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声を掛け合い自ら行動する一人前の技術者集団へ

事例

2025.12.25

河北ライティングソリューションズ株式会社

宮城県石巻市の本社入口にて

   

1927年近藤電気工業所として創業。2006年にフィリップスライティングホールディングB.V.から独立。ハロゲンランプなどの開発、製造と販売から半導体製造のシリコンウエハー加熱装置、医療機器用LEDなども手掛ける。

   


社内コミュニケーションの活性化、次世代を担う若手技術者育成などを目的に2020年に技術KI®(以下KI)*を軸とするJMACの支援を導入した河北ライティングソリューションズ。少しずつであるが着実に意識改革に取り組んできた。その成果が現れ、積極性も増し、活気にあふれている。課題への取り組み、成果について聞いた。

  

*技術KI®(Knowledge Intensive Staff Innovation Plan):「ナレッジワーカー」の日常業務を「チームワーク」を活かした「オープンマインド」で「互いの仕事の中身や思考が見える」仕事のスタイルに変えることにより「生産性」と「創造性」を高め、「組織風土の活性化」を実現するJMACオリジナルのコンサルティングプログラム。

河北ライティングソリューションズの課題

コミュニケーションの活性化/若手技術者の育成/知見と経験の伝承

意識改革の第一歩  受け身体質からの脱却

 「職場全体に受け身で仕事を進める体質が広がっていました。この状態が続けば、顧客に満足してもらえる製品を届けられなくなると危機感を持っていました」 

 そう話すのは河北ライティングソリューションズ(以下、KLS)代表取締役社長の今野康正さんである。 研究開発や生産設備の新設・改修などを担う取締役品質技術本部長の酒井基裕さんもその思いをより強く持っていた。2018年ごろのことだ。 

 KLSの歴史は長い。1927年、映写用ランプや投光用ランプを製造する近藤電気工業所として創業。68年、GTEシルバニア社と合弁。92年にはGTEシルバニア社との合弁契約を解消し、フィリップスライティングホールディングB. V.と合弁契約を締結したが、2006年にフィリップスライティングホールディングB. V.から独立した。 

 「会社として約半分の年月を大手電気メーカーの工場として事業を続けてきました。OEMが事業の柱だったので受け身体質になっていたのでしょうね。当社はハロゲンランプなど特殊光源の製造を得意分野にしており、順調に推移してきましたが、そのアプリケーションの需要が減少する傾向にありました。独立すると市場やニーズを見極めて研究開発をしなければなりません。その切り替えがうまくいっていないとも感じていました」と今野さんは当時を振り返った。 

代表取締役社長・今野康正さん。背後に見えるのは東北の母なる川・北上川

 流れるままにしていたわけではない。状況を変えるために経営陣は現場へ指示を出した。 

 しかし、現場は動かなかった。現場を預かる製品開発グループ次長の布谷裕さんは当時の状況をこう話す。
 「上からはいろいろ言われますが現場は現場で忙しい。そうであるのに次々と指示がくる。経営側と現場とのコミュニケーションギャップは大きかったですね。現場は個で動き、個の経験で仕事を完結していました。そのような状況下で、新しい技術が必要な製品もつくるようになり、現場が回らなくなることも出てきました」 

 このままでは同じことを繰り返すだけだと考え、JMACの支援を受けることを決意した。 
 外からの風を入れるという意味と、KLSに中途入社した酒井さんの前職でKIを導入した経験があったことも支援導入の後押しとなった。 

現場を預かる製品開発グループ次長・布谷裕さん

経営側の思いと現場の実情のギャップ 

 酒井さんは会社の雰囲気を変えることで「一人前の技術者」を育成することをひとつの目標にした。では、一人前の技術者とは何か。 

 酒井さん曰く、基礎的な技術はもちろんだが、個別の技術力よりも何が求められているかを理解したうえでアウトプットできるスキルを備えている人だとしている。そのためにKIを導入し、チーム力を発揮しながら技術者が育つ職場をつくっていかなければならないと実感した。 

社内の意識改革を主導した取締役品質技術本部長・酒井基裕さん

 社長の今野さんは、最初のKI導入研修に参加して「悪魔のサイクル(悪魔のサイクルとは、KI導入の初期に実施するワークで、職場の問題や課題を絵に描いたもの)」の絵を見せられたとき愕然とした。 

 「われわれ経営側が感じているよりも現場で実務を行っている人はプレッシャーを感じていたのだな、と痛感しました」 

 会社として経営目標があり、そのために乗り越えるべき課題がある。会社が目標を達成することで、個々人も成長するはずだと将来を見据えてのことだが、そうは受け取られなかった。今野さんは続ける。 

「当社の技術者は責任感が強い人が多く、それを誇りに思っています。その一方、課題を真摯に受け止めすぎるがあまり、ひとりで背負ってしまう傾向がありました」 

 担当の技術者は誰に応援を要請すればよいかわからないし、わかっていても頼めない。さらに自分たちは一生懸命に業務を遂行しているが、上司は見てくれないと感じていた。しかし、KIを導入することで職場の環境は変わってきたと今野さんは話す。 

JMACの支援内容と経過

 若手技術者で実務を行う生産技術グループの笠原弘平さんも職場環境の変化を実感している。 

 「現在、JMAC支援のもと、プロジェクトの計画をワイガヤで見直す場をつくっています。まだ改善途中ではありますが、着実に変化を実感しています。みんなが同じ方向を見ていることを感じますね」 

生産技術グループ機械設計・笠原弘平さん

 同じく製品開発グループの小山響平さんは「以前は新たな案件が来ると、自分でなんとかしようと抱え込みがちでした。しかし、JMACの支援により自分の仕事の課題を上司や仲間に見せて相談すればよいことがわかりました。スケジュールの見える化をして、この時期はきびしくなりそうなど見通しがつくようになったので、事前に対策を講じて行き詰まることがなくなりました」と改善が進んでいることを明るく話した。 

製品開発グループハロゲン・IR技師・小山響平さん

一人前の技術者集団に向けた変化 

 社内の雰囲気について布谷さんは朝礼の様子で変化を感じていた。
 「これまでは進捗や課題解決に関するアドバイスも担当者や上司など、特定の人ばかりが話していました。JMACの支援の中で『心理的安全性』について学び、メンバー全員に話しやすい状況が生まれました」

 すると若手は、上司が気づかない点も指摘するなど、発言が増えて職場が活性化した。技術議論にも若手技術者が積極的に参加するようになり、ベテランの知恵を吸収する機会が増えたという。

KIワークショップの様子。今、自分たちが置かれている状況を話し合い、イラストにして見える化した

 一人前の技術者集団をつくるための変化はそれだけではない。

「JMACからイノベーション・マネジメントシステムに関する支援を受け、単に顧客要望に応えるだけでなく、顧客やその先のエンドユーザーにとっての価値やニーズを考えるようになりました」と布谷さんは語る。

「仕事をそつなくこなすのではなく、お客さまが満足できるものをつくるのも一人前の技術者の条件です」と酒井さんは微笑んで話した。

 また、未来の顧客を見据える取り組みだけでなく、過去の足跡を次世代に伝承していく取り組みも進んでいる。JMACの支援が始まる前の出来事ではあるが、こんなことがあった。

 ある企業から『導入しているランプの寿命が短い』と相談を受け、現場で詳しく調査した。そこで使用条件が原因であることを突き止め、使用条件に合った設計を盛り込んだ製品を提供し、寿命を延ばすことに成功した。その成果をきっかけに、その企業は後日わざわざ工場まで訪れて感謝を伝えてくれたという。

 これまでの先輩が培ってきた実績や技術を次世代に引き継いでいくためには、このような過去の経験を伝えていくことも大切である。過去のトラブル対応や成功体験といっても、単にノウハウだけではない。先輩が経験した苦難や喜びも次世代の技術者に伝えていく。それにより、技術者意識が高まり、さらによい仕事をしようという好循環が生まれる。

 「このような過去の成功体験や失敗体験を見える化し、伝承していくための仕組みや習慣づくりもJMACに支援してもらっています」と酒井さんは続けた。 

ハロゲンランプをはじめとしたKLSの数々の製品は信頼と安全性が高く評価されている

ワイガヤも仕事のひとつ  経験を共有する場に 

 小山さんは休憩時間などに先輩や上司の経験を聞き、仕事に対する姿勢が変わったこともあるという。仕事では見せない人となりが見えて親近感を持てるようになったとも。笠原さんは先輩社員から「昔はこうだった」という話を聞くことは、とてもうれしく有意義だと感じている。 

 「昔は休日出勤や残業、飲み会や喫煙所のコミュニケーションを通じて話し合いをすることもありました。そのやり方が今では通用しません。これからは意識して共有する場をつくる必要がありますね」と酒井さんは今後の課題を提示した。 

 JMACの支援がなければ、意識改革にもっと時間がかかっていただろうと今野さんはこれまでを振り返った。今ではコミュニケーションも活性化し、KLSのキャッチフレーズである「学ぶ、勇気、チャレンジ」の精神がより浸透し、会社が目指す方向を同社で働く人すべてが共有、認識させることができていると感じている。 

 「当社は創業から約100年の歴史と技術があり、特殊光源の分野では最大のマーケットを確保しています。しかし、特殊光源業界も変化しています。このポジションを維持しつつ、半導体製造装置、医療用特殊光源のトップに立ち続けたい」と今野さんは語る。 

 「そのためにもKLSで働く人が社会人として、職業人としてあらゆる面で成長し、〝一人前〟そして〝一流〟になってほしいと願っています」と今野さんは語気を強めた。 

 今野さんの言葉のとおり、KLSが照らす未来への光は焦点がしっかりと定まっており、とても力強い。 

KLSの社屋は北上川を見下ろす高台に位置する。北上川は文化や産業を発展させてきた

  

※本稿はJMAC発行の『Business Insights』80号からの転載です。
※記事内容に関しては、取材時(2025年8月)のものです。

担当コンサルタントからのひと言

将来を担う若手技術者の育成には、OFFJTだけでなく、日常業務における経験から学習できるOJT環境をつくることが重要です。そのためには、ミーティングの場を“課題発掘”と“知恵集め”の場に変え、仕事の目標達成のために何でも言い合える雰囲気づくりが肝となります。こうした日常業務の改善が、若手技術者のコミュニケーションを活性化し、職場での経験を通じて自律的に成長する「好循環のサイクル」を生み出します。KLSの皆さんの今後のさらなる工夫が好循環をより大きくしていくことを期待しています。

盛田 悠平

R&Dコンサルティング事業本部
チーフ・コンサルタント

大手食品メーカーの研究開発職を経て、JMACへ入社。技術者が活き活きと働ける職場の実現を目指して幅広い領域のコンサルティングテーマに従事している。様々な観点や発想を提供しながら、技術者が自律して仕事に向き合えるような働きかけを意識している。近年は、若手技術者の育成や活性化の探究・実践にも取り組んでいる。
身体を動かすことが好きで、学生時代はボート競技に身を捧げた。現在はマラソンに取り組み、タイムの向上を目指しトレーニングに励んでいる。

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