株式会社日東分析センター

「個人商店型」の仕事の進め方からチーム・組織で連携した仕事へ。2010年、日東分析センターは生産性向上を目指し、組織基盤強化の為「わくわくWork」プロジェクトを始動させた。自社の課題と向き合い、互いに助け合う風土づくりから始まった本プロジェクト。3年を経過した今、組織・チームの変化と今後の将来展望についてお話しをお聞きした。

顧客ニーズに応えるには「組織・チーム」の仕事が重要

case31_pict01.jpg日東分析センター(以下NTC)は、1974年に現日東電工株式会社(以下Nitto)から技術調査、分析部門を分離し、日東技術情報センターとして設立された。その後2000年に現社名へ変更し、主にNittoグループの受託分析サービスを担う知的サービス企業として、現在7拠点、約150名の社員で構成している。近年はNittoグループ外の販売にも力を入れ、新規市場へのビジネス拡大を図っている最中だ。

そんなNTCが2010年、「生産性向上を目指した組織力強化」を掲げ、組織基盤強化に向けた取組みに着手した。その背景について管理部特命 山村 隆氏は「これまで受託分析業務は個人のスキルに依存した、いわゆる『個人商店型』の仕事の進め方が中心でした。例えば人と話し合い、協力して仕事を進めるというやり方ではなかった」とその理由をあげる。

また、代表取締役 川﨑 隆志氏も「分析は『人の数』×『ある一定の係数』で全体の生産量が決まります。機械を動かしておけば、自ずと結果が出る訳ではなく、依頼を受けた"人"が分析の方法を考え、前処理をし、分析・解析して報告書として提出する。圧倒的に人のスキルによるところが大きい業務」と語るように、個々のスキルに依存する割合が高い分、生産性向上に結びつけるには今の「個人商店型」のやり方を変えるしかなかった。

さらに、取り巻く環境やニーズが変わってきたと言うのは取締役 解析センター長 兼 管理部長 川島 哲哉氏だ。
「昔は『分析』そのものの依頼が多く、単に『分析』を行えばよい時代でした。しかし、今では誰でも簡単に使える装置があり、簡易な分析なら自社で対応できるようになりました。では、どういう依頼が当社に来るのか。それは一つの装置で解決できない複合的な分析だったり、多くの専門家が集まって知恵を出し合いソリューションを導き出すといった、複雑かつ高度なものへと変わってきているのです」

時代の変化と共に顧客のニーズが変わる中、個人で完結していた仕事の進め方から脱却し、組織やチームで仕事をしていく方向へと転換していくことが、今後の成長シナリオを描く上でNTCには不可欠だった。

課題を抽出!他責の念が自責の念へ変わった

case31_pict02.jpgそのような背景の下、2010年NTCは「生産性向上を目指した組織力強化」実現に向け、「わくわくWork」プロジェクトを始動させた。

「わくわくWork」という柔らかいネーミングと、もくもくした雲に虹が射した鮮やかな色合いのロゴの下に「夢が湧く、わくわくする活動」と書かれている。そこに込めた思いを川﨑氏は「ただ単に『生産性向上運動』という形だけだったら、やる方も嫌気がさしますよね。だから、ちょっとした遊びの要素も取り入れ、この活動を通してまず皆が気づきを持ち、チームワークやコミュニケーションの大切さを理解し、結果的に生産性向上に結び付けたいと思ったのです」と話す。

実は2007年からNTCでは全社員対象に宿泊研修を行っていた。そこで毎回議論をするテーマを変えて取組むのだが、出てくる不満は一緒だったと言う。
「いつも研修で皆不満をぶちまけたらそれで満足してしまって、誰もそれを根本的に解決しようとしない。それで終わりということが3年続きました」(山村氏)

これではダメだ、根元にある問題を解決しなければならないという強い思いで、相談を持ちかけたのがJMACだった。「最初、コンサルタントの吉野さん、梶間さんに相談した時、不満を全部出し切る活動をしましょうという話になりました。それが『わくわくWork』の最初の活動でした」(山村氏)

そうして、約半数の社員が多忙な中時間を割いて、上期・下期で10時間程度議論の場を持ち、会社の課題を出しきった。
「コミュニケーションが悪い、挨拶ができない。最初は皆自分のせいとは思わず、悪いのは全部会社だという意見が多く出ました。それを繰り返していくうちに、徐々に他責から自責の念へと変わっていきました。自分が変わらなきゃダメだ、変えなきゃいけないという気付きが芽生えてきたのです」(川﨑社長)

このような「問題点の吐き出し」で525件にも上る問題点が抽出された。それらを集約し、「Would(個人がやりたいこと)の明確化」、「Could(できること・能力)を伸ばす」、「Should((会社として)すべきこと)の明確化」の3つにJMACが整理した。それをNTC、JMACですり合せをして、解決手段に落とし込んだのがこの「わくわくWork」なのだ。

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「わくわくWork」で組織力向上を目指す

では、具体的に「わくわくWork」の内容を紹介しよう。まず先述の「問題抽出、共有ワークショップ」をはじめ、「経営方針の明確化」や「行動指針策定合宿」、少し柔らかな要素として「人権標語への応募」「障がい者雇用促進」など本プロジェクトは9項目で構成されている。

実は、山村氏がNittoからNTCへ来た際、メンタルヘルスの面で課題を抱える現状を見て、改めて人の大切さや相互に助け合う風土づくりの必要性を感じ、その要素も盛り込んだと言う。

その一つが「人権標語への応募」だ。「皆、当初は人権標語には関心がなかったのです。とにかく1年に1度でいいから人権について考えようと促し、最近では率先して出してくれるようになりました。それだけでも人に対する考え方は違ってくる。『個人商店型』では、隣の人が悩んでいても"我関せず"になりがちです。障がい者雇用もそうですが、人を大切にするという風土は結果的に組織力向上につながると思うのです」(山村氏)

また、ワークショップや宿泊研修をサポートするJMAC チーフ・コンサルタント 吉野 克彦は「これまで3年の宿泊研修では、初年度は『should』、つまりすべきことがまだ明確ではなかったので、自分達の行動指針をつくろうと取組みました。その次にNTCの夢や将来のビジネスを考えたり、3年目はこれまでで良かった事例をストーリーにまとめ、物語をつくり演劇したりしたのです。そして、次の4回目は中計の達成に向け、自分たちの思い、やりたいことを『チャレンジ・行動宣言』として表明する予定です」と、段階を追った取組みを話す。

「わくわくWork」の取組みで会社風土はどう変わったのか?

誰もが実感!変わりつつある会社風土

case31_pict03.jpgさらに2012年からは「マネジメント力強化」を視野に、中堅リーダークラス研修、経営層向けマネジメント強化研修、人材育成研修も実施した。

NTCで人を動かし、実際仕事の中心となっているキーマンは室長クラスだ。だがこれまで室長クラスが一堂に会する機会は一度もなかった。そのため、各研究室ごとにマネジメントにばらつきがあり、隣の部屋が何をしているかさえもわからない状況だったという。

そこで、室長、室長補佐クラスを一堂に集め、互いの研究室のマネジメント方法や事例の共有を図った。
「各室、『えっ?そんなことをやっていたの?』という気付きが生まれただけでなく、室長自身の刺激となったり、室と室とのコミュニケーションもアップした」と、山村氏は中堅リーダークラス研修の効果を語る。

もちろん、活動当初から全員が積極的に取組めたのかというとそうでもない。「現場の室長やそれ以下のクラスは遊びの部分も入っていましたし、割と抵抗なく活動に入れたと思います。ただ、彼らをマネジメントする立場の層は、これが会社の業績や売上げの面で本当に貢献するのかと懐疑的な部分もあったと思います」(川島氏)

しかし、時間を経る中で、この活動に感化され自ら行動を起こすようになった人が出てきたのも確かだ。そういう人たちが中心となり、周りをけん引していった。また、室長、室長補佐の人たちが顧客と直接接する機会を増やし、その中で問題や課題にぶち当たった時はチームや周囲に相談するなど、組織として連携が取れてきたと川島氏はNTCの風土の変化を肌で感じている。

2012年度の宿泊研修後のアンケートでは「わくわくWork」の取組みでNTCの風土が変わったか?という問いに対し、ほとんどの人が「変わった」または「変わりつつある」と答えたという。「この3年はいろいろ我慢もしましたが、たった3年で会社の風土を変えられるなんて、それ自体すごいことだと思っています」と、山村氏は目を細める。

今では自発的に勉強会をしようというメールが飛び交ったり、拠点を超えたワーキンググループで悩みを解決するなど、会社全体の風土が変わりつつあることを誰もが実感として感じられるようになってきているのだ。

目指すゴールは見えてきた!信頼されるNTCを目指して

こうして、組織基盤という土台が築かれる中、新たにNTCが取組み始めたことがある。その一つが「工程管理システム」の導入だ。これまで各室単位でやっていた工程管理を全社で見える化し、今どの案件がどの段階にあるのかという情報を共有し、生産性向上を狙うものだ。最初は試験的に数パターンで運用し、2014年度に本格導入を検討しているところだ。

また、ノウハウや事例の蓄積と活用目的で「NTCナレッジ」というDBを立ち上げた。これまで人の経験や知識の中に留まっていた技術やノウハウは継承して初めて価値をもたらす。それを組織にきっちり残し、活用していくことを目指している。
「現時点では、こちらが載せる情報は見てくれているかもしれませんが、まだ自分達でこういう風にDBをつくっていこうとか、提案してもらう段階までには至っていません。これからいいものになってくれると期待しています」(山村氏)

さらにDBに付随して、これまで文書だった作業手順書を動画にとってDBに載せる取組みも推進中だ。文章で読んでもわからないことが、実際に動画で手順を見れば一目瞭然ということは多いためだ。

「新入社員の育成など、ある程度彼らが戦力となるまでの教育期間は現場で皆の負担になっていたんです。例えば動画を見てもらってから説明すると、時間的な負担も減りますし、理解度も違います。今後そういう活用にもつなげたいと思います」(川﨑氏)

現時点で目指すべきゴールの半分をやっと超えたのではないかと話す川﨑氏。「将来的に、この人に相談したらなんでも解決してくれる...そんなNTCの顔になるような人が何人か出てきてほしいと思っています」と今後の抱負を語る。

やったことがない、難解な分析だからこそNTCにお願いしようとお客さまに言っていただけるよう、信頼される企業ブランドづくりに向け、これからもNTCの全社をあげた取組みは続いていく。お客さまと一緒に考え、自ら提案し、共に発展するNTCの今後が楽しみだ。

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担当コンサルタントからの一言

「語り合い」で各人・各層の思いをつなぐ

今回は生産性向上が求められた中での取組みでした。まず第一歩目に腰を据えて取組んだのが、組織基盤の強化でした。職場や階層の異なる人が各人どんな思いや可能性を持ち、不安を抱えて仕事をしているのか。泥臭い取組みながら、経営、現場の思い、期待、可能性を語り合い、「Would」「Should」「Could」の関係を地道につなぐ場を作り、丹念に紡いでいくことが生産性の高い一致団結した組織づくりに繋がったと思います。風土は一日にして変わらず。しかし、地道な取組みを日々続けることで、よき物語が生
まれ出し、風土も気づけば大きく変わっていくものです。

吉野 克彦(チーフ・コンサルタント)

※本稿はBusiness Insights Vol.51からの転載です。