ほくでんサービス株式会社

北海道電力のグループ企業であるほくでんサービス株式会社は、2007 年10 月料金事業部(現在はお客さまサービス事業部料金部。以下同じ)を新設し、それまで業務を委託していた個人事業主を社員として招き入れた。新たな部門の方向性を一つにするため中長期ビジョンを掲げ、その浸透に向け新たにST 活動に取組み始めた。この活動を通し、どのように職場が活性化していったのかをご紹介する。

方向性を共有するには「ビジョン」しかない

case28_pict01.jpg2007 年4 月に社名変更を経て発足したほくでんサービス株式会社は、北海道電力株式会社(以下北電)が供給する電気に関わるお客さま接点業務を担う北電のグループ企業である。
グループ全体で広大な北海道のインフラ供給により、道民の生活を下支えしている。同年10 月、北電本体の料金部門が同社へ集約される形で、新たに料金事業部が発足した。
それまで同社の検針と料金請求関係業務は個人事業主との委託方式であったが、料金事業部発足と同時に彼らを従業員(パートナー社員)とした。その背景について、取締役社長 石井孝久氏はこう話す。

「会社組織にした主たる目的は、効率化と業務品質向上が狙いでした。北海道は過疎化も進んでおり、郡部での検針業務は人材の確保も難しく、チームや組織単位で補っていく必要があったのです。ある種、時代の流れでもありました」

「『幻(ビジョン)がなければ、民はほしいままにふるまう』--- 旧約聖書の箴言の中にあるこの言葉は、料金事業部中長期ビジョン「STart.」の冒頭でも引用されている。
この言葉に込めた意味を、取締役 お客さまサービス事業部長鈴木裕文氏はこう話す。「向かうべき方向が明確に示されていなければ、個々人はそれぞれが良いと思う方向に目を向け、目指すべき目的も組織もバラバラになってしまいます。だから方向性を共有するためにビジョンが必要でした」

新組織を構成するのは年齢や性別、キャリアもバラバラなパートナー社員、正社員、そして北電からの出向社員である。
「これまで個人で完結していた業務でしたが、今後はどうやって仲間と仕事をしていくのか。チーム、会社全体の仕事と認識し、立場の垣根を越えて共有化していかねばなりません。 意識改革をする上でまず必要だったのがビジョンだったんです」(石井社長)
この料金部門のビジョン策定は2010 年下期からスタートし、JMAC が加わった。約1 年掛けメンバーの思いのこもったビジョンが出来上がった。  

case28_pict05.jpgしかし、それを推進するのは、さまざまな出身の社員たちだ。「ビジョン」という言葉自体何を意味するのかというレベルからのスタートだった。
「ビジョンをわかりやすく説明するために、例えば登山を例に話をしたりしました。山頂が見えていても、道の途中でいろいろなことが起きたり、天候が変わったりもしますね。そういうことに対処しつつ、山から目を離さないのがビジョンを持つということなんです」(鈴木氏)

料金部門のビジョンは、中期的な「ありたい姿」として「私たちは、電気を通じて人と人とのつながりを育む会社です」と据えた。現状とのギャップを埋めるため、事業展開、基盤 整備と合わせた対策の一つとして、また「ありたい姿」に向かう土台として「6 つの価値観・行動宣言」が盛り込まれた。
これには、従業員1人ひとりの考えと行動がこの活動を支える原動力になるというメッセージがこめられていた。

事務局は、中長期ビジョンが本格スタートするまでの数ケ月間、全事業所へ説明とワークショップに時間を費やした。料金部門全16 事業所にビジョン推進リーダーを置き、約1年半の歳月をかけ、2011 年12 月、ついに料金事業部中長期ビジョンがスタートしたのである。

大切なのは「称賛と提案」---自主活動でポジ出し!

2012 年、ビジョンづくりを支援したJMAC は、それを浸透させるための次なる実行フェーズも引き続き支援した。事務局の中で中心的な役割を果たしたメンバーの一人が料金部料金計画課 岡本香織氏だ。実行フェーズを担当しているのはチーフ・コンサルタント笠井洋である。

電力業界はその業容ゆえ、間違いのない正確さが特段重視される。そのため失敗しない確実さが第一で、いわゆるダメ出しから入ってしまう傾向があった。そうではなく「良いものは良いと言える風土」つまり「ポジ出し」へと。さらに、もし意見が違えば否定するのではなく提案をする風土に変えていきたいと事務局もJMAC も考えた。

「私はビジョンを浸透させる手段として、小集団活動を活発化させようという段階から事務局に仲間入りしたのですが、最初は小集団活動というと、今まで何度か経験はしていますが、どこか上手くいかない感覚がありこの活動に独自の名前を付けたいと思いました。

では我々が大切にしたいものは何なのか?それは『称賛と提案』ではないかと。しかも中長期ビジョンのサブタイトルが『~成長(S)を確かな(T)ものに~』なんですね。『称賛(S)と提案(T)』の頭文字をアルファベットにした時、なんとST と合致するじゃないかって!それはもう盛り上がって『ST 活動』というネーミングに決まったんです」(岡本氏)  

ではここで具体的に「ST 活動」について触れておこう。まず5、6 人が1 チームとなり、「6 つの価値観・行動宣言」を念頭に置いたチーム目標を設定する。さらに個人目標を服の胸や袖に着けて、社内やお客さまへの宣言として日々実行に移している。  

case28_pict02.jpg「最初はST 活動、自主的な活動と言っても、何をやればよいかわからないという声が多かったんです。難しく考えるんじゃなく、日々自分やチームができること、例えば『いつも笑顔でいます』『必ず挨拶をします』など簡単なものから始めましょうと。それを「スモールスタート・スモールゴール」という"キーワード"で示しました。

また、ここの事業所ではこんな素晴らしい取組みをしているよとか、いい事例を出し合えばいいんだとお話しました。それは面白い、それだったらできるかもしれないと皆が思うようになり、今では現場の推進リーダー自ら情報を送ってくれるようになりました」(岡本氏)  

そうして生まれたのがST 活動の取組みを記事にしたトピックス通信「Short Talk」(このタイトルも「S」と「T」にこだわっている)。発案したのは岡本氏。良い事例を形にして伝えずにはいられなかったという。現在42 号まで発行され、今では掲載されることが社員のモチベーションアップにつながるなど、積極的なST 活動のバックアップに一役かっている。

「ST活動」で人や組織が変わり始めた!

会議の在り方を一変させた「ファシリテーション」 

また、ST活動を推進していく上で導入したのが「ファシリテーション」の姿勢とスキルだ。まずは各事業所の推進リーダー全員に向けた研修が行われ、その後順次その下のチームリーダー層を対象にも継続して行われている。

ワークショップ形式のこの研修は、職場で実施されるSTチームミーティング(30~60分)で、リーダーがどのようにチームメンバー自身が自分の感情も含めて自由に分かち合うことに貢献できるのかを目的とした実践研修である。

「これまで会議といえば、誰かが発言して、それに対して意見を出すというパターン。だいたい発言する人は決まっていたんです。それが、ワークショップで付箋を使い必ずそれぞれが発言し、意見を出すわけです。批判はせず、最後に発言者へ拍手。動きがあり面白いなと思いましたね」と話すのは、料金部 料金計画課長 佐藤宏昭氏だ。
「最初は『拍手するの?』というとまどいの雰囲気だったのが、今では誰かが発言すると自然と拍手が沸き起こるんです」とJMACの笠井も話す。

また、お客さまサービス事業部 料金部長 葭内(よしうち)保志氏も「ワークショップは宣言なんです。
例えば課長会議でもワークショップを取り入れていますが、課長全員が私はこうするんだと皆の前で宣言するわけですから、宣言するだけの覚悟も生まれます」と本ワークショップを高く評価している。
ファシリテーション導入で料金部門の会議は一変した。今ではワークショップの時間を取り入れない会議はないくらいファシリテーションは浸透し、実務レベルにも生かされているのだ。

現場アイデアの結集「ST事例データベース」でノウハウ共有

こうして徐々にアイデアや意見を出し合う風土が醸成される中、その効果の現れとしてST 事例データベースが登場する。これは社員の知恵やアイデア、いろんな出来事を事例として投稿し、データベース上で見える化し、共有しているものだ。

「最初、そもそも投稿してくれるのかという不安があったのですが、今では1700 件にも上る投稿があります。お客さまや同僚とのやり取りなど心温まる話もあったり、我々が目指している価値観の共有が徐々に上手く回りだしたなと手ごたえを感じているところです」と話すのは料金部料金計画課長代理 船木博隆氏。

例えば、ST 活動の個人テーマを「誤検針をなくす」と設定した人がいる。北海道という土地柄、検針メーターはむき出しではなく、落雪等による破損を防ぐため通常計器ボックスに囲まれている。それが冬になると計器ボックスのガラス窓が凍結してメーターがはっきり見えないケースがあるというのだ。

そういう地域的な特性が誤検針を引き起こす要因にもなっていた。そんな時、ある人が「携帯カイロをボックスにあてると氷や曇りがとれる」というアイデアを書き込んだ。それはいい、やってみようとデータベースを通じてノウハウが共有され、現場で役立てられているというのだ。

「火事を未然に防いだ」「事故に遭遇した際交通整理をかって出た」「困っている高齢者を手助けした」など、現場での素晴らしい行動は枚挙にいとまがない。しかし、これまでそれはやって当然のこととどこか思いがちで、皆で分かち合い褒め称えることはなかった。

「検針や料金を扱う業務はどうしてもお叱りを受けがちです。一方でいいことも実はたくさんやっているんですね。クレームは顕在化しても、現場での素晴らしい行動は表面化しないわけです。だからそういうことを共有して仲間うちで認知し、称賛しようと。自分たちのアイデンティティなるもの、つまり自分たちの仕事が世の中に貢献しているんだよということをもっと受け止めてほしいと思うんです」(鈴木氏)

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ST 事例データベースにはフェイスブックのように「いいね」を押せる機能がある。社員の側からもパートナー社員の姿が以前よりよく見えるようになったことで、社内外で模範的に行動しているパートナー社員を表彰する制度を創設した。
その名も「3 スター表彰」。これは、パートナー社員の目標であり、モチベーションアップにもつながっている。

結果として現れた!業務品質向上

ビジョンづくりからスタートし、ST 活動を通して様々な知恵やノウハウが共有化される中、結果的に成果となって現れてきたのが業務品質向上だ。先にエピソードを上げた「誤検針」にしても、「カイロで温める」といったノウハウを共有することで、誤検針の低減に繋がっているという。

また、労災事故も劇的に件数が減っている。「冬になる前に、安全衛生活動をみんなで共有しました。凍結路面を『ペンギン歩き』で歩いたらいいとか坂道は『カニ歩き』がいい等 さまざまな実体験や工夫が出てきたんです。その影響もあるかもしれませんが単純な転倒 事故は少なくなりました」(岡本氏)

ST 活動は事故や誤検針を減らすという職場改善のためにやっている訳ではない。ただ、活動を継続する中で「心と態度の一致の習慣」が身に付き、結果的に業務品質向上につながっているのだと鈴木氏は強調する。

最後にパートナーであるJMAC について鈴木氏はこう語る。「あくまでも『素材』は我々の中にあり、それを筋立てで整理してくれたのがJMAC。主役は我々であり、自分達でビジョンを作り上げたと感じられるようにサポートしてくれた点がよかったですね。

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また、『こうあるべき』という押し付けではなく、『今はこういう状態なんですね』という現状把握から始まるんです。そこのアプローチが現場の納得感に繋がったと思います」
ロジカルな部分も重要だが、実際に行動に移す時に大切になるのはエモーショナルな部分だ。JMAC の支援はその両方を備えていると評価する。

パートナー社員は地元に根差す地域住民たちだ。彼らが生き生き働くことは結果的に地域貢献につながり、ひいては電力会社の使命にもつながることだろう。
「社長になった時、私が社内報に書いたのは『仕事は明るく楽しく元気よく』ということでした。ST 活動はそのひとつだと思いますが、みんな一緒に仕事をやっていく、やっていることが楽しみになってくれれば最高ですね」と石井社長は話す。

北の大地で奮闘する同社。これまでST 活動を通し培われた組織力と団結力で、更なる高い山の頂を目指し続けている。

お話いただいた方

case28_pict06.jpg「ST活動」を浸透させるため、中心となって活動を推進した事務局メンバーの皆さん
(左から)鈴木氏、葭内氏、船木氏、佐藤氏、岡本氏

担当コンサルタントからの一言

人・チームの"土台"があってこそ『エンパワー』状態がつくられる

多くの企業では"人・チーム"が力を最大限に発揮し、よい組織文化をつくり、経営成果を獲得することを目指し日々努力されています。しかし、"人・チーム"が力を発揮できている状態=「エンパワー」状態を実現するために必要な"土台"がない状況で努力を続けている企業が多数見受けられます。継続的に"人・チーム"の力が発揮される土台として、『称賛と提案』があります。『称賛』とは金銭的および非金銭的な報酬が含まれ、仲間に存在を認められること自体が報酬になりえます。
加えて大切なのが相手への期待から生まれる率直な『提案』です。ほくでんサービス様では、この両輪を職場でまわして"人・チーム"で協力しあう意識を高め、行動を促進することに繋がったのだと思います。

笠井 洋(チーフ・コンサルタント)

※本稿はBusiness Insights Vol.50からの転載です。