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中堅・中小企業の改革物語

製造業A社の物語① ~中堅・中小企業の改革物語~

  • 業務改革・システム化
  • 中堅・中小企業の改革物語

松本 賢治

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ある中小製造業A社の話

 とある中小製造業の話である。この会社は創業時から、地元で細々と製造販売を行っていた。2代目経営者となってからも、職人の技をうまく活かしながら、大手メーカーの部品生産を行うことで順調に売り上げを伸ばしていった。しかし、バブル崩壊、リーマンショックと景気後退に伴って、大手メーカーからの注文の減少、納入価格ダウン要請があり、会社は売り上げ・利益低下の一途をたどることとなった。

 そこで、業務効率化や生産現場の生産性向上といった改善活動に着手し、地道にコストダウンを行い、利益確保に努めた。だが、ものづくりには自信を持っており、「良いものさえ作れば売れる」という風土だったため、生産性や歩留りを上げて、効率よくムダなく作る、といったことには従来あまり関心を持っていなかった。そのため、改善活動を定着化させるには何年もかかった。改善・改革を行っていく人材を育成するということは、A社にとって大きな課題であった。

 A社はコストダウン活動を一生懸命に行い、顧客要請に応えるも、売り上げの減少はそれ以上に激しく、固定費をカバーすることが難しい状況に陥った。そこで会社は自社のものづくり技術を生かし、新製品の開発に取り組むことにした。従来の取引先に対して今まで以上の高付加価値品を開発することに加え、自社ブランド品を生産販売しようと考えた。これまで大手メーカーからの厳しい要求に応え続けてきたことにより培われた、技術力と製造力には自信があった。

 しかしながら、市場はどこにあるのか、顧客は誰か、彼らはなにを求めているのか、何を開発すれば売れるのか、といった、マーケティング活動には自信が持てなかった。A社はマーケティング力が未熟であることを自覚しつつも、経営幹部による検討会を行い、取引先の要望などを聞き出しながら、なんとか幾つかの製品を開発することができた。試作品を作り、社内に展示スペースを設け、取引先の訪問時には新製品の紹介をした。

 これらの取り組みにより、既存の取引先にはそれなりのインパクトを与えることができ、大手メーカーの次期モデルチェンジの際の採用を目指せるようになった。だが、今まで付き合いのない新しい顧客の開拓がなかなかうまくいかった。原因について分析・振り返りを行った結果、マーケティング力、プロモーション力と営業力という課題が如実に明らかになった。

 現在は、工場でのものづくり以外の事業や海外生産も視野に入れた既存事業の拡大など、どうやって新しい事業に挑戦していくかに日々チャレンジしている。

 このA社のエピソードは、環境が変わり、それに対応するために従来と異なった新しいことをしようとすると、今まで見えなかった弱点や、これまではやらなくてもよかったことが、あらたな課題となった例である。

お客さまの信頼を取り戻せ

 A社ではこのようなトラブルも起こった。景気が悪くなり、売り上げと利益が低下した時、追い打ちをかけるように品質問題が起きてしまったのである。ただでさえ協力会社に対する厳しい風が吹いている中、品質上で問題を起こすことは、取引削減、停止につながることになりかねなかった。さらに、クレーム対応に多くの時間と労力を使うことで、コストアップとなり、ますます経営を圧迫した。

 売り上げや利益を出し続けるために、必要なことはさまざまあるが、一番大切なのは安全・品質である。まずは、お客さまが安心して仕事を任せることができる会社にならなくていけない。

 お客さまから、品質が良いと思われるには、もちろんクレームを出さないことが重要である。しかし、万が一クレームを発生させたとしても、そのときの対応が良ければ、しっかりした会社と評価される。

 A社ではクレームが発生した際に、迅速で適切な対応が行えるよう、社内でのクレームの処理ルールを決めて、それを周知徹底させることから始めた。

 その次に、各生産工程の品質レベルを上げ、不良を発生させないようにした。だが、このことは一朝一夕にできることではない。そのため、不良が起きないようにする発生防止活動を行いながら、併せて流出防止活動も行った。たとえ不良が発生したとしても絶対にそれを顧客のところまで行かないようにするのである。

 流出防止活動を進めるにあたって、製品の品質チェックの在り方もどうあるべきかを考え直した。

 品質チェックの最後の砦は出荷前の完成品検査である。ここで見逃してしまうと、流出した不良がクレームとなって返ってくる。

 まず、品質検査を行うためのチェックシートを見直し、カタチだけのチェックからの脱皮を行った。加えて、チェックシートでのチェック項目とその基準は誰でもが行えるよう、簡単明瞭なものに変更した。

 しかし、単純な製品であれば、最終工程での完成品検査は比較的簡単に行えるが、複雑な製品となると完成品検査では検査しきれなくなる。そのような場合は、製品を作る一つ一つの工程において、そこで行われたことが品質的に問題ないかどうかを確認する、工程内検査を行うことが必要となる。これは、各工程で品質が保証されれば、その工程の積み重ねとして出来上がった製品は品質が保証されているという考え方だ。

 この検査について工場の管理監督者だけでなく、作業者にも理解してもらい、作業者それぞれが、自分の行った仕事に対してのチェックを行った。人が行う検査や確認作業は、気を付けていても、ミスや漏れが発生してしまう。現在ではバーコードやQRコードをスキャンする方法などで、デジタル化を図り、人のミスが発生しない工夫を行っている。

 各工程で品質不良をチェックすることは大切なことだが、完璧なチェックを行おうとすると、時間とコストがかかる。もちろん、一番良いのは、各工程で、そもそも不良を発生させないような仕組みを作ることである。

・いつも同じやり方で作業はされているだろうか?
・誰が行っても同じやり方であるか?
・そのやり方は誰でもが分かるようになっているか?


 これらのことを実現するため、全ての作業に対して、その標準を決めるべく、A社は今も努力を続けている。

※本稿はNECサイトに掲載したコラムからの転載です

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