株式会社セイバン

株式会社セイバンは、ランドセル業界の変化を受け、生産体制の行き詰まりを感じていた。2013 年からJMACとともにタイムリーな供給体制の実現と製造現場の意識改革に向けて動き出した。最初は反発もあった現場だが、納得感を重視した施策が徐々に現場の空気を解きほぐし、能動的な活動につながっていった。活動を通した現場での気づきや変化、今後の活動についてお伺いした。

ランドセル業界の変化で直面した現実

seiban_izumi.jpg株式会社セイバン(以下セイバン)は、創業者である泉亀吉氏が1919 年、大阪市で皮革の財布やカバンなどを製造する会社を起こしたことに始まる。戦後は本社を御津町(現・たつの市)に移転して、1946 年よりランドセルの製造販売を開始し、一貫して熟練した職人の手仕事、国内生産にこだわり、高品質なランドセルをつくり続けてきた。 

長年、ランドセル業界で国内トップクラスのシェアを維持している同社であるが、2003 年に発表した新機能ランドセル「天使のはね」が大ヒットし、その名を一躍全国に知らしめた。その後も、2010 年にA4 サイズの教材に合わせたサイズ変更が好評を得るなど、使う子どもの目線に立ったランドセルづくりに邁進してきた。

そのような中で、ランドセル業界は大きな変化を迎える。それまではランドセルといえば男子は黒、女子は赤が定番だったが、各社がデザインやカラーバリエーションにも力を入れ始めたのだ。おしゃれで個性的なランドセルは、少子化の影響もあって祖父母などからの「ハレの贈答品」としての需要が高い。店頭に並び出すタイミングも11 月12月から前倒しされて5 月6 月となり、通年販売が当たり前になった。

当時、同社は黒と赤のランドセルを11 月に間に合うように大量につくりだめするという体制をとっていたが、この変化により必要なものを適時に生産・供給することが求められるようになった。しかし、従来のやり方を変えられないまま在庫を抱えることが増え、次第に行き詰まりを感じ始めていた。

困った! 製造現場との温度差

2011 年2 月に4 代目代表取締役社長に就任した泉貴章氏は、この状況を「ランドセルは、この数年で品質の高さや機能性だけでなく、カラーやデザインまで重視されるようになりました。お客様の多様なニーズに応えるためには、求められるタイミングで商品を提供することが大切です。在庫を抱えずに過不足なく提供していくためには、計画的な多品種少量生産の体制にしていく必要がありましたが、旧態依然の体制を変えられずにいたため、これからの新時代のランドセルづくりに本当に対応できるのかと非常に強い危機感を覚えました」と振り返る。

セイバンでは、機械による工程と手仕事による工程を共存させる生産ラインを確立しているが、生地の裁断、縫製、ステッチ、最後の仕上げにいたるまで、すべての工程に熟練した職人による手仕事と厳しいチェックが入る。職人の数は数10 人にのぼり、扱うパーツは200 を超える。

泉氏が同社に入社したのは2010 年10 月。この新たな局面への課題を抱えているときだった。前職では大手企業で商品開発や工場の品質管理に携わっていた泉氏が同社への入社時に感じたのが、ものづくりの現場の違いだった。

「前職でのものづくりといえばボタン操作や、オペレーターのひとり作業。しかし、ランドセルづくりの現場では切る、縫うなどの工程一つひとつに人手が必要なので、とにかく人が大勢いるなということを感じました。また、工場内には材料などが積み上げられていて、雑然とした印象が強かったですね」と語る。 

そこで、泉氏は工場内の環境を整備するために5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)活動を始めた。「5S 活動により少しずつですが成果が出ていきました。しかし、肝心の多品種少量生産へ体制を変えていくという部分になると、長年染みついた生産体制や現場の意識を変えるのは難しく、時には意見が衝突することもありました。そもそも、古いものづくりの全体像をつかめていなかったため、何をどうしていけばよいのかと暗中模索の状態でした」と当時の苦労をにじませる。

この状況を打破しようと2013 年、JMAC をパートナーに選び、さらなる体制の改革に乗り出した。

手順を見える化して職人技と新体制の融合を目指す

JMAC を選んだ理由について泉氏は「私にとって日本能率協会グループは、前職でさまざまなセミナーを受講したり、当社の人事の教育で日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)にお世話になったりしたこともあり、もともと馴染みがありました。もちろん、依頼の際には他社と比較検討しましたが、以前から日本能率協会のレベルの高さを知っていて信頼を寄せていたこと、工場診断の提案が的確だったことからJMAC にお願いすることに決めました」と当時の思いを語る。

JMAC からは、シニア・コンサルタントの毛利大が中心となり、他のコンサルタント陣も現場に赴き、プロジェクトがスタートした。

毛利は当時の同社の印象について、「泉社長のお考えと現場の意識にかなりのギャップがあると感じました。改革推進のためには、現場の方たちになぜこのままではいけないのか、改革が必要なのかを理解していただくところから始める必要があると思いました」と振り返る。

ランドセルは、多くの職人の技術の結集で、あの温かみのある風合いを生み出している。一方で、泉社長の目指すSCM(Supply Chain Management:サプライチェーンマネジメント)改革は、今までのセイバンのものづくりを抜本的に再構築する取組みである。伝統技術と近代的な管理の融合がプロジェクトのもうひとつのテーマであった。課題を整理するため、まさにこの両面への取組みが重要となった。

職人一人ひとりの作業のカンコツをIE を用いて見える化して、働き方や仕事の負荷を把握したうえで、何が「伝承すべき技術」で何が「ムダ」なのかを洗い出す。一方でお客様からの注文情報を起点に、滞りなく製品を届けるために、どのように社内の情報連携を図っていく必要があるのかを徹底的に議論し、セイバンのものづくりのグランドデザインを描く。これを両輪として業務改善の手順を見える化し、実践していった。

これについて毛利は「機械ではなく、多くの職人技が支える職場においては、その一人ひとりに活動の意図を理解してもらわなければ進まない、そのためには管理する側も考えを押し付けるだけでなく、その技術を理解し、融合を図る必要があります。JMAC コンサルタントが現場に入ってコミュニケーションをとりながら一緒に動いたことで、現場の方々の理解が少しずつ進んでいったように思います」と語る。

泉氏は、そのときのことを「JMAC さんとは問題意識が一致していましたし、ここまでできるというゴールを理想形に近いところで出していただけたので、JMAC のアプローチはとても効果的でした」と振り返る。

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現場の納得感が能動的な活動を引き出す

最初はなかなか進まなかった活動だが、活動の趣旨への理解が進むにつれ、ディスカッション後には工場のレイアウトが変更されるなど、能動的な動きが見られるようになってきた。

毛利は「とくに、ベテランの方たちにはものづくりに対する強い思いがありますので、活動するにあたってはどうしてそれをしなければならないのか、という納得感を持っていただけるように心がけました。それを肌で感じていただくために現場に入って一緒に動き、小さな成功体験を積み重ねていきました」と活動の様子を振り返る。

泉氏は「JMAC が入って5S のマインドや具体的な手法が伝えられてからは、さらに成果が出ました。ライン構成やサイクルタイム設定も効果的でした。具体的に何をどうしていけばよいのかが明確になり、意識が変わったことで作業が非常に効率的になりました。SCM についても、なんとなく進めていた部分を体系的に仕切り直して、きちっとした枠組みを構築していただけたので、うまく進めて行けそうです」と手応えを語る。SCM により統合的な管理がうまく機能していけば多品種少量生産をタイムリーに行うことができる。

毛利は「まず、お客様の納期を起点に、前工程ではそれまでに何を準備しておくべきなのかといった他工程や部門とのチェーンをしっかり見えるようにしました。さらに、ものづくりチェーンの源流まで遡り、きちんとした商品を納品するために企画・開発・設計部門ではこうしていただきたいと伝えるなど、チェーン全体を意識した支援をさせていただきました」と語る。

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高付加価値ビジネスでトップランナーであり続ける

このプロジェクトを振り返り泉氏は「当初は古いものづくりの動きがまったくつかめず、何をどうしていったらよいのかわかりませんでした。しかし、JMAC が現場に入って一緒に動いてくださり、客観的な判断をしていただけたことで、改革へのマインドが定着してきました。これから進めていく大きな改革につながる良い流れができていると感じます」と語る。

自走で活動を推進している現在も、現場に赴き、活発な議論を交わしているという泉氏。新しく入った社員を泉社長が率先して現場に連れて行くことも多い。

毛利は「長期的、安定的な持続的成長を続けていくためには、メンバー全員が当事者意識を持つこと、若手とベテランがコミュニケーションを積極的に行うこと、ベテランはいいところを残しつつ新しいことを吸収する柔軟性を持つことの3 つが大切です。すでにリーディングカンパニーとしての確固たる地位を築いておられますが、これからも新時代のものづくりを自分たちのものとして持続的成長を実現していけば、他の追随を許さない存在となるでしょう」と語る。

今後も高品質なものづくりにこだわり、タイムリーな供給を目指して、さらに高付加価値なビジネス展開を実現すために、「幸いにも当社には『天使のはね』という人気ブランドがあり、その知名度が一番の武器だと思っています。

その強みを生かして、これまで以上に付加価値を高めていきたいと考えています。同時に、今まで行ってきた有害物質を含まないエコロジカルランドセルづくりや、小学校での聞き取り調査をもとにしたランドセルづくりなども地道に続けていきます」と熱く語る泉氏。

子どもたちへのやさしい眼差しと、ものづくりへの熱い思いを持つセイバン。同社の挑戦と躍進が楽しみだ。

担当コンサルタントからの一言

顧客視点のSCM 改革のカギは伝統技術との融合

同社を取り巻く環境変化を背景にした、「伝統技術と効率的マネジメントとの融合によるセイバン流ものづくり革新」。人の技術を大切にし、そのつながりが支えてきたものづくりを基盤とする企業にとって、その方式を新たな形につくり変えることは、決して容易なことではありません。業界トップランナー自らこうした改革に乗り出し、社内でも多くの意見をぶつけ合いながら推し進めていく泉社長の活力がこの取組みを支えています。
顧客起点でのサプライチェーン実現のために、標準作業や標準時間に基づくバックワードの生産計画と実績管理の実施、そのための開発、設計プロセスにおける基準情報の整備、こうした基本的な取組みを職人技術にいかに適用してくかが今後のポイントです。

毛利大(シニア・コンサルタント)

※本稿はBusiness Insights Vol.58からの転載です。