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問題の本質に正面から向き合う 全社で挑む「学習する組織」

事例

2026.07.07

西日本高速道路メンテナンス中国株式会社

高速道路の点検・管理・補修を担い、保全から施工、復旧まで業務は多岐にわたる

西日本高速道路メンテナンス中国株式会社

2006年設立。西日本高速道路(NEXCO西日本)のグループ会社として、中国5県を走る高速道路のメンテナンス業務を担う。通常の保守・点検のほか、補修、事故・災害復旧に道路清掃、植栽管理と業務範囲は幅広い。

     


中国地方の高速道路を守り、安全・安心の運転環境を提供する西日本高速道路メンテナンス中国では、8年にわたり組織風土改革に取り組んできた。目指すは、現場で起こる問題を協力し合って解決に導く自走型組織の定着だ。管内に14ある事務所では、JMACの伴走支援を受けながら、チーム力を開花しつつある。

西日本高速道路メンテナンス中国の課題

現場主体の風土醸成/コミュニケーションの活性化/問題解決力の向上 

    広島に本社を構える、西日本高速道路メンテナンス中国(以下メンテ中国)。ネクスコ西日本のグループ会社として、山陰・山陽地方を走る高速道路の保全・保守にあたる。

 「私たちは道路の町医者なんです」と語るのは、経営企画部 経営企画課 主任の坂東哲也さんだ。鳥取から山口まで5県にわたる管内には、14の事務所が配置されている。管内で全長千キロを超える道路を巡り、ポットホール(円形状の穴)やヒビ割れの有無など道路に異変がないかを確認するのが事務所の日課だ。事故復旧や災害復旧にも365日、24時間対応し、生活インフラである道路の安全・安心を守る存在だという。

経営企画部・坂東哲也さん。事務局として全体の動きを取りまとめる。米子事務所在籍時にはインストラクターを務めた

強いピラミッド型組織が問題の肥大化を招いていた

 同社では、全社を挙げた組織風土改革を2018年から続けている。業務量増加や労働力確保など、複雑さを増す環境に対応するためだ。本社の経営企画部が事務局となり、具体的な取り組みは事務所ごとに進める。

 今でこそ、現場で働く一人ひとりがチームでの問題を主体的に考え、協力し合い、行動する形ができつつあるが、当時は典型的なピラミッド型組織だった。そのころ、米子事務所に勤めていた坂東さんは、「全員が経営者の視点で考えよう」と言われてもピンとこなかったという。

 事務所の従業員たちは、考えるのは上の仕事であって、自身は現場で汗を流し、作業を問題なく進めることが役割だと信じて疑わなかった。工事の相談や報告は、上司との間でのみで行われ、持ち場以外の動きには関心がない。担当者間の情報共有に乏しく、会議での発言も声の大きな人に偏り、形骸化が常だった。

 横の連携に欠け、意見の吸い上げが十分行えない結果、職場では問題の肥大化が生じていたのである。
 「少し複雑な工事が必要になったとき、元をたどると『あのとき声を上げていれば、すぐ対処できていたのに』ということが、いろんなところで起こっていたのです」(坂東さん)

 そして自走型組織への転換を図るべく、同社が伴走パートナーに選んだのがJMACだった。

問題の起こる根本に迫り自分たちで解決を導く

「アクティブ・ラーニング・プロジェクト」(以下、ALP)と称した取り組みは、各事務所で生じている課題や問題について、従業員が自ら発見し、議論を重ね、解決策を考える。そして評価と改善を重ねながら、組織の状態や関係性をスパイラルアップしていこうというものだ。

 JMACの支援は多岐にわたる。まず、それぞれの事務所でALPを実践できるように全体スキームを設計した。職場で取り組むテーマを決めたら、業務での気づきや困りごとを率直に出し合う。そのうえで、問題の掘り下げ、課題の見える化を図り、具体的な打ち手に落とし込む。

ALP活動の一環、ワイガヤコミュニケーション。職位や年齢にとらわれず一人ひとりが意見を否定せずホンネで意見交換を行い、課題解決を目指す

 スキーム全体にわたり盛り込まれたのが、マサチューセッツ工科大学の経営学者であるピーター・センゲが提唱する「学習する組織」と、JMAC独自の組織活性化プログラム「技術KI®」だ。最大の特徴は、目の前の顕在化した事柄だけでなく、問題の背景にある要素の関係性や行動や思考のクセ、パターンにまで着目し、本質的な解決を図っていくことにある。個々の発想や整理を助け、実践につなげられるよう、学習する組織ではおなじみの「氷山モデル」のほか、技術KI®の「悪循環のサイクル」「Y(やったこと)W(わかったこと)T(次にやること)」などのフレームワークを用意した。

 事務所でのキーパーソンは、「インストラクター」の面々だ。課長や主任、若手社員からも選抜され、職場でのディスカッションを進行するほか、「事務所ごとの自分ごと化」を組織に浸透させる重要な役回りである。3年間の研修と並行し、JMACコンサルタントのアドバイスを受けながら職場での実践を図る。

 かつて米子事務所でインストラクターを務めた坂東さんは、「事務所では、付箋に自分の意見を書くことすら初めてのこと。研修ではファシリテーションも学び、どんな意見でもいったん受け入れることを大切にしながら会議を進行しました」と、当時を振り返る。

全体の動きが可視化され当事者同士で調整するように

 事務社員さんが、こんなに困っていただなんて―。

 請求などの申請漏れに着目した米子事務所では、問題の状況や申告漏れが生じる構造の可視化を試みた。すると、保守や工事を担当する社員の「これでいいか」という気の甘さが、手戻りや遅れに影響していたことが明らかになる。一つひとつは些細なことでも、その積み上げが事務社員の大きな負担となっていたのだ。現場の従業員たちは、自身の視野の狭さを思い知ったという。

 そして保守の現場で起こる問題も、本質はほとんど変わらない。直接自分たちに関わりがなくても、前後の担当者の動きを意識できたら、あらゆる業務がもっとスムーズに進むし、結果はまた違ってくるはずだと徐々に気づき始める。それは他の事務所でも同様だった。

 取り組みを始めたころは、議論が散漫になることも少なくなかった。だが回を重ねるうち、これまでほとんど発言のなかったメンバーの付箋の一言にハッとさせられたり、意外と同じところで悩んでいたことがわかったりと、これまで見えていなかった気づきにあふれるようになる。

 事務社員のひとり、千代田事務所で働く平井桃代さんは、ワークに奮闘する現場の様子を眺め続けてきた。

「従業員の口から『課題』という言葉が自然と出るようになり、変化を感じましたね」と話す。

千代田保全事務所・平井桃代さん

また経営企画部 経営企画課の星田小百合さんは、過去に在籍していた岡山事務所での様子をこう語る。

 「若手の発言を機に、倉庫を整理しました。他の事務所のやり方を参考に、機材や道具に合わせて区画化し、置き方や並べ方の写真を貼ることで常に整頓され、業務の効率化につながりました」

 ガントチャートによる工程管理は、ある事務所で始めたものが後に全体展開された。模造紙に描いて貼り出すことで、工事の進捗がひと目でわかるうえ、担当者による業務の抱え込みが激減した。

 「進行が滞っていると、他の担当が『何かあったの?』と聞けるようになったのは大きい。これまでなら上長に確認するほかなかったものが、担当者同士で確認や調整を図るようになりました。事務社員も請求処理の確認など、先を見据えて行動できるので助かりました」(平井さん)

経営企画部・星田小百合さん

コンサルタントの指摘が遠慮の壁を越え前進させる

 何より、取り組みを始めて事務所内での対話の量と質が高まったのは、最大の変化といえよう。

 「最初のうちは『毎週会議をやるの?』と、うんざりした時期もありました。でも率直に考えを述べ、困ったときは声を上げ、助け合えるようになったのは、ALPによるところが大きいと思います」(坂東さん)

 とはいえ、トップダウン型から自走型への転換は、意識の切り替えも問われる。とくに責任感の強い管理職ほど、抵抗もあったはずだ。そのためJMACの支援は、管理職研修にまで及んだ。それまで強い姿勢で牽引し続けてきた事務所長も、部下を見守る支援型リーダーシップを心がけるようになった。

 もうひとつの意識の壁は、従業員自身にも存在した。ひと言で表すなら遠慮だ。自分で処理した方が速いと職場へのシェアを避けたり、仲のいい相手にだからこそ疑問に感じたことを指摘できなかったり。ためらう思いが、問題の本質から遠ざけてしまうことも少なくない。だがそうしたときも、JMACのコンサルタントが支援に入る。

 「担当の堀口さんは、事務所でのヒアリングに加え、必要に応じ事務所内の会議にも立ち会います。『××は皆さんに伝えたほうがいいですよ』とか、『△△が起こる理由は別にあるのではないですか』など、客観的な立場でズバッと言いきってくれる。停滞気味なときも、助言によって前に進むので本当にありがたい存在です」(坂東さん)

 事務所ごとの取り組みゆえ、推進には濃淡がある。しかし今では、業務でもワイガヤで意見を出し合ったり、YWTで振り返りをしたりと、ALPで用いる問題解決の型が自然に取り入れられているという。

JMACによる伴走支援

JMACによる伴走支援

事務社員のネットワークで小さな気づきを改善の力に

 さらに同社のALPは進化を見せる。事務社員によるNext Stage Network(ネクステ)*だ。これは事務所の枠組みを超え、日々の困りごとの共有から業務改善の検討までを、オンラインツールも駆使しながら活動していくものだ。ネクステの前身である後方支援防災ネットワーク当時から、とくに言われるでもなくALPに取り組むうち、全社的な課題へと取り扱う範囲が広がっていった。

     

*Next Stage Networkは同社による自主活動

Next Stage Network(事務社員が各事務所を横断し情報共有などを行う活動・組織)のディスカッション風景。ここで取りまとめた意見などが実際に業務課題の解決につながっている

 全体を取りまとめる平井さんは、エリアマネージャーに就任した。

 「ネクステからの提言を通じ、申請業務の電子化や業務フローの改善が実現されました。

 また活動をきっかけに、本社との良い連携体制が築かれつつあります。以前であれば現場の悩みで終わっていた声も、今では経営層が大切なヒントとして拾い上げ、一緒に未来を考えてくれるようになりました。現場の気づきが、建設的な意見に昇華し会社を動かす力となったことに手ごたえを感じています」

 また、職場には数人しかいない事務社員の孤立を回避し、エンゲージメントの向上にも作用している。

「事務所勤務のころは、ベテランの事務社員の意見を聞いたり相談に乗ってもらったりと、貴重な機会になっていました」(星田さん)

 ALPの取り組みから8年が経過し、社員のキャリア形成を支えるスキルマップの導入やハンドブックの作成など、さまざまなアウトプットも生まれている。そうした中、次に見据えるのはALPとの連動性を意識した人事制度改革だ。

 「ALPを通じて、社員の間には課題に対し、目標を定め、効果を検証するという考えが定着しつつあります。けれども現状の人事制度は、いわゆるMBO(目標管理制度)に沿ってはいない。仕事のやりがいを持ちつつ長く働き続けるには、個々が成長を実感できる環境や仕組みが大事だと考えています」(坂東さん)

 今後、経営や人事との協議を重ねながら、自社に合ったふさわしい方法を検討していきたいと坂東さん。
 「こうした議論ができるようになったのは、8年間を経て、社員の主体性が高まってきたからこそ。人事制度の議論を進めるにあたって、やはり客観的な視点が不可欠です。経営支援に実績のあるJMACなしには、考えられません」

 自走型組織のさらなる定着に向け、メンテ中国は次のフェーズへと動き始めている。

     

※本稿はJMAC発行の『Business Insights81号』からの転載です。
※記事内容に関しては、取材時(2026年3月)のものです。

担当コンサルタントからのひと言

経営環境が複雑化する昨今、「学習する組織」への変革は、会社の持続的成長の鍵を握ります。変革の起点は、インストラクター主導の対話のあり方の再構築と習慣化でした。「個々人の心のどこかにある懸念を顕在化させる対話」や「これまでの当たり前を疑い、意味や意義を問い直す対話」がその基盤にあります。そのような対話の末に、組織を変える一歩と新たな気づきが生まれます。その蓄積が現場力の高さ、引いては複雑性を帯びた環境変化への対応力に繋がっています。

堀口 薫

R&Dコンサルティング事業本部
チーフ・コンサルタント

R&D職場の活き活きとした職場・人づくりによる知的生産性の向上・組織風土活性化ややりがいを持って自己成長できる人事制度構築、中長期開発テーマ推進を支援。ソフトとハード両側面による組織改革に携わっている。

■主なコンサルティングテーマ
組織風土活性化支援
技術者の知的生産性向上支援
人事制度構築支援
中長期開発テーマ推進支援

■著書・寄稿
「既存部門からの新商品・新市場開発~社内事業開発の活性化~」 研究開発リーダー2018年7月号
「第2節 R&D職場の縄張り意識・縦割り意識の脱却 R&D成果のスムーズな事業化のための研究開発部門と他部門の壁の壊し方、協力体制の築き方」 技術情報協会

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