お問い合わせ

新工場建設プロジェクトの効率化と、工場業務へのAI実装に向けて

  • DX/デジタル推進
  • 生産・ものづくり

八木 亮介

新工場建設プロジェクトの短納期化が進んでいる

 近年、新工場建設プロジェクトの短納期推進が増えている。その背景は、需要が増加する一方で、既存工場の面積制約や老朽化により生産能力を増強できず、新工場の早急な立ち上げに迫られていることにある。

 以前は、竣工の3年以上前に新工場建設の企画フェーズを開始することが多かったが、昨年からは竣工まで2年以内または1年以内にスタートするプロジェクトが増えている。

新工場建設プロジェクトの効率化のための実績管理強化の重要性

 新工場建設プロジェクトの効率化を図るためには、実績管理の強化が重要である。新工場の投資額と投資効果の8割は新工場建設プロジェクトの企画フェーズのアウトプットである「企画書」で決まると言われる。

 しかし、多くの企業が新工場建設の企画書作成に苦手意識を持っている。それは、新工場建設の企画書作成に必要な「生産システムの構築技術」や、それをもとに「新工場建設を構想し、その妥当性・経済性・実現性を検証するための技術」が不足しているからである。新工場建設プロジェクトというのは、企業にとってビッグプロジェクトであり、企業規模の大小問わず経験不足の方が多い。そのため、検討漏れの多い企画書となったり、データの妥当検証が不十分な不確実性の高い企画書となったりする。

 経験不足による問題を回避するためには、実績管理を強化し、現場のデータを収集・分析し、改革の検討に反映する「実績管理強化」が必要である。実績管理の強化により得られたデータを管理・活用することで、現場の実行力が向上する。

 また、改革コンセプトの妥当性や実現性を、データにより担保することができる。新工場建設プロジェクトを始めるにあたって、まずは実績管理の強化から始めるべきである。

実績管理強化とは具体的に何を指すのか?

 実績管理強化とは、生産現場で発生する現象をデータ化し、蓄積し、管理・活用することである。この概念は「デジタル化」と密接に関連し、新工場建設プロジェクトにおいて特に重要である。実績管理自体は、生産システム論の「生産統制」という概念の一部でもある。

 実績管理強化の対象は、各現場の特性やその目的に応じて異なる。作業者の生産性の管理・改善が目的であれば、対象は「作業者の作業内容・工数」である。計画遵守率の管理・改善が目的であれば、対象は「進捗(しんちょく)に関する着手完了時間」となる。品質が目的であれば、「品質の合否管理や検査履歴」が対象である。

実績管理強化の難しいところは何か?解決のポイントは何か?

 データの蓄積自体は、お金をかければ実現できる。ただし、単にデータの蓄積だけでは、実績管理強化とは言えない。データの管理・活用方法をデザインする必要がある。ここが、実績管理強化の難しいところである。

 データの管理・活用方法をデザインする最も重要なポイントは、「データ量」の設定である。さらに、データ量設定のポイントは、データの「広さ」、「細かさ」、「頻度」の3つの要素を考慮することである。広さとは、情報を取得する範囲のことを指し、細かさとはデータ取得の詳細さを指し、頻度は、データを取得する回数や間隔を指す。

 例えば、組立職場の進捗管理を考えると、データの「広さ」は、ライン組立生産方式であれば、「初工程のみ」の投入日時や投入量を実績管理すれば、仕掛全体の進捗(しんちょく)を管理することが可能であると言われている。他方、セル組立生産方式であれば、各職場単位で実績管理をする必要がある。一方で、データの「細かさ」は、ライン組立生産方式はサイクルタイムの値が小さい傾向にあるので、投入日時を「時間単位」ではなく、「秒単位」の細かさで管理する必要がある。他方、セル組立生産方式であれば、サイクルタイムの値が大きい傾向にあるので、分または時間単位の細かさで管理すればよい。

 上記のように、他社の事例やフレームワークが、自社工場に合うとは限らない。合わない場合、必要以上に詳細なデータが蓄積されるだけで、管理や活用がやりきれないことがある。データ量の設定は各工場の特性に合わせて決定する必要がある。

実績管理強化の先は直接業務と間接業務へのAI実装

 実績管理強化により生産データが蓄積・解析され、フィードフォワード・フィードバックのシステムが確立されれば、インプット条件のリアルタイム最適化や、問題の予兆管理・事前対処が可能になる。

 データ量が多くなればなるほど、データのパラメータ間の関係性が複雑になり、人間による対応が難しくなる。そのため、AI実装が有効である。AIは、学習するデータ量が多量になればなるほど精度が向上すると言われている。量が質になるというわけだ(もちろん過学習のリスクもあるが、ここでは言及を避ける)。

 AI実装は、直接作業に限った話ではない。計画業務などの間接業務にも応用が期待される。現在、ほとんどの企業では、生産管理者や生産技術者、製造技術者が生産計画の立案や生産技術条件の検討、現場への作業指示、搬送指示などを担当している。将来的には、このような業務にAIを実装することが期待されている。AI実装イメージは、AIが出力した指示がシミュレーション(デジタルツイン)で検証され、その結果が許容範囲であることが確認されたら、生産現場に反映されるというものだ。

 これを実現するためには、最新のデジタルソリューションの導入だけでなく、業務レベルの成熟も重要である。どのような実装を行うにせよ、実績管理が適切に行われていることが大前提となる。

最後に

 これまでの話をまとめ、AI興隆のこのご時世に求められる新工場建設プロジェクトを効果的に進めるために私は皆さんに次のことをお伝えしたい。

実績管理強化により、新工場の企画の妥当性や実現性向上が期待でき、その先に、工場へのAIの実装が期待される。

これらの期待に応えるためには、データ量の設定などのポイントを抑えながら、実績管理を単なるデータの蓄積ではなく、適切なデータの管理・活用と捉えて、その強化に取り組むことが重要だ。

 実績管理の強化がなぜ重要なのか、その目的をしっかりと理解していただければ幸いである。

オピニオンから探す

研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜

  • 第30回 心理的安全性は待つものではなく、自ら獲得するもの

イノベーション人材開発のススメ

  • 第6回 イノベーション人材が育つ組織的条件とは
  • TCFDに基づく情報開示推進のポイント
  • オンラインサービスは新たなCXをもたらしたのか? オンラインサービス体験から見えた、メリットデメリット
  • 一人一人の「能率」を最大化させる、振り返りのマネジメント「YWT」のすすめ
  • 第5回(最終回) 全社員をデジタル人材に!
  • 第5回(最終回) 全社員をデジタル人材に!
  • 【業務マニュアル作成の手引き・後編】マニュアルが活用されるための環境づくり
  • 品質保証の「本質」を考える ~顧客がもつ、企業に対しての「当たり前」~

オピニオン一覧

コラムトップ