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CASAPPA HYDRAULICS(上海)有限公司

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マネージャー変革で文化の壁を乗り越え組織力強化  ~イタリア発 中国事業での成功体験をグローバル展開へ生かす~

2005年中国上海に進出したCasappaを待ち受けていたのは、中国特有の文化の壁だった。「チーム」より「個」を重視する風土、目標や責任、部下の管理の必要性を当時理解していなかった中国人マネージャーを変革するため、2012年JMACと改革に乗り出した。その過程での試行錯誤や見えてきた成果、今後の展望を紹介する。

「文化の違い」こそ中国進出最大の留意点

case32_pict03.jpgCasappa はイタリアに本社を置く部品メーカーである。1952 年Roberto Casappa により創設され、油圧ポンプの製造を手掛けるところからその歴史は始まる。現在ではトラック、建機などのギア、ピストンポンプ、モーター、フィルターなどを製造するメーカーとして本国イタリアだけでなく、アメリカ、ドイツ、フランス、韓国、中国、ブラジル、インドなどに拠点を要し、グローバルに部品を供給している。

取引先は、CATERPILLAR、DAIMLER、日本ではコマツ、ヤンマーなど世界の名だたる企業が名を連ねる業界のリーディング企業である。その経営方針は全世界をカバーするネットワークを有し、顧客満足の追及を第一にミッションとして掲げている。
 

中国への進出は2005 年7 月、中国現地のニーズ、生の声を聴き、いち早く取り込むことを目的とし、グループ会社であるWalvoil 社との合弁でCasappa 上海駐在員事務所が設立された。更に2008 年アジア市場の拡大を目指し製造拠点であるCASAPPA HYDRAULICS(上海)有限公司を設立。現在は約150 名の従業員が従事している。
文化、価値観、仕事の進め方、経営スタイル、全てがイタリアとは違う中国でその運営をし、品質を安定させ定着化させることは想像以上に厳しいものであった。

中国法人設立後に着任し2013 年10 月までGeneralManager を務めたAndrea Amaini 氏は、当時を振り返り「着任前に前任者からは、製造についてどのように把握するか、経理の会計管理の仕方についてなどは何も説明がなく、ただ文化の違いに配慮するようにとだけ言われました。

case32_pict04.jpg合わせて『中国での礼儀作法』という本を中国赴任前に社長のRenato Casappa氏から渡されました。読んでみると、その時点ではサービスやマーケティングの仕事をする人に相応しい内容で、製造業、製造計画の遂行はイタリアで行っていたことと同じように推進すればよいのだから、自分には当てはまらないという感想でした」と語る。

しかし、着任後その考えは大きく覆される。「今なら、中国で会社を運営しビジネスを行う上で難しいこと、それは一番に『文化の違い』を挙げたいと思います」とAmaini 氏は笑うが、それほど中国での文化の違いは手ごわいものだった。

壁となった「チーム」より「個」を重視する風土

何が異なっていたのか、それは中国ではグループやチームよりも個人を優先させる特性があるということだった。
「ヨーロッパや今までに経験のある国では、問題に対してチームで対処し、共にその問題について議論するのが常でした。しかし中国ではそれが難しい。中国人メンバーはチームで働くことに慣れていないかったのです」とAmaini 氏は振り返る。

中国では一般的によく聞く話だが、中国人の社員から「なぜチームとして他の人と働くことが大事なのか?」とか「なぜチームワークが重要なのか?」といった質問を受けるという。
中国のことわざに「中国人は一人では龍、十人になると虫になる」というものがあるが、チームで物事を進めるという概念が薄いということを理解したうえで事業を運営しなければならない。

Amaini 氏は、着任後ほどなく数人の中国人マネージャーが退職するという経験をした。そのうちの一人は職務に適さない人材を配置転換したところ退職したという。
中国人マネージャー層の立直しを図るために採用を行い、実務のマネージャー層がチームとして仕事ができる体制を作り直す必要があった。Amaini 氏は、中国の現実と直面し模索する中で、この課題に共に臨むパートナーを探し始める。

その際イタリア本社から候補として挙がった1社がJMAC であった。製造業での支援実績と、世界のどの地域でも同じサービス提供ができる点、中国での競争力が判断基準となった。
そして決め手となったのが、並行しながら次に進める予定の製造現場の生産性向上に関する知見、特にリーン生産にも特化し、両方の課題を関連づけた施策の提供が可能だったことだ。

改革始動!鍵は「中国人マネージャー」変革にあり

case32_pict01.jpg2012 年4 月Amaini 氏が改革に向けJMAC と動き出す。
まず始めにリーン生産に関するワークショップ型研修、その後もリーン・マネジメントに関する実務研修をJMACの支援を受け実施。並行して人材マネジメントに関する改革にも着手。

人材マネジメント改革ではJMAC の人材マネジメント診断プログラムにもとづき中国人マネージャーに対してアンケート、インタビューを行い診断が行われた。
その結果、人材育成制度、コンプライアンス等の項目は高く評価されているものの、労使の信頼関係に関する課題が浮き彫りになった。

具体的には、経営層から中国人マネージャーに対する権限移譲の不足と、中国人マネージャーの将来のキャリアの見通しが不透明であるといった点が重要な問題として挙げられた。
これらは中国人マネージャーにとって自分達に仕事をまかせてもらえないことに対する失望感と将来が見えない不安感が、経営層への不信感に繋がったものだった。

診断結果を受け、先に全中国人マネージャー層に対する権限移譲プロジェクトが立ち上げられた。これは中国人マネージャー個人のスキルアップと共に、中国人マネージャー層全員がチームとして考え共に動くことを目的としたものだ。
 

JMAC が作成した自己評価を各中国人マネージャーが行い、JMAC のファシリテーションのもとAmaini 氏が一人ひとり面談しながら、できている項目、スキルアップが必要な項目を洗い出した。
合わせて能力開発に向けた個々のアクションプラン作成も進められた。並行し、マネージャー層には役割の目標設定をし、責任も持たせることを行った。

「新規採用の中国人マネージャーも含め、目標を与え、部下の働きを精査する方法を教えることで、彼らに自分の責任を認識させました。また、この目標と責任を達成して初めてマネージャーとしての仕事をしたことになるという意識合わせをし、その他にも、全中国人マネージャーに共通の目標設定もしました」とAmaini 氏は仕掛けの一つを話す。

しかし、手強い中国の文化の中でそうそう簡単にことが進んだわけではない。
「難しかったのは、まず自分達にも問題があると認識してもらうことでした。最初は非常に会社に対し批判的で、心を開いて話ができるまでには会社に対する多くの不満を聞くことから始まりました」という。

また、ある部門の取組みで一定品質の製品の製造と、原価管理、統制を取るための規則やガイドラインを定めた。
「こうして下さい」「なぜそうするのかわからないのですが...」「いえ、気にしないで言われた通りにして下さい」というやり取りで最初は問題なく進んだように見えた。

しかし後から問題が噴き出してきたのだ。Amaini 氏はいう。
「中国人マネージャー達は納得していなかったのです。また、なぜ仕事をするだけではなく管理しなくてはならないのか理解していなかった。仕事をしたらそれで終わり、終わったら次の指令を待ってその先も言われた事をするだけです。

これが中国人マネージャーと西洋人のマネージャーの大きな違いの一つでした。西洋人マネージャーにとって、仕事をする際にその結果を管理することは、極めて普通のことです。これは一種のPDCAですね。仕事をしたら、その結果が良かったのか、そうでないのかチェックしなくてはなりません。しかし中国では管理をするという概念がなかったのです」

ここでも文化の違いに苦戦する。これらは自国のやり方をそのまま中国にあてはめようとするとうまくいかないことを学んだ出来事だった。
"権限移譲"は人材マネジメントのみならず企業経営全体に大きな影響を及ぼす可能性があるセンシティブなテーマだとJMAC CHINA のコンサルタント 林 恵琪はいう。

「コンサルタントとして、常にプロジェクトが軌道から外れないように、そして何より感情的に衝突が生じないような冷静な対応を心がけました。また、メンバーのパッションを維持することがプロジェクト推進にとって欠かせない原動力となりました」と語る。

活動を通しマネージャー、組織やチームはどう変わったか?

全マネージャーに「変化の兆し」が見えてきた

case32_pict02.jpgそんな中、少しずつではあるが、変化が出始める。「プロジェクトの初期はとても難しかったのですが、プロジェクトを進めるうちに初めてマネージャー層が自分の考えを躊躇せず言えるようになったのです。これが一番の成功点ですね。時間と共に中国人従業員、経営層、JMAC が皆一丸となりプロジェクトが動き出しました」と語るのは、2013年11 月からGeneral Manager に就任した Davide Bruschi 氏だ。
Bruschi 氏はAmaini 氏の下、Operation Supervisorという立場で3 年間苦楽を共にしてきた腹心である。

Amaini 氏は今回の全部署のマネージャーに共通の目標を設定したこと関して「他の人と共通の目標を持つことで、互いに共有するものができ、クロス・ファンクショナルな活動に繋がると思いました」とその思いを語る。

「目標やKPI の中には、チームで取組まなければならないものがあります。ひとつの取組みとして、品質保証プロジェクトを行いました。全ての部門が関わり品質マニュアル作成を行うものですが、部門間の協力なしには進められません。事業運営にとっても根幹といえる品質に全マネージャー層が取組むことで、チームとしての意識が醸成されるきっかけになったと思います」(Amaini 氏)

その後も純利益を上げるための取組みもスタートする。純利益を上げるためには、それぞれの部署が最適な決断をしなくてはならない。営業部門は売上を増やし、製造部はコスト削減を行う。人事部は良い人材を適正な給与で雇わなくてはならない。
「このプロジェクトにより、全マネージャーが自分の目標と成果を理解し、管理することの意味、結果にこだわる意識が醸成されてきました」とAmaini 氏は話す。

リーダーシップ発揮!マネージャーが育ってきた

さらに、サプライ・チェーンを巻き込んだプロジェクトも立ち上げ取組んでいるが、その中でも変化が見えているという。
「まだ第1 段階ではありますが、中国人マネージャーのリーダーシップにより、自部門メンバーだけでなく、部門を超え人材や情報が円滑に共有されプロジェクトが進んでいます。共に働く姿勢を持ちながらリーダーシップを発揮できるマネージャーが育ってきていると思います」とBruschi 氏は語る。

Amaini 氏は今回の活動を通して「JMAC は、効率化の実践と成果や、プログラムを提供するだけでなく、中国人マネージャーを社内コンサルタントに育成してくれました。プロジェクトが終了した後も、自走できるように、マネージャーが育ってきてくれていると思います」と話す。
またBruschi 氏も「JMAC は効率化だけではなく、その一歩先の展望を持っており、経営サポートなども支援してくれたことが他社との大きな違いだと思います」とJMAC を評価する。

case32_pict05.jpgJMAC アジア・センター センター長 西岡英樹は「プロジェクトを通じてイタリア人経営陣と中国人マネージャーが正面から向き合いました。本音で語り合うことで、時に文化や価値感の違いから衝突することもありましたが、それがあったからこそ、相互の信頼関係が改善されていったのだと思います」と重要なプロセスだったことを語る。
また、経営陣が人材を単なる資源(リソース)ではなく、企業にとって最も大切な資産であることを再認識し、その考えを企業内に発信したことで、企業文化の変革の動き始めたという。

中国での経験を糧に---目指すはさらなるグローバル企業

想像以上に手ごわい中国での経営ではあるが、中国が持つパワーを最大限に生かすことが成功への第一歩だという。
「中国はものすごいスピードで走り続けています。その流れを止めてはいけない。そのスピードの中で出来る限り指針を示し、統制を取る。そんな中国のパワーを生かす経営が必要だと思います」そのためには、ベースとなるコミュニケーションが不可欠だともいう。

「人間関係は自国で同じ言葉を話す人同士でも難しいものです。チームを率い人々を管理することは、経営者にとって最も能力が試されることです。チームを作りやすくするために、年齢や今までの職務経験、バックグラウンドが似ている人を採用することで、非常にチーム作りが進めやすくなりました。そして経営の役割は、Casappa の価値観を全メンバーに浸透させることだと思います」と話すAmaini 氏。

改革を引継いだBruschi 氏は「私たちが共に優れたチームを作り上げてきたこの3 年間は、私の人生の中でも特にプロ意識を必要とする時間でした。Casappa にはリーンなプロセスが必要でしたが、それだけではなく、全部門のマネージャーと従業員全員の考え方を変える社内哲学が必要だったと思います」と。

Casappa はさらにグローバル企業へと変革を遂げようと進み続けている。「中国での困難を通して、得たものは非常に多いと思います。特に一番大きな事は、文化の違う人を理解する方法です。それは今、私のDNA となり、価値観でもあり、能力にもなっています。以前よりもチームを率いて仕事をし互いを理解する力が向上したと思っています。さらにこの中国での成功経験を本社や世界のCasappa で生かしたいと思っています」とAmaini 氏はグローバル展開を見据える。

一方引き継ぐBruschi 氏は「今回のJMAC との活動を通して、イタリア本社と現地マネージャーの信頼関係が培われ、将来を見据え従業員が希望を持てるよう、共に働く土壌が出来ました。さらに強固なものにするため、クロス・ファンクショナルなチームに育てることが必須だと思っています。現状に満足せず、常に上を目指すのがCasappa のDNA なのです」と語る。
中国でのプロジェクトをきっかけに、本社イタリアでも方針管理プロジェクトがJMAC ヨーロッパの支援で動き始めた。さらなる進化を遂げ、グローバルで展開されるCasappa のクロス・ファンクショナルな活動が楽しみだ。

お話いただいた方

case32_pict06.jpg活動を推進されたHR & Admin Manager のAngela Sun (孫瑾)氏(左)、
Andrea Amaini 氏(中央)、Davide Bruschi 氏(右)

担当コンサルタントからの一言

現地従業員との信頼関係構築は海外拠点マネジメントの王道

海外に進出する企業は自国のマネジメントやオペレーションをそのまま進出先でも実施しようとする場合があります。個々の企業の強みやコア・コンピタンスはもちろん海外に進出しても堅持しなければなりませんが、一方、進出先の国の文化、価値観、習慣などを考慮せず、自国のやり方を押し通しても上手くいかないことは明白です。
 「経営の現地化が重要」と言われて久しいですが、現地従業員との信頼関係こそが基盤となります。Casappa上海様では、相互信頼関係の醸成を目的に挙げ、その線上に中国人マネージャーに対する権限移譲や権限移譲に必要な能力向上を位置づけたことが、軌道から外れずプロジェクトを推進できた要因だと思います。


林 惠琪(JMAC CHINA コンサルタント)

※本稿はBusiness Insights Vol.51からの転載です。
社名・役職名などは取材当時のものです。

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