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三井住友ファイナンス&リース株式会社

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「ありたい姿」を常に意識しながら 「効率的な働き方」を追求していく 〜業界No.1の働き方へのチャレンジ〜

 グローバルベースでモノに関するさまざまな金融ソリューションを提供することで総合リース会社として業界のリーディングカンパニーを目指す三井住友ファイナンス&リース。2015年8月、従来3拠点に分散していた東京本社の移転集約を契機に、"働き方でもNo.1"への取組みをスタート。本稿では同社取締役専務執行役員・植田祐一郎氏、本社移転プロジェクトの実務を担当した柳沢昌宏氏(総務部参事役・本社移転プロジェクトチームリーダー)、仲田和弘氏(企画部副部長)に活動の振返り、成果事例や今後の進め方についてお聞きした。

業界No.1企業になるために「働き方」もNo.1にしたい

vol61_02_01.png 三井住友ファイナンス&リース(以下、SMFL)は、2007年10月に商社系の住商リースと銀行系の三井住友銀リースが合併して誕生した大手総合リース会社である。合併から5年が経過した2013年度から、「融合から強みを活かした新たな成長ステージへ」をテーマに中期経営計画がスタートした。経営方針である『グローバルベースでモノに関する金融ソリューションを提供し、圧倒的な存在感を有する業界No.1企業として、最高の評価を受けること』を実現するため、経営目標として、

  1. 顧客基盤、事業領域の強化・拡大による国内安定収益の獲得
  2. グローバル金融体制の確立による海外成長機会の実現
  3. 効率的な業務運営による経営資源の確保と有効活用

を掲げている。
 「3番目の経営目標を達成するため、業務戦略である『安定的・効率的な経営インフラの整備』を推進しています。今回の移転は、オフィス環境を抜本的に変えられるチャンスであることから、移転を契機に業務改善や働き方見直しを実践し、業務のスピードアップなどサービスの質を高め、お客様満足度の向上を図りました。また従業員に対しては、"向上心を持てる職場""仕事に対しての充実感を持てるような職場"を提供し、"働き方でも業界No.1"を目指しています」(植田氏)

 こうして単なる「引越し」ではなく、「働き方を見直す」という大きな使命を帯びたプロジェクトとして本社移転プロジェクトチーム(以下、移転PT)が始動したのは、移転の2年前、2013年10月である。「何をどこまでの目標設定と具体的なアクションプランを期限内に実行するには、われわれだけでは限界があるのではないか」と感じていた植田氏は、「自分たちの狭い世界だけで物事を考えがちなので、違う観点からのアドバイスがほしかった」との理由から外部の支援を決めた。

 「コンサルティング会社には、当社の業務スタイルの正確な把握、課題の的確な抽出、課題解決に向けた施策の提言、プロジェクト管理、ファシリテーションなどを期待していた」と語る植田氏がJMACを選んだ理由は、「業務改善が得意分野で、しかも押しつけではなく、当社に密着したさまざまな助言や情報を提供してもらえるから」だ。

「ありたい姿」を描いて何をやるべきかを明確にする

vol61_02_02.png 移転PTの事務局である柳沢氏と仲田氏は、「アンケートなどを通じて社員の意見を汲みあげた結果をみると、社員の不満や当社の課題は、さまざまな情報の受発信、会議、仕事の進め方、IT化など多岐にわたっていました。しかも移転PTメンバー11名は全員が所属部署との兼務者で、すべてを期限内に対応することは、逆にすべて中途半端に終わる懸念がありました」と語る。

 担当したJMACチーフ・コンサルタントの田中良憲が最初に取り組んだのは、「やるべきこと」の切り分けだった。「このままでは、結局このテーマは移転PTがやるのか、所管部がやるのか、いつまでに何をやるんだという話になり、まとめきれない心配があった」ため、「まずは、東京本社が移転したときの理想の働き方・ワークスタイルとはどんなものかを話し合ってもらい、移転PTとして目指すべき理想像の合意形成をすることにしたのです」と田中は振り返る。理想像をつくるために、田中は本社移転を経験した他社見学会を複数回開催したり、ワークライフ・バランスに取り組んでいる著名企業による講演会の開催などで刺激を与え、新たな「意見出し」を仕掛けていったのである。

 こうして移転PTでは、まず目指すべき働き方を『限られた業務時間内で業務を効率化し、かつ顧客サービスを高め、余暇の時間を有効に活用している状態(人)』であるとした。具体的には、"リース会社No.1の働き方"として『自ら機動的かつ効率的に動く"自律している社員"が、有機的に連携し、仕事の価値(成果・効率)を高めている』ことを掲げた。

 「その理想を実現するために、やるべきテーマは何か、そのテーマを実践していくには何が必要かを整理し、さらに移転PTがやること、各所管部でやるべきことを切り分けたのです」(田中)
 「あれもこれもやらなければ」という状態だったが、「JMACからは、テーマの絞り方へのアプローチ、絞り込んだ各テーマの課題とありたい姿の設定、ありたい姿に向かって東京本社移転までに実践する施策やタスクを時系列に整理することなどをご支援いただき、各テーマについて統一感ある進捗管理ができるようになりました。頭の中で考えてはいましたが、文字や表にして目に見える形になったのは、個人的にはすごく新鮮でした」(柳沢氏)

 「テーマを絞ったとはいえ、やらないということではないのです。チームは人事、システム、事務企画、営業統括などからも参画しているので、移転PTとして対応できないことは、各所管部の業務計画に落とし込んで、推進していただくことになりました」(仲田氏)

業務スタイルの根っこにあるベーシックな部分を重視

 こうして移転PTの取組みテーマは、『効率的な働き方の追求』を目指して、

  1. 仕事ナレッジ・情報の積極共有(ありたい姿:『必要なときに自ら情報を効率的に収集、活用できている』)
  2. 会議のあり方・やり方の見直し(ありたい姿:『目的に応じた効率的な会議が開催・運営されている』)
  3. 組織と個人のタイムマネジメント(ありたい姿:『組織全体での業務工数の低減によって残業時間が削減されている』)

の3つに大きく絞り込まれたのである。
 柳沢氏と仲田氏は、「絞り込んだテーマは、効果の範囲が全社にわたり、かつ課題認識されていたものの、従来の考え方では所管部が不明確で取り残されていたものというイメージですね」と語る。さらに、 「当社でも、もちろん社員の業務改善への意識は高く、部署単位での業務改善への取組みは従来から実践しています。しかしながら、『情報がどこにあるかわからない、発信がバラバラ』『会議が長い、開催者によって運営がバラバラ』『業務量にバラツキがある』など、よりベーシックな働き方の基盤となる"全社共通のルールや仕事の進め方"の整備とそれらを実現するオフィス環境の整備に取り組みました」と振り返る。

9つの会議ルールを徹底するチャレンジシートの活用

 2015年9月、東京本社移転そのものは無事終了したが、テーマ自体は普遍性があり、終わりのないテーマとも言える。現状について仲田氏は「移転後まだ半年しか経ってないので、どれだけ成果が出ているとはすぐには言えませんが...」と前置きしたうえで、「目に見えて変わったなと感じているのは『会議のあり方・やり方』ですね」と語る。

 「会議については、当社ではその目的によって大きく3つ(意思決定会議・情報共有会議・アイデア出し会議)に分類していますが、準備〜終了までの会議運営を標準化するために、全社共通の9つのルールを設定しました(下表)。このうち白ヌキの部分は全会議必須項目としています。また、本社に限らず国内全拠点の会議室には、時計・タイマー・プロジェクターなどを整備しました」(植田氏)

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 とかく会議となれば、部署ごとに根付いたやり方や属人的なノウハウ・経験のような暗黙のルールで運営されがちだ。全国どこのオフィスでも標準化された共通ルールで会議を運営することは、SMFLが目指す「働き方」を根付かせる土壌づくりだと言えよう。
 ルールを設定したら、次は「定着」である。SMFLではそのための「仕掛け」をどのようにしているのだろうか?

 「2015年7〜10月に、"働き方見直し研修会"と題して、国内外の全部長や管理や営業支援系の副部長クラスに集まってもらい、全社共通の会議ルールを発表するとともに、JMACにお願いして"会議の進め方研修"を開催しました。研修終了後、9つのルールに当てはめて、自部署の現状と今後の目標を"チャレンジシート"として提出していただきました」(仲田氏)

 その後、移転を経た11月には中間フォローを実施。具体的には、「同じシートに実践してよかったこと、まだ苦戦していることなどを記入いただき、定着度合いを計測しました。また、苦戦している部署にはJMACにも参加していただき個別相談会を開催し、定着に向けたアフターフォローを行いました」(同氏)。そして移転後半年を経過した2016年2月には「同シートに最終結果を記入いただき、現時点で"ありたい姿"が実現しているか否かの確認をしました」(同氏)と定着度合いを引き続き計測している。このシートを軸に、定着に向けたアフターフォロー活動をするという仕掛けである。

 「『ルールを決めたので、これでやってください』と言われ、やるもやらないも本人次第になるケースがよくありますが、そうならないように、移転PTでは定着に向けたさまざな"仕掛け"をやっていただいています」(田中)

 現在"チャレンジシート"で確認した9つのルールの定着度合いは、当初3割の実施レベルが半年で6割まで向上した。その結果、各部署での要改善対象の会議は軒並み10%の時間効率化を果たした。また、2016年2月に実施した全社員アンケートでは、たとえば「会議時間の長さ」について「目的に応じた長さになっている」と回答した社員は以前は5割台だったが、今は6割を超え、部署によっては24ポイントも改善している。全社定着に向けしっかりと成果が表れているようだ。

「働き方」を追求し続け、さらに次のチャレンジへ

vol61_02_03.png 移転PTのテーマは"働き方の見直し"という各人の業務目標とは異質なものになっている。そのため、全社員に常に関心を持たせ、持続させることがより重要となる。それが次の活動への継続性を生むことになるからだ。

 そこで移転PTでは、全社員に向けて「働き方見直しニュース」を発信している。これは経営トップが"働き方見直し"や"ワークライフ・バランス"への自らの考えや実践を伝える場として、また業務効率改善に向けた新ファシリティの紹介、各部による取組み好事例の発信の場としている。

 このアイデアを提案した田中は、「本件に限ったことではないのですが、活動テーマを継続させるには、もともと何のためにやっているかをしっかり認識してPDCAサイクルを踏まえながら、最終的には現場に落とし込むことが重要です。それに加えて経営トップからの強力な発信も必要なのです」と継続性の秘訣について語る。

 「社員からは『経営の考えを直接聞く機会が少ないので、とても参考になります』という声はけっこういただいています」(仲田氏)

 また、前述の社員アンケートによれば、9割以上の社員が「見た」と回答し、うち約7割以上の社員が「有益だった」と回答しており、"働き方見直し"への関心や意識も定着しつつあるようだ。

 SMFLの現中期経営計画の終了とともに移転PTは2016年3月で解散することになるが、植田氏は「"働き方見直し活動"を一過性のキャンペーンにすることなく、次年度以降どうつなげ、どう継続していくかをじっくりと検討したい」という。その背景には、"働き方見直し活動"は、SMFLのワークライフ・バランスやダイバーシティへの対応にもつながっている。現中期経営計画において、2012年に買収した世界トップクラスの規模を誇る航空機リース事業の基盤確立や、従来の東南アジア、中国での営業展開に加えて、2014年にはニューヨーク支店開設、2015年には欧州進出など、これまで以上に業務がグローバルに拡大しているのだ。

 「ワークライフ・バランスやダイバーシティに加えて、フレックス制度や在宅勤務などの柔軟な働き方、そして介護の問題などは、今後は会社として大きなテーマになるはずです。まずは1年かけて、じっくりと議論し、次期中期経営計画につなげていきたいのです」と植田氏は意気込みを見せる。

 圧倒的な存在感で業界No.1企業を目指すSMFLにとって、新しい働き方へのチャレンジはこれからも続いていく。

担当コンサルタントからの一言

『ありたい働き方』実現の鍵は「未来志向」と「対話力」

 「働き方改革」は制度・ルール、ICT活用、オフィスファシリティなど、さまざまな切り口があります。大切なのはそれらを活用し「将来自分たちはどんな"ワクワクする"働き方をしたいか?」を未来志向で想像し、社員間の対話によって自ら完成形をつくり上げることです。働き方とは1年2年の課題ではなく、長きにわたって多数の社員の行動を決めてしまう企業の"型"だからです。明確なゴール・指針の積極的な発信をエンジンにして、社員が働き方の課題と"型"の活用を自分事として考えるように仕向ければ、自ずと時間意識の向上・仕事の取組み方・成果物志向といった行動の変化・数値の成果はついてくるはずです。

田中 良憲(チーフ・コンサルタント)

※本稿はBusiness Insights Vol.61からの転載です。
社名・役職名などは取材当時のものです。

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生産性向上のための業務再構築、システム化を見据えた業務の定義、システム調達のためのRFP作成、ベンダーやパッケージの選定・システム導入、働き方の高度化を意図したマネジメントやオフィスのあり方の見直しなど、豊富な業務改革支援の経験からお客さまのさまざまな要望や状況を踏まえ、改善余地や投資対効果を試算し、改革方向と進め方を提案します。実務が変わり、遂行できてこそ結果につながります。システムの導入に限らず、業務基準の見える化や標準化、必要があればマニュアル化までの寄り添った支援が可能です。

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