第一三共バイオテック株式会社
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目指すべき北極星は目の前「ニコニコ活動」が組織を変える
チームミーティングは、部署に向けてどんな能力が必要で、どんな活動を行うべきかなどを付箋に書き、模造紙に貼って可視化
第一三共バイオテック株式会社
第一三共グループのワクチン製造とバイオ技術の会社として2018年創業。ワクチン、バイオ関連医薬品、治験薬などの受託製造および試験、研究を受託。日本の公衆衛生、予防医療に貢献している。
2018年に事業会社から生産機能会社へと大きな変化があり、新たな文化の形成を目指して企業活動がスタートした第一三共バイオテック(DSBT)。創業4年目となる2022年に社長の命を受け、全社の風土変革が始まる。改革の進め方、基本構想、改革実行の経緯など、「ニコニコ活動」と名づけられた活動の経緯や成果を聞いた。
第一三共バイオテックの課題
人材育成/組織力向上/業務効率化
埼玉県北本市にある本社ビル
変化が激しいワクチン業界 求められるのは組織の変革
新型コロナウイルス感染症への対応としてワクチン開発・生産体制の強化戦略が閣議決定されたのが2021年6月。その後も続くワクチン業界の変化の激しさに対応すべく、第一三共バイオテック(以下、DSBT)では、組織改革が求められていた。一人ひとりが変化対応力をつけ、自発的に行動する。自分たちで変える組織風土にならなければ、この先、確実に起こる変化に対応ができないからだ。
2022年夏、全社の風土変革を進めることになった。その足がかりとして品質管理部門の試験課から改革がスタートする。当時の様子を北本工場品質管理部長の青木百合子さんが振り返る。 「DSBT全体が変化対応力の不足や主体性に欠ける風土でした。品質管理部も同様で、とくに試験課は受動的で保守的で、社内での存在感、発言力が弱い印象でした。それでいて通常業務の負荷が多く、皆が手一杯で組織改革に手が回っていない状態でした」
それまでも問題意識の高いスタッフはいたが、少人数で組織課題解決活動を推進しても全員を改革に巻き込むことはできなかった。
品質管理部長・青木百合子さん
複数の文化の集合体をひとつの企業文化に育てる
こうした風土は、DSBTのルーツに関連すると取締役 北本工場長の片山通博さんは解説する。
「DSBTという会社はルーツの異なる母体(会社・研究所)が3つ合わさり、さらに大量にキャリア採用した人員で構成されていることから、複数の文化を持った人々の集合体です。そもそもひとつの企業文化が育ちにくい環境であることは間違いないと思います」
DSBTは第一三共グループのワクチン製造とバイオ技術の会社として2018年に創業。社名も現在のDSBTとなり、新たな文化の形成を目指しつつ企業活動をスタートさせている。
取締役 北本工場長・片山通博さん
「当時はさまざまな会社の文化や常識を持ち、組織として均一な教育を受けてこなかった人たちが新たなルールや業務の進め方に戸惑いながら奮闘しているという印象でした。スタッフは、コロナ禍も影響したかもしれませんが、コミュニケーションが希薄であり、うつむき加減で歩く人が目につき、目の輝きを失っている人が多かったように思います」(片山さん)
JMACが改革を支援する形で参加したのは2022年秋。同年12月には改革活動がキックオフした。職場の現状把握のため試験課スタッフの約半数に対してインタビューが行われ、問題点を抽出し共有する。その結果を踏まえて会議を繰り返し、改革シナリオが決められた。
「最初の調査で、JMACに自転車操業の組織であること、マネジメントに問題があることを見抜かれたことは痛かったです。『はじめの1㎝を動かす駆動力』と『継続のための慣性力』が課題と言われました」(青木さん)
次の改革構想段階では、目指すべき北極星とスローガンを次のように決めた。
北極星
- どこよりも信頼性の高い試験結果をオンタイムで提供し、高品質のワクチン供給に貢献する。
- どこよりも迅速に新規試験体制を構築することにより、革新的医薬品およびワクチンの早期上市に貢献する。
スローガン
- ものごとの本質を見つめ語り合い、チャレンジを称えよう!
マネジャー職のスローガン
- マネジャー職は率先してチャレンジし、皆さんと一緒に考え寄り添います。
改革テーマは「試験課プロフェッショナル人財の育成」「細胞試験能力のパワーアップ」「ムダ・ムラの是正による業務効率化」と決まった。こうした段階を経て2023年5月、試験課全員で組織開発運動「ニコニコ活動」(通称・ニコ活)が始まる。名称は愛着を持って笑顔で活動し、活動の結果で笑顔になれるようにと願い、活動の立ち上げメンバーで考えて決めた。
スタッフが考案した北極星のマーク
「100日改革プラン」ではじめの1㎝が動いた
改革推進の原動力となったのは「100日改革プラン」の実行である。チームごとに改革プランを設定し、実行したら100日で目標達成(Small Win)させる。次の100日でまた新たなSmall Winを達成する。この積み重ねでいつかあるべき姿(ビジョン)に到達するという進め方だ。
「最初の2023年4月からの半年は、組織全体をどのように巻き込めばよいかがわからず、ムダに時間を過ごしてしまった気がします。覚悟を決めて100日改革プランを立ち上げて全チームでの活動にしてからは、まさしくはじめの1㎝が動いた感触がありました」(青木さん)
2023年11月、試験第一課で「100日改革プラン」がスタートし、同年12月には試験第二課、第三課が続いた。
「100日改革プラン」の概要
活動を続けるのはきついが成果実感する現場スタッフ
ニコニコ活動は現在も継続中だ。当事者である現場スタッフはどのような印象を持って改革に取り組んできたのかを聞いてみた。
試験第一課・課長代理の齋藤晃多さん。検体の採取、保管管理業務を担っているチームで副責任者を担当している。
「私自身が活動を牽引することよりも周囲を巻き込み、全員で対応していくことを重視しました。どうしたら一部の人員だけでなく、全員が自発的に動いてくれるのだろうと、そこはかなり気を使いました。活動を実施するにあたっては、自己完結の分析ではなく、しっかりと現状分析や要因分析、目標設定など共通認識を持った状態で実行に移すことでスムーズに進められたと感じています。改革を実施するにあたっては、メンバーと議論、意見交換をして共通認識を持って実行に移すことで各自が自発的に対応する体制ができたと思います」
試験第一課 課長代理・齋藤晃多さん
試験第三課・主任の沼田喜弘さんは微生物チームのチームリーダーを務めている。
「コンサルティングが入ると聞いて、最初は私たちの仕事ぶりがよく思われていないのかなと、正直よい印象はありませんでした。その一方でコンサルのノウハウに興味があり、よいきっかけだとも感じました。改革活動では、私は『試験課プロフェッショナル人財の育成』を担当しています。それまでは試験者の将来像に応じたキャリアパスや育成の仕組みが存在しない状況でした。その状況を改善するべく、試験者としてのキャリアやスキルを整理し、そのレベルごとに段階的に一覧化しました」
試験第三課 主任・沼田喜弘さん
活動の難しいところを聞くと、共通した回答が「活動時間がない」ことだった。通常業務と改革業務の両立はやはり難しい。
「通常業務を抱えつつ、常に改革意識を持ち、改革業務に取り組んでいくことは正直とてもきついです。それでも実行していかなれば北極星(目標)は達成できないと思っています。そのため、通常業務の効率化など負荷を軽減できる施策も併行して考えながら進めていくことも大切だと感じました」(齋藤さん)
「生産計画における業務配慮がないため、十分な改革活動の時間を確保できない時期もありました。どうしてもコア業務(生産品の品質試験)を優先する必要があったため、繁忙期は改革活動に割ける時間が限られてしまいました。それと組織全体に改革活動を行う文化が醸成できていなかったため、開始直後は活動時間の確保が難しかったのはもちろん、改革業務にリソースを割くことへの周りの理解が得られにくいように感じました」(沼田さん)
活動が始まっておよそ2年が経った今、二人はこの活動を「やってよかった」と口をそろえる。
「多くの知識を学び、経験することができたことで自分自身も成長することができたと感じています」(齋藤さん)
「課題解決力やタイムマネジメント管理の成長につながったと感じます」(沼田さん)
チーム連携が深まりメンバーにもプロ意識が
少しずつ改善が進んでいく試験課チームの心意気や雰囲気、そしてやる気。青木さんはその様子を寄り添いながら見守ってきた。
「以前よりチーム内の連携が深まったと感じます。当初は問題の本質にせまらない改革計画を立てていたチームもありましたが、それがなくなってきており、議論の仕方もレベルアップしました。外からみても個々の試験者の存在感が高まってきたと感じます。第一三共グループ全体で定期モニタリングしているエンゲージメントサーベイとDSBT全体で取り組んだ組織風土改革でのサーベイの数値も各項目ともわずかながらですがアップしています」
片山さんは、社内行事でスタッフの様子に変化を感じ、喜んだ。
「役員と従業員の対話会が開催され、手上げ式で参加者を募り、試験課から多くの従業員が参加してくれました。彼らは自部署の置かれた環境、組織の課題を的確に把握し、自分はどうしたいのかをしっかり発信できる人が多かったと思います。また、工場の設備審査会でも例年にない多くの試験課員が投資設備の内容を説明してくれましたが、事前準備がしっかりできており、質疑にもそつなく答えてくれる印象が年々深まっています」
プロ意識を持ったスタッフが増えていく試験課。目の輝きを失っている者はもういない。順調に改革が進行しているなか、青木さんは今後の展望、抱負を語る。
「課題はまだまだ多く、改革半ばですが、組織員個人の成長を促し、一つひとつ地道に課題改善に向けて取り組んでいきたいです。ワクチン会社として有事への対応力は常に求められるところであり、通常の業務に加えてこの改革活動を継続的に行うことでワクチン会社に必要な対応力、柔軟性をもっと強化できると考えています」
今後は工場全体でも改革活動を拡げて取り組む予定だ。目指す北極星は以前より輝きを増し、輪郭がはっきり見えてきた。
試験課は原料受入れから製品出荷までの全工程を検査
担当コンサルタントからのひと言
コンサルタント
石塚 周太(いしづか しゅうた)
不確実性の高い環境下で組織が成長するには、組織のありたい姿を共有した上で、一人ひとりの意識や行動の変容を促し、周りの巻き込みや自身の成長を考えるように導くことが大切です。第一三共バイオテックの試験課では、マネジャー・リーダーが議論して設定した組織ビジョンを北極星として改革を展開し、共感する同志を増やしながら、組織と個人の成長を仕掛けています。全員が北極星の意味を考え、誰かと一緒に実現に挑む、その環境をつくることが全員参画の改革のキーポイントであると考えます。
※本稿はJMAC発行の『Business Insights』79号からの転載です。
社名、役職名などは取材時(2025年3月)のものです。
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