。お客さまにご迷惑をかけるリコールのゼロ、お客さまに届く前の販売網からの引上げゼロ、そして「工場からトラックが外に出たらそこは市場」という観点に立った出荷後流通網からの引上げゼロ――この3つのゼロの達成・維持を目標に生産活動を行っている。とくに3 番目のゼロは、工場にとってはもっとも厳しいハードルだ。

こうした中、西方和博氏(現 営業・購買担当取締役)は2011 年の1 月から生産担当役員として、生産を管掌することになった。もともと開発畑の人間で生産は初めてだったため、最初の2、3 ヵ月はとにかく現場を歩いて生産の実態を自分の目で見て確かめることに努めた。

vol.60_04_01.png営業・購買担当取締役 西方和博氏

「ものづくりの会社なので、まず『品質』です。それで、とにかく現場に足を運びました。実際に行ってみると、トリプルゼロを支える土台としては、かなり不安を感じましたね」(西方氏)

工場では、外にクレームになるものを出してはいけないという意識が先走り、つくって箱に入れた後に箱を開けてさらに検品をして出荷するという多重検査体制が常態化していたのだ。多重検査で守る品質よりも、「つくり」の段階で安心できるようにしておく必要があると感じた西方氏は、「何か根本的な問題があると感じました。対お客さまに関しては、確かに品質保証部が受けるものですが、工場の現場ではそれが具体的な仕事に落ちていないのです。ヘンなものがあれば、手前で取り除けばいい、という感じでした」と当初の不安を振り返る。

客観的な品質診断で漠然とした問題点が明確化

生産担当の役員になって半年間、西方氏は漠然と「根っこを叩かないと...」と常々思いあぐねていた矢先、グループ企業のポーラ・オルビスホールディングス経由でJMAC を知ることになる。

「自分が認識した問題点は、短期の力技で解決できるものではなく、何らかの仕組みが必要だと考えていました。これまでのやり方や現場の風土みたいなものも含めて、第三者の目でみてもらいたいと相談したところ、JMAC を紹介されたのです」(西方氏)

こうしてJMAC のシニア・コンサルタント松田将寿が中心となって、品質保証の現状を詳細に診断することになった。トリプルゼロという非常に高い目標値に向けて奮闘している現場では、確かにさまざまな問題が起きていた。

西方氏が指摘していたとおり、何回も検査を実施する「過剰検査」ゆえに逆に前工程が緩みがちになっていることも、大きな課題として浮かび上がっていた。さらに班単位で構成されている現場では、班ごとに言葉の定義が違うという状況にあることから、統一した解釈ができるように定義をし直す必要性もあった。1 つのキーワードで集められるデータに共通性がなかったり、解釈がバラバラだったりすると、データに信頼性がなくなるからだ。

さまざまな問題はあるものの、松田は細かな診断項目の結果からというより全体に共通する文化や思想から「やり方次第で確実に結果が出る!」と確信したという。

「製品に対するプライドと愛情の強さが半端ではないと感じました。トップから現場までがそうなのです。根底には『いいものをつくる!』という信念があるからこそ、少し時間がかかっても検査依存型から脱却して製造工程で品質をつくり込めるようになるはずだと考えました」(松田)

課題ははっきりした!解決に向けた実践のフェーズへ

「結果は出せる!」というJMAC の思いが伝わったのか、診断結果のレポートを読んだ西方氏は「さすがによくまとまっていて、うまく明文化できなかったり、チャート化できなかったりしたことがすぐに出てきて、やっぱりそうかと納得できるものだったので、すぐにでも実践のフェーズに移りたい」と思ったという。

JMAC の支援が決まると本プロジェクトの事務局が設置され、小林一成氏(品質保証部課長)、板井宏子氏(包装課リーダー)が参加することになった。

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品質保証部課長 小林一成氏

当時の状況を小林氏は「不具合自体が多く、再発もしていました。発生しても検査でカバーするという状態だったので、真因の部分を問題解決しなければ...」と捉えていたものの「これまでさまざまな取組みを実施してきましたが、思うような成果を得られなかったのです。しかし、的を射た指摘を得て変えていくことで良くなるはずだと思いました」と語る。

板井氏は「一番下流の包装工程の検査で流出を抑えていたのですが、実は不具合の発生は日常化していて、重大な問題だとは思っていなかったのです。しかし下流で流出を抑えてもコストがかかるだけと診断で指摘され、上流での対策の必要性を認識しました」と診断結果の内容にすぐに納得できたという。

診断で解決すべき問題点は明らかになった。後は行動に移すのみである。現場の状況からして「問題の根は深い」と見ていた西方氏は、成果が出るまでに4 年はかかるだろうと思っていたが、倍のスピードで進めて2 年で決着をつけることを最初に宣言したのである。

これに対してJMAC は「2 年の猶予を与えていただきましたが、根っこは体質的な問題が大きいので、状況を見ながらどのタイミングで何をやるかを常に意識していました。即効性はないですが、最初にやったのは、『正しいデータ』を取ること、つまり正しいデータを基にするということでした」(松田)と、まずは正確なデータ取りと統計データの正しい取り扱いをねばり強く支援した。データの取扱いが雑になると、重点を絞れなくなり、問題の真因が見えにくくなるからだ。

「現場のリーダーに報告書への記載の仕方、言葉の定義や使い方を教育したころから、少しずつ良くなってきました。さらにそれを読むマネジャー層には報告書を読むだけでなく、実際に現場に行って何を見るべきか?を理解してもらうことに、じっくりと時間をかけました」(松田)

真因を突き止めるこだわりを!継続して得られる活動の手応え

本プロジェクトが始動した当初、現場では「また何か始まったな。そのうちなくなるだろう」という受け止め方だったが、継続して成果を出せるようになったのは、JMACの仕掛けや工夫だけではなく、やはり事務局の存在が大きい。

JMAC のコンサルタント・師田和子は「活動がうまくいったのは、私たちからの提案に対して小林さんも板井さんも、現場目線で『ここは受け入れる』『ここは変えたほうがいい』ということを、はっきりと主張してくださったから」と評価している。こうしたチームビルディングが最初の半年ほどで行われ、それと並行して事務局側でも活動による成果の手応えを実感できるようになっていった。

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包装課リーダー 板井宏子氏

板井氏は「不具合の実際事例を使った勉強会で、不具合の発生プロセス、時系列で考えることなどで、真因と対策にアプローチするやり方を知りました。それまでそうした考え方をしたことがなかったので、すごく勉強になりました。今までは流出させる原因を追っていましたが、そうではなく発生する原因を突き止める必要があったのです」と自身の考え方が変わったことが、活動の実感として得られたという。もちろん、こうした考え方は今では各現場にも広がっている。

小林氏も「データを観察して少しずつですが定量的に良い数値が見えるようになると、成果を実感できるようになります。数値で成果が見えてくるようになると、やはり周りも変わってきたので、活動の手応えを感じることができましたね」と語る。

西方氏は部長会に上がってくる議題に変化を感じたという。「今後大きくなりそうな潜在的な問題が、早期に生産部長会で取り上げられるようになったのです。今では、書類に真因の突き止め、再発防止へのキーワードがきちんと記載されるようになっています」と真因へのこだわりを持つように皆が変わってきたことを強調する。

本当に成果を実感できた工場の改善発表会

このように「変わってきた」という手応えがないと、どんな活動でも停滞してしまう。西方氏自身は、本プロジェクトの「手応え」に対して常に敏感になっていたという。

「現場が変わっていく実感がないと、絶対に失敗すると思っていました。日々、どう進化しているか常に検証したがっていたと思います。事務局との「適度な距離」を保ちながら、上がってくる情報には常に敏感でした。ずっとアンテナを張り続けていた感じです(笑)」(西方氏)

事実、定例の報告会は月に1 回ということになってはいたが、事務局やJMAC で「これは今相談しないとマズイ」ということで相談がもちかけられると、西方氏はなるべく時間を割いて話を聞いていたという。

JMAC にとっては、支援と現場がかみ合った状態にしつつ、さらにそのレベルを上げていくことがカギだった。

松田は「活動支援のギアの上げ方とアクセルの踏み方には、気を遣いました。しかし、西方さんは『ここは今は成果が出ていないけど、これでいい』などと皆の前でピシっとおっしゃるので、現場も納得するのです。それに小林さんも板井さんもタスクフォースとしてすばらしい活躍ぶりでした。チーム力の発揮が大きなポイントになりました」と振り返る。

そして現在、西方氏は真の意味で効果が発現していると実感できるのは、工場の改善発表会だという。若い従業員たちが科学的なデータに基づいて「こうしたらこのような成果が出た」という発表が目白押しに登場するのである。

「2011 年当時と比べ、すべてにおいて良い数値が出ていて、トリプルゼロの継続でもかなりの成果を上げました。発表会をのぞいてみると、現場ががんばっているからこそ、良い数値が出ていることを本当に実感できます」(西方氏)

市場環境の変化に対応する次の打ち手に挑戦していく

2011 年に設定した目標については、確かに一定の成果を得ることができた。しかし、すべてのものづくり企業がそうであるように、ポーラ化成工業を取り巻く市場環境も急激に変化している。内部的には2014 年に工場を統合したため、現在は海外も含めた外注の品質問題、原価問題に取り組んでいる。西方氏自身は、とくに設計段階での不具合の早期発見において、上流設計を同社が実施し、途中から何段階にもなる外注に依存している場合、実生産のどの程度手前で「打ち手」を出せるかが、非常に難しいということを認識している。

「これからの市場環境で、品質保証の投入コストと得られる成果の適正値など、まだまだ解答が見えていないこともあります。内部的には『マイスター』などのキーマンが育ってきたので、維持・継続という面では大丈夫だと思います。ただ、これからの顧客オリエンテッドできちんと分けた取組み、サプライチェーンやバリューチェーンの問題も含めて、次の改革フェーズのキーワードをあげて取り組んでおります」(西方氏)

現場が変わったという実感、成果を出す自信、維持・継続していく仕組みは、次の改革フェーズでも大いに生かされるだろう。厳しい市場環境下でも、同社の卓越した開発力・技術力・ものづくりの現場力は、新しい「お客さまの感動」を生み続けるに違いない。

担当コンサルタントからの一言

自律的運用がスムーズにできる体質づくりを!

品質問題は体質問題でもあり、その「体質を変えたい」という声を耳にします。それには、意識・考え方など体質改善だけでは足りず、目的達成のためのアプローチ(科学的問題解決、組織的な動きを規定するシステム改善)とセットで変えることが必要です。結果、現場で「おかしさ、リスク」を察知、伝達、組織で考え対処する自律的運用がスムーズにできるような体質づくりが可能になります。このためには経営者が自分の信念に基づき、一定の成長(熟成)期間をとって一貫した考え・姿勢で人・現場・組織を育てていくことが必要です。ポーラ化成工業ではそれがうまくできたのだと考えます。

松田将寿(シニア・コンサルタント)

※本稿はBusiness Insights Vol.60からの転載です。