人的資本の充実が企業価値を高める【No.4】
エンゲージメントを高めるには

2021年11月 9日

岡野 紘二(チーフ・コンサルタント)

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前回は経営戦略と人材戦略をつなげる「タレントマネジメント」について述べた。今回は、昨今にわかに注目度が高まっている「従業員エンゲージメント」(以下、エンゲージメント)を取り上げる。

エンゲージメントとは、従業員と会社の共生的な関係性を表すものである。少子高齢化やキャリア観の多様化が進む中で、優秀な人材の確保や活躍の促進は重要なテーマであり、エンゲージメントはこれらに対する1つの解として捉えられる。エンゲージメントを高めるためのポイントは、「共感のマネジメント」にある。

エンゲージメントは持続的な企業価値向上に寄与する

一般的にエンゲージメントは「従業員の会社や仕事に対する愛着や信頼、貢献しようとする意欲」を指す。一方で、そのような感情は会社と従業員が中長期にわたって良好な関係を築いてきたからこそ生まれるものであることから、「従業員と会社が双方の成長・発展のために積極的に貢献し合う関係性」こそがエンゲージメントであると捉えることもできる。

よく似た概念として従業員満足やロイヤルティなどがあるが、従業員満足は会社や職場、上司や仕事に対する従業員視点での評価であり、双方の成長・発展という発想はない。

ロイヤルティは従業員が自社に対して持つ忠誠心や愛社精神のことである。このベースにあるのは会社を主、従業員を従とした主従関係である。会社は自らの成長・発展のために注力し、従業員も誠心誠意尽くす。これは終身雇用を前提としていた時代は成立したが、働き方が多様になった現在ではそぐわなくなっている。

エンゲージメントは従業員と会社が対等な立場であり、お互いが相手のために自ら行動を起こすという点で新しい概念なのである。エンゲージメントが注目されている背景として、少子高齢化による生産年齢人口の減少、働き手のキャリア観の多様化が挙げられる。エンゲージメントの高い社員は欠勤率や離職率が低いという報告もあり、人材の確保・定着化に危機感を抱いている会社としてはエンゲージメントは無視できない存在になっている。

加えて日本人のエンゲージメントの低さも大いに関係がある。米ギャラップ社の調査によると、日本はエンゲージされている(熱意あふれる)従業員の割合が6%と100以上の調査対象の中でワースト10に入っている。

頭数をそろえるだけでなく、従業員の活躍を促進していかなければ、変化の激しいこの時代を生き残っていくのは難しい。持続的な企業成長のために人的資本の充実を図るには、従業員のエンゲージメントを高めるための取り組みが必要不可欠になりつつある。

働きやすい環境だけではエンゲージメントされない

では、エンゲージメントを高めるためにはどうしたらよいのだろうか。先ほどエンゲージメントは「従業員と会社が双方の成長・発展のために積極的に貢献し合う関係性」と捉えられると述べた。つまり、従業員と会社(経営者)が"相手の利益のために"行動するということである。

通常、人が自ら利他的な行動をとるのは大きく2つのパターンに分けられる。
わかかりやすいのは"見返り"を求めて行う場合である。自分が相手のためになる行動をとることで、結果的に自分にそれ以上の"見返り"があることを期待してとる行動のことを、互恵的利他行動という。見返りにはカネやモノなどの直接的なものだけでなく、行為を通じて相手から評価される、自己成長につながるなどの間接的なものも含まれる。

これを従業員と会社の関係性に当てはめれば、魅力的な給与、充実した福利厚生、熱中できる仕事、快適な職場環境、成長の機会、正当な評価などを会社が継続して提供することで、従業員も積極的に会社の発展のために行動するようになるはずである。

しかし、世の中を見回してみると給与が高く職場環境も良い大企業、挑戦機会に恵まれ仕事に熱中できるベンチャー企業であっても、必ずしもエンゲージメントが高いわけではない。

そもそも先に挙げたような要素は、従業員満足度が注目を集めていた時代から同様に重要視されていたのだから、感度の高い企業を中心にすでにある程度改善されているはずである。にもかかわらず、現実として熱意あふれる社員が6%に留まっている。おそらく"見返り"も重要な要素ではあるが、それだけではエンゲージメントを高めるのに十分ではないということが分かる。

エンゲージメント向上のカギは『共感のマネジメント』

利他的な行動のもう1つのパターンとして、見返りを求めない場合がある。たとえば、自分の家族や恋人のために尽くす、守るといったことがそれに当たる。これらは家族愛や恋愛といった感情がその原動力になっていると考えられるが、では会社や職場に対してはどのような感情が利他的行動につながるだろうか。

その答えは"共感"にあると考えられる。

「この会社や職場はどのような存在なのか」「どのような役割を果たしているのか」「どのような想いで運営しているのか」、そうしたアイデンティティを明確にすることで、そのあり方に共感した従業員は、自然とその実現や成長、発展に向けて行動するのである。

よって企業側としては、その共感を促進するための取り組みが必要となる。たとえば、エンゲージメントの向上策として会社の方針やビジョンを示すことがよく取り上げられるが、これもただ伝えればよいわけではない。目的はあくまで共感を促すことなので、これまでと大差のない形だけの方針やビジョンを示しても意味がない。一見、中身がよくても部下が頭を悩ませて作成し、経営層の想いが全然感じられないものも同様である。たとえシンプルでも、伝え方が拙くても、心からの想いを伝えることが重要である。

職場レベルでいえば、上司と部下の1on1ミーティングなどが有効だが、ここでも工夫が必要である。通常、1on1は部下の育成を促進する目的で行われることが多いが、その場合、部下の話を上司が聴くことが中心となる。そうなると部下に対して上司が共感することはできても、上司(つまり職場)に対して部下が共感する機会が少ない。そこで、こうしたときには教育・育成だけでなく、職場運営に関する話題も扱ってほしい。職場を今後、どうしていきたいかを上司が示したり、一緒に考える機会とすることで、部下の職場に対する共感を促すのである。

共感のマネジメント

このように意図的に共感の場をデザインし、巻き込み、促進する。つまり、共感をマネジメントすることで、従業員エンゲージメントは高まっていくと考えられる。

以上、今回は従業員のエンゲージメントについて取り上げた。昨今のリモートワーク拡大の中で、エンゲージメントがさらに低下傾向にあるという声も聞こえてくる。日本企業が今後も世界で存在感を発揮していくためにも、働く人々がイキイキと働ける社会になることを願う。

【引用・参考文献】
State of the Global Workplace - Gallup Report (2017)


col_okano_photo.jpeg岡野 紘二(おかの こうじ)
ラーニングコンサルティング事業ユニット
組織開発ソリューションセンター チーフ・コンサルタント

入社後、業務改善コンサルタントとして、製造現場や開発現場を対象に、コスト削減や生産性向上に取り組む。その中で"やり方"を変えるだけでなく"人の意識や行動"が変わる後押しの重要性を実感し、組織開発や人材教育に軸足を移す。社員が前向きに働ける職場づくりを目指して日々活動中。とくに人の意識や気持ち、上司と部下・仲間同士の関係性にフォーカスし、今を変える一歩を踏み出す後押しをしている。社団法人日本コーチ連盟コーチ養成プログラム応用コース修了 他多数。