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株式会社大地を守る会

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新たな世代へDNAを継承!持続可能な社会実現に向け挑み続ける社会的企業 ~歴史は一本の無農薬大根から始まった~

昨年ローソンと業務提携し新たな事業展開に入った「大地を守る会」は、1975年"一本の無農薬大根づくり"を合言葉に、無農薬野菜の青空市から始まった。「社会的企業」として唯一無二の沿革、理念を持つ同社が、約40年の歳月を経ながら、いかに次世代へDNAの継承を図っていったのか。その取組みや、今後の展望についてお話しをうかがった。

歴史は「一本の無農薬大根」から始まった

1960年代の高度経済成長期に向かい、日本は食糧増産を視野に、化学肥料や農薬を大量に用いる農業が主流になっていた。その後70年代に入り、環境汚染や生態系の破壊、残留農薬問題が社会問題として浮上する。そのような時代背景の中、1975年「大地を守る会」(発足当初は「大地を守る市民の会」)は産声を上げた。その発起人の一人が、同社代表取締役社長 藤田 和芳氏だ。

case34_pict01.jpg環境汚染や残留農薬問題などに反対を唱えるだけでなく、代替案を提示し自らが行動に移そうと「農薬の危険性を100万回叫ぶよりも、1本の無農薬大根を作り、運び、食べることから始めよう」を合言葉に、団地で無農薬野菜の青空市を開始したことからその歴史は始まった。

その後、同会は77年に株式会社大地として法人化する。当時、有機農業で同様に組織化している団体もあったが、生産者が直接消費者に届け、消費者が畑に手伝いに行くといった形態が一般的だったという。設立から約10年を経た84年に入社した専務取締役 経営管理本部長 浅野井 邦男氏は「あの時代に会社組織が中間流通として入るのは異色であり稀有な存在。そのため、理解されず儲け主義と批判されることもありました」と、振り返る。

それでも同社には「農薬に頼らない野菜をつくる人と、その野菜を食べる人を結ぶことで、自然豊かな大地を広げていこう」という強い志と理念があった。社会運動から派生した異色の歴史を持つ同社だが、その熱い志はDNAとして受け継がれ、約40年の歳月を経て今に至っている。

「大地を守る会」を築いた「4つの世代」

同社では約40年の歴史を、人材の育った背景に合わせて4つの世代で捉えている。まず創業から10年の第1世代。この時代は事業を手さぐりで築いていった「道なき道を切り開いた世代」だ。
1980年には卸部門として(株)大地物産を、食肉部門として(株)大地牧場を設立。さらに、野菜を届けにいくと「肉や魚はないの?」またある時は「牛乳やお茶はないの?」という声が出てくる。そんな顧客の声に応える形で、水産物を扱う(株)大地水産、ジャム、ジュースといった加工品を扱う(株)フルーツバスケットと分社化し、取扱い商材も拡大していった。

そして第2世代に入り、最大のターニングポイントとなる事業が立ち上る。それが1985年に開始された宅配事業だ。当時の拡大手法は新聞の折込チラシが主だった。「朝刊にチラシを入れるとします。するとチラシを入れた日の朝、事務所の階段を上がっていくと、もう電話がじゃんじゃん鳴っている。電話が引っ切りなしにかかってきて、気づけば16時頃という状態でした」と、その前年に入社した浅野井氏は振り返る。

その後も食の安心安全志向の高まりを背景に、有機農業はオーガニックという言葉と共に広がりを見せ、宅配事業開始以前2,000人だった共同組織、共同購入会員は5千、1万、1万5千人と急激に増えていった。まさに95年からの第3世代はそのような先代たちが築きあげた「舗装道路を歩いた世代」なのだ。


そして同社は、2005年8月に本社を千葉県幕張に移転させる。時を同じくして入社してきたのが、最も若い第4世代だった。

現場との接点が希薄に!DNA継承の手立ては?

その頃既に会社規模が拡大した同社では、業務も細分化され、消費者や生産者との接点も希薄になっていた。「私が入社した頃は社員が50人程度。まるで大学のサークルのような雰囲気で、合宿等で寝食を共にしては、その日見聞きした生産者や消費者のことを朝まで熱く議論し合ったものです」そして「命がけで農作物を作っている生産者の方と話すことは、魂を揺すぶられる思いがしました」と、浅野井氏は振り返る。

case34_pict02.jpg取締役管理部 山本 文子氏は「今入社してくる人達は当社の理念や第一次産業を守ろうとか、ソーシャルビジネスというところにすごく惹かれて入ってきます。だから知識は豊富なのですが、生産者の方と顔を合わせたり、青空市で消費者と会話をするような肌で会社の成り立ちに触れる機会がありません。会社として何を大切にすべきかといった理念やDNAを、どのようにつないでいったらいいのかが最大の課題でした」と語る。

事業規模の拡大や世代が混在する今、次代を担う人材に自社のDNAをどのように伝え、育てていけばいいか。また、本社移転で現場との距離感が広がる中、教育策としてどう手を打つべきか。それが同社の抱える人材育成の課題となっていた。

この課題に一緒に取組んだのがJMAC、その中心になったのが、シニア・コンサルタントの伊藤 晃だった。実は同社とJMACの関係は2002年に遡る。

大地のDNAを継承するための教育施策とは!

同心円的な広がりを統合~思いも制度も一つに~

2000年頃同社は、経営資源の有効活用を視野に、分社化していた複数の会社を(株)大地へと統合した。「元々同じ志を持ったメンバーでしたが、統合して改めて、ものの考え方、仕組み、システムも含め全てがばらばらになっていることがわかりました。3年かけて統合がひと段落した際に、2000年という時代に合った人事制度改革、組織整備をしなくてはならないと取組みはじめたのです」と浅野井氏は経緯を話す。

それまでは組織が一気に広がり、年功序列的な組織や人事制度だったが、2002年人事制度の見直しをJMACに依頼する。「打合せを重ねるプロセスで、今までの制度に加えて目的や能力などに合わせた設計を加える案が固まってきました。こういう風に人材教育、評価をしていくと良いんだという学びはとても新鮮で刺激になりました。そして伊藤さんと話すことで頭の中が整理され、人事施策の基本的な考え方や制度のベースとなる姿を描けたと思います」と浅野井氏。

山本氏は「JMACは当社の業務や理念にも理解があって、"当社のために"どういう仕組みが良いのかを寄り添って考えていただけるのでありがたいと思っています」という。その後も制度運用や人事制度改定等の支援を経て、人材育成の課題解決の一つとして2012年に立ち上がったのが若手社員を対象とした選抜研修だった。

成長の鍵は次代を担う若手社員教育だ

case34_pict04.jpgこうして2012年10月から始まった「若手選抜研修」は、初年度は「リチーミング・プログラム」、そして2年目は受講者の2名が企画段階から参画し、受講者の希望が最も多かった「マーケティング基礎研修」を実施した。

その目的は、1年目でコミュニケーション・ベースを強化し、2年目にはスキル・ベースとしてマーケティングを鍛え、それらの習得を通し、次なるステップの理念を体現するというアクションベースへと進めていくのが最終的な狙いである。

この狙いについて伊藤は「第4世代である彼らは、"大地"の理念にすごく共感して入ってきています。ですが、理念に共感するだけでは事業は成り立ちません。だからこそ考え方も結果も大事ということを学んで、最終的な商品・サービスの企画に繋がるマーケティングが必要だと考えました」という。
 

マーケティング基礎研修の狙いは3つ。まず1つ目が将来商品、サービスを描く上で全員が同じ言葉、共通言語を持つこと、2つ目が仕事の中で活用できるツールを発見すること、そして最後に研修の場を通し、横のつながり、結束を強化することだ。

case34_pict07.jpg全3回の研修ではマーケティングの基礎知識を学び、テンプレートを使って自社を分析する。それを元に将来の商品、サービスのアイデア出しを行い、最後に実現したいアイデアを構想書としてまとめ、幹部の前で発表を行うという実践形式だ。

担当したコンサルタントの中田 奈津子は「今回はグループ分けをして演習形式で進めましたが、次回までの課題に、仲間うちで集まったりメールベースでやり取りしたり、非常に積極的に取組んでくれました。何よりも皆さんの『自分が会社を変える』という気持ちが強かった」と受講生の意識の高さに驚いたという。

また、最終の発表会に立ち会った浅野井氏、営業戦略の佐藤氏もそのレベルの高さや斬新な発想を「期待以上だった」と高く評価したということだ。

伊藤は「若手自らが学んで、新商品、サービスを提案していくことが次の事業、成長へと繋がると考えています。今回の研修から得た、大地らしい成長方法もうまく制度改革に取り入れていくのがJMACの役目だと考えています」と語る。

case34_pict05.jpg来期は伊藤、コンサルタントの奥野陽を中心に人事制度を含め抜本的な改革に着手すべく構想をまとめているところだ。奥野は「DNAを継承していくためには、歴史を知っているベテランから若手に考え方やノウハウなどを受け継ぐことが重要だと考えています。これを人事制度の側面からどのように実現するかが、今回のポイントになると考えています」とその方向性を語る。

提携を契機に!さらなる社会的企業への一歩を

昨年2013年3月、同社に大きな転機が訪れた。それは(株)ローソンとの業務提携だ。同社の野菜、果物をローソングループに供給するものだが、まず第一弾として、ローソン、ヤフー(株)が共同運営する宅配サービス「スマートキッチン」での取扱いが始まり、厳選野菜を使用したオリジナル商品開発など、今後も様々な形でコラボレーションが期待されている。


この提携について山本氏は「これは当社にとってもひとつの化学変化であり、社内にとって揺さぶりを与える良いきっかけになると思います。そしてこれを制度にもうまく反映できるようJMACには世の中の先行事例や様々なアドバイスをいただける存在ですし、一緒に並走いただけるパートナーだと思っています」と期待を込める。これまで独自に展開してきた宅配事業が、ローソングループのインフラを通し、さらに事業として拡大が見込まれることは想像に難くない。恐らくこの業務提携は今後の同社の歴史の中で大きなターニングポイントとして位置づけられることになるだろう。

創業からまもなく40年。定款で「ソーシャルビジネス(社会的企業)」を宣言し、その使命として「日本の第一次産業を守り育てること」「人々の健康と生命を守ること」「持続可能な社会を創ること」と掲げる「大地を守る会」。

ただ反対するだけではなく、代替案を事業化することで社会的課題解決をするという考えは、同社の起源から今まで、取り巻く環境はかわってもDNAとして受け継がれ、それを拠り所に事業展開する姿勢は変わらない。

新たな展開の真っただ中にいる同社が、第4世代、さらには次なる第5世代へとそのDNAをつなぎ、この先も日本、さらには世界の第一次産業を守り育てるとともに、環境問題や食の安心安全と向き合う社会的企業として、持続可能な未来づくりに貢献する姿が楽しみだ。

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担当コンサルタントからの一言

"大地を守る会"らしさの飽くなき追求を

大地を守る会は非常にユニークです。目指すは「自然環境と調和した、生命を大切にする社会」の実現。そんな理念に強く共感した若者が貢献したいという思いを持って入社してきます。彼らの"意"を引き出し開花させる"大地を守る会" らしいマネジメントの確立、それが私の使命でもあります。どの部署のどの業務も社会的課題をビジネスで解決していくために存在しているという同社では、世代間交流することでDNA をつなぎ、社会的課題を解決するアイデアやチャレンジの種を積極的に蒔いています。その思いの共有が活動の活性化へと繋がっています。

伊藤 晃(シニア・コンサルタント)

※本稿はBusiness Insights Vol.52からの転載です。
社名・役職名などは取材当時のものです。

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人事制度の改革では、"経営課題の実現を後押しするための人事制度"という位置づけを明確にしたうえで、"現場"の実態をしっかりと踏まえて制度設計に反映していきます。また、「○○主義」や「○○システム」のようなコンセプトや手法ありきではなく、クライアントとの議論を十分にしながらオーダーメイドで制度を設計します。そして、制度設計の後の運用を特に重視し、人事制度をマネジメントツール・セルフマネジメントツールとして活用できるようにしていきます。 組織活性化の手法・テクニックを覚えても「課題解決」はできません。現場・現物・現実を見る目と、「思考プロセス」・「ものの見方・考え方」を体験から身に着けることが重要であると考えています。コンサルタントが、経営課題を解決していく体験知から蓄積・検証されたノウハウをベースにして、プログラムとして提供しています。お客様の育成課題に応じて事例や体験学習を重視した構成でコンサルティングを企画いたします。

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