SMDGで実現する工場DX改革 ~経営と現場をつなぐ全体最適志向~
生産・ものづくり・品質

角田 賢司(シニア・コンサルタント)
これまでグローバルに拠点を展開しサプライチェーンを拡大してきた企業では、コロナ禍によるサプライチェーンの寸断を受けて、サプライチェーンを維持するための国内回帰、利益創出のための地産地消を進める動きが出てきている。
一方、働く環境に目を向けると、密を避ける、リモートワークを導入するなど、これまでの働き方を変える必要性が生じている。つくる「もの」の種類や量の増減に応じて、つくり方や管理方法を変えなければならない環境の中で、コロナ禍においても高い生産性をより早く実現し、利益を生み出すための現場改善を進める必要があるわけだ。
投資環境が厳しいことは予想されるが、経営トップを含めた全従業員の創造力・知恵・工夫など、人の資源を最大限活用して生産性向上を実現すべきである。
現場改善の目的は、製造現場を取り巻く環境の変化、すなわち顧客の要望の変化(生産量、品種、品質レベル、納期レベル、価格レベル)や自社の環境変化(設備構成、人員構成)に適応しながら生産性向上を実現することである。
このときに、実施すべきことは、より早く実現する「段違いな現場改善」である。これは従来の現場改善から一段目線を上げて改善を進めること、つまり先述した改善の目的に達するために、より有効な改善を早く実行することである。
段違いとはいっても、競合他社と比べて高いレベルを目指すのではなく、まずは自社のレベルを早く高めることが優先である。これを継続することで段違いな改善が実現し、結果として競争力が高まり、顧客から選ばれ続ける現場づくりにつながる。
では、段違いな現場改善の実現には具体的に何が必要なのだろうか。品質や生産性の観点から段違いを実現するための着想を考えてみよう。
多くの企業は発生した不良に対して三現主義(現場・現物・現実の重視)を適用しながら、要因追究、対策の実施、歯止めという手順で改善を実施している。ここからさらに一歩進んだ改善にするは、品質リスクを把握、予見し、先行対策を実施することである。
不良発生の事象は多くが「製造や検査、出荷の現場で発見され、要因は手順書が作成されていなかった」「設備の状態が不安定だった」「作業者のスキルが不足していた」など比較的わかりやすく、これらの対策は最低限必要である。
だが、段違い現場改善を実現するには、ここから一歩進んで要因を考えなければならない。
「手順書が作成されなかったのはなぜか」「工程設計のプロセスには問題がなかったのか」「スキルの低い作業者を現場に配置するときの方法や現場での指導に問題はなかったか」など、製品設計や設備設計、工程設計までさかのぼり、もう一段進んだ要因に踏み込んで根本的な対策を検討すると自然に対策のレベルも上がってくる。
将来の労働人口の減少を見据え、すでに多くのものづくり企業では、設備を導入して省人化・効率化を目指していることと思う。これを実現するための検討の基礎になるのが標準化であることは言うまでもない。複雑で判断を伴う作業を単純化・標準化し設備に置き換え、置き換えられない作業については熟練作業者に任せていく。属人化している作業を見える化し、判断やスキルが不要になるよう改善を行い、標準化していくのである。
また、これまでの日本式の現場管理では、現場の管理者が現場の異常を発見し対処することが一般的だった。これからはIoTの取り組みなどによって異常の発見を見える化することで管理者の負担を減らし、その対処や改善に力を割けるよう現場管理の方法も変えていくことが重要である。IoTで見える化することにより、高い生産性の実現を阻害している要因を素早く察知することが期待できる。さらに三現主義に加え、広範なデータを活用することで、要因をもっと深掘りし、根本要因(真因)に踏み込んだ対策を講じることも可能だ。
段違いな現場改善を実行し続けることが現場力を高めるのである。高い現場力を実現するための要素を3つに分けると、
となる。
現場が実現すべき方向とは自社の競争力を高めるためのビジョンや経営目標、方針、達成するための方策を具体的に示し、全従業員の行動につながるものでなければならない。そのためには、ものづくりの機能を開発・設計、調達、製造、検査、物流、またそれを支える管理機能として生産技術、品質保証、生産管理、保全などに分け、それぞれの機能をどう高めると実現すべき姿に到達するのかを、きめ細かく描く必要がある。
工場の実現すべき姿に到達するには、
といった2つの問題を解決しなければならない。
課題設定を行う1つの方法として、まずは本当に価値のある作業や業務(基本機能作業)は何かを突き詰め、基本機能作業を最も早く、精度良く行うことを考える。さらに、価値のない作業(補助機能作業、不稼働)を極限まで削減することを考えていく。この考え方はスタッフの業務にも同じように適用して検討すべきである。
現場の管理者は課題設定や課題解決は自らの役割であると認識し、強い決意を持って進めなければならない。課題解決のための改善を実行、リードし、部門連係を行うのは、現場の管理者なのである。また、こうした状態をつくるのが経営者の役割であることを忘れてはならない。
課題解決を継続している組織には「課題解決マインド」が備わっている。
課題解決マインドとは「目標実現のための課題設定を行い、課題解決方法を探求し続ける心構え」であり、トップには自らが課題設定や解決への働き掛けを実践することが求められる。さらに、どのような環境においても強い意志と粘り強さを持って進んでいく、進まなければならない、こうした雰囲気が常に醸成される組織にしたい。
そのためにはマインドを持っている人が行動できる場をつくり、行動につなげ、続けることで雰囲気をつくるのである。鍛えれば実行力は上がるが、はなから実行する場がなければ何も変えることはできない。相互に叱咤激励し続けられる組織になって初めて「課題解決マインドを持って行動している実行力の高い組織」になっていると言える。
段違いな現場改善と現場力向上は一朝一夕には実現しない。だからこそ早く着手してもらいたい。現場を取り巻く環境が大きく変わり、全員が危機感を持っている今こそ現場を変えるチャンスかもしれない。
本稿が企業の生産性向上を実現するヒントになれば幸いである。
生産革新コンサルティング事業本部
シニア・コンサルタント
1998年 JMAC入社。IEをコア技術として収益向上のコンサルティングに取り組んでいる。これまでに自動車(部品)、化学プラント、樹脂成型、建材、食品など、多くの業種で収益向上の支援を実施してきている。支援テーマは製造部門も対象とした現場の生産性向上、品質向上をはじめとし、調達コストダウンや在庫削減など多岐にわたり、かつ複数のテーマを同時に展開、実行マネジメントの支援を行っている。現在は日本製造業のグローバル化に伴い、日本国内のみならず、日系企業のタイ製造拠点の支援として、生産性向上や品質向上の成果実現と併せ、マネジメントの仕組みづくり、ローカル人材育成を現地で実践している。海外製造拠点の支援に際しても単なる個人の指導ではなく、JMACのグローバルネットワークを活用(日本人と現地コンサルタントが連携)した組織的な支援を展開している。
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