SMDGで実現する工場DX改革 ~経営と現場をつなぐ全体最適志向~
生産・ものづくり・品質

石田 秀夫(取締役 シニア・コンサルタント)
新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の流行によりオンライン化が広がったことで、多くの人が移動・接触をしなくても仕事が進められることを体験し、実際に活用できることも実証されている。
今求められるのは、Withコロナ期で経済活動が低迷しているときに、次のAfterコロナ時代をどう切り開いていくかをデザインすることだ。これが今後の勝敗を分けるカギである。
たとえば、製造業に焦点を絞って考えた場合、デジタルトランスフォーメーション(DX)だけでなく、その先やその範囲を高く大局的に捉えた製造業のトランスフォーメーション(PXもしくはCX)、ものづくりのトランスフォーメーション(MX)が不可欠である。
このPX、MXを行うためには、ものづくりを戦略と捉え、競争力あるグランドデザインの再構築が求められる。そこで、今回は新型コロナの影響により会社にどのような影響があったのか、日本能率協会コンサルティングが行った全業種の顧客を対象にしたアンケート調査から、その道筋を明らかにしたい。
新型コロナが蔓延し始めてから現在までの状況について、アンケ―トから以下の結果が見えてきた。
業績は「マイナス影響」が90%超え、売上高「対前年同期比80%~100%程度」(58%)が最多。次いで「50%~80%程度」(24%)、「ほぼ停止状態~50%」も1割を超えた(11%)。
また、リモートワークについては、間接部門と直接部門の推進レベルにギャップが生じていることがわかった。本社間接部門では「出社率50%以下が半数超え」とリモートワークが進んだが、反対に直接系部門ではリモートワーク体制がとりにくい様子が見られた。
加えて、リモートワークがもたらす仕事への影響を問うと、「ある」(57%)、「なし・わからない」(47%)と互角であった。
現在の状況を見てみよう。
アンケートからは、(事業)運営体制を「今後変える可能性」が大きいという傾向が強かった。「新たな運営体制を模索する」「当面緊急事態宣言下と同じ状態を継続」の合計が72%を占めているのに対して、「従来の体制に戻す可能性」を検討しているのは28%にとどまっていた。
この結果から、これまでの体制について見直す傾向があることがわかる。見直しは「生産量など事業縮小に伴い体制変更すること」、「リモート化・デジタル化などに伴い、働き方を見直して行うこと」の双方である。いずれにしても、Withコロナ、Afterコロナにおいて、新たな働き方をベースとした体制変更は必須である。
また、Withコロナでの直近の課題は「年度予算や資金計画の見直し」(52.0%)「新しい働き方の環境整備」(50.4%)「営業戦略の見直し」(39.4%)「当面のコスト縮減」(39.4%)といった現状対応項目が上位にきている。自由記述からは「事業環境予測」「リモート化・デジタル化の加速」、それらに対する人材や情報不足、インフラ整備に対する懸念が出ていた。
これらの内容から、当面は売上・生産量の低下から足元の業績を良化させるための施策が多いが、今後の業績回復や新常態に向けて、もしくは今を変革のタイミングと踏まえ、次の打ち手を考えるという時期にきているということである。
次に危機が終わった後、いわゆるAfterコロナ期について見ていこう。
収束、回復までの期間予想は、「1〜2年」という回答者が70%超という結果となっており、ワクチン・治療薬の開発にも左右されるが、長い戦いになると見通していることがわかる。
また、WithコロナとAfterコロナでは、予測される検討課題に違いがあった。
など、AfterコロナではWithコロナに比べて、将来への"打ち手"関連が多い。
一方で、
は大きくダウンしている。
自由記述からは、「リモート化・デジタル化の加速」「コミュニケーション変容」について、Withコロナ、Afterコロナ共通して多数の声を占めた。これらのことから今後の製造業での取り組みを考察すると、ポイントは以下のようになる。
Withコロナではコスト低減やBCP、感染予防対策などが必要となり、売上・生産量の前提も変わってきているので、こうした厳しい時代を乗り越えるための施策が重要である。ただし、足元の打ち手だけに振り回されていると、将来観点からは強い会社にはならない。したがって、比較的時間のあるWithコロナの時代だからこそ、強い会社にするための投資(時間的・人的なもの)や体質改善が重要である。
このような経済的危機は、記憶の新しいところで「リーマンショック」がある。リーマンショック時とその後を見て、われわれのクライアントでも「実質冬眠型」と「改革・改善投資型」の大きく2つのパターンがあった。当然のことながら、次の成長の準備として「改革・改善投資型」の方がその後の成長や競争力を高めている。
Afterコロナでは、品質・コストなどのさらなる競争力向上は基本として継続しつつ、「さらに」という観点でビジネスの領域や定義、ビジネスモデルの見直しを行い、付加価値向上と社会価値貢献を目指していくべきである。
コストで勝負するだけではなく、模倣が難しい製品の生産・ビジネスモデルを構築することは、付加価値の向上として有効である。また、商品・生産に、社会貢献や環境貢献などの意味を持たせることも重要であろう。
当然、今回の危機で学習したサプライチェーンを止めないためのリスク回避も目的となる。そのための打ち手として、ものづくり(開発設計~生産)戦略の見直し、ものづくりのデジタル化・スマート化の加速、改革・改善力を向上させるための人材育成、新しい働き方の構築などが必要になる。とくに新型コロナを機会にデジタル化・スマート化のハードルは下がり、さらに加速するだろう。
また、前述したDX化の推進も必要であるが、戦略として日本の強みを活かしたハードや擦り合わせの技術などを活かすことが競争力強化につながる。製品と工程のアーキテクチャーの見直しを同時に行って、商品と工程を一気に刷新するなどの積極的なアクションが強みとなる。
デジタル化・スマート化を進めるには、事業やものづくりを将来どうしたいか、もしくはどうするべきかを考え、サプライチェーン全体を捉えた「ものづくり改革」と広く捉えて取り組むことが、大きな成果を得るために大切である。
一方で「それではスピード感がなくなる」という指摘もあるだろうが、抜本的な改革であれば周到なグランドデザインをしたうえで、具体的な活動に展開した方が手戻り少なく、「急がば回れ」になるのである。この「冬」の期間に深く広くグランドデザインを考え、今こそ次の成長に活かす準備をしなければならない。そのためにはDX化だけでなく、製造業自体のトランスフォーメーション(CX、PX)、そしてものづくり自体のトランスフォーメーション(MX)が必要である。
今こそ本質的にリセット・検討・着手する良い機会ではないだろうか。
ものづくりのグランドデザインを考えるにあたり、日本企業の強みである組織力や個人の英知を活かした、以下のポイントが重要テーマとなるだろう。
DXに遅れをとっているといわれている日本は、フィジカルなものづくりは得意である。得意分野を極限追求しつつ、さらにデジタルを手段として活用していくこと、そのデザインをゼロベースで行っていくことがグレート・リセット時代に必要ではなかろうか。
次の躍進のために、今こそ。
取締役
大手自動車メーカーに入社し、エンジニアとして実務を経験。生産部門および開発設計部門のシームレスな収益改善・体質改善活動を支援。事業戦略・商品戦略・技術戦略・知財戦略を組合せた「マネできないものづくり戦略」を提唱し、次世代ものづくり/スマートファクトリー化推進のコンサルティングに従事している。
自立・自走できる組織へ
信頼と実績のJMACが、貴社の現状と課題をヒアリングし、解決策をご提案します。